【16th.Oct.'96 :Rome】

さて,今日はローマ一人歩きだ.今朝も雨が降ってたけどなんとか小降りに.博士と一緒にアパートを出て,いつものタバッキでチケットを買う.「Uno biglietto(B.I.T.= Biglietto Integrato a Tempo/1,500Lire), per favore.」ずいぶん板についてきた.博士は研究所最寄りで降り,僕はコロッセオまで乗る.今日は,コロッセオ一体とパンテオンあたりまでがターゲットで,明日,バチカン,Stピエトロに行こうと大まかな計画を立てた.

地上に出ると天気も上々.まったく天気が変わりやすい土地だ.そして,いきなり,視界にコロッセオが飛び込んでくる.巨大円形競技場.巨大だけど,思ったほど大きいとは思わなかった.イメージ先行ってやつかもね.それでも,教科書,百科事典,テレビなどで見た二次元のコロッセオに比べたら3次元のそれは比較にならないほど迫力があった.ホンモノのもつ凄みってことかな.ただ,やっぱりどうしても,「スパルタクス」のカーク・ダグラスの顔が浮かんできてしまうのだが..^^; それに”群衆の歓声”が耳鳴りのように聞こえる.

ざっと見て,となりのフォロ・ロマーノへ.ここは言うまでもなく古代ローマの政治の中心地だ.そうそうたる人物の屋敷跡などが朽ち果てるとも整備されるともつかない状況で残っている.コロッセオから入るとちょっと遠くなってしまうが,有名な元老院の跡などがある場所だ.特に整然と整備されているわけではない.雑然としているのだが,それがまた”滅びの美”というか,イメージを喚起させる.

そこを出て,ヴィットリオ・エマヌエーレ2世のどでかい記念堂をぐるっとまわってテベレ川方面へ歩く.川のそばに「真実の口」があった.人がたかってて行ってみたらみつけたんだ.やはり,人々は口の中に手をつっこむ.ひたすらその光景が続く.人が手を抜いた瞬間を狙って写真を撮る.

川縁を歩いてみようと思う.蛇行したティベレ川は白濁しているけど美しい.というか,”橋”とのコントラストだろうなぁ,それがそう思わせるのだと思う.古来,は人々にとっていろいろな意味を持ってきた.特別な関心をもってきた.伝説も多い.そしてぼくらはそれに惹かれる.物理的に隔れた場所を繋げるという意味が敷衍して,抽象概念を持ちはじめた.なんだろう,橋って^^;. なんてこと漠然と考えながら足は動く.気がついたら12時.お昼だ.おなかが空いたのでたまたま見付けたbarでクロワッサン(彼の地ではコルネットという)に生ハムを挟んだパンを買う.これがすこぶる旨かった.フィレンツェで食ったのよりももしかしたら旨いかもしれない.とにかく,歩く,腹がへる,食う,っていうサイクルがうまくまわっていることは確かだった.:-))

いくつかかかっている橋を縫うように渡ったり戻ったりしているうちに市街地へ入り込んでいく.いよいよローマラビリンスへ突入だ.^^;概ね方向としては北へ向かっていることは確かだ.っということは,再びティベレ川にぶつかり,運がよけりゃ目の前にサンタンジェロ城が現れるはずだ.よし,その線 行こう.

ヴィットリオ・エマヌエーレ2世通りを軸にその両脇の細い道をくねくねと歩きまわる.古い宮殿がいくつかあり,その周辺には広場があって市場がある.昼下がりだったのでのどかなものだ.・・・こんなところには絶対ツアーの団体はこれまい.事実,コロッセオやバチカンのStピエトロ寺院や,スパーニャ(若者が集まる)の高級ブティック街以外ではほとんど日本人(というより東洋人)は見かけなかった.っということは,僕は奇異の目で見られていたかもしれないということだ.まーいいか.
細い道に入っていく.ちょと暗くて怖いが,ええぇい,ままよ,とずんずん歩く.ドキドキドキ.いきなり暴漢に襲われたらどうしよう,パンツは新品じゃないしなぁ...手術しておなか開けたらパンと生ハムしかなかったら恥ずかしいなぁーとか,くだらないこと考えながら緊張して早足で歩く.
#おいおい,観光しろよ>おれ^^;
2時間くらい歩いたか,予定通り(運良く^^;)ザンタンジェロ城の前に出た.橋の手前から,左手方面をみてみると,Stピエトロ寺院が見えた.おぉお,あれが総本山だな.(そして正面).唐津カトリック幼稚園卒園という経歴を持つぼくは,当時毎日「イエス様,マリア様,ヨゼフ様(順番はたぶんこうだったと思う),おはようございます」と言って教室に入ったのだ.毎週土曜日には,敷地内の教会で英会話のレッスンもあった.How do you donなんて幼稚園のはな垂れガキが言ってたかと思うとなんだかおかしい.

・・・そんな回想モードもつかの間,僕の足は,システィナ礼拝堂に向かっていた.ホントは時間かけて見ようと思ってたから,今日は街の物理的な大きさを知ること,そんで明日は時間かけてバチカンを見るという計画だったんだが,「いいや,行っちゃえ」ということで行きました.足は結構疲れてたんだけど,がんばった.
とうとう入り口だ.15,000Lireで入場.螺旋階段を上っていく.入り口からはいくつかの観覧コースが設定されているが僕は最短の1.5Hバージョンで行こうと思った.というより,人の流れについていくだけだ.そこで目の当たりにしたのは...

ぼくは一つしかないと思っていた.例の有名なやつが.ところが,天井という天井に絵が書いてあるではないですか! なんですとぉー!!^^;でも,いわゆる「あれ」じゃない.どこにあるんだろう..天地創造とか最後の審判とか・・ずんずんずんずん歩いていく.日本語での解説は一切ないので首から下げるテープレコーダを借りるとよいかもしれない.とにかくでっかいんだよ.回廊の先の方は霞がかかってると言っても過言でないと思う.

ついに見付けた(写真はそれまでに見た天井画も含む).その部屋に入るなり,人々は座り込んでじーっと天井をみている.係員が,「Please stand up.Don't sit down here,please」と繰り返す.ここは,No camera(No flushだったかな?)だったがQVでこっそりとってきた.^o^v ここももう一度行かねばならないと思う.

もうひとつ,おもしろいモノがあった.説明するまでもないが,古代の哲学者・科学者たちの偉業をまとめた展示室にあったもの.三平方の定理の写本だ.とても綺麗な本だった.

見るモノ見たってんで,満足した僕は,外に出てオッタビアーノという地下鉄の駅に向かった.流石に足が棒だったし.

がしかし,私の足は駅へは向かっていなかった.^^;いや,方向を見失った訳ではないんだが.オッタビアーノ周辺は大きなアパートというかマンションというか,たくさんあっステベレ(川向こう)地域というらしく,ここに住みたいと思っているローマ人が多いと聞く.(確かめた訳ではない).従って閑静な並木通りで静かなところではある.トラステベレ(川向こう)地域というらしく,ここに住みたいと思っているローマ人が多いと聞く.(確かめた訳ではない).従って閑静な並木通りを歩いていく内に足が止まらなくなったのだ.というより,休むきっかけがないと言ったほうが正しい.^^;そうこうする内に,カブール橋に出た.このまま行くと10分くらいでスパーニャだ.博士とはスペイン広場で17:30に待ち合わせをしている.あと2時間ばかりある.うーむ,どうやって時間を過ごそうか..疲れていることは確かであんまり動きたくない.そうだ,とりあえず,スパーニャのコルソ通りにあるという楽器屋を探そう.博士に教えてもらった大体の場所をあたってみようと思って歩き始める.

いったんあきらめてスペイン広場に行く.日本人がごちゃまんといる.まーいいか.とそのとき,大粒の雨が.「ちっ」.自慢のNorthFaceのヤッケのフードをかぶってほんのちょっと出たブティックのひさしに身をゆだねる.フィレンツェでもそうだったように,すかさず傘売りが寄ってくる.「(アン)ブレッラ,(アン)ブレッラ」.”アン”が聞こえない.

ほどなくして雨は小降りになった.でも足が痛い.動きたくない.でも,探さなくちゃ,なくちゃ,でも,あー,でもでもでもぉー.と一人悶絶を繰り返す.そうだ,たばこでも吸おう.

と,そのとき,イタリア人の,ちょっとタッパはあるが,暗ぁーい感じの青年が寄ってきて「たばこ,一本めぐんでくんねぇーか?」と言う.非常にも,「No, I don't have..」と申し訳なさそうに言うと,やつは天を仰いで,「おぉーー」と悲しげな声を静かに発した.ほんとは持ってたんだけど.^^;なんか怖かったんだよぉー.
#ごめんな>タッパはあるけど暗い感じのイタリア人

たばこ一本吸い終わって,今一度,楽器屋を探し行く.やっぱり無い.もういいやってんで,広場で博士を待つことにする.何人かのイタリア人がからかいにくる.「こにちわ!ぎゃはははは.」とか叫びながら.なんだろな,こいつら.まーいいや.ココじゃおいらは異邦人だ.でも他にも金持ってる日本人はいっぱいいるのに...

17:30ちょい過ぎにでっかいinvictaをしょった博士がやってきた.博士が「ごこまわったの?」っていうから「ここからこーやってこうしてこうきて...ずーっと歩いてきた」って言ったら,仰天された.

そんで,とりあえず座りたいと訴える.で楽器屋を探しがてら(割としつこい,おれら^^;だって大切なミッションだし.フィレンツェで一回はずしてるし),barに入った.そこで,中国人に名前を漢字で書いてもらって喜んでいるイタリア人がイタリした.晩飯も食わねばならぬから,エスプレッソだけにして楽器屋を探すことに.(ここが一つのポイントだ.晩飯.覚えておこう)

「そうだ,本屋に言ってみよう.プレイヤーみたいな雑誌があってそこに楽器屋の広告が出てるかもしれない!」我ながらグッドなアイデアだと思った.入った本屋は,専門書.そーいえば..と博士曰く「雑誌はタバッキみたいなところで新聞なんかと一緒に売るんだよなぁー」.行ってみる.無い.クラシックのCDなんかはそこで売ってたりするんだが..結局見つからない.近くにトレビの泉があるので”せっかくだから攻撃”で寄ってみる.見ただけ.^^;頭の中はミッションの遂行のことでいっぱいだ.でトボトボと来た道を戻る.楽器屋を探すために,スペイン広場からまっすぐコルソ通りまで来て”左折”した私たちは,そこで「もしや,右折???」と顔を見合わせ,とにかく行ってみた.あった.く”なーんだ,簡単じゃねぇーかぁ!”

1階はCD売場.2階に楽器がおいてある.いいぞいいぞ!(きゃっきゃっ)シュツッツガルトの店とは雰囲気が違う.少しお客さんも居る.^^;博士はQVを取り出し,店内のギター(一番手前のがルカサーやギターを選ぶ僕を撮り始める.無口な店員が睨む.博士おびえる.よし,いくぞ.店員に,「I wanna try some guitar, OK?」と中学生のような英語で頼む.「これと,これを試したい」とPRSとMusicManのルカサーモデルを指さす.すると店員は,ルカサーモデルを取って くれてアンプの置いてあるところにリードする.背後から「Can I use boogie?」と聞くと,極めて無愛想に「No,boogie.Marshall is availlable.Use this Marshall.」と答える.まー,いいか.boogieといっても安いレクチファイヤーのコンボだし,マーシャルもコンボだったし.で,店員はギターをおいらに手渡すとシールドをアンプに刺してくれた.あとは,何もしないで去っていく.ドイツでは,チューニングしてくれたし,ピックも貸してくれたのに.(ドイツ人が親切だってのは証明された).

しょうがないから,フィンガーピッキングで,More Than Wordsを弾く.世界的にメジャーな曲なので知ってる人もいるだろうと思ったからだ..指馴らしなしで”哀愁のヨーロッパ”は流石に弾けなかった.
#ごめんなさい>カバ先生
そのかわり,,「パリの散歩道」を弾いた.するとそのとき,背後に人の気配を感じた.僕は振り返らなかったんだが,どうせあの店員が「もう冷やかしはいいだろう」と見ているんだとばっかり思ってたのでシカトしてたんだ.すると,博士が「ずーっと,おずのプレイを真剣に聴いてるにーちゃんがいたよ」って言うのさ.^^/なんだかなぁーもう.そして,10分くらいいじってたらさっきの店員が「もういいだろう」と言ってきた.「どうだ,良いギターだ」っていうから「Pretty Good」と答えると,「Yes, it's wonderful guitar!」と我が意を得たりっつー顔をした.結局PRSは弾けなかったけど,ミッション完了.(パチパチ)^O^/

ささやかな満足感のまま,晩飯に突入ってところで,リストランテに行くかどうか考えたが,ジャケットも着てなかったし,アパートのある場所まで戻って,スーパーで総菜でも買って帰ろうということにした.ところが,スーパーはなんと閉店(CHIUSO).がっちょーん.保険がない.さてどうする? barに何かおいてないか? 時間は何時だ? と右往左往するも,今さら街に戻る元気もない.結局barで微炭酸のアクアミネラーレを2ボトル買うにとどまる.アパートに戻って,買い置きのラビオリとかレトルトのミネストローネをあさってなんとか凌ぐ.でも結構おいしかったよ.ラビオリなんてしょっぱくて結構イケたよん!^^/

晩御飯も終わり,おなかも膨れて(そりゃそうだ,ほとんどパスタばっかりだったし^^;;)疲れたのでシャワーを浴びて寝る.寝る.寝るzzz....

#その夜,僕はジャンピエールの夢を見た.怖かったよ>トロンちゃん. #僕がニッポンに帰ってきてからメールで聞いた話だが,博士も見たらしい.

to be continued...