日本経済同様に右肩上がりに増加してきた国民医療費は、先に厚生省から示された1998年度の予測で1.1%の減少が推計されている。これは薬価改定に伴う診療報酬の実質引き下げや患者自己負担の増加による受診抑制政策によるものであり、医療業界もついに構造不況業種へ転落しつつあるように思われる。実際、平成9年の全国公私病院連盟による1,150病院の実態分析調査においても、公私病院の70%、中でも自治体病院の実に89%が赤字病院であるという報告がなされている。
このような背景のもと、病院の経営に一般企業並みの考え方を導入することは生き残りのための必須条件となりつつあるように思われる。われわれ医療機関は「医療は、人の生命を預かる以上、特殊な業界である」という固定観念にとらわれているのではないだろうか。しかしながら、サービス業として、「技術とサービスを提供し、それにより収入がある。人的・物的原価として支出があり、利益により資本を形成する」というように業務の質を単純化して考えてみれば、何ら一般企業と変わるものではない。したがって決して「特徴」こそあれ、「特殊な」業界ではないと考えるべきであるように思う。
表1に全国公私病院連盟の1,150病院の実態分析調査における収支と構成比を提示する。医業収入に占める人件費の割合は53.3%に達する。しかし、ここに大鉈を振るうことは困難を伴う。すなわち、医療はヒトに対してのヒトによるサービスであり、また各種法規により人員基準が規定されている。したがって、人件費の節減はかえって収入減につながり、さらに職員の「質」を低下させ、「やる気」を落とすことになりかねない。
また、収入増の試みとして、「週に1回は血液検査とレントゲン検査をしよう」といった安易に検査を増やすような、あるいは「風邪には抗生物質を出そう」といった投薬を増やすような経営者側の働きかけは現場の医療職の仕事に対するモチベーションの低下、「やる気」の低下を生むと思われる。したがって、「質」と「やる気」を落とすことなく、収支を改善させるためには、まず人件費を除いた材料費や経費での改善を検討するべきであると考えるのは当然の帰結であるように思われる。
再び一般企業に目をむけると、厳しい環境のもとで「元気な」企業が多数存在する。今われわれに必要なことは、他の病院ばかりではなく、他の企業が導入している先進の考え方、システムとの比較検討、いわゆるベンチマーキングが極めて重要になってくると思われる。
一般業界の成功事例として、まず自動車業界における「かんばん方式」が挙げられる。材料の納品を「必要なものを必要とする時間に、必要な数だけ納品させる」、Just in Time & Stocklessの考え方である。また、飛ぶ鳥を落とす勢いのコンビニエンスストア業界においても、「多数の品目を倉庫に持つことなく、欠品なく取り揃える」、POS (Point of Sales )管理の導入と少量頻回搬送による在庫管理体制が挙げられる。さらにこれを進め、川下である小売業から川上である製造業をコントロールするサプライチェーンマネジメント(SCM) の手法はアパレル産業から始まり、コンピューター産業まで多くの業態でのトレンドとなりつつある。
このようなシステムを導入することが病院にとって可能か否か。病院が10あれば、10通りの病院内における物品管理システムが存在し、さらに、一般企業との間のベンチマーキング以前に、病院相互のベンチマーキングがなされていない現状においては極めて障壁は大きい問題と認識されている。しかしながら、閉塞感漂う病院経営の改善には、新しい道への第一歩が重要であると思われる。すなわち、従来の業務にとらわれることなく、業務をゼロから見直す、「リエンジニアリング」の発想があってこそ、経営改善が進められるものと思われる。
当院において、「質とやる気を落とさないリエンジニアリング」の掛け声のもとに平成6年12月から診療材料のSPD (Supply Processing Distribution) 化、平成7年5月からの臨床検査のシステム化、平成7年10月からの薬剤在庫管理システムの導入、さらに平成9年1月からこれらの物品管理システム一つ一つを完結させるのではなく、すべての管理システムと診療情報をリンクするコンピューターシステム(統合オーダリングシステム)を立ちあげてきた(表2)。これらにより当院は平成5年度の赤字決算から、翌年度以降の経常利益率約10%を確保するに至っている。
次号より、当院の各々の物品管理システムとコンピュータシステムの概要と問題点をご紹介したい。
科目 |
平成7年 |
平成8年 |
平成9年 |
9年/8年 |
平成9年構成比 |
×100 |
(医業収入100対) |
||||
総費用 |
127,905 |
130,453 |
134,951 |
103.4 |
108.3 |
T医業費用 |
123,091 |
125,946 |
130,255 |
103.4 |
104.5 |
1給与費 |
62,184 |
64,531 |
66,386 |
102.9 |
53.3 |
2材料費 |
39,075 |
38,572 |
39,579 |
102.6 |
31.8 |
うち薬品費 |
28,949 |
28,057 |
28,278 |
100.8 |
22.7 |
3経費 |
14,472 |
15,157 |
15,972 |
105.4 |
12.8 |
4減価償却費 |
6,045 |
6,191 |
6,798 |
109.8 |
5.5 |
5資産消耗費 |
207 |
193 |
136 |
70.5 |
0.1 |
6研究研修費 |
504 |
565 |
594 |
105.1 |
0.5 |
U医業外費用 |
4,384 |
4,150 |
4,315 |
104.0 |
3.5 |
総収益 |
119,425 |
121,725 |
126,717 |
104.1 |
|
T医業収益 |
117,257 |
119,827 |
124,619 |
104.0 |
100.0 |
1入院収入 |
68,951 |
71,508 |
74,361 |
104.0 |
59.7 |
2室料差額収入 |
1,610 |
1,533 |
1,588 |
103.6 |
1.3 |
3外来収入 |
43,680 |
43,649 |
45,163 |
103.5 |
36.2 |
4公衛収入 |
965 |
967 |
1,208 |
124.9 |
1.0 |
U医業外収益 |
1,796 |
1,591 |
1,586 |
99.7 |
|
V補助金収入 |
9,570 |
10,636 |
10,288 |
96.7 |
|
総収益−総費用 |
△ 8,480 |
△ 8,728 |
△ 8,234 |
||
総費用/総収益 |
|||||
×100 |
107.1 |
107.2 |
106.5 |
|