自然選択について

実はプラスとマイナスがあるんです


自然選択ってなに?

 単に選択とか自然淘汰(とうた)ともいいます。生存に適切ではない生物を取りのぞく現象です。でたらめな突然変異に方向性を与えるのが自然選択になります。
 自然選択の万能説では遺伝子まで自然選択が影響するとしています。死産または病死、ケガ、天敵に襲われるなどで子供を残すまでに死亡する場合以外でも、結婚相手がいないとか、子供を作れないとかが自然選択での淘汰(とうた)と呼ぶことができます。
 ダーウィンの進化の要因となるのは、正の自然選択です。適者生存とも呼ばれています。環境によりよく適合したものが生き残り、ほかは排除される現象は正の自然選択と呼ばれます。
 しかし、正の自然選択は、ほとんど発見されていません。普通に見つかるのは負の自然選択です。

正の自然選択ってなに?

 正の自然選択とは、進化を積極的に進める自然選択です。有利な突然変異を広げます。単に正の選択と呼ぶこともあります。突然変異を起こした個体が生き延び、起こさなかった個体が滅びます。
 実例としてはガの工業暗化における黒色遺伝子の増加や昆虫の薬剤抵抗性の増加がわずかに知られているだけで、ほとんどの場合は推測に過ぎません。むしろ、大部分の突然変異は有利不利に関わらず、世代を経るにつれ消滅することが分かっています。

 正の自然選択の中でも生存力や子供を多く育てられる突然変異が、ほかの同種内の個体より多くの子を残すことで、同種内の他の個体を駆逐して広がるダーウィンの進化論に現れる選択は、ダーウィン選択ともよびます。このダーウィン選択が、ネオ・ダーウィニズムでの主な自然選択になります。


負の自然選択ってなに?

 負の自然選択とは進化をとめる自然選択のことです。単に負の選択と呼ぶこともあります。
 不利な突然変異を排除しますが、形態的には有利な突然変異であっても集団の性質から離れた性質は排除されます。突然変異を起こした個体が滅びることになります。種に発生した突然変異を排除するため「浄化選択」ともいいます。
 求心性選択、分断性選択、指向性選択など、様々な例が発見され分類されています。

性的選択ってなに?

 配偶者(結婚相手)数による自然選択です。
 奇妙な恰好の甲虫、クジャクの尾羽、ライオンのたてがみ、シカの大きすぎる角などの生存に不利な形態を説明するために、、ダーウィンはクジャクを見ただけで頭痛を起こしたといわれるほど苦労し性的選択という考えを提唱しました。
 性的選択では、それらの形質は異性に対する魅力として進化してきたと考えます。

求心性選択ってなに?

 量的形質について最も普通の自然選択。安定化選択・正常化選択ともよばれます。
 求心性選択は、大きすぎたり小さすぎたりのような極端な個体を除く選択です。
 ある環境において、ある形質は一定の範囲を守らなければ生存は不可能でしょう。
 極端な形質の個体は、異常と見なして排除する方が、種にとっても、また繁殖相手の個体にとっても、遺伝子にとっても、安全です。
 種を現状維持する役割があります。
 つまり、求心性選択とは種の中心に向かって進化させるような、自然選択です。 ランダムな突然変異はエントロピー(不確実さ)を増大する方向に働き、逆に、求心性選択は中心にまとめる働きを持ちます。このバランスが種を保っています
 実例としてよく挙げられるのが、新生児の体重と死亡率との関係です。イギリスの約一月の死亡率が極端に軽いものも重いものも高かったのです。
 また、突然変異率が異常に高まった場合の例を挙げましょう。
 1986年のチェルノブイリ原発事故で、ネズミの突然変異が1億倍程度に高まりました。1億年の年月は進化に十分な期間です。しかしネズミは、これらの突然変異を瞬く間に修復していき、年月が過ぎても元のままの種を保っています。
 種の求心性のすごさが分かるでしょう。

指向性選択ってなに?

 量的形質の平均値が最適値とは違ったときの自然選択です。集団平均は最適値に向かいます。定方向性選択ともよびます。
 イギリスの生後1ヶ月以内の死亡率がもっとも低い体重は平均値より若干大きかったのです。
 正の自然選択も、この負の自然選択の連続によって行われると考えられます。
 最適値が種の中心にない場合、最適値に向かおうとする指向性選択と、種を保とうとする求心性選択がぶつかり合います。
 しかし、最適値の方向の形質は有利であることは確かです。
 その結果、通常は最適値の方向に求心力が移動することになります。求心性選択の上限下限は最適値に移動していきます。淘汰(とうた)は最適値に向かうように種を誘導します。
 種全体が同一の獲得形質が必要となる環境では、最適値は獲得形質のまだ先の進化の方向にあると考えるべきです。
 ましてや、獲得形質を取得する前の、出産時、幼児期においては、成体の獲得形質に影響され、下限、上限ともにかなり獲得形質の方向に移動することになります。獲得形質を取得する前には異常として淘汰(とうた)されていた幼児が、認容されます。
 前出の新生児でも、最も生存率が高かったのが平均値よりも重い体重なのは、遺伝子型よりも母体の体重が増えているからと考えられます。
 新しい形質との適合度が低いものから排他され続ければ、いずれ遺伝子もこれに従うしかありません。
 次第に、首の長いキリンがその個体群で増えることになります。

分断性選択ってなに?

 二つ以上の最適値があるときの自然選択です。環境が多様で、二つ以上の表現型が別の生態的順位に適していれば分断性選択が起こる可能性があります。

工業暗化ってなに?

 正の自然選択の例として、イギリスのガの黒色化(工業暗化)があります。
 木の肌が工業化に伴い黒くなっていき、同時にオオシモフリエダシャクというガの一種が黒色化しました。樹肌に似た色の個体が選択され生き残ったとされます。環境の変化により不利な形質が有利になった例になります。
 この現象は煤(すす)を食べたための獲得形質(個体変異)だという説もあります。 それだと、遺伝子の頻度変化もなく、環境が戻れば一世代内で元に戻ります。この説が復活してきたのは、実際に環境が回復していくとともに、黒色化した個体が減ってきたことによるのですが、これも自然選択によるという反論があります。
 極一部で、「進化の不可逆性」に反するから自然選択ではないと主張するトンデモな学説があるそうですが(トンデモも好きですけれど)、この不可逆性とは別種になってからは元の種に戻らないという意味ですので、単に種内での色の変化とか種内の形質の頻度変化などとは全く無関係ですので、あしからず。

薬剤抵抗性の増加の例は?

 正の自然選択の例として、昆虫や細菌の薬剤抵抗性の増加があります。
 ある薬剤を使って昆虫を駆除しようとすると、しばらくして薬剤が効かなくなる現象です。
 こちらは、実験で薬剤の抵抗性を遺伝的に持っていた個体が増殖したことが分かっています。
 薬剤の抵抗性のない個体は大多数が死滅しており、このように、勝敗がはっきりと分かれるのであれば、正の自然選択は行われることの証明になります。
 しかし、不利な個体が急激に全滅し有利な個体が無傷で生き残る例は自然界では少なく、また僅かな形態の変化では、はっきりと生死が決まらないことから、進化に応用できるか(新しい種ができるか)が、この現象の評価の分かれ目になります。
 有利な突然変異とは無関係に不利な個体が滅んでいるので、いわゆるダーウィン選択とは正確には異なります。
 ダーウィニズム的な自然選択は、より有利な個体が、不利な個体を排除することによって行われます。このような例は、例えば帰化生物の進入によってありえますが、同種の進化によってそれほどの差異が生まれるのかは確認のしようがありません。
 しかし、薬剤抵抗性の例から、もし種が絶滅・衰退に向かうときであれば、正の選択は行われると考えてよいでしょう。そして、衰退の原因は環境の変化である可能性が殆どでしょう。ここでは、正の自然選択は環境の変化によって引き起こされています。ここでの有利な突然変異とは、個体群に蓄積された中立の突然変異が環境の変化によって有利になったものです。


自然選択に関係のない突然変異はあるの?

 形質に現れない突然変異や、現れても影響の少ない突然変異です。つまり中立の突然変異は自然選択には関係がありません。