てぃたいむ  遺伝子をめぐる冒険


 ジャンクDNAとか呼ばれる、可哀想なDNAがあります。ほとんどのDNAはこのくず扱いのDNAで意味のない、つまりタンパク質を作れないDNAです。

 でも、今やリサイクルの時代です。進化論でもリサイクルがはやっています。

 進化の場合には、このくず遺伝子が書き換えられ進化するんじゃないのという説が強くなっています。くずなんだからどんな突然変異を起こそうが、自然選択による選別は行われないのですね。

 くず遺伝子のほかに、同じ遺伝子が何百も何万もあったりします。そのなかで一つ二つ突然変異を起こしたっていいじゃないか、という説もあります。これが重複遺伝子説と呼ばれています。表に出た形質の遺伝子の裏で、着々と突然変異を蓄えているのです。この説の弱点は、突然変異の選択が行われないため、無秩序に蓄積することです。しかし、中立説にとっては、重要な意味を持ってきます。中立の突然変異が形質、つまり自然選択と無関係に進んでいける理由の一つになるのです。

 昔は、自然選択で突然変異が選ばれるっていってたのが、今や逆転、自然選択をどうやったら受けなくてすむのか、っていうのが遺伝子の進化なのですね。

 自然選択が進化の邪魔をするっていうのが常識になってしまうと、いろいろなことを考えなくちゃなりません。

 そんな、こんなで、ネオ・ラマルキズムと呼ばれる、獲得形質が遺伝するっていう説もよみがえってきました。そのなかでも、使わない器官が退化するっていう部分だけは、完全に認められるようになりました。

 使用しない器官は、自然選択の対象から外されることになります。

 すると、突然変異は無秩序に個体群に蓄積することになります。突然変異の多くは形質の発現にとって有害です。

 その結果、不用器官は退化します。

 特に量的形質については、主遺伝子ではなく、ポリジーン支配の場合が多いと言われています。

 ポリジーン形質は発現量のみに影響するため、(少々の突然変異にも耐えられるため)突然変異に対する制御機能が弱く進化が速いのが特徴です。この進化は種を発生させる大進化と区別して小進化と呼ばれています。

 そのため、最近は退化という言葉よりも縮小とか縮退と言う方が好まれるようになりました。

 退化とは、自然選択に見捨てられたことによる小進化なのです。主遺伝子への影響が弱いことは退化のこん跡は長くのこることからも推測できます。しかし、量的に最小になると退化は極端に遅くなるのです。

 また、重要な器官であったものは、様々な進化抑制装置が十分に働き、退化は遅くなります。

 消極的退化が遺伝子においては遅いことは(形質では初期の段階で退化されているでしょうが)、幼形成熟や、環境が元に戻った場合などにも、存分に役に立つでしょう。

 洞穴魚などの、くらやみでの色素と目の退化は、この不用退化によるものです。目が不必要になったため、求心性選択が目については働かなくなりました。しかし、退化直後であれば主遺伝子への影響ははるか先ですので、環境が変われば、また復活していくでしょう。

 中部メキシコの鍾乳(しょうにゅう)洞で発見されたブラインドケープ・カラシンは、目が完全に退化しているのにやたらと活発な、はっきり書けば、うるさい魚です。しかし、何代も飼っていると目が見える個体が増えて、落ち着いた魚になる可能性は十分にあります。稚魚のころは目のこん跡(こんせき)があるのですから。

 人類のしっぽや盲腸も、量的には最小値になったと思ってよいでしょう。ただ、まだ残っているということは意外とこれらの器官は重要だった時期があるということです。