ひまつぶし 遺伝子をめぐる冒険


 日本では大衆的な多数の進化論の著作により、ウイルス進化説というトンデモ学説は結構有名で、中にはこの俗説が認められた学説だと思いこんでいる人も多くいるようです。遺伝子をウイルスが伝染して進化が発生すると言うものですね。

 プラスミドなどは遺伝子自体が他の個体に直接移動します。細菌の薬剤耐性とかで有名ですよね。院内感染で抗生物質の開発が間に合わないとか言うのは、この水平遺伝とも呼べる遺伝子の移動で一気に耐性が広がるためです。ウイルスも同様に遺伝子をばらまきますが、これが進化になるか、つまり生存に有利でかつ圧倒的な変化を生物にもたらすかというと信じられません。病気で別種が発生するというのは想像するのも困難です。魚が病気になって陸に上がれるようになる? トカゲが病気で飛べるようになった? ちょっとね。

 この進化論の主張には大きな欠陥があります。物語がないのです。突然変異と自然選択について全く説明していないのです。

 ウイルス説のもつ説得力は伝染力だけであり、無に等しい有利な突然変異が、天文学的に多数の不利な、つまり有害なウイルスに混じってどのように有効に働けるのか、そう、自然選択の役割についての説明にかけているのです。

 たしかに、ウイルス内の突然変異は生物の中で行われるよりも遙かに多いでしょう。しかしそれは内部選択や自然選択がないからであって、有利な突然変異の量は生物内と変わりないと考えられます。不利な突然変異が増加するだけです。天文学的に少量の有利な遺伝子を持ったウイルスが圧倒的多数の不利な形質のウイルスの中でどのように有効に働けるのか。その説明がありません。

 水平遺伝の説明だけで進化のメカニズムについては沈黙を守っています。ウイルスによる遺伝子の移動だけなら昔から常識として知られていることです。それがどのようにすれば進化となることができるのか、ウイルス進化説は、進化については何も説明していないのです。

 ビタミンCが合成できなくなったのはウイルス遺伝のためだとか言っていますが、それが本当かどうかは知りませんが、ビタミンCが合成できなくても生き残れたからだけで不利な形質でも生き残れた、つまり中立の形質の例にすぎません。それ自体は形態の進化と関わりのない進化とは遠い現象です。ウイルスが有利な形質を広めた例を私は知りません。元気になる病気が本当に存在するのか(有利な突然変異がウイルス内という限定された条件で発生するか)、そしてそれが地球の歴史の中で幾度も偶然に繰り返す可能性はあるのか。そう考えると、ウイルス説は総合説が成り立つ条件を前提としてしか存在を許されません。

 ウイルス説が正当に生き残るためには、結局は総合説の一部になり、ネオ・ダーウィニズムの補足として存在するしかないように思えます。