第3週

 

生命の起源と生物進化

生命の起源 種とは何か

遺伝子頻度の変化、自然選択

 

PDFファイル

 

概要

地球には多種多様の生物がいます。今回は、地球上の生物の起源と、多様な生物種への進化の仕組みについて学びます。

まず、生物の分類や種の起源を調べる上で大切な「種(しゅ)」とは何かを説明します。ついで、初期の地球環境と生命の起源について学びます。

最後に、種の多様性を生む仕組みとして、遺伝子頻度の変化、自然選択、適応を、ゲノムの多様性を生む原因として突然変異などを見ていきます。これらの現象はDNAの塩基配列=遺伝情報や生物単位のゲノムで説明できることを学びます。

 

課題(第3週)

「生物進化の原動力は何か?

 生物進化を生物の共通性と多様性、ゲノムで説明」

課題は欠席(公認欠席も)した場合も、教科書や本サイト、PDFファイルを参考にして、後日解答すること。出欠にかかわらず、白紙は0点。

 

参考書籍(第3週)

ジンマー、エムレン著、更科功、石川牧子、国友良樹訳

 カラー図解 進化の教科書 第1巻 進化の歴史

(ブルーバックス \1,814 20161120日第1刷)

 

ジンマー、エムレン著、更科功、石川牧子、国友良樹訳

カラー図解 進化の教科書 第2巻 進化の理論

(ブルーバック \1,728 20170120日第1刷)

 

武村政春著 生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像

(ブルーバックス \1,058 20170420日第1刷)

 

リドレー著、大田直子、鍛原多惠子、柴田裕之、吉田三知世訳

 進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来

(早川書房 \2,916 20160925日初版)

 

授業内容(第3週)

○生命の起源と生物進化

今回の授業のテーマは2つあります。

生命の起源と生物進化です。

まずは、生物分類の基本単位である種(しゅ)を説明した後、生命の起源の概略を説明します。

生物進化では進化の仕組みと遺伝的レベルでの生物多様性について学びます。

 

 

○進化とは?

一般社会でも「進化」がよく使われます。多くの場合、「進化」は複雑になったり、使いやすくなったり、性能が増したり、業績が上がったり、能力が増したりすることに使われます。

また、進化は進歩と同義で使われることが多い。

では、生物学では、進化をどう定義しているのでしょう?

 

例えば、新聞の見出しを見ただけでも「進化を続ける道の駅」「肌着 まだまだ進化」「キッズ見守り端末 進化中」「(プロ野球)19歳森 進化の連日弾」というように、進化が使われています。

 

生物進化にこれらの見出の意味を当てはめるとすると、

進化は生物がより複雑になったり、機能が増したり、能力が増したりする意味になります。

生物の進化は、複雑さや能力の強弱や良い・悪いの違いを含むのでしょうか? 生物学は、進化をどう定義しているのでしょうか?

 

生物進化にはこれらの見出しの様な意味をもっていません。

つまり、生物がより複雑になったり、機能が増したり、能力が増したりする意味で使うことはありません。

生物進化では、複雑さの基準や良い・悪いの価値観を抜きにして、変化する現象に使われます。

 

では、生物が形(モノ)を変えたり機能(コト)を変えたりすることが進化でしょうか?

進化は生物のモノゴトの変化でしょうか?

例えば、昆虫の変態は進化でしょうか?

 

生物進化は

「生物の形質が世代を経て変化し、それが継続していく現象」

とされています。

ここで重要なのは「世代を経て」という点です。

昆虫の変態のように、ある個体の形質が変化しても進化にはなりません。

あるプロ野球選手(生物)の技術・能力が増すことも進化ではありません。

ある人(生物)が癌になる(形質の変化)、勉強して賢くなる現象も進化ではありません。

 

これは「遺伝」と似ていますが、異なります。

 

では、生物進化で、何が、どのように変化するのでしょうか?

変化する モノ コト は何なのか?

何が、どのようにして世代を経て継続していくのでしょうか?

 

種内: 種としての同一性を保ちながらも種内の多様性がある

種間: 種に多様性がある 多様性を生む仕組みは?

 

ゲノム 遺伝情報 遺伝子 などでどのように説明できるだろう?

 

9−1 生物の最小分類単位 種とはなにか?

地球上に存在する生物を分類するためには、「生物種」をきちんと説明する必要があります。

生物の分類の最小単位は種(しゅ)です。種は生物進化を考える上でも重要です。生物はその特徴から界、門、綱、目、科、属、種と階層的に分類されます。さらに細かい階層もあります。動物、植物、哺乳類、鳥類といった言葉は分類箱のようなもので、ライオン、ヒョウ、イヌなどは種の名前です。

 

私たちはイヌを見ると、これはイヌだと簡単に見分けますが、種の明確な定義はありません。有性生殖をする生物の場合は、比較的わかりやいが、そうでない生物の種を定義するのは難しい。

 

種の厳密な定義はありませんが、種とは、一般に、

「自然状態で交配し、継続して子孫が残せる集団」

を指します。

 

子ができても、その子に生殖能力がなければ、その両親は別種となります。

この定義は有性生殖をする野生生物の場合に限られます。

 

数百種類の品種があるといわれるイヌは、すべて、人類がオオカミから人為選択で作った作品です。

イヌの品種同士でお互いに継続的に交配できるため、すべてのイヌの品種は同一種です。野生の動物では、この方法を使って種を確認することは簡単ではありません。

 

キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなどの野菜は共通の野生種から品種改良されたため、同一種です。

 

種の多様性はどうやって生じたのでしょう?

そもそも生物はどうやって誕生したのでしょうか?

 

 

9−2 生命の起源と原初の生命

よく生命の起源が未解明だから生物進化も1つの「説」であって、創造説と同等に扱うべきという話が出ます。

しかし、生命の起源と種の起源(生物進化)は全く別の概念です。

 

原始地球では無機物から有機物が生じる化学進化を経て、現在生息するすべての生物の共通の祖先生物が誕生しました。これが多様な生物に進化しました。

 

地球上には多様な生物がいます。ヒトが生活できないような過酷と思われる環境にも多くの生物種が生きています。現在地球上に生きている生物の種類は正確にはわかりませんが、千万単位になることは間違いなさそうです。

地球上に生命が誕生してから38億年がたったといわれています。その間、多くの生物が誕生し、絶滅しています。地球生命の歴史で、絶滅した生物種の方が圧倒的に多い。

 

残念ながら原初の地球の環境は正確にはわかっていません。ある程度の原初地球の推測と、さまざまな実験や観測結果から、おおよその生命の誕生の仕組みはわかっています。

地球誕生から8億年ほどして、高熱、高圧で、宇宙線も強かった時代の海洋(あるいは地下)で、比較的低分子量の有機物が合成され、それらがつながって高分子量や不溶性の物質が作られ、原初の袋ができたと思われます。現在の生物はすべて細胞をもっていることから、これが細胞の萌芽だったのでしょう。

 

すべての生物は遺伝情報を伝える物質としてDNAをもっています。DNAがいつ生まれたかわかりませんが、すべての生物はDNA複製し、細胞を分裂させることで子孫に遺伝情報を伝えていることから、DNAの誕生は生命の歴史で重要だったことは間違いないでしょう。

 

しかし、DNAは自身で複製する能力がなく、DNA複製はタンパク質のもつ触媒としての酵素の働きに頼っています。

RNAは複製と触媒能力を併せもつことがわかり、もしかすると原初の袋の中にはRNAが先に合成され、その働きによりタンパク質ができ、しだいにDNAを遺伝物質とした情報伝達の仕組みができあがったのかもしれません。

 

すべての生物は細胞を持っています。

生命の起源とは、つまり、細胞の起源とも言えます。

原初の細胞が現在の原核細胞や真核細胞に進化し、原核生物や真核生物が誕生しました。

細胞の中には遺伝物質としてのDNAが必ずあり、DNAの遺伝情報からタンパク質を合成するシステムが備わっています。

 

 

9−3 生物進化の概要

生物進化は種の起源ともいえます。

 

地球上のすべての生物種は、共通の祖先から進化により誕生したと考えられています。それは生物を構成する基本物質や遺伝子発現システムの共通性だけでなく、多くの進化に関わる理論でも証明できます。

 

生物進化は現在生きている生物の遺伝情報から分子レベルの証拠で推測できます。生物進化の道筋は、DNAの塩基配列や遺伝子の遺伝情報から作られるタンパク質のアミノ酸配列を解析することで、ある程度描けます。配列情報の類似性は現生生物の分類の指標にもなります。遺伝情報の変化が固定化される時間が一定だとすると、配列情報の類似性は共通の祖先がいつ頃枝分れしたかを推測する手がかりになります。

 

 

9−6 生物進化と遺伝子頻度の変化

生物は遺伝情報を変化させながらその時々の環境に適応し、多様な種に変化しました。生物進化は、ある遺伝子の頻度や生物集団での遺伝情報の頻度が変化し、その変化が子孫に伝えられる過程で起こります。生物進化には、突然変異、遺伝子流動、遺伝的浮動、自然選択など、いろんな要因があります。

 

個々の生物種にはゲノムがあり、その中にそれぞれ固有の遺伝子群をもっています。同一種内であってもゲノムの多様性があり、遺伝子群の多様性もあります。そのような多様性は遺伝情報の無作為な変異などで生じます。

 

生物が子孫を残すとき、程度の差こそあれ、必ず親とは異なるゲノムを伝えます。多様性の幅はその時々の環境要因な依存しています。遺伝子頻度は同一種の中で多様な遺伝子の組み合わせのことで、その遺伝子頻度は種内である程度一定しています。しかし、遺伝子頻度は遺伝情報が次世代に伝えられる過程で大きく変わることがあります。

 

例えば、遺伝子頻度は集団が急激に小さくなったり、一部の集団が爆発的に増えたりすると、変化します。他にも遺伝子頻度は断層などの地形の変化により、物理的に隔離が起きて変わる場合もあります。このような遺伝子頻度の変化を遺伝的浮動といいます。

 

同一種で地域的に別の集団があった場合、ある集団が別の集団に一部の固体が侵入することで、侵入を受けた集団の遺伝子頻度が変わることもあります。これが遺伝子流動です。

 

進化は同一種内での遺伝子頻度が変化することであり、様々な要因で遺伝子頻度が大きく変わることで、新しい種の誕生に結びつくことがあります。遺伝子頻度の変化は無作為であり、環境や相互作用により、変動には幅があり、時間軸方向にも幅があります。

 

 

9−6 生物進化と遺伝子頻度の変化

9−11 生物の多様性や個体差が生じるわけ

9−12 DNAと突然変異

同一種の中で突然変異によりある遺伝子の遺伝情報が変化し、その遺伝子を受けつぐ個体が生まれることにより、集団内での遺伝子頻度が変化することがあります。

 

遺伝子頻度の変化は減数分裂時のゲノムの多様性でも生じます。

ヒトの場合相同染色体間の遺伝情報に約0.1%の多様性があるため、23対の相同染色体の選択により、2の23乗通りの配偶子が産まれます。

さらに減数分裂時に相同染色体間の組換え(交叉)が起こるため、実際にはもっと多くの多様性が生じます。

 

生命が誕生し、遺伝子発現(タンパク質合成)の仕組みが確立した頃、遺伝子の数は少なかったと考えられます。しかし、ヒトは2万数千の遺伝子をもっています。

DNAの長さ(ゲノムサイズ)も生物種によってまちまちで、1万塩基未満の生物から数百万塩基のものまで多種多様です。

このように、遺伝子数やゲノムサイズが多様だということは、進化の過程のどこかで遺伝子重複が起こったことを意味しています。

 

ある特定地域だけで見られる「鎌状赤血球症」という病気は、点突然変異が原因です。

この病気に関与している遺伝子の塩基が1個だけ変化し、合成されるタンパク質のアミノ酸が1個だけ変化します。

このアミノ酸置換により(モノの変化)、タンパク質としての働きが劇的に変化し(コトの変化)、発病します。

 

 

9−13 染色体数異常

9−14 コピー数多型

時には染色体単位で変異が起こります。

ヒト体細胞の染色体は23対46本ですが、チンパンジーのそれは24対48本と1対多い。

これは進化の過程で図のような染色体単位の融合が起こったと考えられています。

 

 

9−7 生物進化と自然選択

生物進化は遺伝子頻度の変化だけでなく、自然選択も引き金になります。

生物進化は自然選択が必ずしも働くわけではなく、自然選択以外の要因による遺伝子頻度の変化だけでも起こりえます。

 

ある生物集団が子孫を残すとき、前述の通り必ず遺伝的情報が変化します。様々な形質をもつ子孫が生育する過程で、その自然環境に適した形質をもつ個体が次の子孫を残す、というようにある生物集団は環境に適応した形質をもつ集団に変化していきます。

これが自然選択による適応進化です。

 

自然選択を引き起こす要因はたくさん見つかっています。これを選択圧といい、例えば、生態系における非生物的環境要因である気候や地形だけでなく、生態系における生物的要因である食物連鎖や種間の争い、種内の競争、配偶者による選択(姓選択)などの個体群の相互作用や種間相互作用も選択圧となります。

 

子孫を残すこすことに有利な変異は、個々の適応が小さくても、世代を経るに従って集団に広まることがあります。

 1個体に自然選択が働いただけでは進化せず、適応が種内に広がる必要があります。その過程で多くの遺伝子が関わりますが、時にはたった1つの遺伝子が適応で進化をもたらすこともあります。

 

 

9−6 生物進化と遺伝子頻度の変化

ここまでの話をざっくりいうなら、生物進化は遺伝的に多様な子を多数生み出し、遺伝子頻度が変わり、あるいは、自然選択により適応してさらなる子孫を残していく過程で起こります。遺伝子頻度の変化の多くは偶然であり、環境に依存しており、何かの目的に向かって進化するわけではありません。また、環境要因に対して有利になろうと思ってその方向に進化するわけではなく、多様な遺伝子頻度の中で、子孫を残し得た個体が遺伝情報を伝えているだけで、結果として環境に適応した個体が生き延びているわけです。

 

親世代 → 子世代

 親は生存可能な個体数以上の子を作る

 多数の子同士の遺伝情報はすべて異なる(突然変異)

 種内の遺伝子頻度が変化する(遺伝的浮動、遺伝子流動、隔離など)

 自然選択による適応進化

 

 

9−9 進化に関する誤解(授業では簡略化します)

「生きている化石」や「生きた化石」という言葉があります。これは数億年前の化石と同じ生物種が今も生きていると誤解されやすいため、あまりよい表現ではありません。

遺伝情報はあらゆるレベルで常に変化しており、生物進化は止まっていません。数億年の時間が経てば、その間進化は進んでいます。

現在のシーラカンスも複数種生息しており、化石種とは異なります。どうしても「生きた化石」を使いたい場合は、化石の発見が先で、よく似た現生生物が後から見つかった場合に限定し、その逆の場合は使うべきでないという提案もあります。

 

さらに、進化には次のような誤解もあります。

・ヒトは進化の最終型

・ヒトの進化は止まっており、ヒトはこれ以上進化しない

・ヒトが誕生する方向に進化した

・最も新しく誕生した生物はヒトだ

・最も適応した生物がヒトである

・進化に方向性がある

・理想的な生物に向かって進化している

 

自然選択(自然淘汰)はある決まった方向へ向かうわけではありません。

最も適した個体、最適者が生き残るわけでもありません。

ある目的に向かって進化するわけでもありません。

進化に固定的な目標はありません。

 

同一種内の遺伝子頻度は常に変化しており、生物進化に終着点はありません。

進化は集団内の遺伝子頻度の変化で起こり、この速度は一定しておらず、変化の度合いはその時々の環境に依存しています。

 

ヒトは数多くの生物種の内の1つであり、ヒトは生物進化で偶然誕生しただけで、ヒトを生むように進化したわけではありません。

生物は共通の祖先から枝分れしながら進化しています。現在生きているサルやヒトやあらゆる生物は、現時点で進化の最先端にいます。ヒトが一番新しく生まれた生物でもありません。

 

地球上には様々な生物が生きています。現在生きている生物だけでなく、地球上で生命が誕生したとされる38億年ほど前から現在に至るまで多くの生物が生きています。これらの生物は、見た目や働きなど、いろんな特性をもっており、同時に、共通する特徴もたくさんあります。

 

すべての生物は共通の祖先から進化して誕生したことはかなりの確度で確かであり、そういう意味で、現存するすべての生物は進化のなれの果てといえます。なれの果てというのが気に入らないなら、すべての現生生物は生物進化の頂点にいると言い換えてもいいでしょう。

 

ここで気をつけないといけないのは、「現存するすべての」生物が進化の頂点にいるのであって、例えば人間が高等生物で、大腸菌が下等生物というわけではない点です。もし生物種に高等・下等や優劣があるというなら、それは人間の都合で勝手に決めた価値観に過ぎません。

 

同じように生物に対して単純、複雑という階層付けや比較もあまり意味がありません。単細胞生物の大腸菌であっても、必要な生体物質は自ら作り出し、十分に「複雑な」働きをもっています。

 

また、現存するすべての生物は進化のなれの果てとはいっても、進化の頂点を極めたわけでありません。現存するすべての生物は進化の途上にいて、これからも進化し続けていきます。いくつかの種はそのうち絶滅するでしょう。

 

生物の共通性と多様性を考えるとき、この生物進化は非常に重要な焦点となります。現存する生物には共通する生体物質が含まれていることは、すべての生物が共通の祖先から進化して来たことの証拠の1つにもなります。

 

 

第4週 第2週 表紙

===============================

芦田嘉之 ashida@msi.biglobe.ne.jp

無断転載を禁じます。