第7週
生態系における物質の循環とエネルギーの流れ
生物圏の理解
概要
システムとしての生態系(エコシステム)における物質の循環とエネルギーの流れを学びます。
授業内容(第7週)
○太陽と太陽エネルギー
太陽は地球の109倍の半径(約70万km)を持つ
(地球は6400km)巨大な天体です。
太陽は高温の気体のかたまり。ほとんどが水素、次にヘリウム。
太陽が放射する光や熱エネルギーは地球などの惑星に影響を与えています。
太陽のエネルギー源は核融合反応です。
○光合成
生態系に使われるエネルギーの出発点は太陽エネルギーです。
この光エネルギーが植物などの光合成によって有機物などの化学的なエネルギー源(有機物、グルコースなど)になります。
植物のような生産者により作られたエネルギー源は生物群集の食物網の中で消費されます。
エネルギーは一方向に流れていくため、エネルギー供給が途絶えると、その生態系は終わってしまいます。
生物のエネルギー物質はATPです。
(エネルギー源はグルコースなどの有機物)
ATPの高エネルギー結合が生物の代謝反応のエネルギーとして使われます。
動物は植物の作ってくれた有機物(エネルギー源)を食べることで、エネルギー(ATP)を取り出しています。
では、植物はどうやって有機物(エネルギー源)を作っているのでしょうか?
植物は、光合成により、二酸化炭素と水から、光エネルギーを利用して有機物のエネルギー源と酸素を作っています。
生物は、呼吸により、有機物のエネルギー源と酸素から二酸化炭素とエネルギー物質のATPを作っています。
光合成は大きく二段階に分かれています。
光のエネルギーをATPに変換する(水が酸素になる)
ATPを利用して二酸化炭素から有機物を合成する
光合成 6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6H2O + 6O2
呼 吸 C6H12O6 + 6H2O + 6O2 → 6CO2 + 12H2O
結果的にATPの収支はトントンで、光合成の前後でATPは増えも減りもしません。光のエネルギーが有機物であるグルコースの合成に使われるわけです。その時、二酸化炭素と水が酸素に変わっています。
グルコースは多糖類であるデンプンになります(この反応にエネルギーが必要)。
植物も呼吸をしており、二酸化炭素を出しています。植物は代謝経路に必要なエネルギーATPを光合成により自前で作ったグルコースから作り出します。
動物は自前で外部エネルギーと無機物からグルコースを作ることはできませんが、食べることでグルコースを得ています。動物は植物から得たグルコースなどの有機物からATPを作っています。結局、植物も動物も太陽の光エネルギーを利用しているわけです。
植物は独立栄養生物で、光エネルギーから光合成により有機物を合成し、これを呼吸に使うことで、自前でATPを作っています。
動物は従属栄養生物で、摂取した有機物(エネルギー源)を利用して、呼吸によりATPを作っています。
○物質の循環 炭素
生体物質の循環のうち、元素としての炭素と窒素とリンの循環を見ます。
生物を構成する有機物の特徴の1つは元素としての炭素です。
有機物は、本来、生物に存在する物質の意味でしたが、一般的には、炭素を骨格とする物質を指します。
植物は光合成を行っており、大気中の二酸化炭素と水から炭素を含む有機物と酸素を作っています。動物は植物の作った有機物を呼吸によりエネルギーに変え、二酸化炭素を出しています。
二酸化炭素は植物や動物の腐敗によっても生じます。腐敗は細菌が関与している呼吸で、炭素を含む有機物と酸素から二酸化炭素が生じます。
これらの炭素の循環は生物の関わっているところだけです。
地球全体では、火山の噴火などで二酸化炭素が大気中に放たれています。
海底火山の大規模な噴火により、大気中の二酸化炭素が上昇し、海水が無酸素状態になったこともあります。
○物質の循環 窒素、リン
生体物質の基本であるタンパク質を構成するアミノ酸やDNAとRNAを構成するヌクレオチド(ATPも含まれる)は、炭素、水素、酸素の他に窒素からなります。
窒素は炭素循環で登場した水、二酸化炭素、酸素、グルコースには含まれていません。
光合成 6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6H2O + 6O2
大気中には気体の窒素が体積で8割ぐらいあります。
しかし、動物や植物はこの窒素を直接利用することはできません。
大気中の窒素はシアノバクテリアや根粒菌などの一部の生物がアンモニウムイオンに変えています。このアンモニウムイオンは土壌中に生息している硝化菌により、亜硝酸イオンや硝酸イオンのような無機窒素物に置き換えられます。
植物は無機窒素物を使ってアミノ酸などの有機窒素物を合成しており、これが食物網を通じて動物などの体に入ってきます。
動物や植物が死ぬと、アミノ酸などの有機窒素物が再び無機窒素物になり、一部は脱窒素細菌によって気体の窒素になります。農業や園芸では、化学的に合成された無機窒素物が肥料として使われます。
生物は炭素と窒素の他にリンも主要元素です(6番目、1%)。
リンは肥料の主要成分の1つです。リンは窒素と同様DNA、RNA、ATPのほか、脂質にも含まれ、タンパク質修飾にも使われます。
リンは、炭素や窒素と違い、大気中になく、生物から土壌を経由して植物へ循環しています。
リンは動物の糞便の他、生物の分解物に含まれ、そのリンや水溶性リン酸塩は植物が吸い上げてくれ、食物網に帰ります。
植物が吸い上げなかったリンは河床や海底などに堆積しており、これを人間が掘り出して利用しています。堆積したリンの一部は地殻変動などにより露出、溶出して、それを植物が吸い上げてくれます。
○呼吸、発酵、腐敗
呼吸と燃焼はよく似ています。両者とも、有機物と酸素により二酸化炭素と水が生じます。
燃焼では生じたエネルギーは熱として放出されますが、呼吸ではエネルギーはATPの形で蓄えられます。
発酵は呼吸と似ており、共に代謝により有機物からエネルギー物質を得ます。違うのは終わり方で、基本的には呼吸は無機物ができますが、発酵は基本的には有機物で止まっています。
呼吸と発酵の違いはミトコンドリアと酸素の有無で決まります。呼吸は細胞質でグルコースが代謝され、その生産物と酸素からミトコンドリアで起こります。
一方、酸素をつかわず、細胞質だけでグルコースからエネルギーを取り出す代謝があり、これを発酵と言います。
細菌などが関わる腐敗という現象があります。この腐っていく過程は、主に嫌気的な反応が起こっており、グルコースが出発物質の場合は、この腐敗過程は発酵と同じ反応が起こっています。
人間にとって都合の悪い物質ができる発酵を腐敗と言っているだけで、本質的な違いはありません。
○呼吸とATP合成
原核生物から真核生物への進化 ATP合成、エネルギー効率
ATP合成
ミトコンドリアを持つ真核生物 好気呼吸 38ATP
ミトコンドリアを持たない原核生物 発酵 2ATP
○農作業において耕すという行為
生態系には、光合成により無機物からエネルギー源となる有機物を合成する生産者、生産者が合成した有機物を消費する消費者、生産者や消費者を無機物にまで分解する分解者がおり、それぞれの生物がさまざまな物質を消費、生産してる。
光合成は太陽のエネルギーと二酸化炭素と水から、有機物であるグルコースと無機物の酸素が生じる過程である。消費者としての植物は自ら合成したグルコースをエネルギー源とし、呼吸によりエネルギー物質を作り、代謝に利用している。しかし、タンパク質やDNAなどの核酸の合成には水素、炭素、酸素以外に窒素やリンといった元素が必要である。両元素を含む栄養素は光合成からだけでは調達できず、土壌の分解者である土壌細菌などからも生じる。
野菜等の種をまく前に耕すという土壌の上下を反転させる行為は、農作物の収穫量や収穫物の質の向上に寄与する。なぜなら、耕すことは、植物である野菜の栄養素や水の保持力を上げ、生態系の中での物質の循環とエネルギーの流れを活性化させているからである。
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