バイオインフォマティクス 第5

 分子進化学の基礎 突然変異

 

資 料

講義で使うPPファイル(pdfファイル)

遺伝に関する用語解説(pdfファイル)印刷可

オーソログとパラログ(pdfファイル)印刷可

 

課 題

1.生物進化を遺伝子頻度の変化、自然選択などを使って、の集団単位で解説せよ。

2.個体の遺伝情報は世代を経て変化する。どのように変化するのか、具体例をあげて解説せよ。

3.分子系統樹作製に使う遺伝情報にはオーソログ遺伝子の塩基配列やそれから推定されるアミノ酸配列を使う。なぜか? 解説せよ。

 

 

講義項目

生物進化とは生物の形質が世代を経て変化し、それが継続していく現象

親世代 → 子世代

・親は生存可能な個体数以上の子を作る

・多数の子同士の遺伝情報はすべて異なる(突然変異)

・種内の遺伝子頻度が変化する(遺伝的浮動、遺伝子流動、隔離など)

・自然選択による適応進化

・進化論的に言えること

種に優劣はない  種内の個体差に優劣も意味もない  価値観=差別の根源

 

「突然変異」による多様性と進化

・個人の生殖細胞  遺伝 個体差 多様性

・ゲノム内でコピー 多様性

 コピー数多型  パラログ

・種内の多様性 個人差 1塩基多型

・種間の多様性 生物多様性 オーソログ

 

分子進化学の基礎

・突然変異

1塩基多型 遺伝子単位 染色体単位 染色体数異常

フレームシフト

・コピー数多型

対立遺伝子や遺伝子型に対する新しい考え方

・分子系統樹が書ける理由

・オーソログ遺伝子とパラログ遺伝子

 

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講義内容

塩基や遺伝子、あるいは染色体レベルでの多様性の例を紹介し、遺伝子のコピー数多型など、比較的新しい概念も解説します。

また、オーソログ、パラログといった遺伝情報を理解する上で基本となる概念を学びます。

 

進化について

一般社会でも「進化」がよく使われます。多くの場合、「進化」は複雑になったり、使いやすくなったり、性能が増したり、業績が上がったり、能力が増したりすることに使われます。

進化は進歩や成長と同義で使われることが多い。

生物進化にこれらの見出の意味を当てはめるとすると、進化は生物がより複雑になったり、機能が増したり、能力が増したりする意味になります。

生物の進化は、複雑さや能力の強弱や良い・悪いの違いを含むのでしょうか? 生物学は、進化をどう定義しているのでしょうか?

 

生物進化にはこれらの見出しのような意味を持っていません。

つまり、生物がより複雑になったり、機能が増したり、能力が増したりする意味で使うことはありません。

生物進化では、複雑さなどの基準や良い・悪いの価値観を抜きにして、変化する現象に使われます。

 

では、生物が形を変えたり機能を変えたりすることが進化でしょうか?

例えば、昆虫の変態は進化でしょうか?

 

「進化」の教科書的な説明はどうなっているのか?

生物進化は

「生物の形質が世代を経て変化し、それが継続していく現象」

とされています。

ここで重要なのは「世代を経て」という点。

昆虫の変態のように、ある個体の質が変化しても進化にはなりません。

あるプロ野球選手(生物)の技術・能力が増すことも進化ではありません。

ある人(生物)が癌になる(形質の変化)、勉強して賢くなる現象も進化ではありません。

では、

生物進化で、何が、どのように変化するのか?

何が、どのようにして世代を経て継続していくのか?

ゲノム 遺伝情報 遺伝子 などでどのように説明できるか?

 

生物進化と遺伝子頻度の変化・自然選択

生物は遺伝情報を変化させながらその時々の環境に適応し、多様な種に変化しました。生物進化は、ある遺伝子の頻度や生物集団での遺伝情報の頻度が変化し、その変化が子孫に伝えられる過程で起こります。生物進化には、遺伝的浮動、遺伝子流動、突然変異、自然選択など、いろんな要因があります。

個々の生物種にはゲノム(ヒトならヒトゲノム)があり、その中にそれぞれ固有の遺伝子群(ヒトなら2万数千種類)を持っています。

同一種内であってもゲノムの多様性(ヒトなら個人差)があり、遺伝子群の多様性もあります。

そのような多様性は遺伝情報の無作為な変異などで生じます(後述)。

生物が子孫を残すとき、程度の差こそあれ、必ず親とは異なるゲノムを伝えます。多様性の幅はその時々の環境要因に依存しています(個体レベル)。

遺伝子頻度は同一種の中で多様な遺伝子の組み合わせのことで、その遺伝子頻度は種内である程度一定しています(集団)。しかし、遺伝子頻度は遺伝情報が次世代に伝えられる過程で大きく変わることがあります。

 

遺伝的浮動

例えば、遺伝子頻度は集団が急激に小さくなったり、一部の集団が爆発的に増えたりすると、変化します。

他にも遺伝子頻度は断層などの地形の変化により、物理的に隔離が起きて変わる場合もあります。

このような遺伝子頻度の変化を遺伝的浮動と言います。

 

遺伝子流動

同一種で地域的に別の集団があった場合、ある集団が別の集団に一部の個体が侵入することで、侵入を受けた集団の遺伝子頻度が変わることもあります。これが遺伝子流動です。

 

進化は同一種内での遺伝子頻度が変化することであり、様々な要因で遺伝子頻度が大きく変わることで、新しい種の誕生に結びつくことがあります。遺伝子頻度の変化は無作為であり、環境や相互作用により、変動には幅があり、時間軸方向にも幅があります。

 

自然選択

生物進化は遺伝子頻度の変化だけでなく、自然選択も引き金になります。

生物進化は自然選択が必ずしも働くわけではなく、自然選択以外の要因による遺伝子頻度の変化だけでも起こりえます。

ある生物集団が子孫を残すとき、前述の通り必ず遺伝的情報が変化します。

様々な形質を持つ子孫が生育する過程で、その自然環境に適した形質を持つ個体が次の子孫を残す、というようにある生物集団は環境に適応した形質を持つ集団に結果的に変化していきます。

これが自然選択による適応進化です。

自然選択を引き起こす要因はたくさん見つかっています。これを選択圧といい、例えば、生態系における非生物的環境要因である気候や地形だけでなく、生態系における生物的要因である食物連鎖や種間の争い、種内の競争、配偶者による選択(性選択)などの個体群の相互作用や種間相互作用も選択圧となります。

子孫を残すこすことに有利な変異は、個々の適応が小さくても、世代を経るに従って集団に広まることがあります。

1個体に自然選択が働いただけでは進化せず、適応が種内に広がる必要があります。その過程で多くの遺伝子が関わりますが、時にはたった1つの遺伝子が適応で進化をもたらすこともあります。

 

遺伝子頻度の変化と自然選択

ここまでの話をざっくり言うなら、生物進化は遺伝的に多様な子を多数生み出し、遺伝子頻度が変わり、あるいは、自然選択により適応してさらなる子孫を残していく過程で起こります。

遺伝子頻度の変化の多くは偶然であり、環境に依存しており、何かの目的に向かって進化するわけではありません。

また、環境要因に対して有利になろうと思ってその方向に進化するわけではなく、多様な遺伝子頻度の中で、子孫を残し得た個体が遺伝情報を伝えているだけで、結果として環境に適応した個体が生き延びているわけです。

 

突然変異 遺伝情報の変化

同一種の中で突然変異によりある遺伝子の遺伝情報が変化し、その遺伝子を受けつぐ個体が生まれることにより、集団内での遺伝子頻度が変化することがあります。

生物進化の過程では遺伝情報やゲノムの観点から見ると、同一種を保ちながらも種内の多様性を生むと言う、相反する現象が同時に起こっています。自分と同じ生物種の子孫を残しながらも遺伝的には多様な子孫を残しています。親と子は似ていても親と子のゲノムは同一ではありません。

生物進化の原動力の1つが突然変異やその他の遺伝情報の多様性です。親と同じ遺伝情報を持った子孫しかできないのであれば、また、生きている過程で遺伝情報が変化しないのであれば、いつまでたっても同じ遺伝情報を持った個体群しかできません。

しかし、現実には、多様な生物種がいますし、同一種内でも個体差があります。大腸菌のような分裂で増える単細胞生物であっても、個体差はあり、親子で遺伝情報の多様性はあります。

 

生物の多様性や個体差が生じるわけ

では、遺伝情報の多様性にはどのような例があるのでしょうか? 遺伝情報の本体となる化学物質はDNAです。物質としてはこのDNAが主役になります。DNAはヌクレオチドの重合体です。遺伝情報とはDNAの塩基配列になります。

発癌物質やDNA複製の時の間違いなどで、部分的な塩基配列の間違いが生じます。遺伝情報の変化は点(1塩基)だけでなく、線(まとまった遺伝配列)でも起こります。これには染色体数が丸ごと変わったたり、DNAのある程度長い領域がまとまってコピーされたりする例があります。これらの変化は染色体数異常やコピー数多型と呼ばれています。以下、いくつかの例を紹介しましょう。

 

DNAと突然変異

DNAはヌクレオチドが連なった生体物質で、デオキシリボースとリン酸の主軸に塩基が突き出た構造をしています。化学物質ですから物理化学的な影響を受けます。DNAは紫外線などの放射線や種々の化学物質の影響を受けます。

DNAは化学的な影響として、塩基の部分がメチル化と言う修飾を受けたり、アミノ基が脱落したり、塩基部分が切れたりします。DNAが複製するとき、DNAの2本鎖が分離し、それぞれの鎖に相補的なヌクレオチドが運ばれてきて、新たな鎖が合成されます。

その時、間違ったヌクレオチドが使われたり、元の鎖が修飾されていて、本来とは違うヌクレオチドが選ばれたりすると、元とは違う塩基配列を持つDNAが合成されます。

元の鎖の塩基部分が脱落していると、相補鎖の合成はそこだけ飛ばされ、1塩基分短い鎖が合成されます。

2本鎖のDNAのうち、片方の鎖だけが修飾されていると、複製された2個のDNAのうち、1つは元と同じですが、もう1つは元と異なる塩基配列を持っており、後者のDNAを持つ細胞は以降の細胞分裂のたびに異なる塩基配列を持った細胞になります。

このような化学的な修飾や複製ミスは無作為に起こります。発癌性のある物質の中にはこのような間違いを誘発するものがあり、その物質の濃度が高いほど無作為な間違いを起こす頻度が高まります。細胞には間違ったことを感知して修復する仕組みが複数ありますが、その能力を超える間違いがあると、間違った部分が残ります。数十兆個ある細胞にそれぞれ30億塩基対の塩基配列があるため、どの細胞でも無作為な変異が起こっています。

多くの変異は細胞機能に影響を与えませんが、変異によっては細胞機能に不都合が生じたり有利に働いたりします。遺伝情報の変異は偶然起こり、目的に向かって変異するわけでも人間の意志によって変異が決まるわけでもありません。

 

染色体数異常 減数分裂時の染色体不分離

減数分裂の時、複製された染色体が娘細胞に分配されます。ヒトの場合、23種の染色体がそれぞれ2本ずつ、合計46本ある状態から、それぞれ1本ずつ、合計23本の染色体を持つ生殖細胞ができます。ところが、この減数分裂の過程で、染色体の不分離がおき、例えば第21染色体だけ分離しなかった場合、第21染色体を2本持つ細胞と持たない細胞に分かれます。第21染色体以外は1本ずつあります。

このような生殖細胞が受精に使われると、配偶者の生殖細胞の染色体数が正常であっても、特定の染色体のみが3本、あるいは1本の受精卵ができます。このような受精卵の胚発生が進んで誕生した場合、特定の染色体数のみが異常になります。

例えば、第21染色体が3本ある場合、ダウン症候群と言います。3本あることからトリソミーとも言います。ヒトのトリソミーには第18トリソミーと第13トリソミーがあります。いずれも出産年齢が高くなるほど出生確率が急激に上がります。この3種以外のトリソミーの可能性はありますが、妊娠が継続できないため、ほとんど生まれません。

このような染色体数異常は性染色体でも起こります。X染色体が1つとなった場合がターナー症候群といい、X染色体が3本以上の例やY染色体が2本以上の例など見つかっています。

トリソミーは妊娠中の母体の血液で診断することも可能です。胎児の細胞が母体の血液中にも雑じることから、母体から採血し、染色体の割合を調べることでトリソミー診断ができます。この場合、胎児と母親の両方の細胞が採取できますが、トリソミーになっていれば、正常な2対のみの染色体の場合と比べて、ある一定割合で高くなることから、そのわずかな違いから判定します。

 

コピー数多型

減数分裂の時、対になっている染色体間で交わり、組換えられます。ヒトの場合22対の常染色体と女性のX染色体間で少なくとも1カ所組換えが起こります。組換えが起こる場所や数は無作為です。男性の性染色体でもわずかに組換えが起こるようです。

通常、相同染色体にあるDNAの同じ領域で組換えが起こりますが、時にはずれることがあります。その場合、ある領域のみが2回繰り返したDNAと、その領域のみ欠けたDNAを持つ染色体ができます。仮にその領域にA遺伝子があったとすると、A遺伝子が直列に2つ連なったDNAとA遺伝子を持たないDNAを持った生殖細胞ができるわけです。

それぞれの生殖細胞が受精に使われると、配偶者の生殖細胞の染色体がすべて正常に組換えて、染色体不分離が起こっていなくても、A遺伝子を3つ持つ子と1つしか持たない子が産まれるわけです。

メンデルの遺伝学では、二倍体生物はすべての遺伝子は2つ(母方由来と父方由来)あるとの前提で成り立っています。ところが、特定の遺伝子のみ3つであったり1つであったりします。このような例をコピー数多型と言います。コピーというのは紙のコピーのような複製のイメージではなく、1コピー、2コピーと数のイメージを持つと理解しやすいです。

コピー数多型は1細胞当たりのコピー数が個体間で異なるゲノム領域のことで、通常1000塩基対以上の長さを持ちます。詳しく調べてみると、コピー数多型の領域がゲノムの中に相当数散らばっていることがわかり、一説によると1500カ所近くありゲノムの12%も覆っているそうです。

一部の病気では、ある特定領域のコピー数多型が原因ではないかと疑われています。つまり、塩基配列の変異からくる異なった機能をもつタンパク質の合成が起因ではなく、おそらく同一遺伝子の数が変わることによる遺伝子の発現量の違いが原因となる病気です。

つまり、ある特定のタンパク質量が普通より多かったり少なかったりするわけです。先に見た染色体数の違いで言うと、トリソミーは該当する染色体の遺伝子数は3コピー、モノソミーなら1コピーとなります(もちろんこの染色体にコピー数多型がない場合です)。

 

オーソログ遺伝子とパラログ遺伝子

配列のホモロジーから類推

進化的に共通祖先をもつ遺伝子として

○オーソログ(Ortholog

 異種内で相同配列をもつ遺伝子

 種分岐によって、共通起源の遺伝子の関係

 同一の機能を持つ場合が多い

 

○パラログ(Paralog

 同一種内で相同配列をもつ遺伝子群

 同一種内での遺伝子重複などで生じる

 その後突然変異等で変異

 

分子系統樹から進化を考察する場合、オーソログ遺伝子を使って解析する必要があります。

 

地球上の生物の共通性と多様性

すべての生物は共通の祖先から進化して誕生したことはかなりの確度で確かであり、そう言う意味で、現存するすべての生物は進化のなれの果てと言えます。

なれの果てと言うのが気に入らないなら、すべての現生生物は生物進化の頂点にいると言い換えてもいいでしょう。ここで気をつけないといけないのは、「現存するすべての」生物が進化の頂点にいるのであって、例えば人間が高等生物で、大腸菌が下等生物と言うわけではない点です。

もし生物種に高等・下等や優劣があると言うなら、それは人間の都合で勝手に決めた価値観に過ぎません。

同じように生物に対して単純、複雑と言う階層付けや比較もあまり意味がありません。単細胞生物の大腸菌であっても、必要な生体物質は自ら作り出し、十分に「複雑な」働きを持っています。

また、現存するすべての生物は進化のなれの果てとはいっても、進化の頂点を極めたわけでありません。

現存するすべての生物は進化の途上にいて、これからも進化し続けていきます。いくつかの種はそのうち絶滅するでしょう。

 

次回の講義

次回はこれまでの課題の見直しをします。

演習マニュアルを参考に、オーソログ遺伝子の取得、データベースとの相同性検索、多重配列比較・マルチプルアライメント、分子系統樹等について解説し、演習内容を確認します。

 

 

説明: 説明: 説明: 説明: hr-green

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