同様の記述が「やさしいバイオテクノロジー」(サイエンス・アイ新書)に書いてあります。

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 2−3. 翻訳とタンパク質

 

○アミノ酸とタンパク質

 

タンパク質はアミノ酸のポリマーである。

 

地球上のすべての生物を構成するタンパク質中のアミノ酸は、すべての生物で共通で20種類に限られる。

##実は、他の科学分野と同様、ここでも例外がある。

##21番目、22番目のアミノ酸が見つかっているが、煩雑になるので、ここでは述べない。

 

大腸菌などの細菌類では、すべてのアミノ酸を代謝により他の化合物から生合成する能力を持っている。

ヒトは20種のアミノ酸のうち、自身で生合成できるのは12種のみで、残り8種類は必ず食料などから摂取する必要がある。

この8種のアミノ酸を必須アミノ酸という。腸内細菌などの死骸から補うこともできる。

 

摂取したタンパク質はタンパク質分解酵素によりアミノ酸にまで分解され、タンパク質合成に再利用されたり代謝に使われたりする。

 

 

 

○アミノ酸の構造

 

アミノ酸の中心の炭素原子には、水素、アミノ基、カルボキシル基、そして、各アミノ酸に特異的な側鎖が結合している。側鎖の構造の違いにより20種類のアミノ酸ができる。

 

側鎖が水素であるグリシン以外、アミノ酸の中心の炭素は不斉炭素であり、L型とD型の2種の光学異性体が存在する。

そのうちタンパク質の合成に使われるアミノ酸はすべてL型である。

 

何度も取りあげているように、タンパク質に含まれるアミノ酸が20種類であって、生体に含まれるアミノ酸が20種類というわけではない。

生体に含まれるアミノ酸の正確な数はわかっていない。

また、タンパク質合成に使われるアミノ酸がすべてL型なのであって、D型のアミノ酸を持つ生物がないわけではない。現に原核生物の細胞壁にあるペプチドグリカンにはD-アラニンが含まれる。

 

 

アミノ酸はその側鎖の性質によって分類される。

中性で疎水性、中性で極性、塩基性、酸性を示すグループがある。

 

アミノ酸の表記は通常アルファベット3文字で表すが、煩雑なため、1文字で表記することも多い。

このWebで記載するアミノ酸配列はすべて1文字表記を採用する。

アミノ酸の1文字表記の記載が教科書にはないので以下に記す。

 

A Ala アラニン

C Cys システイン

D Asp アスパラギン酸

E Glu グルタミン酸

F Phe フェニールアラニン

G Gly グリシン

H His ヒスチジン

I Ile イソロイシン

K Lys リジン

L Leu ロイシン

M Met メチオニン

N Asn アスパラギン

P Pro プロリン

Q Gln グルタミン

R Arg アルギニン

S Ser セリン

T Thr トレオニン

V Val バリン

W Trp トリプトファン

Y Tyr チロシン

B Asp + Asn

Z Glu + Gln

X 不明

 

使わない文字

J  Iと似ている

O  ゼロと似ている

U  Vと似ている

 

 

 

○タンパク質の構造

 

タンパク質はアミノ酸がペプチド結合により重合したポリペプチドである。

ペプチド結合はアミノ酸のカルボキシル基と別のアミノ酸のアミノ基から形成される。水分子が外れる。

タンパク質はアミノ酸残基で百個から数千個の重合したポリマーである。

そのアミノ酸の並び方は遺伝子の情報として書かれてある。

 

合成されたポリペプチドの一端は遊離のアミノ基であり、もう一方は遊離のカルボキシル基である。

遊離のアミノ基のあるほうをアミノ末端(N末端)、遊離のカルボキシル基のあるほうをカルボキシル末端(C末端)と呼ぶ。

合成直後のタンパク質には分岐構造はない。

タンパク質のアミノ酸配列は、習慣としてN末端からC末端の方向に左から右に書く。

この方向は後に述べる翻訳過程で合成されるタンパク質の方向と同じであり、さらに転写過程で合成されるmRNAの5’から3’の方向と同じである。

また、二本鎖DNAの上段の塩基配列も同じ方向である。

 

たとえば、アラニン(A)とグリシン(G)のジペプチドで、AGGAは異なる化合物である。

        AG: NH2-A-G-COOH

        GA: NH2-G-A-COOH

 

 

タンパク質の高次構造

一次構造

アミノ酸配列。遺伝子の塩基配列により規定されている。

二次構造

一次構造によりほぼ規定されるおりたたまり方。らせん構造のαヘリックス、ひだ状構造のβシートなどがある。

三次構造

三次元的な立体配置。アミノ酸側鎖だけでなくすべての原子の配置も含む。その構造は一意には決まらないこともあるが、熱力学的に最も安定な構造ととることが多い。

四次構造

複数のポリペプチドが集まって、タンパク質としてある機能を持つ場合がある。そのときの多量体間の空間配置。

 

 

 

○タンパク質の種類

 

タンパク質を構成するアミノ酸配列により、ある特異的な立体構造をとり、その立体構造すなわちアミノ酸側鎖の立体的な配置からから種々の機能を発揮する。

タンパク質の名前と働きなどは教科書等を参照のこと。

 

親から子へ伝えられる遺伝情報には遺伝子の塩基配列がある。

この遺伝子の情報にはタンパク質のアミノ酸配列が書いてある。

結局親から子へ伝えられる情報はタンパク質のアミノ酸配列である。

この情報によってタンパク質が作られ、タンパク質の働きにより生命活動が行われる。

しかし、タンパク質の塊だけで生命ができるのではない。

 

タンパク質が遺伝子から合成される過程で別の調節タンパク質が働いたり、生命に必要な化学物質を代謝反応で合成するときの触媒として働いたりする。

また、多細胞生物であれば、しかるべき臓器にはその臓器に特異的に必要なタンパク質が合成されたり、細胞内でもしかるべき場所に配置されたりすることで、複雑なネットワークを形成し、その結果生命のホメオスタシスが保たれている。

 

 

 

○遺伝情報からタンパク質の作られかたの概要

 

転写と翻訳過程によりタンパク質が構成される。

転写と翻訳には3種のRNAが関与する。

転写はDNAの遺伝子領域からRNAが合成される過程である。核内で起こる。

翻訳にリボソームRNA(rRNA)とトランスファーRNA(tRNA)が関与する。

翻訳は細胞質にあるリボソームで始まる。

リボソームはrRNAと複数のリボソームタンパク質からなる粒子である。膜構造はない。

翻訳過程でtRNAがアミノ酸を運んでくる。

リボソーム上で、mRNAのコドンの情報が読み取られ、対応するtRNAのアミノ酸が重合することでタンパク質が合成される。

翻訳の開始は必ずAUG開始コドンから始まり、メチオニンからタンパク質合成が始まる。

翻訳はUAA、UAG、UGAの3種のうちのいずれかの終始コドンで終わる。

 

 

 

○遺伝暗号 コドン

 

遺伝子の塩基配列からどのようにしてアミノ酸に翻訳されるかは1960年代に一気に解決された。

塩基は4種類、アミノ酸は20種類ある。

DNAは塩基が直線的に並んでいるだけである。

この一次元的でかつ句読点となる特殊な構造のない単なる塩基の配列から、どのようにしてアミノ酸配列を指令しているのであろうか。

 

その解読の鍵になるのがコドンである。

塩基は4種類である。1塩基からは4種の情報しか作れない。2塩基でも4の2乗の16通りの情報しか作れない。

アミノ酸は20種類あるので、2塩基情報では足りない。

したがって、少なくとも3塩基必要になる。3塩基では4の3乗通りの64通りの情報が作れる。

実際に3個の塩基で情報が作られている。これをコドンという。

教科書にコドン表がのっている。

UUUがフェニールアラニン、というように、3個の塩基の順列、すなわちコドンがどのアミノ酸に対応しているかがすべて解明されている。

 

 

 

○転写 mRNA合成

 

ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなる。その中には2万数千種類の遺伝子があると考えられている。ヒトのからだは約60兆個の細胞からなり、その細胞は形態の面でも機能の面でも多様である。

 

これら多様な細胞内の核には全て同じゲノムを持つ(一部例外あり)。

すなわち、全ての細胞に同じ遺伝子セットがあるが、全ての細胞で同じ遺伝子が発現しているのではなく、必要な細胞が必要なときにのみ転写・翻訳してタンパク質を合成する。

多様な細胞の形態や機能は、このように必要な遺伝子のみ発現していることからなる。

 

ゲノムは、転写・翻訳されてタンパク質のアミノ酸配列をコードしている領域、すなわち遺伝子とそれ以外の領域からなる。

遺伝子以外の領域すなわち遺伝子間領域は非常に長い。これらの領域の機能は全て解明されているわけではないが、少なくとも遺伝子の直前と直後の領域に関しては詳しく調べられている。

 

常時必要なタンパク質は、つねに転写・翻訳がおこなわれて、新規タンパク質が作られている。

しかし多くの遺伝子は普段不活性であり、転写・翻訳はおこなわれていない場合が多い。

細胞増殖や分化などを引き起こすための刺激(ホルモン、化学物質、各種ストレスなど)により、タンパク質が必要になると、必要な遺伝子の転写が開始される。

遺伝子の上流(5’末端側)にはプロモータと呼ばれる調節領域があり、プロモータの活性化に伴って転写が開始される。

 

転写産物のmRNAは核外に出て、リボソーム上で翻訳されてタンパク質が合成される。

mRNAは非常に不安定で、翻訳が終わると、ただちに分解され、不必要な翻訳は行われない。

 

真核生物の場合、ほとんどの遺伝子は分断されている。

ある遺伝子のプロモータが活性化されて遺伝子がmRNAに転写後、分断された遺伝子の再構築が行われる。

遺伝子にはエキソンとイントロンと呼ばれる領域が交互に存在し、再構築のとき、イントロンが除去されてエキソンのみ残る。

すなわち、アミノ酸配列をコードしているのはエキソン領域である。

 

この再構築のことをスプライシングという。

ひとつの遺伝子でスプライシングされる様式が1通りのみとは限らず、複数のスプライシングが起こることにより(選択的スプライシング)、ひとつの遺伝子から複数のタンパク質が合成されることもある。

このようにして成熟したmRNAがまず合成される。

 

プロモータに結合して転写をコントロールする因子、遺伝子のDNAを鋳型にmRNAを合成する酵素群、スプライシングをコントロールする因子など、転写(翻訳も)にかかわる因子は全てタンパク質である。

すなわち、遺伝子から合成されるものはタンパク質のみであり、そのタンパク質の合成に多くのタンパク質因子が関与している。

したがって、通常増殖などの刺激があった場合、先ず転写因子の発現が高まり急いで転写因子を合成し、ついで、その因子の助けを借りて、他の増殖関連タンパク質の発現が高まる。

このように、刺激によって、眠っていた遺伝子が一様に活性化されるのではなく、カスケード的に発現がコントロールされている。

 

転写は核内で起こる。ゲノムのDNAは核内にとどまっている。ゲノム上の活性化されて遺伝子から転写されたmRNAは、核の孔を通り抜けて細胞質に出る。細胞質にはリボソームがあり、ここが翻訳の場である。核孔を通り抜けたmRNAはこのリボソームに到達すると翻訳が始まる。

 

このように、遺伝子の本体は核の中にじっとしていて、タンパク質が必要になったときその必要な遺伝子のプロモータが活性化され、核内で転写されてmRNAが合成される。このmRNAが文字どおりメッセンジャーになって細胞質のタンパク質合成工場であるリボソームへ行く。

そして、そこでそのメッセージがコドン表により解読されてタンパク質が合成される。不必要になったmRNAは、直ちに分解される。

 

mRNAの他に、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)も核内で転写される。

 

いずれのRNAも2本鎖DNAの一方の鎖を鋳型にして、RNAポリメラーゼという酵素の助けをかりて、5’−>3’方向に合成される。

いずれのRNAも1本鎖である。転写に際して、Aに対する相補鎖はTではなくUが使われる。

 

RNAの構造はDNAとよく似ている。DNAとRNAのちがいは、ヌクレオチドにデオキシリボースではなくリボースが使われている点、2本鎖ではなく1本鎖である点、それにチミンではなくウラシルが使われている点などである。

 

転写されたRNAは種々の修飾を受けながら、核孔を通り抜けて細胞質にいたる。mRNAは上述の通りリボソームに行く。rRNAはリボソームタンパク質とともにリボソームの構成成分になる。tRNAはそれぞれ特異的なアミノ酸を1個結合させて、リボソームのまわりで待機している。

 

 

 

○ 翻訳 タンパク質合成

 

核内で合成されたmRNAは、細胞質のリボソーム上で翻訳され、タンパク質が合成される。

リボソームは細胞質や小胞体膜の表面にある。

リボソームはリボソームタンパク質とリボソームRNA(rRNA)からなる粒子である。このリボソームにmRNAが結合して、翻訳が始まる。

翻訳はコドン表に従って、転移RNA(tRNA)の助けで行われる。

 

tRNAはクローバ葉型の二次構造を持っていて、末端に1個のアミノ酸をつけている。

このアミノ酸が結合している部位から一番離れた領域にアンチコドンと呼ばれる場所がある。tRNAにはこのアンチコドンに対応したアミノ酸がひとつ結合している。

 

リボソームに結合したmRNAは3塩基単位で解読されて、その塩基配列がアミノ酸配列に読みとられて、アミノ酸のポリマー・タンパク質が合成される。

 

まず、翻訳の開始のメッセージであるAUGが解読される。

このAUGというコドンのアンチコドン、すなわちコドンと相補的な配列を持ったtRNAが近づいてくる。

このtRNAにはメチオニンが結合している。

メチオニンtRNAのアンチコドンと、解読されるmRNAのAUGが相補鎖どうし結合(アニーリング)し、水素結合が形成され、安定化する。

その状態で、リボソームとmRNA・tRNA複合体が3塩基分ずれる。

新たに生じたmRNA上のコドンに相補的な配列(アンチコドン)を持ったtRNAが結合する。

このtRNAがもつアミノ酸と先のメチオニンがペプチド結合により結合する。この結合反応にはリボソームを構成する因子が触媒している。

 

以上を繰り返すことにより、mRNAのコドンが次々に読みとられてアミノ酸のポリマー・タンパク質が合成されることになる。

コドンには重なりや隙間もない。連続したコドンが順に読まれていく。

 

コドンのうち、UAA、UAG、およびUGAの3種は終止コドンと呼ばれている。

このコドンに対応するアンチコドンを持ったtRNAは存在しない。

終止コドンにはtRNAのかわりにあるタンパク質が結合する。このタンパク質は最後のtRNAについたポリペプチドを切り離す酵素活性を持っている。

したがって、この3つのコドンのうちいずれかが来ると、そこで翻訳は終わり、合成されたポリペプチドはリボソームから完全に離れる。

mRNAもリボソームから離れ、分解される。

 

このように、核で作られたmRNAは細胞質にあるリボソームによって翻訳に使われる。

リボソーム上で合成されつつあるタンパク質は、その一部のアミノ酸配列によって、細胞内のどこに配置されるか決定されている。

 

たとえば、小胞体へのシグナルペプチドを持っていれば、mRNAの結合したリボソームは小胞体と結合し、シグナルペプチド(疎水性アミノ酸の割合がかなり高い)の力で合成されつつあるタンパク質は小胞体膜を通過して小胞体の中にはいる。このように小胞体膜に結合することによってのみタンパク質は小胞体の中にはいることができる。タンパク質が合成された後小胞体の中にはいるのはまれである。

 

合成の終わったタンパク質は小胞体の中で種々の修飾が行われる。

例えば、糖鎖が結合したり、アセチル化、メチル化、プレニル化、部分切断などと、それぞれタンパク質に特異的な修飾が行われる。

このタンパク質の修飾を担当するのもタンパク質である。これら修飾は小胞体だけでなく、その後通るゴルジ体の中でも起こる。

 

小胞体へのシグナルペプチドを持たないものは、細胞質内に遊離した状態のリボソームで翻訳がおこなわれる。

細胞内小器官への輸送シグナルをもつものは、いったん合成されたタンパク質が細胞質に遊離した後、そのシグナルによってミトコンドリア、葉緑体、核、ペルオキシソームなどに入っていく。

 

輸送シグナルを持たないものは、合成されたタンパク質は細胞質に放出される。すなわち細胞内の可溶性のタンパク質になる。

 

こうして、ゲノムの遺伝子から転写・翻訳されたポリペプチドは、それぞれの機能・構造を持ったタンパク質になり、それぞれの役割の場に運ばれていって機能する。

 

ミトコンドリア、葉緑体の中にはミトコンドリアDNA、葉緑体DNAがあり、それぞれ独自に転写・翻訳するシステムを持っている。そのため、ミトコンドリア、葉緑体では核ゲノムとは独立してタンパク質合成が行われている。

このようにミトコンドリア、葉緑体を構成するタンパク質はそれぞれのゲノムに含まれる遺伝子由来のタンパク質を持つが、それだけではミトコンドリアや葉緑体を構成するのは不充分で、核ゲノムの遺伝子由来のタンパク質も使われる。

 

 

 

○コドンとtRNA

 

教科書などにコドン表が載っている。

64通りのコドンをコンパクトに表すために工夫してある。

教科書のようなコドン表は、コドンからアミノ酸を探したり、コドン表全体を眺めて思案したりするのに向いている。

逆にアミノ酸からコドンを探したり、アミノ酸配列から塩基配列を推定したりするときには不向きである。

そこで、以下にアミノ酸に対応するコドンの一覧を示した。

 

A Ala   GCU GCG GCC GCA

C Cys   UGU UGC

D Asp   GAU GAC

E Glu     GAG GAA

F Phe   UUU UUC

G Gly   GGU GGG GGC GGA

H His   CAU CAC

I Ile   AUU AUC AUA

K Lys   AAG AAA

L Leu   CUU CUG CUC CUA UUG UUA

M Met   AUG

N Asn     AAU AAC

P Pro   CCU CCG CCC CCA

Q Gln   CAG CAA

R Arg   CGU CGG CGC CGA AGG AGA

S Ser     UCU UCG UCC UCA AGU AGC

T Thr   ACU ACG ACC ACA

V Val   GUU GUG GUC GUA

W Trp     UGG

Y Tyr   UAU UAC

終止    UGA UAG UAA

 

一見してわかるように、メチオニンとトリプトファン以外のアミノ酸には複数のコドンがある。

2つのコドンを持つアミノ酸は9種で、いずれも最初の2塩基分は共通で3塩基目が U C または G A のいずれかである。

3つのコドンを持つアミノ酸はイソロイシンだけである。これも最初の2塩基分は共通である。

4つのコドンを持つアミノ酸は5種で、いずれも最初の2塩基分は共通で3塩基目が4つの塩基である。

6つのコドンを持つアミノ酸は3種ある。上記で見た2つのコドンを持つ場合と4つのコドンを持つ場合を合わせたコドンを持つ。

 

アミノ酸に対応するtRNAの種類はちょっと複雑である。

ひとつのtRNAに結合できるアミノ酸はひとつだけである。

複数のコドンを持つアミノ酸に2種類以上のtRNAをもつ場合もあるし、コドンのはじめの2塩基分だけを認識するがコドンの3塩基目は識別しないtRNAもある。後者の場合、いわゆる「ゆらぎ」の原因である。

20種類のアミノ酸に対応するコドンは61個ある。コドンとtRNAが1:1で対応しているなら、tRNAは61個必要になる。

ゆらぎに対応するアミノ酸は8種ある。

いずれの場合もゆらぎに対応するtRNAが1種だけですむなら、必要なtRNAの数は8x3個減って37個になる。

実際には生物種によってゲノムに書かれているtRNAの数はさまざまで、ヒトの場合なんと497種類あることがわかっている。

tRNAは多数あるが、その中のアンチコドンの種類は48種である。tRNAは80塩基前後で構成されている。

 

 

 

○番外:遺伝コードの例外

 

教科書に載っている遺伝コード(コドン表)は原生単細胞生物からヒトにいたるまで普遍的なものと考えられていたが、以下のような若干の例外があることがわかっている。

##おなじみの科学の進歩と例外

 

このような例外は、遺伝コードの起源・進化を考える上で、非常に興味深い。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

普遍コードのコドン      変化                          ミドコンドリア

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

UGA     終止            Trp     マイコプラズマ          植物以外は全部

 

AUA     Ile             Met                             酵母

棘皮動物を除く後生動物

 

AGA     Arg             Ser                             脊椎動物を除く後生動物

AGG     Arg             終止                            脊椎動物

 

AAA     Lys             Asn                             扁形動物、棘皮動物

 

UAA     終止            Gln     カサノリ

UAG     終止            Gln     繊毛虫(Euplotesを除く)

 

UGA     終止            Cys     Euplotes octacarinatus

 

CUN     Leu             Thr                             酵母

CUG     Leu             Ser     Candida cylindracea

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

この表のように、終止・開始コドン付近での普遍コードとのちがいが見られる。特に、ミトコンドリアにおいて、独自の変異が見られる。ミトコンドリアのコードする遺伝子の数は約10種類と少ない(核の遺伝子は約2万数千種類)。

 

3つの終止コドンを除く61個のコドン全てを認識するのに何種類のtRNAが必要だろうか?

各コドンファミリーに対しては少なくとも2種類のtRNAが、コドンペアまたは単一コドンに対しては1種類のtRNAが必要である。

このことから、最低31種のtRNA(開始tRNAは除く)が必要になることがわかる。

しかし、実際に、哺乳類のミトコンドリアでは22種の異なるtRNAしか存在しない。

ミトコンドリアは原核生物が共生によってできたと考えられているが、その後の進化の過程でミトコンドリアゲノムはかなりスリム化されていることになる。

 

 

 

○組換えDNA実験

 

地球上に存在するすべての生物に共通の項目はたくさんある。

遺伝子の本体はすべてDNAである(生物でないウイルスにはRNAゲノムのものもある)。

DNAを構成する塩基はすべてアデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種である。

RNAを構成する塩基はすべてアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルである。

タンパク質を構成するアミノ酸はすべてL型で、20種類である。

mRNAからタンパク質に翻訳するとき、すべての生物のすべての遺伝子はAUGコドンからはじまり、3種の終止コドンで終わる。

この4種のコドンを含む64種のコドンとアミノ酸との対応は基本的にはすべての生物で共通である。

 

これらの共通の項目から、例えばヒトインスリンタンパク質を大腸菌に作らせることができる。

すなわち、ヒトインスリンタンパク質をコードするヒトインスリン遺伝子をヒトゲノムから切り出し、この遺伝子DNAを大腸菌ゲノムに組み込む。すると、大腸菌の転写・翻訳システムにより、ヒトインスリン遺伝子が読まれ、大腸菌がヒトインスリンタンパク質をつくる。

DNAの構成成分も、タンパク質の構成成分も、コドン表もヒトと大腸菌で共通だからこのような技が可能になる。

これが組換えDNA技術である。

実際にはある遺伝子DNAを裸のまま受け渡しすることは難しいため、運び役としてベクターを使う。

 

基本的には地球上のどんな生物でも、そのゲノムのある遺伝子を取り出すことができれば、その遺伝子をすべての生物に組み込むことができる。

 

 

 

○ヒトゲノムの「解読」

 

ヒトのゲノムを構成しているDNAの塩基配列を全部読んでしまうという、たとえ20年程前であっても無謀ともいえる壮大な計画が実行された。

いわゆるヒトゲノム計画である。

2001年2月15日、ヒトゲノムの概要版がNatureに発表された。

 

さらに2003年4月14日には、ほぼ読み終えたとして、詳細版が発表された。

ワトソン・クリックのDNA二重らせん構造の発見からちょうど50年後のことである。

アメリカ、イギリス、日本の大統領や首相が発表の記者会見に応じるなど、国際的なプロジェクトの成果が誇らしげに披露された。

論文は2004年10月にNature誌上で発表された。

 

INTERNATIONAL HUMAN GENOME SEQUENCING CONSORTIUM,

Finishing the euchromatic sequence of the human genome.

Nature 431, 931 - 945 (21 October 2004)

 

マスコミなどを通じて、一般にはヒトゲノムが「解読」されたといっているが、わかったのはヒトゲノムを構成するDNAの塩基配列が読まれ、遺伝子領域などが解析されただけである。

しかも、完全に読めた染色体はその時点では21番、22番など比較的短い染色体だけで、まだ多くの染色体のDNAは大雑把な配列しか読まれていなかった。

すべての染色体の塩基配列が読み終わったのは2006年5月18日である。最後に残った染色体は一番長い1番であった。

  Human Genome CollectionNature誌)

 

塩基配列がすべて読まれたからといって、遺伝子領域がすべてわかったわけではない。

遺伝子と思われる領域がわかったとしても、細胞の種類や細胞周期などごとにどのように遺伝子が発現しているのかなど、発現システムの解明はまだわずかしかわかっていない。

遺伝子の翻訳産物であるタンパク質の働きまでわかっているのはまだ半分もない。

さらにタンパク質どうしの複雑なネットワークになるとまだまだ解明途上である。

 

1990年代半ばに「解読」された大腸菌でさえ、いまだに遺伝子の全体像すらつかめていない。

ゲノム「解読」という言葉を使い始めたのは素人であろうか?

「解読」という言葉には違和感がある。

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

2007221() 更新

 

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