同様の記述が「やさしいバイオテクノロジー」(サイエンス・アイ新書)に書いてあります。

見やすいイラスト入りでわかりやすいです。参考にしてください。

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 2−7.遺伝子と病気

 

 

○突然変異 進化の原動力

 

 分子生物学の基本概念の説明が終わったところで、ちょっと進化や病気のDNAレベルでの側面をみてみましょう。

まず進化から。

 

 進化の原動力になっているのは「突然変異」です。

突然変異源として、放射線やタバコに含まれる化学物質などの多くの要因があります。

突然変異を起こした個体が突然変異体です。

 

 突然変異には染色体レベル、遺伝子レベル、塩基レベルなどに分類できます。

染色体レベルでは、1本の染色体内で、欠失、逆位、重複、転座などの例があり、これは染色体間でも起こりえます。

また、染色体丸ごとが欠失したり重複したりすることもあります。

 

 一方、遺伝子レベルの突然変異では、DNAの塩基配列の変化をともないます。

1塩基置換や欠失、挿入などの例があります。

遺伝子レベルの突然変異は放射線や化学物質などによる外的要因やDNA複製のミスなど内的要因によっても起こります。

 

 一般に突然変異によるDNAに傷がつくのはランダムです。

真核生物の場合、ゲノムのうち遺伝子の領域は数%しかなく、しかもすべての変異がアミノ酸配列の変化やタンパク質の構造や機能に変化を与えるとは限りません。

原核生物の場合、ゲノムのほとんどの領域が遺伝子のため、突然変異の影響はかなり大きくなります。

遺伝子領域に1塩基欠失や挿入が起こると、それ以降のコドンの読み枠がずれるため(「フレームシフト」といいます)翻訳されるアミノ酸がかわり、タンパク質の構造に大きな影響を与えます。

 

 動植物の場合、突然変異の影響が生殖細胞系列にまでおよんだ場合は、子孫に影響が出ます。生存にとって有利な変異は進化の原動力になります。

 

 

 

 

○突然変異 遺伝子の変異が関係する病気

 

 次にDNA・遺伝子と病気との関係について簡単に見てみましょう。

変異原により体細胞に突然変異が起こった場合、その個体の機能に変化が見られることがあります。

多くの場合、遺伝子の塩基配列の変異によって、生じるタンパク質の変化は、好ましくない方向に働きます。

まれに、生存にとって有利な場合もありますが、タンパク質レベルで機能を失ったり別の働きをしたりすることにより、好ましくない形質に発現する場合があります。

 

 日常接する変異原としては、タバコが最大です。

タバコを吸うと必ず肺癌になるというわけではありません。

肺癌などの発癌に関与する遺伝子はたくさんあります。

タバコを吸ったり副流煙の紫煙をあびたりすることにより、肺組織などの細胞が変異原に接する機会が増えることから、変異のおこる確率が高くなります。実際、タバコによりDNAのキズは増えています。

 

 このようなキズが必ずしも癌に直結するわけではありませんが、結果的に癌などの病気に結びつく遺伝子のキズがおこる機会が増えることになります。

変異原によってDNAにあたえる変異の度合いを定量的に調べることができます。

この方法により、たとえば発癌性のリスクなどが評価されます。

 

 たとえば、一般に残留農薬や食品添加物を敵視する人もいます。

しかし、タバコやその副流煙、食品となっている植物自身の持つ発癌物質による発癌性の方がはるかに強いことがわかっています。

 

 突然変異とよく似た用語に奇形というのがあります。

これは、遺伝子の変化はなく、発生の過程でなんらかの間違いが生じた結果生まれたものであり、突然変異とは区別しています。

 

 

 

 

○タバコの害 なぜ未成年はタバコを吸ってはいけないのか

 

 タバコの害は多方面にわたっています。

まず、突然変異源としての機能で、日常接している最大の変異原はタバコです。

タバコは数多くの有害物質を含んでいます。

年間約30万人の日本人が癌で亡くなります。その癌の原因の実に30%がタバコです。

発癌原因の残りは食品が3割、ウイルス(性病を含む)などが2割、残りは自然放射線や職業病などです。

食品添加物や農薬は両者を併せても1%程度であり、ほとんど無視できるレベルです。

タバコを排除するだけで、発癌のリスクを大幅に低くすることができます。

食品から発癌物質を排除するのは困難であり、食品を食べないようにすることはできないため、食品由来の発癌のリスクは減らすことは難しい(遺伝子組換え技術で野菜や果物由来の発癌物質を減らすことは可能)。

 

 タバコには、発癌物質だけでなく、カレー事件で有名なヒ素も含まれています。

ダイオキシンも所沢の汚染ホウレンソウ以上に含まれています。

タバコの害はいろいろありますが、そのなかでも中毒性を持つというのが大きい。

麻薬などと同じようなメカニズムで、タバコも中毒症状を示します。

 

 タバコが中毒性を持つのは、あるレセプタータンパク質の機能をタバコの成分が攪乱するためです。

その仕組みを説明しましょう。

タバコに含まれるニコチンはタバコを一服してから10秒以内に脳に達する。

喫煙者の脳波を見るとニコチンによる影響がすぐに現れ、脳波の非同期化が起こっているのが確認できます。

この状態は、リラックスしていない状態を示しています。

ニコチンは神経伝達物質のアセチルコリンのレセプターに結合します。

この結合は本来の相互作用ではなく、ニセの作用です。

その結果、ニコチンはアセチルコリンとアセチルコリンレセプター間の正常な働きを妨害してしまいます。

タバコ由来のニコチンによるアセチルコリンレセプターに対する刺激の量がアセチルコリンの場合よりはるかに多い。

そのため、アセチルコリンレセプターに過大な刺激が繰り返されることになり、脳の機能に長期的な影響を及ぼすことになります。

アセチルコリンレセプターに通常与える刺激よりも大量の刺激を与えると、レセプターの刺激に対する反応はどんどん鈍くなっていきます。

その結果、その標的のニューロンがニコチンの濃度が不自然に高い状態になれてしまい、次第に習慣性を帯びてくるようになります。

アセチルコリンの正常な量では機能しなくなり、薬物によって異常な量の刺激を必要とするようになります。

 

これが中毒です。

 

 タバコを食べると死にます。

タバコを食べる人などいないと思うかも知れませんが、何でも口の中に入れたがる赤ちゃんは手当たり次第に飲み込んでしまいます。

赤ちゃんの場合、タバコ1本で死にいたることがあります。

万一、飲み込んだ場合必ず吐かせる必要があります。

水や牛乳を飲ますのはよくありません。

水分を与えると、タバコからニコチンが溶けだし、体内に吸収されるのを促進してしまうからです。

そして、必ず病院へつれていく必要があります。

そこで胃洗浄が行われます。これは精神的にも肉体的にも非常につらい治療です。

タバコ誤飲事故については「家庭用品に係る健康被害病院モニター報告」として公表されています。

 

 

 

○タバコパッケージの警告表示

 

 何度も書きますが、日常接する物質の中で最強の変異原はタバコです。

しかし、日本のタバコパッケージには、警告表示として、19907月より

 

「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう。」

 

というゆるい表示が続いていました。これでもだいぶ進歩した表現でした。

 

 「健康のため吸いすぎに注意しましょう」との警告表示が義務づけられたのは19854月以降です。

これは警告になっていません。吸いすぎなければいいわけですから、むしろ消極的安全宣言になっています。

これではいけないということで、外圧も加わり、ようやく2005年夏以降、具体的な警告表示へ全面的に変更されました。

つぎの8種類です。それまでの「警告表示」に比べれば格段の進歩ですが、残念ながら国際標準とはかなり遠く、消極的な表現です。

 

     喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります。

     喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は心筋梗塞により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。

     喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は脳卒中により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。

     喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。

     妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。疫学的な推計によると、たばこを吸う妊婦は、吸わない妊婦に比べ、低出生体重の危険性が約2倍、早産の危険性が約3倍高くなります。

     たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。

     人により程度は異なりますが、ニコチンにより喫煙への依存が生じます。

     未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません。

 

 ひとつの箱に、上段4つからひとつ、下段4つからひとつ、計ふたつの警告文を記載するようになっています。

 

 日本以外の先進工業国の警告表示は次のように直接的です。

 

Smoking causes cancer.

Smoking causes heat disease.

Smoking causes fatal diseases.

Smoking kills.

Smoking when pregnant harms your baby.

Protect children: don't make them breathe your smoke.

 

 日本たばこ産業のタバコも海外で販売されるときは、その国の法律に従って表示されており、その警告表示は直接的な表現であるばかりでなく非常に大きく目につくよう箱の面積の広い面の上に表示されている。

日本の表示は箱の側面に細かい字で表示してあり、その内容は警告になっていません。

 

 EU法で厳しい警告表示の「指令」が出され、特にイギリスでは厳しい法的規制を実行しています。

例えば、EU法の指令では、「全ての紙巻きタバコの最も見やすい面に所定の大きさで『Tobacco seriously damages health. (タバコは著しく健康を損なう。)』」と表示しなければならず、これを表面に印刷して実行するとともに、裏面には上記の6つの警告表示からひとつ選んで印刷したタバコ6種類を各銘柄に同じ数ずつ表示するよう義務づけています。

この規制は罰則付きになっています。

 

 このような日本以外の先進国の表示を見て、それでも吸う人はよほど勇気のある人だけでしょう。

事実、先進工業国の喫煙率はきわめて低い。

発展途上国の警告表示はどうであろうか?中国、インド、パキスタン、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどのアジア諸国では軒並み日本と同様全く警告表示がなされていません。つまり、タバコの警告表示に関して、日本は発展途上国です。

 

 アメリカのタバコ企業はアメリカ人の健康を害したということで、多額の賠償金を毎年支払う義務を負っています。

しかしアメリカ国内ではあまり売れなくなったため、その賠償金を支払うためにも日本を含むアジアの途上国に多量に輸出しています。

情けないことに、途上国民はその輸入タバコを好んで吸うという共通の現象が見られ、途上国民の健康を害しています。

その売上金すなわち途上国民の健康と引き替えに支払ったお金は、アメリカのタバコ企業の賠償金になり、その賠償金はアメリカ国民の医療費および禁煙教育などの予防などに使われ、アメリカ国民の健康増進のために有効利用されています。

今のところこれに気づいて国レベルでアメリカからの輸入を断固として拒否しているのはアジアではタイだけです。

 

 生物学的要因ではないが、ゴミ問題や火災の原因としてのタバコの害も大きい。

火災の原因の第1位は何年もかわらず、タバコの火の不始末です。

さらに、電子機器に対してのタバコの煙の害は膨大であり、歩行喫煙による傷害などその被害は多方面にわたっています。

 

 

 

○受動喫煙防止

 

 受動喫煙の防止を盛り込んだ健康増進法が平成20035月に施行されました。

罰則付きではありませんが、建物の管理者に分煙や禁煙仕様の改修を強いるものです。以下に該当する条文を転載しました。

 

第二節 受動喫煙の防止

 第二十五条学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

 

 厚生労働省健康局長の発令文書によれば、

「健康増進法第25条においてその対象となる施設として、学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店が明示されているが、同条における「その他の施設」は、鉄軌道駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、金融機関、美術館、博物館、社会福祉施設、商店、ホテル、旅館等の宿泊施設、屋外競技場、遊技場、娯楽施設等多数の者が利用する施設を含むものであり、同条の趣旨に鑑み、鉄軌道車両、バス及びタクシー車両、航空機、旅客船などについても「その他の施設」に含むものである。」

と記されています。

 

 同じく、屋内における分煙が適切であるかどうか判定基準として、喫煙所と非喫煙所との境界においては、

1.デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏れ状態を確認する(非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと。浮遊粉じんの濃度を0.15mg/m3以下とするように必要な措置を講じること。)

 2.喫煙室等から非喫煙場所へのたばこの煙やにおいの漏れを防止するため、非喫煙場所と喫煙室等との境界において喫煙室等へ向かう気流の風速を0.2m/s以上とするように必要な措置を講じること。」

との具体的な基準も発令されています。

 

 また、中央労働災害防止協会中央快適職場推進センターがまとめた次の報告書にはかなり詳しいデータや分煙対策方法が述べられています。

 

 平成17年度「効果的な空間分煙対策推進検討委員会」報告書

 

 ここまでやるか、というほど徹底した具体的な分煙例が書いてあります。

職場全体を全面禁煙にすれば簡単にすむことではありますが、分煙を選択するとかなり苦労することがこの報告書からもうかがえます。

 

 発癌物質など有害成分は主流煙よりむしろ副流煙のほうに多く含まれています。

したがって、空気の循環の悪いところでの喫煙は同部屋にいる非喫煙者にとっては脅威です。

一般に未成年はこういった社会的な義務や責任を負えないと考えられており、また、未成年は自身で「自己決定」ができないと判断されているため、権利や自由に多くの制約があります。

喫煙も同様です。

また、喫煙がきっかけで癌になるにはある程度年数が必要です。

未成年の頃から吸っていると癌を発病する年齢が早くなるため短命になります。

さらに、年齢が低いほどタバコに含まれる発癌物質による感受性が高いため、同じ発癌物質の曝露量であっても、未成年者のほうが高齢者より発病する可能性がかなり高くなります。

 

 2006年度より、「ニコチン依存は病気」ということにして、禁煙治療に保険適用されることになりました。

ニコチン依存症は確かに病気です。

その「治療」になぜ貴重な財源である保険が使われることになったかというと、いったんタバコが原因となる癌などの病気になった場合、その治療費は莫大であり、財源を圧迫しているからで、禁煙指導が進めば、タバコ病が減り、将来的に保険事業が健全化するとの論理です。つまり予防的先行投資です。

 

 

 

○病気と遺伝子

 

 まず断っておかないといけないことは、病気の遺伝子というのがあるわけではないことです。

正常の場合であれば、ある働きを持つタンパク質を作る遺伝子が、突然変異などにより何らかの変化が起こって、DNAが化学修飾を受け、正常とは異なるタンパク質を作るようになり、その結果いわゆる病気になることがあります。

そのとき、この遺伝子がこの病気に関与していることになります。

もともと病気を引き起こすための遺伝子というのがあるわけではありません。

ある正常なタンパク質を作る遺伝子が変異することで別の働きをするタンパク質を作るなどの変化が起こり、その結果いわゆる病気などになります。

 

 単一の遺伝子の変異とある病気がよく対応することがあります。

単一遺伝子病(モノジェニック)とよんでいます。

その例はたくさん見つかっています。

一般に、モノジェニックの場合、その診断も確定しやすく、遺伝子治療などの治療法により治癒の可能性もあります。

また治療法の確定しているモノジェニックでは積極的にその原因遺伝子の判定を行うことで早期治療が可能です。

治療法の確定していないモノジェニックの遺伝子診断には賛否両論あります。

 

 たとえば、フェニールケトン尿症という病気があります。

あるひとつの遺伝子の変異のみで発症し、両親がヘテロの場合のみ、4分の1の確率で発症する子が産まれます。

いわゆる劣性遺伝病です。

治療しなければ先天性代謝障害による精神薄弱児となります。

さいわい、予防法(治療法)は見つかっています。

原因がはっきり分かっていて、フェニルアラニンヒドロキシラーゼというアミノ酸代謝に関わる酵素の遺伝子が欠損していることで、高フェニールアラニン血症となります。

生後間もない時期にフェニールアラニンを含まない食事を一定期間与えるだけで、発症を食い止めることができます。

これをやらずに通常の食事を与えると発症してしまいます。

つまり、産まれてくる前に、その子の遺伝子型を調べ、出産後直ちに治療に移されれば、発症せずにすむことになります。

どのような遺伝子型の子が妊娠中かを知ることが、病気を食い止める最良の方法ということになります。

 

 このように、両親ともに原因となる遺伝子がヘテロ接合体だとわかっている場合は、積極的に遺伝子診断がおこなわれます。

また、この例のように、予防法がわかっているモノジェニックの場合は、アメリカなどの多くの国で全員の新生児の尿や血液をスクリーニング検査するところがあり、義務づけられている病気もいくつかあります。

 

 一方、糖尿病や高血圧といったいわゆる生活習慣病などの場合、多遺伝子病(ポリジェニック)だと見られています。

関係する遺伝子が多数絡んでいるため、その病気の全容はなかなか明らかにはならず、治療法もなかなかみつかりません。

ひとつの遺伝子が機能しなくなっても他の遺伝子が補完的に働いたり、協調的に働いたりして、それらの遺伝子の発現様式が複雑なため、まだ遺伝子間のお互いの相互作用まで充分な解明がなされていません。

 

 病気に関連する遺伝子数は8000〜9000あるといわれている。

 平均してヒトは数百個の変異遺伝子を持っているともいわれている。

 

 

○遺伝子の変異による病気と多様性

 

 親から受け継いだゲノムの中に病気に結びつく遺伝子を持っていた場合、この遺伝子はさらに子へも引き継ぐことになります。

このような遺伝子に関わる病気は遺伝します。

一方、生得的に突然変異などにより変異を受けた遺伝子が病気にかかわることもあります。

この場合、この変異が生殖細胞系列に取り込まれない限り子孫に遺伝することはありません。

 

 多くは配偶者も変異があって初めて発病する劣性遺伝病のため、変異遺伝子をひとつ持っていても発病しません。

親近結婚の場合、同じ変異遺伝子を持っている確率が高いため、その子の変異遺伝子がホモになる可能性が高いため、発病の危険性が高くなります。

これが親近結婚を否定する理由です。親近結婚でない遺伝病の多くは偶然の結果です。

 

 遺伝子の変異が病気にかかわると書きましたが、病気と病気でない状態との区別は実はそう簡単ではありません。

血液型のような多型と病気との区別もできません。

たとえば、ABO式の血液型の場合、対立遺伝子のうちA型あるいはB型遺伝子が正常だと決めると、O型遺伝子はA型遺伝子のナンセンス変異によって生じたミュータントなので、当然異常ということになります。

しかし、血液型がA型、B型やAB型は正常でO型は異常、あるいは病気であるといった言い方はしません。

 

 肌の色が白い場合や目の色が青い場合や金髪の場合は、それぞれ、肌を黒くしたり目の色を褐色にしたり髪の毛を黒い色にしたりする遺伝子の欠損によって生じます。

したがって、それぞれの色素を作る遺伝子を持っている場合が正常で、持っていない場合は欠損症という病気であるとするならば、青目の金髪白人は肌の色素をつくる遺伝子欠損症であり、目の色素をつくる遺伝子の欠損症であり、髪の毛の色素をつくる遺伝子の欠損症ともいえるが、いわゆる白人をそのような欠損症として呼ぶことはしません。

 

 ところが、たとえば、色盲は病気であり色覚異常者であり色覚障害者だと決めつけられています。

しかし、遺伝子レベルでの変異を見た場合、色盲と青目や金髪の区別はまったく付けることができません。

なぜ、色盲は病気で異常者で障害者と呼ぶのに、青目の金髪白人は病気や異常者や障害者ではないのでしょうか?

色覚の多様性や目・髪・肌の色の多様性や、血液型の多様性など、すべて単なる遺伝子の多型です。

 

 なお大急ぎで補足しておきますが(このような補足が必要なこと自体情けないことですが)、現在「色盲」という言葉は、一般には使われません。

たとえば、共同通信社の「記者ハンドブック 新聞用字用語集 第9版」によれば、「色盲」は「差別語、不快用語などで言い換えをするもの」に該当し、「色覚障害」と言い換えなければなりません。

しかし、本来「盲」ということばに差別的意味合いは含まれていません。

その語を使う人の考え方により差別感が付加されるだけです。

むしろ、「障害」とか「異常」と言い換えるほうが、よほど差別感のある言い方だと言えないでしょうか。

「色盲」は色覚「障害者」でも色覚「異常者」でもありません。

もちろん「色弱」でもありません。色覚が「不自由な人」でもありません。

なぜこのような簡単なことがわからないのでしょうか?

 

このような特定の多型への不当な差別は決して許されるものではありません。

 

 

 

このような特定の多型への不当な差別は決して許されるものではない。

 

遺伝子の変異、という言葉を使うときも、なにが野生型でなにが変異型かという決定方法は、実は思ったほど簡単ではない。

立場や考え方が違うと、同じ遺伝子の変異であったとしても、そのとらえ方が正反対になることもある。

 

ヒトは動物の一種でもあるが、人として社会的な生き物でもある。

世間とはちょっと違う形質を見つけると、それが差別の対象になったりする悲しい性(さが)を持っている。

遺伝子のレベルで見れば、それは単なる多型であったとしても、いったん差別の対象になると容易にはそれを払拭することはできない場合が多い。

その遺伝情報の多型は100万から300万もある。

どうしても発現する形質の多い方を、あるいは政治的に発言力の強い方を正常だと決めつけたがる傾向がある。

しかし、当然のことであるが、善悪や優劣は多数決では決められない。

 

ヒトは産まれながらにして遺伝的に不平等である。

遺伝的に数100万の多型があるのだから、ヒトは平等であるわけがない。イデオロギーとしての平等はあり得ても現実には遺伝的に不平等である。

これは明確な事実であり、自分で変更することはできない。

変更できないからこそ、この事実(変更できない遺伝的不平等)でもって差別することは絶対にしてはならない。

 

そのことを充分にふまえれば、遺伝的多型を「多様性」と認識するか、あるいは「正常・異常」と色分けするかによって、考え方が大きく変わることがわかるであろう。後者の考え方から差別が生まれる。前者の考え方からは差別意識は生まれない。

色盲を色覚異常や色覚障害と言い換えるのは、差別を解消しているのではなく、明らかに新たな差別を作っている。

色覚「障害者」と健常者とを白黒はっきり区別をしないといけない理由は何なのであろうか。分ける必要があるから「障害者」などと言い換えるのであろうが、では何処で線引きしているのか。正常な色覚とはいったい何なのか。遺伝的にも医学的にもその線引きはできない。

 

境界があると思っているのは、「健常者」と自認している奢った人の頭の中にしかない。

 

 

 

○遺伝子の多様性と差別

 

 遺伝子の変異、という言葉を使うときも、なにが野生型でなにが変異型かという決定方法は、実は思ったほど簡単ではありません。

立場や考え方が違うと、同じ遺伝子の変異であったとしても、そのとらえ方が正反対になることもあります。

 

 ヒトは動物の一種ですが、人として社会的な生き物でもあります。

世間とはちょっと違う形質を見つけると、それが差別の対象になったりする悲しい性(さが)を持っています。

遺伝子のレベルで見れば、それは単なる多型であったとしても、いったん差別の対象になると容易にはそれを払拭することはできない場合がたくさんあります。

その遺伝情報の多型は100万から300万もあります。

どうしても発現する形質の多い方を、あるいは政治的に発言力の強い方を正常だと決めつけたがる傾向があります。

しかし、当然のことですが、善悪や優劣は多数決では決められません。

 

 ヒトは産まれながらにして遺伝的に不平等です。

遺伝的に数100万の多型があるのですからら、ヒトは平等なわけがありません。

イデオロギーとしての平等はあり得ても現実には遺伝的に不平等です。

これは明確な事実であり、自分で変更することはできません。

変更できないからこそ、この事実(変更できない遺伝的不平等)でもって差別することは絶対にしてはなりません。

 

 そのことを充分にふまえれば、遺伝的多型を「多様性」と認識するか、あるいは「正常・異常」と色分けするかによって、考え方が大きく変わることがわかるでしょう。

 

 後者の考え方から差別が生まれます。

 前者の考え方からは差別意識は生まれません。

 

 色盲を色覚異常や色覚障害と言い換えるのは、差別を解消しているのではなく、明らかに新たな差別を作っています。

色覚「障害者」と健常者とを白黒はっきり区別をしないといけない理由は何なのでしょうか。

分ける必要があるから「障害者」などと言い換えるのでしょうが、では何処で線引きしているのでしょうか。

正常な色覚とはいったい何なのでしょうか。

遺伝的にも医学的にもその線引きはできません。

 

 境界があると思っているのは、「健常者」と自認している奢った人の頭の中にしかないと思います。

 

 

病気とは何か。仏教の教えではとっくの昔に答えが出ています。

以前、四国のある禅寺で説教を受けたことがあります。

もちろん、公案ほど難しくはありませんが、数時間話し合ったことがあります。

(ちなみに、四国八十八、新四国八十八を含む200寺以上のお寺に行って、多くの和尚さんのお話をうかがう機会を得た)

 

病気の話になったのは、私が癌の研究者だと名乗ったからかもしれません。

そのときの和尚さんの話は、般若心経にある「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色」のことだと後になって気がつきました。

「五蘊皆空」「無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法」ことでもあったでしょう。

当時はまだ般若心経を深く勉強していませんでした。

 

そもそも病気とは何か。なぜそのような状態はあるのか。

「ある」は「ある」し、「ない」は「ない」。「ある」は「ない」し、「ない」は「ある」。

 

あると思えばある。あると思うからある。これらの「ある」と「ない」の組合せ。

 

知らないということを知る。無知の自覚。分かるということはないと知る。

 

病気という存在は、はたして「ある」のか。苦しみとは。痛みとは。それらは本当に「ある」のか。

わたしは禅師ではないのでうまく書けないが、上のような話でした。

 

 

辞書による「病気」の定義は次の通りです。

(いずれの場合も「異常」とそうでない状態の境界はさっぱりわからない)

大辞林肉体の生理的なはたらき、あるいは精神のはたらきに異常が起こり、不快や苦痛・悩みを感じ、通常の生活を営みにくくなる状態」

日本語大辞典(学研)「肉体(または精神)の生理的な働きに異常が起こり、苦しみ悩む状態」

広辞苑「生物の全身または一部分に生理状態の異常を来し、正常の機能が営めず、また諸種の苦痛を 訴える現象」

生物学辞典(岩波)「個体の秩序が何らかの原因により変倚した状態」

 

 WHOの健康の定義

「健康とは、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態にあるのであって、単に病気でないとか虚弱でないとかというこのではない」

というのがあります。

いやな文です。

 日本の教育界では、この定義を暗記させます。

その結果、多くの日本人はこの定義をそらんじることができます。

しかし、その意味することはあまり教えず、深く考えようともしません。

WHOが決める健康な人はいったいどこにいるのでしょうか。

 

 わたしは、この定義文は世界で一番差別的な文章であると思います。

これ以上の差別を目にしたことはありません。

 

 

 

○進化的適応と進化医学(ダーウィン医学・進化心理学)

 

 医学の分野でも進化の考えを応用するのは有意義なことです。

多くの病気がなぜ起こるのか、なぜあるのか、進化医学的立場から考えると理解しやすいことがあります。

 

ヒトにおける植物毒素に対する進化医学

 生物は外敵に対抗する防御手段としてさまざまな方法を進化の過程で獲得しています。

植物もその例外ではありません。植物は根をはることから動き回ることができないという制約があります。

したがって、動物など動くことができる生物とは異なる独自の防御手段を発達させています。

そのうちのひとつが化学物質による生体防御反応です。

 

 植物は葉や茎など、あるいは塊茎や鱗茎などに自ら毒素を作り、あるいは共生する細菌に毒素を作ってもらうなどして、捕食者から身を守っています。

これらの毒素は生態系の中で捕食者に対する毒素であるばかりでなく、ヒトにとっても有害である場合が多い。

ヒトの学習する能力を持っています。

その結果、毒性の少ない植物を選別することに学び、比較的害の少ない作物を育てることに成功しました。

しかし、人体にまったく無害の野菜というのは作れていません。

つまり、ヒトにとって、野菜などの作物の有害性の強弱が問題になります。そこで、多くの適応的進化が見られます。

 ここでは2点取りあげます。妊婦の「つわり」と子どもに見られる食べ物の「好き嫌い」です。

 

 毒素の働きに対して少し確認をしておきましょう。

ヒトに対する有害化学物質の毒性は、いつでもだれでも同じというわけではありません。

有害物質の効果が強く働くのは細胞分裂速度が速い時です。

たとえば、胎児や成長期の子どもなどは細胞分裂が活発であり、毒素に対する感受性も高い。

したがって、そのような時期に特有の防御機構が適応により獲得し発達しています。

その適応している例が「つわり」や「好き嫌い」です。

 

 その説明は後にするとして、適応がない場合、つまり、ある物質に対してまだ経験が浅く、進化的適応が見られないような毒素に対してはまったく無防備です。

そのいい例がタバコです。

人類にとって喫煙はまだ新しい経験であり、適応的ではありません。

したがって、細胞分裂の活発な時期ほどタバコの影響を受けやすいことになります。

妊婦の喫煙や間接喫煙は胎児の成長に多大な悪影響を与えることが確認されていますし、未成年者の喫煙を法により禁止しているのもこの理由からです。

また、適応を獲得していないため、両者とも適切な教育と適切な法による規制が必要になります。

 

 このように、適応的でない場合は、よい教育や法による規制が必要になりますが、適応的である場合はその反応を利用し活用するとよい。

では、どのような適応が見られるのでしょうかうか。

 

 胎児は激しい細胞分裂をくり返しています。

胎児は母体の子宮により保護されていますが、母体経由の毒素の影響は受けやすい。

胎児による最大の防御機構は母体に「つわり」を起こさせることです。

つまり、吐き気と食欲不振を起こさせ食べ物に好き嫌いをはっきりさせることにより、結果的に毒素の摂取を減らすように適応しています。

つわりのひどい時期と胎児の大切な分化の時期とはよく一致しています。

つわりの弱い妊婦やつわりの防止薬を服用した場合の方がそうでない場合に比べて奇形児の生まれる確率が高いことからもこの考えが証明されます。

つわりを押さえる薬による多くの薬害が報告されていますが、直接その薬が胎児に悪影響を与える場合もあるかもしれませんが、つわりをなくしたことにより母体の食生活による毒物の摂取が多くなることから奇形児に結びつくこともあり得ます。

 

 この場合の毒素とは、残留農薬や食品添加物のことではありません。

通常一般人が食べている食品(主に植物)由来の毒素のことです。

激しいつわりは適応なのだから我慢しろと言うのは簡単ですが、当の妊婦にとっては大変につらい出来事です。

つわり防止の薬物をうまくコントロールしながら利用する適切かもしれません。

 

 子どもに見られる「好き嫌い」も進化的適応で説明できます。

子どもが嫌いな食物は一般的に臭いがきつかったり刺激が強かったりします。

その原因となる化合物は一般的に毒素です。

このような毒素に対して一般的に子どもの方が敏感に反応します。

つまり、子どもには、危険なものであると認識するという適応が発達しています。

植物由来の食品に含まれるグリコシドやイソチオシアネートなどの毒素は刺激臭や辛みなどの刺激があります。

その毒素を含む食物を特に好き嫌いするという行動は正しく適応的です。

この適応は非常に有用です。教育的配慮から子どもの好き嫌いをなくすような努力も必要ですが、生物学的に進化的適応も考慮する必要があります。

子どもに対して無理に刺激の強い野菜類を多量に与えることは、せっかく獲得した進化的適応に逆らうことになります。

大人になれば細胞分裂速度が遅くなり、毒素による影響も薄くなります。

 

 適応的である場合はより活用すればいいが、誤った教育により逆に悪い影響を与えることもありえます。

大人の中には生野菜が健康にいいとの思いこみ、ほとんど信仰の域に達している場合もあります。

そのような信仰を持つヒトにとっては、子どもの好き嫌いは悪であり、子どもに強制的に嫌いなものを食べさせるのは善であると思いこんでいることでしょう。

しかし、実際にはその手の強制はあきらかに間違っています。

多様な食物を摂るという行動は多種類の毒素を摂るということにつながります。

これは悪いことではなく、毒素に対抗する多くの防御システムを活性化するのに役立っています。

 

 一方、かたよった食事をしている場合、毒素の種類も限定され、その対抗システムも発達しません。

したがって、新規の毒素に対応しきれなくなります。

このような観点から見れば、多様な植物由来の毒素を摂ることも重要です。

結局、「食の安全」とは量と種類のかねあいが大切であることがわかります。

子どもに見られる食物の好き嫌いは、毒素を避けるという点では適応的行動です。

大人になってから好き嫌いが少なくなるのも、その適応の必要性が薄れるからでもあります。

好き嫌いを悪と見て無理やり食べさせるのはその適応から見るとよくありません。

結果的に毒物を避けなければいけない時期に、せっかく適応により避ける行動を取っているにもかかわらず、強制的に食べさせるということは結果的に毒物にさらされることにつながってしまいます。

一方、多種類の食物を摂ることも重要で、毒素に対抗するシステムを活性化させるためにも偏食はよくありません。

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

2007221() 更新

 

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