同様の記述が「やさしいバイオテクノロジー」(サイエンス・アイ新書)に書いてあります。

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 2−8.バイオテクノロジーの基本技術

 

○大腸菌を利用した組換えDNA実験 1970年代に始まった革命

 

 1953年にワトソン・クリックによりDNAの二重らせん構造があきらかにされ、生命の基本構造が考察できるようになりました。

1960年代には遺伝子の複製や転写、翻訳のしくみもあきらかにされました。

1970年代にはいると、目的の遺伝子を切りとり、別の生物に入れるといった遺伝子の組換え実験ができるようになりました。

組換えDNA実験はおもに大腸菌などの原核細胞を用いて発展しました。

当時までに発見されていた種々の酵素群をうまく組み合わせることで、組換えDNA実験ができるようになりました。

 

 主役になる酵素は「制限酵素」、「DNAリガーゼ」、「DNAポリメラーゼ」などで、大腸菌の染色体外DNAのプラスミドや大腸菌に感染するウイルスの「ファージ」などのDNAが組換えDNAの「運び屋」として用いられます。

 

DNAを切断する「はさみ」として制限酵素が用いられます。

この制限酵素は特定の塩基配列、たとえばEcoRIという制限酵素はGAATTCという6つの塩基配列を認識して、1塩基目のG2塩基目のAの間の結合を切断します。

DNA2本鎖です。

制限酵素が認識する配列は回文構造になっており、逆配列も同じ配列であり、2量体の制限酵素がそれぞれ同じ配列を認識して切断し、2本鎖DNAを完全に切断します。

DNAリガーゼはこの切断された2本鎖DNAの断片どうしを結合させる「のり」の役割を持っています。

 

 

 組換えDNA実験により、たとえば、ヒトゲノムからヒト成長ホルモン遺伝子を取り出し、これを大腸菌に組み込み、ヒト成長ホルモンタンパク質を大腸菌に作ってもらうことができます。

 

 まず、導入したいDNAを「はさみ」の制限酵素によって切り出すか、後に述べるPCR法により目的のDNA断片を増幅させて調製します。

「運び屋」のプラスミドやファージも同じ制限酵素であらかじめ切っておきます。

両者を「のり」のDNAリガーゼによって結合させます。

すると、プラスミドやファージに新たに目的の遺伝子を含む新しいDNAができます。

これを大腸菌に感染させ、大腸菌の転写・翻訳系を利用して、目的遺伝子由来のタンパク質を得るこができます。

このタンパク質は大腸菌が本来つくらないものです。

 

「運び屋」には組み込んだ遺伝子が大腸菌内で転写・翻訳するような工夫がしてあります。

 

 翻訳後の修飾のしかたが原核生物の大腸菌と真核生物の間で異なるため、たとえば真核生物の動物の遺伝子を大腸菌に入れた場合、その遺伝情報にしたがって、大腸菌は目的遺伝子由来のタンパク質を合成しますが、大腸菌内にない翻訳後修飾はしてくれないため、翻訳後修飾がタンパク質の機能発現に重要な場合、大腸菌が作ったタンパク質では機能を持たないこともあります。

その場合は、同じような翻訳後修飾形を持った宿主・ベクター系を利用する必要があります。

 

 このように種を越えて遺伝子の組換えができ、種を越えて同じ遺伝子からは同じタンパク質をつくることがわかりました。地球上の全生物でDNAをつくる基本的分子が共通で、共通の遺伝にかかわる物質を使うばかりでなく、翻訳にも共通のコドンを使っていることの直接的な証明は、このような遺伝子操作によっても確認されました。

 

 制限酵素について補足しておきます。

制限酵素は原核生物である細菌がつくります。

細菌ごとに認識する配列の異なる制限酵素を作ります。

制限酵素は細菌の生体防御にかかわっています。

 

 細菌にとって外部からのDNAの侵入は驚異です。

自己防衛のため、外来DNAは分解する必要があります。

そのためにDNAを分解する酵素がいります。

しかし、自己のゲノムも裸のDNAであるため、外来DNAと自分のゲノムDNAを区別する必要があります。

自身の作る制限酵素の認識配列を特異的にメチル化する酵素も同時に作ります。

メチル化されていると制限酵素は働かない。

この仕組みで制限酵素は外来DNAを分解しますが、メチル化で保護されたゲノムDNAは分解しません。

こうして細菌は自己防衛しています。

 

 

 

○バイオ実験に使う小物を紹介しましょう

 

 ここで、一般のバイオ実験によく使う小物を紹介しましょう。

バイオ実験で扱うDNAやタンパク質などは微量なため、これらを扱う器具は学校の理科の実験に使うものとはちょっと異なります。

まず、マイクロリットル(千分の1ミリリットル、百万分の1リットル)単位の体積の試薬を扱うための器具類を紹介しましょう。

 

 バイオ実験では試験管の変わりに各種のチューブを使います。

一番よく使うのは通称エッペンドルフチュープです。

1.5ミリリットルの容量で、フタがついています。

名前についているエッペンドルフはそれを作っている会社名から来ています。

このほかに0.5ミリリットル、0.2ミリリットルもよく使います。

最近では、0.2ミリリットルチューブが8個連なった8連チューブや、96個の穴のあいたプレートもよく使います。

 

 これらのチューブに体積をはかり取って入れる器具がピペットマンです。

ピペットマンはギルソン社の商品名で、一般名として通用しています。

0.1マイクロリットル単位から数ミリリットル単位ではかり取るものまで各種あります。

8連チューブやプレートに対応した8連ピペットマンもあります。

 

 ピペットマンにはその用途に応じてチップとよばれる使い捨てのものを先端に付けて使います。

 

 このほか、チューブの溶液を撹拌するためのボルテックスミキサー(これも商品名が一般名になっている)、小型遠心機、小型電気泳動装置などがよく使われます。

 

 

 

○ポリメラーゼ連鎖反応 1980年代に始まった革命

 

 組換えDNA実験では、同じ塩基配列を持ったヌクレオチドやDNAを多量に必要とする場合があります。

完全な化学合成では、ある程度長いヌクレオチドを純粋な形でつくるのは難しく、大腸菌などの複製システムを利用して、増幅させていました。

しかし、この方法では操作が煩雑なため、かなり時間がかかりました。

 

 これを解決する手段として、2種類のプライマを使うことにより、温度の上げ下げだけで増幅ができるのではないかとのアイデアを持った人がいました。

その方法にはひとつだけ欠点がありました。

DNAを高温により形を変えるステップがあり、その温度で熱に弱いDNAポリメラーゼ(重合酵素)の働きは失ってしまうため、高価な酵素を何度も加える必要がありました。

ところが、当時、幸運なことに、高温に強いDNAポリメラーゼがアメリカのイエローストーン公園の自噴泉に生息している細菌(高度好熱菌)から発見されていました。

この細菌の学名から「Taq DNAポリメラーゼ」と呼ばれています。

この細菌は80℃の高温でも生育できます。

 

 この熱安定性DNAポリメラーゼと2種類のプライマを使うというアイデアを一緒にしました。

反応の最初に鋳型となるDNA、プライマ、DNAの材料のヌクレオチド、そして熱安定性Taqポリメラーゼを加え、その後は温度変化だけで反応が進行します。

必要な温度は3種類なので、3種類の水層を作り、それぞれ目的の温度を設定し、その3つの水層に順次反応チューブを浸すだけです。

そのうち反応チューブの水層間の移動は自動化され、温度と時間だけ設定すれば、あとは放置しておいてもいいことになりました。

さらに、浴槽を使うのではなく、ひとつの金属ブロックの温度調節だけで反応できるタイプも登場し、ますます使いやすくなりました。

いまでは、分子生物学関連の研究室には必ずこの装置があります。

この原理を発見し、PCR法と命名したマリスは1993年にノーベル化学賞を受賞しています。

 

 

 

 

PCR法はあらゆる分野で応用されている

 

 プライマと鋳型DNAとの結合は特異的におこるため、プライマの設計だけで、ある特定の遺伝子のみを増幅することができます。

PCR技術のおかげで、短時間でわずかの試料から特定の遺伝子の増幅ができ、自動化もされ、多量のサンプルを同時に反応できるようにもなりました。

そのおかげで、応用例は多岐にわたっています。

 

 PCRに使う鋳型となるDNAは原理的には1分子あればよい。

微量のサンプルからDNAを抽出する技術も上達し、少量でもDNA抽出さえできれば、あらゆる遺伝子が増幅できます。

PCR法は通常の遺伝子クローニング技術のなかで、もっともよく利用される欠かせない技術となりました。

PCR法は犯罪捜査や親子判定などのDNA鑑定、DNA診断、病原性の微生物の特定や体内の変異遺伝子の特定などにも使えます。

 

 細胞1個には1分子のDNAしかありませんが、その1分子のDNAの抽出する技術があり、たとえば、体外受精した初期の卵割胚から1個の細胞を取りだし、遺伝子診断することもできます。

 

 さらに、分子古生物学の分野でも応用され、たとえば、琥珀に閉じこめられた古い生物の遺伝子を増幅するといった、ジュラシックパークもどきにも応用できます。

化石の中でも保存状態がよければ、その生物の遺伝子を増幅することもできるようになりました。

これを応用すると、ヒトの起源だけでなく、多くの生物の進化の過程が遺伝子を直接調べることにより解析することもできるようになりました。

 

 

 

PCR法のキーは特異的プライマの設計だ

 

 DNAを複製する酵素のDNAポリメラーゼによる反応には必ずその開始場所にプライマが必要で、短い1本鎖RNAが使われます。

人工的にDNAポリメラーゼ反応をするときには、より安定な1本鎖DNAを使います。

このプライマの配列と相補的な鋳型配列のところにプライマが結合してDNAポリメラーゼ反応は始まります。

その後は鋳型塩基配列に相補的な鎖が伸びます。

 

 PCRの一番のポイントは目的の遺伝子に特異的なプライマを設計することです。

ヒトゲノムの場合、30億塩基対の遺伝情報があります。

この中からあるひとつの遺伝子のみ増幅したいとします。

プライマの長さをいくらにすれば30億塩基対のゲノムの中で1箇所のみ確率的に結合することができるかを考えてみましょう。

塩基は4種類なので、プライマの塩基数をNとすると4N乗通りの配列のプライマができます。

そのうちのひとつがゲノムの中に1箇所未満出現するためのNの最小値を求めることになります。

答は16です。

16塩基のランダムな配列のプライマをひとつつくると、計算上ゲノムの中にその配列は1箇所もないことになります。

逆に、ある遺伝子の配列がわかっていて、その配列の中から16塩基分の配列のプライマをつくると、そのプライマはゲノムの中にはその設計した場所以外にはないため、ゲノムの中で特定の場所だけに結合することになります。

実際には、プライマと鋳型DNAとの結合には、その温度や溶液中の塩濃度などにかかわるので、PCRプライマをつくるときにはもう少し長いオリゴヌクレオチドを作ります。

PCR法では増幅したい遺伝子の両端に特異的なプライマを2箇所設計します。

 

 

 

PCR法による特異的DNA断片の増え方

 

 1) PCR反応の最初の段階は鋳型DNAの熱変性です。

通常96℃で30秒ぐらいの反応です。

プライマは1本鎖のDNAとしか結合しないので、まず、2本鎖の鋳型DNA1本鎖に分離します。

 

2) 温度を下げて鋳型DNAにプライマを特異的に結合させます。

そのときの温度はプライマの塩基配列と長さに依存します。

温度が低すぎるとプライマと鋳型DNAとの間で非特異的な結合が起こり、目的の遺伝子以外のところとも結合してしまいます。

温度が高すぎると鋳型DNAにプライマが結合しません。

 

3) Taq DNAポリメラーゼがよく働く温度にまで上げると伸長反応がおこります。

この3段階を25回ほど繰り返すだけです。PCR反応は2時間ほどで完了します。

 

 1回目の反応で2種類のプライマから鋳型に沿って合成された新しい鎖が2本できます。

2回目の反応でも同様の反応が起こり、さらに1回目の反応でできた新しいも2本の鎖も鋳型になり、2種の2種類のプライマで挟まれた断片ができます。

3回もの反応でも2回目の反応と同様の反応のほか、2種類のプライマで挟まれた断片も鋳型になり伸長反応が起こります。

 

 どんな鎖ができるか、元の鋳型ゲノムDNA2本鎖のうち1本だけに注目してみてみましょう。

元の鋳型DNAPCR反応の前後で1本のまま変化しません。

これを鋳型にして増える鎖は25回の反応で25分子できます。

長さはまちまちです。

2種類のプライマで挟まれたDNA断片はサイクルごとに倍々に増えていきますので、25サイクルで計算上約225乗倍にまで増幅されることになります。

 

 

 

 

DNA断片を分離して確認する方法 アガロースゲル電気泳動法

 

 組換えDNA実験などではいろんな種類のDNA断片をあつかいます。

「電気泳動法」はそのDNA断片の溶けている溶液のDNA断片の長さ、純度、濃度などを知る手段としてよく使われます。

 

 DNAはその構成要素にリン酸基を持つことからマイナスの電荷を持っています。

したがって、DNA断片を含む溶液に電気を流すとDNA断片はプラス極の方に動きます。

DNAの溶けている溶液の状態で電流を流すと、溶液中のDNAはすべてプラス極に移動してしまうだけです。

そこで、アガロースやアクリルアミドから寒天のような「ゲル」をつくり、そのゲル内でDNA断片を泳動する方法が用いられます。

ゲルは立体的な網目構造を持っています。

長さの異なるDNA断片の混合溶液をゲル内のマイナス極側に注入し、電流を流すと、DNA断片はゲル内をプラス極側に向かって移動します。

そのとき、DNA断片の長さが短いものほど速く移動し、長いものはゆっくり移動します。

この性質を利用することで、DNA断片の長さのちがいで分離することができます。

 

 すでに長さのわかっている複数のDNA断片を含む溶液を用意します。

これを「分子量マーカー」として利用します。

この分子量マーカー溶液と未知のDNA断片の混合溶液を同じゲルの別々の場所に注入して電流を流すと、DNA断片がゲル内を分子量のちがいにより分かれながら流れます。

分子量マーカー溶液中の長さ既知のDNA断片の移動距離との比較により、未知のDNA断片の長さを推定することができます。

実際には、移動距離と分子量(塩基数)の対数が比例します。

 

 

 ゲル内のDNAは目に見えません。

そこで、色素を使ってDNAを染色します。

よく使われる色素は「エチジウムブロマイド」で、これは2本鎖のDNA断片の内側の塩基間の結合を切断して、その間に入り込む性質を持っています(この機能のため、エチジウムブロマイドには発癌性が疑われています)。

エチジウムブロマイドは紫外線を当てることにより発色する性質があります。

したがって、DNA断片をこの色素で反応・染色し、その後、紫外線を当てることでDNAが目に見えるようになります。

 

 しかも、エチジウムブロマイドはDNAの一定長ごとに入り込む性質を持っており、色素の発色の強よさと色素の濃度は比例するため、染色したDNAの発色強度を測定することによりDNAの「濃度」を知ることができます。

 

 さらに、未知のDNA断片の混合溶液のなかで、その溶液に含まれるDNA断片のそれぞれの長さだけでなくそれぞれの濃度も決定できるため、あるDNA断片の混合溶液中の「純度」も計算することができます。

 

 ゲルの種類や泳動用の緩衝液の種類、あるいは電流の流し方(パルスにすることもある)を工夫することにより、塩基数が数千〜数10万の長いDNA断片を分離することもできますし、逆に、塩基数が千以下のDNA断片を1塩基単位で分離することもできます。

前者の方法で巨大なクローン断片を分離したり、後者の方法で後に述べるDNAの塩基配列を決定したりすることができます。

通常の電気泳動装置は数万円と安価でコンパクトな設計のため多用されます。ゲルの作成も簡単で、泳動時間も25分ぐらいと短い。

 

 RNA1本鎖のため、いろんな二次構造をとります。

そのため、RNA分子を変性させて形をそろえ、変性した状態で流れるように工夫したゲルで分離することができます。

 

 

 

 

○塩基配列を決定する方法 ジデオキシ法

 

 組換えDNA実験などに使うDNA断片の長さ、純度、濃度は電気泳動法で調べることができます。

しかし、DNAの塩基配列まではそのままではわかりません。

DNAの塩基配列を決定する方法はさまざまあります。

ここでは、最もよく使われている「ジデオキシ法」を紹介します。

 

 DNAはヌクレオチドの重合体です。

DNA合成の時、ポリヌクレオチドの3’末端側のフリーの水酸基OHに、鋳型に相補的なデオキシヌクレオチドの5’リン酸との間で新たな結合が生じ、その繰り返しにより延びていきます。

もし、伸長途中のオリゴヌクレオチドの3’末端側のヌクレオチドのリボースの3’水酸基がないと、たとえばその水酸基OHが水素Hに置きかわっていると、それ以上DNA鎖は伸びず止まってしまいます。

 

 これを利用してDNAの塩基配列を決定します。

つまり、通常のDNA合成では、4種のデオキシヌクレオチドを使いますが、その中に3’位の水酸基が水素に置換したジデオキシヌクレオチド(「ジ」は2の意味)も合わせて少量加えておきます。

DNA合成時にデオキシヌクレオチドが使われたときは伸長しますが、ジデオキシヌクレオチドが使われたときはそこで伸長反応は止まります。

たとえば、鋳型として100塩基のDNAを使うと、100種類の長さのヌクレオチドができます。

100種類ともすべての3’末端はジデオキシヌクレオチドが取り込まれており、それ以外はデオキシヌクレオチドが取り込まれています(話がややこしくなるので、プライマのことは無視しています)。

 

 

 この100種類の混合断片を電気泳動により分離します。

短いものから先端に泳動され、100種類すべてが区別できる泳動距離で泳動されます。

しかし、このままでは100種類のDNA断片がゲル内で分離しただけで、それぞれの断片の3’末端には4種のうちどのジデオキシヌクレオチドが取り込まれているかわかりません。

 そこで、4種のジデオキシヌクレオチドをそれぞれ別の蛍光色素であらかじめ標識しておきます。

そうすると、どの断片も3’末端に1個だけジデオキシヌクレオチドが取り込まれており、4種のうちどのジデオキシヌクレオチドが取り込まれたかは蛍光色素により識別することができます。

 

 このようにして、100種類の断片すべてがゲル内で分離し、しかもその3’末端部分の塩基の種類がわかることから、その鋳型の100個分の塩基配列すべてを知ることができます。

たとえば100種類の断片のうち一番短いものから順にどの色素がついているか読み取っていきます。

その順番の相補的な配列が鋳型の塩基配列ということになります。

 

 一連の反応や電気泳動から塩基配列の読み取りまで自動化されています。

ヒトゲノム解析ではこのロボットが大活躍しました。

配列を決定したい巨大なDNAクローンの選別からDNA塩基配列決定のための反応、電気泳動、蛍光測定から配列の解析までの反応を、96サンプル単位で処理するロボットもあります。

このロボットを多数用意することで塩基配列の決定作業は飛躍的に促進されました。

その結果、ヒトに限らず、多くの生物のゲノムの塩基配列をすべて読む作業が続けられています。

 

 自動化により、蓄積されるデータが膨大になったため、高速に大容量データが処理できるコンピュータの開発も必要で、効率的な解析ができるソフトウェアの開発も必要になりました。

この分野は「バイオインフォマティックス」として発展しています。

 

 

 

 

DNAを利用した鑑定方法

 

 犯罪捜査や親子鑑定、あるいは食品の偽装表示の判定などで、「DNA鑑定」がよく使われます。

まず、DNA鑑定法の簡単な原理を紹介します。

個人の特定には、ゲノム内に多数見られる繰返し配列が利用されます。

 

 ゲノムには狭い意味での遺伝子の領域は1%強しかなく、遺伝子以外の領域の53%は重複配列や繰返し配列です。

ゲノムの中のあるひとつの繰返し配列に注目すると、その繰り返しの数が個人によって異なるところがあります。

この個人差のある繰り返し領域を複数選びだし、それぞれの繰り返し数を決定することにより、個人の特定ができます。繰り返し数の決定には、PCR法が用いられます。

あるひとつの繰り返し領域に特異的なプライマを設計し、その繰返し配列を増幅し、その増幅断片の長さを電気泳動法により決定します。

繰り返し数を決定する繰り返し領域の数を、個人の特定に必要なだけ選ぶことにより、たとえば偶然一致する確率が100億分の1以下にするように測定箇所を選ぶことにより鑑定されます。

 日本の警視庁は、200611月より、ゲノムのなかの17ヶ所を測定することにより、約77兆人にひとりの確率で識別が可能になりました。

 

 この方法では、繰返し配列数をいくら増やしても、2種類のサンプル由来のゲノムが100%一致するとの鑑定はできませんが、鑑定する繰り返し領域を増やすにしたがって、限りなく鑑定結果が100%に近づけることはできます。

逆に同一人物でないとの鑑定はできます。

 

 

 

 実際に犯罪捜査などで鑑定するときは、犯行現場や被害者などから試料の採取手段に一番の厳密さが要求されます。

得られた試料の鑑定はかなり科学的に鑑定可能ですが、どの試料を鑑定するか、あるいはどの方法で試料を採取するかで、鑑定結果の有効性が大きく異なることになります。

 

 

 DNA鑑定はコメのなど農産物の品種鑑定にもよく用いられます。

魚沼産コシヒカリなど有名ブランドに人気が集中し、これに乗じて偽造表示する業者もでてきました。

ブランド米が本当においしいかどうかはさておき、本当にブランド米なのかどうかをDNA鑑定で判定することはできます。

 

 コメの品種ごとに、DNAの塩基配列が異なる部分があり、そこを判定に利用します。表示された品種かどうか、偽物の混入品種の同定、混入比率などを判定することができます。

PCR法を使えば、コメ1粒由来のDNAを鋳型として使うことができ、混入率も分かります。

同様の判定法を遺伝子組換え品種と従来品種の判定にも使われます。

また、BSE騒動のとき、輸入牛と国産牛の鑑定にも利用されました。

 

 さらに、病気の原因になりそうな変異を持つかどうかなど、あらゆる人の健康にかかわる鑑定も可能です。

基本的にはDNAの塩基配列にかかわる事項であれば、PCR法と塩基配列決定法などを利用することで鑑定は可能です。

ヒトのDNAサンプルとして、頬の内側の細胞を爪楊枝になどで掻き取ったものや髪の毛がよく使われます。

爪からもDNAが採取できます。

いずれの方法にしても、他人や他生物のゲノムが混入しないように細心の注意が必要です。

 

 親子や血液型の鑑定の場合、爪など身体のどの細胞を使っても同じ結果になります。

しかし、白血球に見られる遺伝子の変異を見たければ、白血球からDNAを抽出する必要があります。

 

 両親ともにキャリアAaどうしからは4分の1の確率でaaの子が産まれます。

したがって、両親ともキャリアの場合、出生前診断により生まれてくる子の遺伝子型を知ることができます。

しかし、有効な治療法がない病気に対して出生前診断をする行為は、中絶以外有効な手段がないことから、特に優性遺伝病の診断には優生学とのかねあいで賛否両論があります。

 

○具体的な鑑定方法 お酒が飲めるか飲めないか

 

 アルデヒド脱水素酵素遺伝子の多型をPCR法で判定することで行うDNA鑑定法について説明します。

 

 まず、2-5で述べたことを簡単におさらいしましょう。

アルデヒドを分解する酵素は少なくとも6種類見つかっていますが、通常、肝臓でのアルコール代謝に重要なのはそのうち2類だけです。

話を簡単にするため、この2つの対立遺伝子をAaと呼ぶことにします。

A遺伝子とa遺伝子のちがいは、わずか1塩基の置換だけです。

 

 遺伝子型はAAAaaa3種類ということになり、それぞれの表現型は、お酒に強い、お酒に弱い、まったくお酒が飲めない、の3種類です。

 

 まず、DNA鑑定を行うためには、髪の毛や爪などから鑑定したい人のゲノムDNAを抽出する必要があります。

細胞や組織からDNA抽出の方法には多数あります。

必要な試薬がセットになったキットも販売されています。

基本的には、細胞膜を破壊し、タンパク質をフェノールなどで抽出・除去し、純粋なDNAを水溶液の形で取り出します。

 

 プロテイナーゼというタンパク質を分解する酵素を使って簡単にDNAを抽出する方法もあります。

たとえば、毛根を含む髪の毛や頬の内側の細胞を爪楊枝などで掻き取り、さきほどのプロテイナーゼ水溶液の中につけておきます。

すると、細胞が破壊され、DNAを水溶液の形で取り出すことができます。

ただし、この方法では、タンパク質などのDNA以外の化合物を除去していないので、かなり不純物が含まれた状態になります。

プロテイナーゼを熱により分解させることで失活させ、このDNA水溶液を次のPCR反応に使います。

 

 PCR法はゲノムの特定の領域のみを増幅する技術です。

先に抽出したゲノムDNAには、30億塩基対、2万数千の遺伝子領域が含まれています。

PCR法を使えばこの中から目的のAまたはa遺伝子の領域のみを増幅することができます。

 

 PCR法のミソはプライマーの設計です。

A遺伝子とa遺伝子の塩基配列の違いがわかっています。

この違いを利用してプライマーを設計します。

 

 A遺伝子とa遺伝子のちがいは1塩基のみの置換です。

このちがいのあるところを含む2種類のプライマーをつくることになります。

ちがいのある部分をプライマーのどこに持ってくるといいかが問題になります。

 

 PCR法に限らず、DNA複製にはプライマーが必要で、プライマーは鋳型DNAに相補的に特異的に結合します。

プライマーが結合すると、プライマーの3’末端側にDNAポリメラーゼの助けを借りて鋳型に相補的な塩基が結合することで複製が進行します。

つまり、プライマーの3’末端側は鋳型DNAとしっかりと結合している必要があります。

プライマーの3’側の1塩基だけでも鋳型DNAと相補的でなければ、プライマーと鋳型DNAは宙ぶらりんの状態になって、DNAポリメラーゼの反応が進行しにくくなります。

 

 このような事情から、Aaのあいだで1塩基だけ違うところを3’末端に持つ2種類のプライマーを設計するのがいいことがわかります。

このように設計したプライマーを、Aプライマー、aプライマーと名付けておきます。

PCRにはふたつのプライマーが必要になりますので、両者に共通の相方のプライマーも設計します。

 

 お酒がよく飲める人の遺伝子型はAAです。

この表現型の人から抽出したDNAにはA遺伝子しかありません。

つまり、Aプライマーを使ってPCR反応を行うと目的の部分が増幅します。

一方、aプライマーを使ってPCR反応を行うと、鋳型のDNAにはaプライマーの結合する部分がないため、PCR反応が起きません。

 

 お酒がまったく飲めない人の場合は、遺伝子型がaaなので、先ほどとは逆に、aプライマーでPCR産物はできますが、AプライマーではPCR産物ができないことがわかります。

 

 お酒に弱い人の遺伝子型はAaです。

この場合は、Aプライマーもaプライマーも両方ともPCR反応が起こり、両反応ともPCR産物ができます。

 

 髪の毛などから抽出したDNA2本のチューブにとり、それぞれにAプライマー、aプライマーを含むPCR反応溶液を加えます。

反応後、アガロースゲル電気泳動法により分離し、PCR産物の有無を可視化することで、遺伝子型を判定することができます。

 

 この方法には若干欠点があります。

プライマーと鋳型DNAの結合のしやすさには溶液の温度が関係してきます。

あまり温度が低すぎると、2種類のプライマーを区別しないで結合してしまい、温度が高すぎると両プライマーとも鋳型に結合できなくなってしまいます。

そこで、試行錯誤をしながら、適切な結合温度を決める必要があります。

 

 プロテイナーゼで抽出したような不純物をたくさん含むDNA溶液を鋳型に使った場合では、プライマーとの結合に不純物が妨害するなどの理由で、思った通りに反応しないことがあります。

たとえば、遺伝子型がAAの人なのにaプライマーが結合してしまうことなどが起こります。

このような場合、電気泳動の結果から誤判定をしてしまうことになります。

 

 別の方法を併用することで、誤判定を避けることができます。

たとえば、A遺伝子とa遺伝子のちがいを含むPCR断片をあるひと組のプライマーを使って増幅します。

この場合、遺伝子型にかかわらずすべての人でPCR断片ができます。

 

 増幅した断片にどちらの配列を持つかを判定する方法のひとつに、制限酵素を利用する方法があります。

制限酵素はある特定の配列を認識して、DNAを切断します。両遺伝子の間でちがう部分を含む配列を認識する制限酵素を探し、たとえば、A遺伝子の配列は切断するがa遺伝子の配列は切断しない制限酵素を探します。

 

 運良く見つかれば、先ほどの増幅断片を制限酵素による反応に使い、アガロースゲル電気泳動法により可視化します。

AA遺伝子型の人の場合、すべての増幅断片が制限酵素に切れるため、短くなります。aa遺伝子型の人の増幅断片は制限酵素で切れません。

Aa遺伝子型の人の場合、増幅断片のうち半分は制限酵素で切れ、半分は切れません。

したがって、電気泳動では未切断と切断断片の2本のバンドが見えることになります。

 

 このふたつの方法を併用することで、1回のPCR反応と1回の制限酵素反応、および電気泳動により遺伝子型の判定ができることになります。

なれてくると、DNA抽出から最終判定まで1日でできます。

 

 

 

(コラム)カルタヘナ法 遺伝子組換え生物を使うルール

 

 組換えDNA実験のような生物の遺伝子をいじくるような実験は、科学者であれば誰でもなんでもやってもいいというわけではありません。

現在の日本では、遺伝子組換え生物などにかんする規制する法律「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(長いので略して「カルタヘナ法」)というのがあり、この法律や関連するルールに従って実験を進める必要があります。

 

 1973年、大腸菌を用いて組換えDNA技術がはじめて確立され、1975年には早くも通称「アシロマ会議」が開催され、安全性対策が検討されました。

1976年、アメリカ国立衛生研究所が組換えDNA実験ガイドラインを制定し、組換えDNA実験のルールが構築されました。

日本では、1979年、文部省と科学技術省において、組換えDNA実験指針が制定されました。

その後、実験結果の積み重ねにより、同指針の厳しい規制は順次見直されながら、20042月まで25年間運用されました。

同指針はカルタヘナ法に引き継がれました。

 

 カルタへの法では独自の「生物」と「遺伝子組換え生物等(カルタヘナ議定書の「改変された生物」)」の定義がなされています。

遺伝子組換え生物等を「拡散を防止しないで行う使用等」(第一種使用等)と「拡散を防止しつつ行う使用等」(第二種使用等)とにわけ、細かい手続きが規定されており、懲役刑を含む罰則まで決めてあります。

関連する政令、省令、告示も多数あり、実験計画を立てる前に法律を勉強し、計画書の作成、認可手続き、適切な処置など多くの手順を踏むことで研究が行われます。

 

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

2007221() 更新

 

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