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第3章 後期の講義内容

 

 3−1.植物の育種と遺伝子組換え食品

 

 

○野菜を水栽培してみると

 

 スーパーなどで売られている野菜の細胞は生きています。

その証拠に、水栽培してみればよくわかります。

たとえば、市販のニンジンを次ページの写真のように切り、水につけておくだけで葉や根が成長します。

実際に3ヶ月栽培してみました。葉や根が成長しているのがわかります。

 

 2005年、兵庫県の相生市で話題になった、ど根性大根の「大ちゃん」。

市の職員により、救出された大根の切れ端が上記のニンジンと同じように水を使って栽培されました。

新しい葉が出るなど2ヶ月以上順調に育ったあと、力尽きて枯れてしまいました。

水での栽培はこれが限度。

その後、専門家により培養技術を使って甦り、またニュースになりました。

ちなみに、大ちゃんのほかにも、道ばたなどのアスファルトの隙間から生えてきた野菜や果物として、「ど根性ナス」などが話題になり、その後「ど根性スイカ」「ど根性カブ」「ど根性キャベツ」「ど根性メロン」などとどまることを知りませんね。

 

 「組織培養」の技術を使って、適当な「植物ホルモン」を含む培地で培養すると、ニンジンの赤いところ一切れからニンジンを再生することができます。

これがクローンニンジンです。

ど根性大根の大ちゃんも組織培養の技術で甦りました。

 

 次項から植物のバイオテクノロジーを解説します。

まず、無性生殖と有性生殖のちがい、組織培養などのクローン技術、古典的なバイオ技術を紹介した後、本題の遺伝子組換え作物についてみていきます。

 

 

 

○植物の育種 遺伝子組換え技術以前の技術

 

 植物のもつ自然の「交配」にたよる育種法があります。

近縁種どうしの交配はできることもありまが、多くは「不稔」になりタネができません。

遠縁種どうしの交配は一般的にできません。

そこで、「組織培養」の技術を使った「細胞融合法」がよく用いられます。

また、組織培養の応用として、様々な組織からクローン再生する技術があります。

これらを理解する上で、「クローン」が重要なキーワードになります。

 

・植物の有性生殖と無性生殖

 高等植物の「有性生殖器官」は花で、雌しべに雄しべの花粉がかかり(受粉)、雌しべの根元の胚珠が成熟し、タネができます。

雄しべと雌しべは減数分裂によってできることから、親とは異なるゲノムをもっており、受精してできた種子もお互いにすべて異なるゲノムです。

たとえば、トウモロコシの食べる実の部分は、ひとつひとつがタネで、それぞれ異なるゲノムをもっています。

トウモロコシの根・茎・葉などの体細胞はすべてクローンですから、すべて同じゲノムです。

スイカのタネも一粒一粒すべて異なるゲノムをもちます。

栗の木になっている栗の実もすべて異なるゲノムです。

 

 一方、植物の無性生殖ではクローン個体ができます。

たとえば、背丈が揃った市販のネギの90%はクローンです。

 

 「無性生殖器官」は体細胞で、このクローンが成長します。

たとえばチューリップの無性生殖器官は球根です。これは本来の根が大きくなったものです。

タマネギは鱗茎がジャガイモは塊茎がそれぞれ葉よりつくられます。

山芋は茎からムカゴができます。いずれの無性生殖器官からも親と全く同じゲノムを持った作物をつくることができます。

そのほかに、アジサイの葉のような挿し木ができるものやブドウのように取り木をして増やすものもあります。

 このように、生殖器官を介さずに無性生殖で増やすことができ、できたものは親のクローンです。

 

 イネやムギなどは無性生殖器官をつくらず、また挿し木も不可能です。

 

 

・組織培養

 伝統的育種の基本技術は組織培養法です。

植物ホルモンの発見などにともない、1960年代に組織培養技術が確立しました。

植物細胞や組織を適当な養水分や成長調節物質(ホルモンなど)を含む人工的に合成された寒天培地の上で増殖させるもので、現在でも多用されます。

葉や茎や根などの分化した細胞をホルモンにより「脱分化」させると未分化の細胞の塊ができます。

これが「カルス」で根、茎、葉などの組織の形を持っていません。

カルスは寒天培地の上で脱分化した状態で培養されることができます。

さらにホルモンにより「再分化」させることもできます。

 

 かつて胡蝶蘭などの高級な花は種子で増やすことが難しく、株分けに頼るしかありませんでした。

1個体から数個体にしか増やすことはできないため、希少価値も含めて文字通り高嶺の花でした。

しかし、胡蝶蘭は組織培養技術により、いくらでも栽培できるようになり、高嶺の花ではなくなりました。

イチゴ、サトイモ、スイカ、トマトなども組織培養で苗がつくられています。種から作る作物とは異なり、組織培養で作った苗はクローンです。

 

 組織培養技術により、人工的に管理された環境において一年中再現性よく実験ができるようにもなりました。

この組織培養技術を応用したものに、「胚培養」、「葯培養」、「プロトプラスト培養」などがあり、さらに異種細胞を融合させる「細胞融合」などがあります。

これらの技術を、以下にまとめておきます。

 

・胚培養

 キャベツと白菜の様な異種間で交配すると受精はするが、胚の成長途中で発生が止まり死んでしまう種の組合せがあります。

この場合、当然種子はできません。

そこで成長可能な未熟な胚の段階で人工的に組織培養をし、ホルモンの調節などで分化させて増殖させることができます。

これが胚培養で、キャベツゲノムと白菜ゲノムが混在しているハクランができました。

千宝菜はキャベツと小松菜から胚培養でつくられました。ナス科、アブラナ科、ウリ科、マメ科、ユリ科、イネ科等の植物から数多くの雑種植物がつくられており、多くの品種が食品となっています。

あまり遠縁の植物間ではこの技術は使えません。

 

・葯培養

 葯とは雄しべの先に付いている花粉の入った袋のことで、生殖細胞なため半数体です。

ある薬品を使うことで倍数化することができます。

葯は減数分裂でつくられることから、多種多様なゲノム構成を持っています。

この多様なゲノムの中から倍数化してから培養することで多様な個体をつくることができます。

イネの品種改良に多用される技術です。

イネのほかにハクサイ、ブロッコリーなどの例があり、200種類を超える植物で葯培養に成功しているといわれています。

 

・プロトプラスト培養

 植物にはセルロースを主成分とする細胞壁という堅い膜があるため簡単には細胞を融合させることはできませんし、遺伝子組換えなどの操作も難しいという制約があります。

そこで、細胞壁をその構成成分のセルロースを分解するセルラーゼなどの酵素で分解し、細胞膜のみの状態である「プロトプラスト」にします。

プロトプラストは変異原による突然変異を起こすことも容易で、遺伝子組換えにも利用しやすく、つぎの細胞融合にも使われます。

たとえば、イネやジャガイモの品種改良に使われています。

 

・細胞融合

 異種の植物からそれぞれプロトプラストを作成し、これらを電気刺激などにより融合させることができます。

この技術で異種植物間の細胞レベルでの雑種ができます。

これを組織培養の技術で分化させ、個体を栽培します。

通常の交配や葯培養ではできない遠縁の植物間でも雑種をつくることができる場合もあります。

1978年、当時の西ドイツで初めて実用化され、ジャガイモとトマトからポマトがつくられました。

その後、日本でもオレンジとカラタチからオレタチがつくられました。

寒さに強いヒエの性質をイネに付加しようとしてヒネがつくられたりしました。

ポマトは地上部にはトマト、地中にはジャガイモがなると予想してつくられましたが、残念ながら商業栽培にまでいたりませんでした。

 

・物質生産

 野生種の薬用ニンジンのような高価で希少価値のあるものを組織培養することにより大量生産ができます。

薬用ニンジンエキスの量産ができ安価に市販されるようになりました。

いわば、植物 (plant) を工場 (plant) にする試みです。

 植物が本来生産する物質の大量培養により生産するのが組織培養といえます。

遺伝子組換え技術を使えば、植物が本来生産しない物質の大量培養により生産することができます。

もちろん、遺伝子組換え技術により、生物が本来つくっている化学物質をより効率よくつくるように改変することもできます。

 

 以上のような技術を使う過程で、種子や細胞を放射線や化学物質により突然変異を誘発させてより多様な品種をつくり出します。

 

 

 

○伝統的な野菜ってなんだろう

 

 主にヨーロッパで普通のカラシナであるセイヨウアブラナから種々の野菜が交配技術などの人為選択でつくられました。

キャベツ、メキャベツ、カブキャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、チリメンキャベツ、ムラサキキャベツ、ハボタン、コールラビー、ケールなどがその仲間です。

ギリシャ・ローマ時代から品種改良され続けていると伝えられています。

最後のケールはいわゆる青汁のもとです。

ちなみに、セイヨウアブラナは非常に不味くて食用にはできないので、ナタネとして植物油をつくるのに栽培されています。

 

 この一群とは別に、普通のアブラナから主に中国大陸や日本でも多くの野菜がつくられています。

蕪、白菜、野沢菜、小松菜、京菜、芥子菜、などです。

アブラナは菜の花として知られていますが、日本で野生化して河原や線路沿いに咲いている黄色い花はセイヨウアブラナのほうです。

 

 もし、ブロッコリーやカリフラワーがなくて、新たにキャベツから両品種をバイオの力で開発したとしましょう。

作り方も遺伝子構成もゲノムの改変箇所を調べてすべて公表し、市販することにします。

すると、「安心」命の市民団体はどう出るでしょうか。

同じ種だといっているが、どう見てもカリフラワーなど花のお化けにしか見えない。

とても親のキャベツからつくられたとは考えられない。

遺伝子を改変してキャベツからこんなフランケンシュタイン食品に形が変化したのであれば、予期せぬ有害な成分を作っているかもしれず、こんなお化けみたいな食べ物を売るのはけしからんと反対するのではないでしょうか。

 

 しかし、「遺伝子くみかえ」食品反対派で自然食万歳のひとたちも、キャベツ、レタス、ブロッコリーやカリフラワーをはじめ、フランケン食品である野菜を健康にいいといって、せっせと毎日食べています。

しかも恐ろしいことに時にはナマ!!で。

 

 

 

○そもそも遺伝子組換え食品とは

 

 狭い意味での遺伝子組換え技術を利用してつくられた作物を使った食品は実はたくさん市販されています。

厚生労働省による安全性審査の手続を経た遺伝子組換え農作物は7作目、76品種あり、年々増えています(200608月現在)。

じゃがいも、大豆、てんさい、とうもろこし、なたね、わた、そしてアルファルファです。

 

 大豆を例にあげると、日本の大豆自給率は4%で、7割以上をアメリカからの輸入に頼っています。

アメリカの遺伝子組換え大豆の作付け割合は89%を越えており、年々増加しています。

日本での豆腐や納豆などの遺伝子組換え表示義務のある食品をすべて非遺伝子組換え大豆でつくろうとおもっても、非組換え大豆が全然足りません。

国産大豆のすべてを豆腐・油揚用に使っても、日本で消費されている豆腐・油揚の3分の1しか作れません。

 

 大腸菌の組換えDNA実験と同じように、植物にも外来遺伝子を導入することができます。

現在、日本で認可されている遺伝子組換え農作物は除草剤耐性と害虫耐性がほとんどです。

それらは世界的に見てその栽培面積は爆発的に増えていると同時に、日本への輸入量も年々増えています。

日本での遺伝子組換え作物の栽培は、許可されていますが、まだ商業栽培はなされていません。

試験栽培すら、反対派による暴力的な圧力(不法に侵入し、強制的にトラクターで鋤き込む)により、ままならない状態です。

 

 細胞に遺伝子を導入する方法として、「アグロバクテリウム法」と「パーティクルガン法」がよく用いられます。

パーティクルガン法は目的遺伝子を含むDNAを銃弾にこめ、細胞に打ち込むというちょっと荒っぽい方法です。

 

 

 

 

○アグロバクテリウム法 よく使われる遺伝子導入法

 

 アグロバクテリウム法は大腸菌を使った組換え技術と同じように、自然界でおこる遺伝子組換えを人工的に利用し、人が少し手を加えることで実現する遺伝子導入方法です。

 

 土壌細菌の一種 Agrobacterium tumefaciens は、バラ、リンゴ、モモなどの幹の地表近くに「こぶ」をつくる性質を持っています。

このこぶを「クラウンゴール」といいます。

植物の癌です。この細菌にはゲノムDNAのほかにTiプラスミドという環状DNAを持っています。

このプラスミド上にT-DNAというDNA領域があります。

この細菌が植物に感染すると、T-DNA領域を自ら切り出し、宿主の植物の核DNAに入りこむ性質を持っています。

T-DNA上には細胞分化を促進する植物ホルモンをつくる遺伝子が乗っています。この性質のため、宿主植物にこぶができます。

 

 T-DNA上には、ほかにも遺伝子が乗っています。

その遺伝子の代わりに作物に組み込みたい遺伝子を入れます。

このアグロバクテリウムを作物に感染させることで目的遺伝子を導入することができます。

この方法による遺伝子組換え植物が1984年、はじめて作られました。

翌年には除草剤耐性植物が完成しています。

現在認可されている遺伝子組換え作物に組み込まれている遺伝子は次の2種類が多く用いられていますので、この2種の遺伝子組換え作物を中心に説明します。

 

害虫抵抗性 特定の害虫に対して殺虫作用を持つ

      今のところ全て Btタンパク質の遺伝子

除草剤耐性 特定の農薬の効果をうち消す性質をもつ

 

 

○害虫抵抗性遺伝子組換え作物

 

 

 害虫抵抗性の品種に組み込む遺伝子は40年も前からバイオ農薬として使われている「Bt毒素」の遺伝子です。

Bt毒素は土壌細菌Bacillus thuringiensisがつくります。

鱗翅目(ガやチョウ)などのある特定の昆虫の幼虫が食べると、腸の粘膜が壊れて栄養が吸収できなくなり死にます。

基本的にはタンパク質農薬なため、散布しても簡単に流されてしまう欠点があります。

たとえばトウモロコシの害虫のアワノメイガの幼虫は茎の中に入り込んでいて(この幼虫がトウモロコシの茎を食い尽くし折れる)、茎の中の昆虫に効果がありません。

 

 そこで、Bt毒素を作物自身につくらせれば、その作物をかじった昆虫は死ぬのではとの発想で、Bt毒素の遺伝子を作物の中に入れることが考えられ、トウモロコシや大豆などにこのBt毒素遺伝子が導入されたのがつくられました。

 

 Bt毒素は40年の使用歴があり、その安全性はいろいろと調べられています。

Bt毒素タンパク質は酸性に弱い。昆虫の胃はアルカリ性のためBt毒素が消化されず腸に行きます。

ヒトの場合は強い胃酸のおかげで摂取したBt毒素は胃でほかの食品由来のタンパク質と一緒に簡単に分解されてしまいます。

胃を切除してしまったヒトなら摂取したタンパク質が腸に達してしまいますが、心配いりません。

Bt毒素はあるタンパク質に結合することにより力を発揮します。

そのタンパク質を持つ昆虫の腸では両者が結合し、その細胞は破壊され、結果的に消化不良などを起こして死んでしまいます。

しかし、ヒトの腸にはそのタンパク質はないため、Bt毒素が腸に達したとしても、ほかの食品由来のタンパク質と同様、分解されて排泄されます。

 

 

 

 

○除草剤耐性遺伝子組換え作物など

 

 グリホサートと呼ばれる除草剤の効果を打ち消す遺伝子を導入することで除草剤耐性遺伝子組換え作物がつくられました。

導入された遺伝子産物は、ある「芳香族アミノ酸」をつくるのに必要な酵素の反応を阻止する「阻害剤」に対抗するものです。

この芳香族アミノ酸はヒトにとっては必須アミノ酸です。

つまりヒトは生合成しません。植物はすべてのアミノ酸を生合成します。

このことから、ヒトなどの動物はこの阻害剤のターゲットになる代謝経路を持っていないため、阻害剤の影響を受けません。

植物にとっては、この芳香族アミノ酸を合成する経路がないと致命的なことから、この阻害剤により致死です。

 

 この阻害剤であるグリホサートは、一般の農薬とちがって、植物の種類を選ばない非選択的除草剤であり、この除草剤がかかると作物も枯れてしまうので、収穫後に使ったりします。

畑にグリホサートをまくと、この除草剤を無効にする遺伝子が導入された植物のみが生き残り、ほかの雑草などは生育できず枯れます。

よくグリホサートは農薬として「強力」だとの誤解がありますが、非選択的であるというだけで、急性毒性も食塩より弱いです。

 

 遺伝子組換え農作物として、ほかにも、有用物質を生産するもの、たとえば、ヒトのワクチンをつくる食べるワクチン、不足しているビタミンを補うゴールデンライス、糖尿病対策米、花粉症緩和米、ヒトの医薬品、たとえば、インスリン、ヘモグロビン、ヒト血清アルブミン、C型肝炎ワクチンなどをつくる野菜などが研究されています。

また、栽培時の環境ストレスに耐える作物、環境中の有害物質を浄化する植物などの開発も進んでいます。

 

 

 

 

○遺伝子組換え食品をつくるときの問題点

 

 アグロバクテリウム法で遺伝子を導入する場合、目的とする遺伝子以外に導入されるDNA領域があります。

「抗生物質耐性遺伝子」で、その産物はある特定の抗生物質の働きを無効にします。

抗生物質耐性遺伝子は、目的の遺伝子を作物に組み込む際にそれが本当に組み込まれたかをチェックする目的で使われます。

遺伝子の運び屋であるベクターには目的の遺伝子と抗生物質耐性遺伝子が組み込まれています。

このベクターによる遺伝子導入の結果、両方の遺伝子がターゲット食品のゲノムに組み込まれることになります。

該当する抗生物質入りの培地で培養すると、ベクターにより遺伝子が導入された細胞は生き残りますが、組込みが失敗した細胞は死んでしまいます。

このような大変シンプルなしくみにより、効率よくベクターによって遺伝子が導入された細胞のみを選別することができます。

 

 この抗生物質耐性遺伝子を問題視するグループもあります。

この遺伝子組換え食品を食べると、抗生物質耐性遺伝子とその産物を食べることになり、腸内細菌が抗生物質耐性を獲得するのではないかとの恐れです。

しかし、植物に組み込まれた抗生物質耐性遺伝子がヒトの体内の細菌に移る可能性は全くといっていいくらいないことがわかっています。

もしそれができるのなら、遺伝子組換え食品に限らず、食品中の遺伝子が自由に腸内細菌などに導入されることになってしまい、種を越えたダイナミックな組換えが自然に起こってしまうことになってしまいます。

 

 しかし、抗生物質耐性遺伝子を問題視する声をふさぐためにも、最近は選別方法に抗生物質耐性遺伝子以外を利用することが多くなりました。

 

 

 

 

○国産遺伝子組換え作物の花形 スギ花粉症緩和米

 

 国産の遺伝子組換え作物としてもっとも注目を集めているのが花粉症緩和米です。

独立行政法人農業生物資源研究所が総力を挙げて開発している作物で、消費者にとってもメリットが大きい。

 

 今や国民病ともいえる花粉症。

この花粉症の原因物質のダミーをつくるイネが開発中です。

このイネを食べれば花粉症を緩和してくれるかもという期待の大きい作物です。

このような、病気対策としても遺伝子組換え技術は使えます。2005年度からつくば市にある隔離圃場で栽培が始まり、収穫した米はマウス(実験用のネズミ)を使った花粉症緩和効果の確認試験やマウスのほか、ラット(実験用のネズミ)、サル(カニクイザル)などに食べさせて、食品としての安全性試験などに使われました。

2006年の1作目は87日に無事収穫されました(写真はその1週間前)

 

 同研究所では、前項で指摘した遺伝子組換え作物の問題点のひとつである抗生物質耐性遺伝子を使わずに組換え作物をつくることにも取り組んでいます。

このような消費者に目に見える形のメリットのある組換え作物の開発が進めば、遺伝子組換え作物に対する認識も代わってくるかもしれません。

 

 人気作家内田康夫の浅見光彦シリーズの「悪魔の種子」(幻冬舎・2005年)は花粉症緩和米が事件の鍵です。

花粉症緩和米や育種のことも説明されていて、ちょっとためになります。

でも、殺人事件の動機の設定がかなり強引なので、謎解きそのものが成立しないのが悔やまれます。

タイトルも悪趣味ですね。花粉症の人にとっては「天使の種子」だと思いますが。

それにしてもなぜ「こんなことで」研究者が殺されるのか読み終えても謎です。

 

 

 

○ワクチンを作る遺伝子組換えジャガイモ

 

 ニワトリにも多くの病気があります。

そのうちロイコチトゾーン病という原虫病は、この原虫に感染するとニワトリ自体は死にませんが、採卵率がかなり低下します。

この病原虫の抗原遺伝子が単離されており、この抗原を使ったワクチンも市販されています。

このワクチンはヒナの時に注射で接種されますが、いつまでも効果が続くわけではなく再接種する必要があります。

しかし、ひとつの養鶏業者で数万から数十万羽のニワトリを飼育している大規模な飼育舎の中で、1羽ずつワクチンを再接種するのはほとんど不可能です。

 

 そこで、2004年、抗原遺伝子を組換えた餌が開発されました。

ターゲットになった植物はジャガイモで、その中に病原虫の原因抗原遺伝子が導入されました。

このワクチンをつくる組換えジャガイモの葉をニワトリに食べさせると、つまりワクチンを経口投与すると、病原虫に対するワクチンとしての効果があることが確認されました。

この方法だと、ジャガイモの栽培コストは低く、通常の餌に組換えジャガイモの葉を混ぜるだけでワクチン投与できます。

そのため大規模養鶏業者にも効率よく病気予防できる道が開かれました。

 

 今後同様の組換え植物が作られるものと思われます。

大腸菌などを使って、同じ病原虫に対応した組換え型の抗原を作ってそれをワクチンとして投与する試みもありましたが、ジャガイモを使った組換えワクチンほど予防効果は上がっていません。

同じ抗原タンパク質を組換えたにもかかわらず、植物ではうまくいくが大腸菌では効果がない理由は、今のところわかっていません。

 

 

 

○遺伝子組換えコカ

 

 麻薬組織が巨費投入、「夢の遺伝子組み換えコカ」開発

(朝日新聞 2004825日)

 

 遺伝子組換え技術は、ある生物のゲノムに同種または異種の生物の遺伝子を組み込むことができます。

どんな生物にどんな遺伝子を組み込むかはアイデア次第です。

先のワクチン組込みジャガイモのような有用な生物も作れますが、このニュースのように、一部の人にとって有用になる一般にとって悪用ももちろん可能です。

 

 よく誤解されて主張されることですが、原子力開発やネットワーク環境など、悪用されるからその技術はダメ、といった議論はもちろん成り立ちません。

 

 

 

○青いバラ

 

 「青いバラ」という言葉は「不可能」と同義語でした。

多くの育種家が青いバラを作ろうと長年トライしましたが、結局誰も成功しませんでした。

バラ以外に青い花が咲く植物はあります。つまり、花を青くする遺伝子があるはずです。

実際探すと見つかり、単離されました。原理的にはその遺伝子をバラゲノムに遺伝子組換え技術を応用して導入すれば、青いバラができるはずです。

 

 実際にはそれほど単純ではありませんでしたが、20046月、サントリーが青いバラを開発し、発表しました。

2007年には市販される予定です。

花の青い色素はデルフィニジンと呼ばれる化合物で、この化合物を合成する遺伝子はバラにはありません。

パンジー由来のデルフィニジン合成遺伝子をバラに導入して青いバラが開発されました。

 

 青いバラに先立ち、同じサントリーは青いカーネーションを開発しています。

これは、ペチュニアなどの青色色素合成酵素の遺伝子を導入して作られ、ムーンダストというブランドで1997年から首都圏などで限定販売が開始されました。

20052月から全国で販売されるようになりました。

次の写真は、バイテクコミュニケーションハウスの懸賞で当たったもので、20053月に手に入れた青いカーネーションです。

「プリンセスブルー」、「ディープブルー」および「ライラックブルー」の3色が市販されています。

 

 

 

 

○遺伝子組換え食品の表示制度

 

 食品衛生法により、遺伝子組換え食品に「遺伝子組換え」などの表示義務があります。市販が認められている遺伝子組換え農作物には、ダイズ、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ、綿実、アルファルファ、テンサイがあり、これらを使った食品や加工物に表示しないといけません。アルファルファは200510月に、テンサイは20069月に追加されました。

 

 表示義務のある品目はその中に原料の植物由来のDNAやタンパク質が残っているものに限られます。

遺伝子組換え作物由来かどうかを判定するのに、PCR法が用いられます。PCR法でDNA鑑定するためには必ず試料としてDNAが必要になります。

植物オイルのようにその食品の中にDNAが含まれていない場合は、DNA鑑定することができないため、表示が適切かどうかの検査ができません。

したがって、植物オイルのようなDNAが残っていない加工食品には表示義務がありません。

 

 流通の過程で、意図しない混入がどうしても生じますし、分別しないで流通することもあります。

そこで混入が5%を越えると「遺伝子組換え」あるいは「遺伝子組換え不分別」と表示する義務があります。

混入が5%未満なら表示しなくてよいが、「遺伝子組換えでない」と表示をしてもかまわないことになっています。

逆にいうと、「遺伝子組換えでない」とかかれていても、5%までの遺伝子組換え食品が含まれていても違反にはなりません。

遺伝子組換え表示を義務づけられている6作物以外で「遺伝子組換えでない」表示をすることは禁じられています。

 

資料:遺伝子組換え表示の概要(厚生労働省)

        http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/02/s0218-7e.html

 

資料:食品表示に関する共通Q&A(厚生労働省・農林水産省)

        http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/kakou3/index.html

 

資料:遺伝子組み換え食品に関する表示制度の基準を一部改正[平成181116](バイテクコミュニケーションハウス)

        http://www.biotech-house.jp/news/news_366.html

 

 

 食品衛生法に遺伝子組換え関連の表示が義務づけられたアルファルファとテンサイについて、少し解説します。

 

 アルファルファは主に牧草やペットのエサなどに使われる草で、遺伝子や生物研究にも使われています。

人が食べるものとしては、もやしのようなスプラウトの状態でサラダとして食べる程度のようです。

健康食品として、錠剤などの形でも売られています。

スプラウトがブームのときは、アルファルファがスーパーでも売られていましたが、今はスーパーなどで見かけることはなく、通販で購入するぐらいしかありません。

 

通販で購入したアルファルファのスプラウト

 

 アルファルファのタネも、一般のタネ屋さんで見つけることができませんでした。

100円ショップで売っているスプラウト用のタネを10日間栽培してみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 テンサイは別名サトウダイコンとも呼ばれており、サトウキビとならんで砂糖の主要原料です。

寒さに強く、寒冷地作物として栽培されることが多く、日本では北海道で栽培されています。

根の部分に糖が多く含まれており、根から食用などの砂糖が抽出され、絞りかすは家畜の肥料に使われています。

日本の砂糖消費量の約25%がテンサイ由来といわれています。

食品としてのテンサイ糖にはDNA残存しないため、遺伝子組換えの表示義務はありません。

テンサイを使った加工食品として、テンサイの天ぷらがあるらしい。

この天ぷらの場合は表示義務があります。

遺伝子組換えテンサイは2品種有り、いずれも除草剤耐性です。

 

 

 

○遺伝子組換え不分別

 

 表示制度がスタートしたときは、「遺伝子組換え」表示のスナック菓子などが売られていましたが、今は序章で見た「納豆のススメ」しか見当たりません。

「遺伝子組換え不分別」表示の食品もあまり見かけません。

 

 生産や流通過程で遺伝子組換え作物と非組換え作物の分別が充分でない原料を使い、その原料自身を販売したり、その原料由来のDNAやタンパク質が残存している加工食品を販売したりするときには、「遺伝子組換え不分別」の表示が義務づけられています。

 

 サラダオイルやマーガリンなど植物オイルを使った商品の原料である、ナタネ、ダイズ、トウモロコシはいずれも自給率が悪く、3種とも世界における遺伝子組換え型の作付面積は年々高まっています。

国産ダイズでダイズ油をつくる余裕はなく、輸入品もほとんど遺伝子組換えであるため、植物オイルなどの加工品の原料を国産品や非遺伝子組換え食品で作るのは難しくなっています。

 

 植物オイルの中に原料のDNAやタンパク質が残こらないため、たとえ遺伝子組換え作物を原料として100%使用していたとしても、オイルなどの加工食品には遺伝子組換え作物を使用したかどうかの表示義務はありません。

このような事情から、おそらくほとんどの食用オイルの原料に使われているナタネやダイズなどは遺伝子組換えであると思われますが、大手メーカーの食用オイルにあえて「遺伝子組換え」表示をしているものはみあたりません。

 

 そんな中で、日本生活協同組合連合会(生協)の提供する生協オリジナルブランド品やイオングループの独自ブランド「トップバリュ」は、JAS法とは別に「遺伝子組換え」を表示する商品の選別を独自に行っており、義務ではない「遺伝子組換え不分別」表示をした商品が売られています。

 

 実際どのような商品が売られているのか、広島県東広島市のコープ八本松および広島県呉市のコープ焼山、コープ政畝で販売している「遺伝子組換え不分別」商品を調査し購入しました。

 

 詳しくは 市販されている遺伝子組換え食品 に記載しています。

 

 調査は20048月、20053月、20064月に行いました。同一品目で容量の異なるものは省きました。

 

 生協の「遺伝子組換え不分別」表示のある商品は45品目あり、サラダ油、調味料、マーガリン、スナック菓子など多彩でした。

その原材料のうち32品目が植物油脂、10品目が醤油、3品目がコーンスターチでした。原材料の植物別では延べ数で、なたね24、大豆13、トウモロコシ11、綿実3でした。

遺伝子組換え表示義務のある商品はコーンスターチを原材料にした商品だけでした。

 

 生協内でも表示を徹底していないため、同様の品目でも「遺伝子組換え」表示を全くしていないものも多くありました。

「遺伝子組換え不分別」表示をしている遺伝子組換え表示義務のある原材料を使用したコープブランド商品では、「遺伝子組換えでない」表示あるいは無表示でした。

遺伝子組換え作物の混入率が5%未満であれば表示する義務はないため、無表示でも違反ではありません。

イオングループのジャスコでも多数の遺伝子組換え不分別商品が売られています。

こちらはペットボトルのスポーツドリンク、ビタミン剤、栄養食など多彩です。

 

 

 

○意図せざる混入

 

 アメリカなどのトウモロコシやダイズの大型農地では収穫期になると大型コンバインで畑ごと、あるいは品種ごとに収穫し、自宅の倉庫に保管後、市況を見てタイミングよく売りに出すのが一般的です。

 

 まず、生産農家の保管庫からカントリーエレベータと呼ばれる集荷所へ運ばれます。

カントリーエレベータは巨大な農業生産地ごとに比較的多数あります。ここからさらに、ミシシッピ川の荷済み拠点であるリバーエレベータに集められます。

1500 tの艀(はしけ)に品目ごとに積まれます。

1000 km下流の輸出港であるルイジアナ州ニューオーリンズまで12週間で運ばれます。

輸出用作物の3/4近くが船積みされる輸出用の巨大な基地があります。

はしけが着くと仲買業者から作物を買い上げ、ベルトコンベヤーでサイロにあげられます。

はしけごとに分別、計量、品質チェックを経て輸出許可が下ります。このように、巨大な流通経路が確立されていて、効率よく運搬されています。

 

 トウモロコシの場合、多種類ある品種ごとに分けることはせず、ひとつのコンテナにしきりもせずに詰め込まれて運ばれます。

遺伝子組換え農産物とそれ以外を分別して流通させようとすると、新規に流通経路をつくる必要がありますが、コストなどを考えると不可能に近いです。

そこで、同じラインを使って分別することになりますが、分別するためには、ベルトコンベヤーをカラ回ししたり、人が入ってサイロを清掃したりする手間と人件費がかかり、この場合でもコストに跳ね返ることになります。

 

 実際には収穫のコンバイン、トラック、倉庫、集荷施設、船などの各段階で混入チェックし、書類で洗浄などしたことを証明する必要があります。

いわゆる分別生産流通管理・IPハンドリングです。

このチェックで、混入が5%までなら実行できるため、表示の規制も5%になっています。

この割合を下げることはもちろん可能ですが、コストや設備投資などを考えると、現実的ではありません。

 

 

 

○地方自治体の反乱

 

 日本では、安全性が確認された遺伝子組換え作物を栽培することがすでに認可されています。

遺伝子組換え作物を試験栽培するだけで、反対派らにより暴力的にほ場を破壊されてしまう現状では、商業栽培されるまでまだ日数がかかりそうです。

 

 認可された品種を自分のほ場で栽培することは全くの自由であり、それを販売することも自由です。

しかしながら、これに反旗を翻し、遺伝子組換え作物の商業栽培を実質的に禁止する条例や指針を策定した自治体があります。

北海道(条例:2005331日制定)、茨城県(方針:200434日)、滋賀県(指針:2004820日)、岩手県(ガイドライン:2004914日)、徳島県(ガイドライン:2006515日)です。

北海道は20061月に新条例が施行されました。

いずれも科学的な根拠や国の認可を全く無視する暴挙です。

さらに、東京都で「指針」、新潟県で厳しい罰則付きの「条例」が制定されようとしています。

 

 北海道の条例は北海道内で一粒たりとも遺伝子組換え作物を栽培させないとの過激な方針で作られています。

一応、北海道内で遺伝子組換え作物を栽培することは可能ですが、そのための手続きが多く、なにより審査料に大金がかかります。

この条例に従って栽培しようと考える農家は皆無でしょう。

 

 その北海道内で大きな矛盾が生じています。

2005年、北海道で緑肥用として栽培されていたトウモロコシを枯らすため、除草剤を使うと枯れないトウモロコシが発見されました。

このトウモロコシの遺伝子鑑定の結果、アメリカ産の除草剤耐性遺伝子組換えトウモロコシであることが確認されました。

すでに北海道内において、意図せざる混入により遺伝子組換え作物が栽培されているわけです。

 

 日本におけるトウモロコシの自給率はほぼ0%で、わずかに国内で栽培されているトウモロコシのタネの99%以上はアメリカなどからの輸入です。

すなわち、国産のタネで国内栽培されているトウモロコシはほとんどありません。

輸入タネの品質管理は厳重になされているはずですが、遺伝子組換え型のタネの混入をゼロにすることは不可能であることから、今後もこの「混入」事件は起こりえるだろうし、現に発覚した例だけでなく、北海道内に限らず全国で遺伝子組換え作物が栽培されていると考えられます。

 

 北海道の条例では、未認可のまま遺伝子組換え作物を栽培すると重い罰則規定があります。

この意図せざる混入タネを使った場合も立派な遺伝子組換え作物の栽培になりますが、なぜかこの場合は条例に適応されないというのが道の見解です。

おもしろいことに、意図的か意図的でないかの判定は神である道なら可能であるらしく、その場合は例外であるから、一粒たりとも栽培させないという裏標語は有効であるらしい。

 

 条例を策定する唯一の根拠は風評被害です。

くどいようですが、科学的根拠は一切考慮されていませんし、食品としての安全性を科学的に考慮せずに作られた条例です。

それだけで農民や消費者の選択をせばめようとしています。

商業栽培だけでなく、研究開発における栽培にまで規制を設けようとしています。

この風評被害というのは、マスコミが演じたマッチポンプです。

世論がつくったものではありません。それだけに、かなり悪質な論理です。

 

 北海道にとってはこのようなキャンペーンは功を奏しているのかもしれません。

たとえば、北海道が行った道民の意識調査を見てみると、北海道産の食品を9割の人が安全であると認識し、遺伝子組換え作物を食べることを8割の人が不安を感じているそうです。見事な「洗脳」成果です。

 

 日本において、このような意味のない停滞をしている間に、世界ではこの分野の研究開発がよりいっそう進み、すでに日本は取り残されています。

欧州各国もアメリカとの対抗やBSE騒動の反省もあり、比較的遺伝子組換え作物には厳しい態度を取っていました。

日本と同様、反対派による運動も盛んでした。

日本の反対派も、欧州での運動を参考にし、反対する根拠に欧州での言動をあげるなど、連動して提携もしていました(欧州の中では、フランスとスペインで遺伝子組換え作物の商業栽培が認可されていて、特にスペインでは数年間の栽培実績があります。他の国々は日本とよく似ています)。

 

 このように、過去形で欧州の動きを紹介しているのは、欧州が2004年以降大きく動いたからです。

欧州委員会は遺伝子組換え作物にかんする総合的な議論の結果、200498日、EU全域での遺伝子組換え作物の商業栽培を正式に認可しました。

輸入解禁に次いでの英断です。日本でのこのニュースの扱いは小さく、朝日新聞などは外電として伝えただけでした。

毎日新聞は比較的詳しく報道しています。しかし内容はしぶしぶといった感情が出ていておもしろい。

 

 EU内には2種類の種子の販売認可システムがあります。

ある特定の国だけの販売許可をする国内種子カタログ登録と、欧州全域(25カ国)の販売認可をするEU全域種子カタログ登録です。

今回新たに登録されたのはEU全域種子カタログ登録で、認可されたのはBt毒素タンパク質遺伝子を導入したトウモロコシ17品種です。

このうち、6品種がフランスで、11品種がスペインで国内種子カタログ登録されていて、それぞれの国内ですでに栽培されていました。

欧州委員会の委員は、「今回認可した品種の人の健康と環境に与える影響を徹底的に検証しました。

スペインでは数年間の栽培実績がありますが、今まで何ら問題は発生していません。

農業従事者の選択のため、この組換えトウモロコシの種子は明確に組換え体であることを表示して流通させる」と言っています。

このように、遺伝子組換え作物に対してかたくなに反対していた欧州が急旋回したことの影響は大きい。

日本の反対派の中でも、欧州の実績を盾にした反対運動もできなくなりました。

北米、中南米、アジア大陸では、遺伝子組換え作物の作付面積が急速に拡大しています。

これを機に、欧州でも栽培が盛んになると、いよいよ日本の孤立が進むことになります。

 

 日本の食料自給率はカロリーベースで40%。遺伝子組換え品種のあるダイズ、トウモロコシ、ナタネでみれば、ダイズが5%の自給率があるほかはトウモロコシとナタネの自給率はほぼ0%です。

日本は遺伝子組換え作物の世界有数の輸入国です(公式な統計がない)。

日本は立派な遺伝子組換え作物の消費大国です。これはまぎれもない事実です。

しかし、日本の消費者の大半は遺伝子組換え作物を日本で消費していないと思っています。

大量に輸入・消費していながら、国内では一粒たりとも栽培させないと頑張っています。

研究開発は停滞し、試験栽培をしようとしても訴訟を起こされたり、暴力的にほ場を破壊されたりします。

日本では応用を目指した研究開発は完全に息の根を止められています。

 

 スーパーに行けば、北海道産のダイズ使用と明記した加工食品が多数出回っています。

しかし、北海道産のダイズ生産量はそれほど多くありません。

今回の北海道などの地方自治体の反乱は、目先の利益だけしか考えていません。

自治体も消費者も世界の現状をふまえ、国の長期的な食糧政策を真剣に考える必要があります。

欧州は、軍事や経済面と同様、この分野でもしたたかです。

 

 

 

○日本の遺伝子組換え食品の消費量は世界第3位?

 

 遺伝子組換え食品を食べたことがないという人は意外と多い。

スーバーなどに行けば、「遺伝子組換え大豆は使用しておりません」などと書いてあるから、この文さえ書いてあれば安心、などと思ってその加工食品を食べているが、実は遺伝子組換えダイズはかなり消費されています。

 

 ダイズの場合、国産品はわずか年間16万トン(2004年)で、自給率は5%ぐらいです。

500万トン以上輸入に頼っています。アメリカからの輸入が最大で400万トン、アメリカでの遺伝子組換えダイズの作付け割合は89%2006年)で、年々増加しています。

 

 ダイズ製品である豆腐・油揚に使われるダイズの量は年間50万トン、おなじく納豆に14万トン、味噌・醤油に18万トンです。

 

 #最近、食品添加物のみから作られた醤油風調味料もよく売られています。

 #ダイズを使っていないのに、醤油を名乗っているので注意が必要です。

 

 一応、日本のスーパーで売られているダイズ加工食品をみると、納豆や豆腐は国産大豆であることを高らかに表示し、豆の形が残っている多くのダイズ加工食品にも国産ダイズ使用と表示してあります。

この表示が正しいのであれば、日本のダイズ自給率はもっと高くなければならない。

DNA鑑定により、遺伝子組換えダイズ使用の加工食品がかなり出回っていることが確認されています。

意外なことかもしれないが、いやあたりまえなことではありますが、じつは日本は遺伝子組換え作物の消費量が世界第2位か3位ぐらいであろうと見られています。

1位はもちろんアメリカです。

中国の遺伝子組換え作物の作付けが急速に増えているため、その多くがまだ輸出用のため中国国内での消費量はまだ増えていないかもしれません。

日本の場合、国産の遺伝子組換え作物はゼロだから安心、などといっていられないはずです。

トウモロコシやナタネ、棉花となると、自給率は0.0%といった単位であり、国産品は1000分の1以下です。

わずかに日本で栽培しているトウモロコシも、そのタネの100%近くはアメリカなどからの輸入です。

ちなみに、アメリカでの遺伝子組換えトウモロコシの作付け割合は61%2006年)、ワタのそれは83%2006年)とかなり高い割合です。

日本の人口は世界の2%ですが、世界の農産物の貿易高の12%は日本が占めています。

日本の食料は必要以上に膨大な量を消費しています。

遺伝子組換え農産物の作付面積の割合は年々増えていることを考え合わせると、遺伝子組換え農作物の消費量世界第3位以内の座はしばらく不動と思われます。

 

 北海道などの地方が展開している、一粒たりとも遺伝子組換え作物を作らせない、持ち込ませないといった運動がむなしく聞こえるのではないでしょうか。

 

 

 

○ゲノムと遺伝子

 

 2006年の科学技術週間(文部科学省)の目玉は「一家に1枚ヒトゲノムマップ」でした。

A1版の楽しいポスターが全国の博物館などで配布されました。

Web版もあります。

一家に1枚ということで、ゲノムや遺伝子のことを一般の人や中学生にもわかるように視覚的かつ系統的に本書より高いレベルで説明されています。

ゲノムという用語も広まってきたのかなという印象を受けます。

しかし、一般の人にゲノムと遺伝子のちがいは、と聞いてもなかなかうまく説明できないかもしれません。

 

 ゲノムというところを遺伝子といってしまう例はよく見かけます。

少し古いのですが、2001年、ヒトゲノムの概要版の発表がニュースになったとき、朝日新聞のクロスワードパズルでおもしろい問題を見つけました。

 

 200178日付朝日新聞日曜版の「パズルで遊ぼう」のクイズの中で(出題:ニコリ)、「人間のこれの情報は全て解読されたとか」というヒントに対し、その答えとして「遺伝子」を選ばせるものがありました。

これに対し、朝日新聞社日曜版編集部宛に、間違いを指摘する投書をすると、次のような丁重な返事が返ってきました。

――――――――――――――――――――――――――――

78日付け「パズルで遊ぼう」の「人間のこれの情報はすべて解読されたとか」というヒントが間違いであるというご指摘をいただき、どうもありがとうございました。

 

 この漢字パズルは、パズル雑誌制作会社「ニコリ」に全面的に依頼しているものではありますが、編集責任はもちろん私ども編集部にあります。

 

 おっしゃるように、このヒントで最も相応しい答えは「(ヒト)ゲノム(の塩基配列)」だと思います。

朝日新聞では、ヒトゲノムの説明として「人の遺伝情報全体」と言い換えをしており、今回のパズルですと、強いて言えば「遺伝情報」を答えとして出すのが適切であったろうと思います。

「ゲノム」と「遺伝子」を混同したまま、紙面化してしまいました。

今後は十分、注意してまいります。

 

(中略)、「遺伝子」が分からなかったために答えを出せなかったというご意見はなかったので、答えを導き出すのに誤った方向性は与えていないのではないかと思いますが、あまり弁解にはなりません。

 

 今後とも、ご意見、ご指摘、どうぞよろしくお願いいたします。

 

朝日新聞日曜版編集部】

――――――――――――――――――――――――――――

 

 この投稿と回答、何が問題になっているかわかりますか?

 

 もし、この時点でまだわからなくても心配いりません。ゲノムと遺伝子のちがいはこの後何度も取りあげます。

 

 このクロスワードのヒントには「解読」というやっかいな語も使われています。誤解しやすい言葉なので、別の項目で取りあげます。

 

 

 

○ゲノムと遺伝子のちがい 古典技術と遺伝子組換え技術とのちがい

 

 本章の最後に、ゲノムと遺伝子をキーワードにして従来の品種改良と遺伝子組換え技術とのちがいについていろんな角度から考えてみましょう。

交配・交雑あるいは古典的品種改良技術と遺伝子組換え技術には根本的なちがいがあります。

このちがいはゲノムと遺伝子のちがいがわかれば簡単に理解できます。

 

 遺伝子というのは、ある特定のタンパク質をつくるためのDNAの中のある領域に過ぎません。

ある遺伝子ひとつが生物をつくるということにはなりませんし、もちろん遺伝子が生き物でもありません。

一般にはゲノムと遺伝子が混同され、遺伝子の意味がゲノムと同一に扱われることがあります。

つまり、遺伝子が生物をつくる情報を担っているとの勘違いです。

このような誤解があれば、「遺伝子」組換え食品などとんでもない技術でしょう。

 

 よくある誤解に、種の壁を越えて操作するのかけしからんとか、遺伝子をいじくるのは神に対する冒涜であるといったものがあります。

そのような誤解のもとは、やはりゲノムと遺伝子を勘違いしていることからくるのだと思われます。

自然にあるものは安全で人工的に加工したものは危険だとの神話も加わっています。

しかし、伝統的な野菜や果物に野生のものはひとつもありません。

すべて人がかかわって初めて誕生した生物種であり、放っておいて自然にできる生物種ではありません。

つまり人工的な作物です。栽培するということで自然にはない生育状態を作ったことの影響で、自然には起こりにくい交雑を誘発するような状況を偶然作ったりもしています。

このような品種改良が自然であり、組換え作物は自然でないと思っている誤解がなぜか根強くあります。

 

 

 

 

○遺伝子組換え食品は種の壁を越えているのか

 

 壁を越えているのは遺伝子組換え作物でしょうか、それとも伝統的作物でしょうか。

種がちがっても近縁種であれば雑種一代目はできます。

細胞融合技術を使えば遠縁種でも雑種ができます。

不稔のため、栽培には組織培養技術を使うことになります。

これらは異なる種の間で交雑されることから、新しくできた種はもちろん新種になります。

立派に種の壁を越えています。

しかもできたものは親株に比べてどの遺伝子が残りあるいは変異したかわかりません。

新種の遺伝的基礎を知ろうと思ったら、そのゲノムを丸ごと解析しない限りわかりません。

 

 よく、遺伝子組換え作物はフランケンシュタイン作物だとの宣伝がありますが、この言葉は伝統的作物によく当てはまります。

しかもこのような技術でつくられた作物はすでの多く出まわっていますし、反対運動など起こりませんし、厳しい安全性の検査などもやられていませんし、義務づけられてもいません。まさに野放しです。

 

 一方、遺伝子組換え作物の場合、種の壁を越えるのは遺伝子のレベルです。

種の壁を越えて別種の遺伝子をある生物に導入することができます。

組み込まれた遺伝子由来のタンパク質を新たにつくるようになりますが、組み込まれた側のゲノムに大きな変化はないことから新種ができるわけではありません。

大豆に細菌の遺伝子をひとつ導入したとしても大豆のままで細菌の性質を持つわけではありません。

とうもろこしにピーナツの遺伝子をひとつ入れてもすべての組換えとうもろこしがピーナツアレルギーを持つようになるわけではありません。

伝統技術でトマトとじゃがいもを融合させれば両者の性質が表れる新種になります。

 

 

 

 

○遺伝子を操作するのは神に対する冒涜か

 

 人は野菜や果物などの植物だけでなく、家畜やペットなどの動物でも改良を重ねて新種をつくっています。

人によるゲノム操作は有史以来連綿と続けられています。

もし、遺伝子組換え操作が神に対する冒涜であり、そのような冒涜行為でつくられた作物が認められないのであれば、現在我々が食べている穀物・野菜・果物だけでなく、家畜、ペットなど多くの動植物を否定しないといけないことになります。

すると、少なくとも通常食べている食品は全滅に近いことになります。

また、新たに開発なども認めないのであれば、食材確保にただひたすら狩猟・採集・漁獲に頼るしかなく、原始社会に逆戻りです。そのような社会が理想であり到来すべきだとの認識があるのならいいですが。

 

 遺伝子組換えの場合は、ある遺伝子を挿入または欠失させるだけです。

できた新ゲノムに遺伝子がひとつ増えるか、あるいはひとつ減るかだけです。

ゲノムから見た場合、大きな変動はなく、なにより、どのような変動があったかが明確にわかっています。

一方、伝統的作物をつくる場合、単なる交配だけでなく突然変異を誘発させています。

その突然変異源としては放射線やさまざまな化学物質が使われています。

放射線にしろ化学物質にしろ、ターゲットの遺伝子を絞って変異を起こさせることはできません。

変異はランダムにおこるため、どのような変異が起こったかの確認もできず、有用な変異が起こっているものを膨大なスクリーニングを経て偶然つくられる有用変異物を見つけ出しています。

このようにしてつくられた新品種や新種は複数の変異が関わっておりその変異場所を見つけるのは至難の業です。

 

 

 

 

○遺伝子組換え食品の安全性

 

 食品には植物由来と動物由来とに分類できる。

その中でも植物由来の農作物には毒性を持つ危険なものがたくさんあります。

 

 植物は動けません。

植物は動けないなりに外敵から守る方法を身につけており、動物に食べられない工夫をしています。

植物は外敵にとって物理的に食べにくくしたり、有害となる物質を生産したりすることによって防御しています。

一般の農作物は、品種改良により有害な物質を作りにくく、あるいは激減させるように改良されています。

したがって、野生動物よりも外敵に対する抵抗力が弱く病気になりやすい性質を持っています。

植物が病気に強いということは捕食者にとっては好ましくない性質です。

実際、野生の植物はヒトにとって多くは有害です。

 

 自然がいいというのはとんでもない誤解で、人工、すなわち人間の手で品種改良が進められたものが比較的安全に食べることができます。

一般に、自然に近いもの植物ほど人間にとって危険です。

 

 たとえば、ジャガイモの場合、野生種はソラニンが多くてとても食べられない。

このソラニンはジャガイモ自身が虫などから身を守るために作っている毒素です。

ソラニンはヒトにも影響があります。

食中毒などを起こし、場合によっては命を落とします。

人為選択により、ソラニンの濃度が低くなるように品種改良されてきました。

しかし、全くソラニンを無くすことはできません。

一般のスーパーなどで売っているジャガイモは、収穫後、芽が出にくいように適切に処理されています。

有機栽培や無農薬などで作られた場合、その芽が出たジャガイモの芽の付近はソラニン濃度が高く、食べることはできません。

毎年、小学校などで栽培し、収穫したジャガイモを食べることで、児童・教師がそろって食中毒を起こす事故が起こっています。

収穫後の保管方法や調理方法にかんする知識が学校側に不足していることによる不幸な事故です。

普通に収穫後、無処理で日の当たるところに保管していれば、そのジャガイモで食中毒を起こさない方が不思議です。

 

 このように、ジャガイモは保管や調理方法によっては、命を落としてしまうこともあり得る食材であるから、もし現在新種としてジャガイモが開発されたとしたら、認可されないでしょう。

 

 品種改良により、ソラニン濃度が低くなると、天敵の虫も喜ぶことになります。

そのようなことから、いわゆる殺虫剤が使われるようになりました。

遺伝子組換え技術ではなく、通常の品種改良法で害虫抵抗性のジャガイモを作る試みもありましたが、予想どおり、ソラニンをはじめ多くの毒物の濃度が増え、そのジャガイモを食べると、吐き気、嘔吐、循環器系の疾患などの症状がみられたため、市場から消えました。

 

 すでに品種改良された農作物は病害虫に弱いため、病害虫に強い品種にしようとして野性株と掛け合わせて作られる場合もありますが、多くの場合、ヒトにとって有害物質を産生するようになるためほとんどうまくいきません。

従来の品種改良で、病害虫に強いが有害物質はあまりつくらない品種をつくることは難しい。

そこで、遺伝子組換え技術が応用されました。

遺伝子組換え技術なら、標的の遺伝子を直接導入または不活性化できるため、ピンポイントで品種改良が可能になります。

実際作られたのが、害虫耐性農作物で、細菌由来の害虫を殺す毒素(タンパク質)遺伝子を単離し、農作物にその遺伝子を導入したものが作られています。

この毒素は、従来から農薬として利用されていて、前述したとおり、人体に影響はないことが以前から確かめられています。

 

 

 

 

○遺伝子組換え食品の環境への影響

 

 

 遺伝子組換え食品の安全性や環境への影響の懸念から、多くの人が遺伝子組換え食品を拒絶し、反対運動を展開しています。

その根拠としてよく上げられるデータがあります。

食品としての安全性として、遺伝子組換えジャガイモを使ったプッシュタイらが行った実験で、免疫力の低下や内臓障害があったとされる。

また、彼らは、この結果から、遺伝子組換え技術そのものに対する危険性を指摘しています。

 

 一方、環境・生態系への影響として、ロージーらの行ったオオカバマダラの幼虫に遺伝子組換えトウモロコシの花粉を食べさせた実験があります。

オオカバマダラは北米では美しいチョウとして人気があります。

このチョウの幼虫が遺伝子組換えトウモロコシの花粉を食べることで死んでしまったというものです。

 

 これらの問題を指摘した書籍やこの指摘を疑問視する書籍の記述を抜粋した資料を作成しています(ここには載せていない)。

2005年に発行された書籍であっても、大昔の記述をそのまま焼き移しただけで、事実と異なる嘘八百を並べ立てた書籍が大量に出版されています。

また、問題となったふたつの実験の元論文も読んでみましょう。

元論文を読みながら、反対派・推進派の意見を吟味し、自分の意見を確立して欲しい。

 

1.    Losey, J. E., Rayor, L. S., and Carter, M. E., Transgenic pollen harms monarch larvae. Nature, 399, 214-215 (1999).

2.    Ewen, S. W. B. and Pusztai, A., Effect of diets containing genetically modified potatoes expressing Galathus nivalis lectin on rat small intestine. Lancet, 354, 1353-1354 (1999).

 

参考

Lachmann, P., Health risks of genetically modified foods. Lancet, 354, 69 (1999).

Malcom, A. D. B., Health risks of genetically modified foods. Lancet, 354, 69 (1999).

Feldbaum, C. B., Health risks of genetically modified foods. Lancet, 354, 70 (1999).

Schellekens, H., Health risks of genetically modified foods. Lancet, 354, 70 (1999).

Brunner, E. and Millstone, E., Health risks of genetically modified foods. Lancet, 354, 71 (1999).

 

 

備考:

 遺伝子組換え食品の環境への影響を調べるのに使われたオオカバマダラというチョウは、いわゆる毒チョウとしても有名です。

昆虫の世界では、美しい模様やケバケバしい色彩のものの多くは毒をもっています。

天敵に毒をもっていることを知らせるためです。

毒をもっていないものは見た目がおとなしい。

 

 毒チョウの毒性分は幼虫時代に食べた植物の毒に由来していることがわかっています。

遺伝子組換え関連の実験にも使われているように、オオカバマダラが食べる草はトウワタで、このトウワタ由来の毒素がオオカバマダラの成虫にも蓄積しています。

オオカバマダラが持っている毒素はカラクチン、カロトロピン、カロトキシンの三種で、いずれのトウワタに由来します。

オオカバマダラが毒素を持っているのは、自己防衛のためであるが、その餌になっている植物のトウワタも、昆虫の幼虫に食べられないようにするために毒素をつくっています。

オオカバマダラの幼虫はトウワタしか食べませんが、その毒素を解毒するシステムを持っています。

 

 

 

○遺伝子組換え食品のリスクについて

 

 遺伝子組換え食品の危険性などを問うと、多くの場合、食品としての安全性にふれることになります。

10年・20年後に悪い影響が出るかもしれないから、もっと長期の安全性試験をするべきである、とか、絶対安全を要求する意見が結構みられます。

多くはただ無邪気に答えているだけであろうが、その根は深い。

 

 「科学者たちは全ての生物に安全で何十年体内に蓄積されようと大丈夫なように研究をして発表して欲しい」とか、「蝶の幼虫は死亡または発育抑制という状態に遺伝子組換え食品によってさせられています。

その実験は無効という考え方もあるが、そのような可能性が例え0.1%でも残されているのなら、その0.1%を取り除く必要があるのではないか」などよい例でしょう。

 

 おそらくこれを書いた人たちは、普段食べている食品の安全性には無関心なのでしょう。

もし食品の安全性に関心があり、普段食べている食品にはどの程度の安全性があるのかを知っているならば、このような極論にはならない。

通常食べているトマトやハクサイなどの野菜に含まれている発癌物質や急性および慢性毒性化学物質の種類とその濃度を知れば仰天して卒倒するでしょう。

 

植物由来のタバコが有害であることは知っていても、あるいは多くの麻薬や覚醒剤が植物由来であることは知っていても、同じ仲間の植物である野菜や穀物に有害化学物質が含まれていることなど一度も疑ったことがないのでしょう。

 

 もし、遺伝子組換え食品に対するのと同じほど厳しい態度で安全性のチェックを追求し、先の解答者のような結果を要求し、クリアできなければ販売中止を求めるのであれば、現在食べている野菜・穀物・果物などの植物由来の食品は全滅です。

ひとつも生き残る食品はありません。

つまり、食べるものがなくなります。

これは当然の結果です。

この当然の結果にもまた思い至らないのが悲しい。

なぜこんな事態になるのか、これもいたって簡単なことではあります。

小学校以来の教育が悪いからです。本気で「科学」を教えていないからです。

答えている生徒も「科学」を考えないからです。

 

「「危険性があるという根拠はない。よって安全である」という報道は、普通に考えておかしい。

しかし、そこには大きな力がかかっているのだろう。

多分一つの実験を批判し、その他のことにはふれず、その後の確認もしていないのだろう」

 

これはプッシュタイらの一連の騒動に対する感想で、君たちの先輩の書いた文章です。

悲しい文章です。

とても技術系の高専4年生が書いたとは思えません。

やはり、このような文章を平気で書ける学生を育てた教育に問題があります。

 

 この解答者に科学的な実験とはなにか、一度たりとも教育されたことはないのであろうか?

この解答者がいうような考えを持っている科学者がいると本気で思っているのであろうか?

このような科学者が、科学者社会で生きていけると思っているのであろうか?

実験材料や方法はすべて公開されています。

追試はいくらでもできます。

価値ある実験であるならば、実際追試はなされています。

追試する価値もない実験はもちろんされません。

 

 安全性と安全の議論するとき、高速道路やラジオなどで流される道路交通情報の言い回しを確認すればわかりやすい。

「こちらは、JH、日本道路公団です。午後XX分現在の道路交通情報をお伝えします。現在、この付近の通行に支障となる事故や渋滞の情報は入っていません。xxよりお伝えしました」

 

 決して、「事故や渋滞はありません」とはいわない。

時間や場所を限定し、なおかつ情報はない、との言い回しであって、事故や渋滞はない、とはいわない。

なぜいわないかは明白です。

 

 この食品は安全である、といった安全宣言を科学者も官僚もしないのと同じです。

マスコミは「安全宣言」とかっこ付きで厚労省や農水省の発表を報道するが、もちろん政府はどんな場合でも安全宣言も安全であるとの発表は一切しない。

マスコミも見出しにかっこ付きの「安全宣言」を使うが、慎重な報道機関なら、本文には安全の語も安全宣言の語も使わずに報道します。

普通、こういう言い回しは自然と感得するはずであるが、つまり、文字通りの安全宣言ではなく「安全宣言」であることを理解するはずであるが、これを誤解してしまうと、先のレポートの解答者みたいな作文につながってしまう。

 

 

 次のような作文はどうであろうか?

皮肉たっぷりの創作です。

 

いくつかは、諸先輩の書いた文章の「遺伝子組換え食品」を他の語に置き換えた文です。

先の解答例は納得するが、次の例はおかしいと思うか?

 

「現在市販されているテレビジョンは、有害な電磁波を放射し、実際人体に多大な悪影響を及ぼすことがわかっています。例えば、ヒトの眼球に有害な電磁波が断続的に当たると、視力の低下等の影響がほぼ全員のヒトに見られます。このような有害な物体が放置され市販されていることは許しがたい。直ちにテレビジョンの販売はもとより、このような有害な物体の開発は、直ちに凍結するべきである」

 

「自動車事故により、日本で、毎年1万人弱が事故から24時間以内に死亡しています。自動車は走る凶器であり、ヒトを簡単に殺傷でき、また有害な排気ガスをまき散らしています。このような可能性が0.1%でも残っているうちは、自動車を市場に出すべきではない」

 

「ビルや橋など建築物は100%の安全性か確認されたわけではない。実際、有害な化学物質によるシックハウス症候群が指摘されており、テロによる破壊、地震による崩壊など、人工の建築物には多くの危険性をはらんでいます。

このような危険性がほんのわずかでも残っているのであれば、ヒトが利用する建築物はつくるべきではない。絶対安全が確立されるまで、安全な建築物を作る研究を続けるべきである」

 

「以上のような安全性が確立されていない技術は技術とは呼べない。技術以前の代物です。絶対安全が前提でない未熟な技術で家電も自動車も建築物も作るべきでない」

 

「自然にないものをヒトの都合で新たにつくり出すのは非常に危険です。従来の育種技術によって、野菜や家畜など数多くの自然にない“もの”をつくり出してきた。これらはヒトの都合によって作られたものだから、自然に対して何か悪影響を与えることは必至だし、ヒトに悪影響を与えることも当然考えられる」

 

「育種という技術は、全て偶然に頼っています。実際に掛け合わせるための組み合わせなど、やってみないと、どんな結果になるかわからない。様々な試薬や放射線による突然変異の誘発も、実際やってみないと、どんな性質を持つものに変化するかわからない。何がどう変わったかも確認できない。したがって、このような偶然に頼り切っている育種技術でつくられた野菜や家畜など、全部危険であり、これらを食べることにより、長期的に見ても、有害物質が体内に蓄積する可能性は否定できない。このような技術とよべない方法で作られた野菜、果物、家畜など、この世から抹殺しないといけない。自然界や人体に悪影響を及ぼす可能性が少しでもあるのであれば、育種技術などあまり触れないほうがよい」

 

「自然への悪影響の最大のものはヒトの存在でしょう。ヒトが生きるとき、息を吐き、排泄物をまき散らし、食料を調達するためにあらゆるエネルギーを消費し、廃棄物を生産し、生態系に大きな悪影響を与え続けています。そのような自然に悪影響を与える事実があるのなら、ヒトの存在は自然にとって邪魔者です。自然にやさしく、環境保全の目的を最大限に実現する最良の方法は、ヒトをこの地球上から完全に抹殺することである」

 

「ヒトは、空気を汚染し、川を汚染し、海を汚染し、森林を破壊し、山を崩し、海を埋め立て、自然に対して好き放題やって生きています。でもこれらは生きていくために必要なのだから許せる。

しかし、遺伝子組換え食品に限っていえば、生態系を破壊する可能性が否定されていないし、人体に対する100%の安全が確認されていない以上、この技術を応用することは全て凍結すべきである」

 

「イヌやネコなどのペット、食用になるウシ、ブタ、ニワトリなどの家畜、さらにハトや競走馬などの品種はヒトの都合で、都合のいいのができるまであらゆる手段で遺伝子を組換えて作成されたものです。これは完全にバイオモラルにかかわることでもあります。ヒトの欲望を満たすためだけの目的で奇怪な容姿のイヌを無理やりつくり出すのは道徳に反します。全ての野生の生物に手を加えるべきではない。ヒトが手を加えて人工的につくり出したものであるから、家畜を食糧として食べるのは、どんな危険性を持っているかわからないので、食するべきではないし、ヒトが勝手に組換えてつくり出された全てのイヌやネコは、どんな危険な性質を持つか全く予測できない。また、ヒトの都合だけで野生化したペットも多くあり、生態系を大きく乱しています。このような危険性を持っているペットを飼ったり家畜を飼育するのは、それらが安全であると確認され、生態系への影響が完全に解明されるまで、全て凍結すべきである」

 

「アメリカにおいて、偶発的な食中毒の患者は毎年76百万人にのぼり、そのうち315千人が入院し、5千人が死亡しています。しかしこれはしかたがない。2001年、バイオテロにより、数人が炭疽菌に感染、死亡した事件があった。これは許しがたい。このようなテロにつながる細菌培養技術は即刻凍結するべきである」

 

 

以下の科学的事実に対してどう思うか?

 

「植物から抽出された47種類の天然の殺虫物質の半数以上が動物実験で発癌性を確認されている。その植物とは、リンゴ、バナナ、ブロッコリー、キャベツ、セロリ、カリフラワー、コーヒー、レタス、ジャガイモ等々多数。

普通の人は、一生のうちに1万種類の天然の殺虫物質とその成分を食べ、その量は摂取する人工の殺虫剤の約1万倍に相当する。

コーヒーには、1000種類以上の化学物質が含まれている。そのうち発癌性試験が行われたのは26種類、うち19種類が齧歯類に癌を誘発した。

一杯のコーヒーに含まれる発癌性物質の量は、普通の人が年間に摂取する発癌性のある殺虫剤の残留物よりも多い。

ニトロピレンなど3種類の発癌性ニトロアレンが、焼いた鶏肉から発見されている。調理により、熱分解が起こり、互いに食物を劇的に変質させてしまう。加熱された物質はいくつもの新しい化合物となり、おいしそうな香りや味に変質するが、こうした化合物に発癌性物質がある。

これらのエイムズの報告は、全米科学アカデミーのアメリカ国立研究会議のレポートにより、大筋で正しいと認められている。

体重68キログラムの平均的な男性が、水(9.5リットル)か、砂糖(1キログラム)、あるいは塩(200グラム)を一度に摂ると死んでしまう。コーヒー100杯分に含まれるカフェインも一度に飲めば致死的だし、エタノール(お酒のアルコール分)の致死量はわすか300グラム強で鎮痛剤のアスピリンは10日分で致死量になる(日本の病院で誤投与による死亡事故例あり)」

 

Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87, 7772-7776 (1990).

Ames, B. N., Gold, L. S., Chemical carcinogenesis, Too many rodent carcinogens.

 

Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87, 7777-7781 (1990).

Ames, B. N., Profet, M., Gold, L. S., Dietary pesticides (99.99% all natural).

 

Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87, 7782-7786 (1990).

Ames, B. N., Profet, M., Gold, L. S., Natures chemicals and synthetic chemicals, Comparative toxicology.

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

2007221() 更新

 

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