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 3−2.動物のクローン技術とその応用

 

○クローンとはそもそもなんなのか

 

 クローンの語源はギリシャ語で小枝からきています。

「無性的な生殖によって生じた遺伝子型を同じくする生物集団」

「全く同じDNA(ゲノム)をもつ生物体」

をあらわします。

 

クローン羊のドリーが誕生して以来、クローン動物が注目を集めるようになりました。

ドリー以前にもクローン動物の作成は試みられました。

まず、ドリー以前の技術を概観し、その後、ドリーの誕生に結びついた体細胞クローンや未来の技術について見てみましょう。

 

 ヒトでも一卵性双生児が生まれます。

この一卵性双生児はお互いにクローンです。

一卵性双生児は発生の初期になんらかの理由でひとつの受精卵が分割し、それぞれが発生することで誕生した例です。

同じ受精卵のゲノムを持つことから、一卵性双生児の間でお互いに同じゲノムを持っていることになります。

したがって、遺伝情報が互いに同じになることから、お互いに同じ遺伝子を持っており、お互いにつくるタンパク質のアミノ酸配列が同じになります。

しかし、後天的に獲得するものは異なります。

また、成長する社会環境、時代・場所で影響を受けるものも異なります。

 

 この一卵性双生児ができるときは偶然の結果ですが、これを人工的にするのが次に述べる受精卵クローンです。

 

 

 

○受精卵クローン

 

 通常の受精を人工的にしたあと、2回の卵割の後4細胞期になったものをそれぞれ物理的にバラバラにし、この4個の卵割胚をそれぞれ別の仮親に移植すると4個体のクローンが誕生することになります。

 

 この技術ではクローンの数が限られます。

この技術はたとえばウシの繁殖によく用いられてきました。

精子は凍結保存ができます。

実際、高級和牛はある1頭の優秀なオスの凍結精子によりつくられます。

卵子は保存が難しく、採取できる数も少なく、培養もできません。

そこで、限りある精子資源を有効に活用するために受精卵クローンが考えられ実行されました。

 

 これとは別に核移植の技術も磨かれました。

未受精卵から核を除き、除核卵をつくり、これと胚の細胞を融合させたり胚由来の核を移植したりするテクニックです。

この技術により、通常の人工授精から培養により16細胞にまで卵割した胚を作り、それぞれの細胞を使って核移植をし、仮親に移植するものです。

この核移植技術を使うことによって、1個の受精卵から生まれてくるクローンの数が増えました。

 

 しかし、いずれの受精卵クローン技術でも、スタートで通常の人工授精をすることから、どのような形質を持つクローンが産まれるかわかりません。

また、この核移植で使える細胞や核は若い胚に限られるという限界があり、分化した細胞からは長らく核移植はできず、無理だと考えられてきました。

この壁を破ったのがドリーを生んだ体細胞クローン技術です。

 

○クローン動物の応用 クローン動物の作成技術

 

 19972月、世界初の体細胞クローン羊ドリーの誕生が、英国の北部地方、スコットランドのエジンバラにあるロスリン研究所から発表されました。

メス羊の乳腺細胞を別の羊の未受精卵に核移植技術により注入し、別の羊の子宮で育てられました。

 

I. Wilmut, A. E. Schnieke, J. McWhir, A. J. Kind & K. H. S. Campbell,

Viable offspring derived from fetal and adult mammalian cells.

Nature, 385 (6619) 27February, 810-813 (1997).

 

 その後、19977月にはヒトの遺伝子を導入した遺伝子組換え羊ポリーも誕生しています。

この研究を受け、日本でも、19983月、最初の体細胞クローン牛が妊娠したと発表され、19987月、世界初の成牛の体細胞クローン牛が誕生しました。

 

Yoko Kato, Tetsuya Tani, Yusuke Sotomaru, Kazuo Kurokawa, Jun-ya Kato, Hiroshi Doguchi, Hiroshi Yasue, Yukio Tsunoda,

Eight Calves Cloned from Somatic Cells of a Single Adult.

Science, 282(5396), 2095-2098 (11 December 1998).

 

 以降、哺乳類の体細胞クローンは数多く誕生しています。

家畜の牛、羊、豚ばかりでなく、実験用のマウスでは何世代にもわたって体細胞クローンが作り続けられています。

 

T. WAKAYAMA, A. C. F. PERRY, M. ZUCCOTTI, K. R. JOHNSON & R. YANAGIMACHI,

Full-term development of mice from enucleated oocytes injected with cumulus cell nuclei.

Nature 394, 369-374 (23 July 1998).

 

 このような体細胞クローン技術は、単なるクローン個体をつくるために開発されたのではありません。

遺伝子改変個体をつくることはできました。

ところが、その貴重な個体の子孫を残すことができません。

クローンでしか複製できないからです。

このようなときに体細胞クローン技術は威力を発揮します。

 

 体細胞クローンは新たな受精卵を経由することはせず、すでに個体として存在している生物のゲノムと同じゲノム構成を持つ個体を別につくる方法です。

つまり、体細胞クローンはゲノム構成のわかっているある生物のコピーをつくる技術です。

体細胞クローンはおくれて生まれた一卵性双生児ともいえます。

体細胞クローンはほかの生殖技術で生まれてきたものと比べても特別な存在ではなく、自然に生まれる一卵性双生児と遺伝的にはなんらちがいはありません。

この技術をくり返すと、遺伝的に同一の子孫が無限に作成できます。

マウスではすでに実現しています。

遺伝子組換えをした体細胞を使って遺伝子の導入や改良ができるようになり、後に述べるES細胞と組み合わせれば、自己と同じゲノムを持った移植用臓器をつくることもできます。

 

 

 

○クローンネコとX染色体の特殊な発現

 

 

<クローンネコ>

 ペットであるネコでも体細胞クローンが誕生しています。

 

Taeyoung Shin, Duane Kraemer, Jane Pryor, Ling Liu, James Rugila, Lisa Howe, Sandra Buck, Keith Murphy, Leslie Lyonsand Mark Westhusin,

Cell biology: A cat cloned by nuclear transplantation.

Nature 415, 859 (21 February 2002)

 

 これを受けて、米カリフォルニア州のベンチャー企業が世界で初めてクローンペットのビジネスを始めました。

これは、飼い猫が死んで、あきらめきれない人に、死んだネコと同じゲノムをもつクローンネコを提供するというものです。

体細胞クローン技術を使えば原理的には同じゲノムをもったネコが誕生します。

 

 朝日新聞20061013日の記事によれば、クローンネコを誕生させる成功率に問題がありましたが、それ以上に顧客が集まらず、同社は2006年いっぱいで廃業することになりました。

 

 また、記事によれば、同社は計5匹誕生させましたが、実際に販売できたのは2匹だけだったそうです。

かなり少ないですね。確かに商売が成り立ちません。

 クローンネコは15万ドル、昨年から32000ドルに値下げしていたそうです。

 

 「同じDNAを引き継いでいても、毛の模様は同じにはならず、こうしたことも需要が伸びなかった一因とみられる」と記事にあります。

例によって、「DNA」ではなくて「ゲノム」ですね。新聞では「ゲノム」という言葉が難しいからか、よく「DNA」や「遺伝子」と言い換えています。

もちろん誤用です。

 

 「毛の模様は同じにならず」の部分を少し解説しましょう。

毛の色を決定している遺伝子群のうち、ひとつはX染色体上にありますので、X染色体の特殊な発現の仕組みを解説する必要があります。

まず、ヒトの場合から。

 

 

X染色体の不活性化>

 X染色体は、正常なヒトの場合、男性は1本、女性は2本あります。

このことから、X染色体上の遺伝子の発現に男女間で違いが出そうですが、実際にはX染色体の遺伝子は巧妙に制御されており、女性では2本のX染色体の対立遺伝子のうち1本だけが発現し、男性と同じ発現量になるように制御されています。

すなわち、正常な女性のもつ2本のX染色体のうち、1本は不活性化して働かず、1本のみ機能するシステムがあります。

これがX不活性化です。ライオニゼーションLyonizationともいいます。

ちなみに、常染色体は、通常、両方とも発現しています(遺伝子単位でみれば、一方だけ発現しているのもある)。

 

 男性に比べて女性はX染色体の数が多い「性染色体過剰」状態ですが、X不活性化により、発現の仕方は男女でほぼ同じだと考えられます。

ターナー症候群として知られているXモノソミー(性染色体がX染色体1本だけ)が生存できることがX染色体の不活性化の理由のひとつとして考えられています。

ちなみに、YモノソミーはX染色体を全く持たないので生存できません。

 

 X染色体が通常より多い場合もあります。XXXXXXXXXYなどです。

正常なXXXY、ターナー症候群であるXOも含めて、X染色体が何個であろうと細胞当たりの働くX染色体の数はひとつだけです。

これが実現するためには細胞当たりのX染色体が何個あるか「数える」システムが必要になりますし、どれかひとつだけ残して、他をすべて不活性化するシステムも必要になります。

これらの一連の複雑な仕事を担っているのが「X不活性化中心」と呼ばれる場所にある遺伝子です。

 

 不活性化されたX染色体は小さく凝集する。これはバー小体とも呼ばれています。

ある種の色素に強く染まることから、セックスチェックに使われることがあります。

 

 女性のカラダを作っている60兆個の細胞は、細胞レベルでみれば2種類の細胞がモザイク状になっています。

ある細胞は父親由来のX染色体、別の細胞は母親由来のX染色体が発現していて、細胞レベルでみれば、この2種類の細胞がモザイクになった状態といえます。

受精卵が卵割している間はX染色体の不活性化はみられません。胚のある時期から不活性化が始まるようです。

細胞のなかにある2本のX染色体のうちどちらが不活性化するかは偶然と考えられています。

 

 X不活性化が起きていない細胞があります。それは卵母細胞です。

卵母細胞は胎児の段階で200万個ほどつくられ、思春期のころには50万個ぐらいにまで減少し、排卵の順番を待っています。

この卵母細胞は第一減数分裂が終わった段階でできるため、2nの状態です。つまりX染色体は2本あります。

このあと排卵、精子侵入、第二分裂がおこるので、不活性化していると不都合があります。

うまい具合に、卵母細胞ではX不活性化は起こっていません。

ただし卵母細胞で、X不活性化が起こらず、2本のXが機能している状態で40年以上保っていられる理由は、実はまだよくわかっていません。

 

 いずれ、1本のX染色体は極体の形で捨てられるわけですから、他の細胞と同じように不活性化して安定な状態でいてもよさそうですが、なぜか卵子では不安定と思われる2本のX染色体が並立した状態でいます。

 

 一卵性双生児はお互いにクローンです。ゲノムレベルでみれば、基本的には互いにまったく同じです。

しかし、女性の一卵性双生児は男性の一卵性双生児ほどお互いによく似ていない場合が多い。

これは、X不活性化で説明できます。

女性の一卵性双生児の場合、胚の段階からX不活性化がランダムにおこり、すべての細胞でX染色体のスイッチがランダムに切られることから、どのように育つのかまったく予想できません。

X染色体上の遺伝子の多様性に起因する遺伝性の疾患や多様性の現れ方は、女性の場合、男性ほど単純ではなく(男性のX染色体はひとつしかないし、常染色体にX染色体のような染色体丸ごとの不活性化といった現象は確認されていない)、往々にして複雑であり、一卵性双生児間で異なる遺伝性疾患を示すことがあります。

 

 X染色体の不活性化は、実はそれほど単純ではないことが分かっています。

X染色体にはY染色体の一部と相同な部分がわずかにあります。

このわずかに相同な部分はXXXYにかかわらず対立遺伝子があります。

したがって、この領域は不活性化する必要がなく、実際不活性化が起こっていないらしい。

つまり、XXの場合、1本のXが丸ごと不活性化しているわけではなく、ごく一部に両方発現している領域があります。

Xモノソミーで異変が見られるのは、不活性化の不完全さだけでなく、このYと共有している領域の発現にも関わっていると推測されています。

 

 

X染色体不活性化の例 三毛猫のできかた>

 X染色体の不活性化の一番わかりやすい例は三毛猫です。

ネコもヒトと同じようにメスの性染色体はXX、オスのそれはXYです。ちなみにネコの染色体は1938本です。

 

 三毛猫になるのは一般に雌のネコだけです。

X染色体をふたつ持っている雌のネコにのみモザイク状に該当遺伝子が発現するため、三毛猫になります。

雄のネコはX染色体をひとつしか持っていないので、通常、三毛猫にはなりません。

 

 もう少し説明しましょう。

ネコの毛の色を決定している遺伝子は少なくとも9種類あります。

話を単純化するため、そのうち3種類にだけに絞ります。本当はもっと複雑です。

 

1.白色を規定している遺伝子は常染色体上にあります。仮に対立遺伝子をW(優性)、w(劣性)とします。

2.白色の斑模様を規定している遺伝子も常染色体上にあります。仮に対立遺伝子をS不完全優性)、s不完全劣性)とします。

3.茶色を規定している遺伝子はX染色体上にあります。仮にOo遺伝子とします。X染色体にあるので優劣はありません。

  ちなみに、「茶色」ではなく「オレンジ」とする説明(米)、「ショウガ色」(英)とする説明もあります。

  また、別の遺伝子とのかねあいで、「赤色」と「茶色」を区別することもあります。

 

1.全身の白色を規定するW遺伝子の話

遺伝子型がWWの場合、ネコの肌は白一色になります。

Wwの場合も、Wwに対し優性なので、同じく全身が白になります。

このW遺伝子は他の毛の色を規定する遺伝子に対して一番強く働きます。

つまり、遺伝子型がWWあるいはWwであれば、他の遺伝子の型が何であろうと、かならず全身が白一色になります。

wwの場合だけ、他の色を決めている遺伝子が有効になり、白以外の色も出てきます。

日本にいるネコの遺伝子頻度はw=0.96W=0.04です。

とりあえず、ここまでは通常の遺伝子型と表現型の話で説明できます。

 

 遺伝子型がWWWwであれば、全身白色になりますが、逆に全身白色であればwwでない、とはいいきれません。

遺伝子型がwwでも白い場合があります。

いわゆる眼が赤いアルビノ(白子)です。アルビノはwwのときにあらわれます。

つまり、眼が赤くなくて白色であれば、WWWwであるとほぼ断定できます。

ウサギやマウスなど赤眼の全身白色の動物がいますが、いずれもアルビノの例です。

 

 ちなみに、アルビノに関与する対立遺伝子はCcbcsです。

劣性ホモのccのとき、メラニンなどの色素を作る酵素であるチロシナーゼを完全に書いてしまうために、白色になります。

シャム猫の遺伝子型はcscsです。

 

2.白斑模様を規定するS遺伝子の話

W遺伝子の話からわかるように、以下の話は、wwの場合に限ります。

S遺伝子が発現していると、W以外の他の色を規定している遺伝子にも影響が出て、白の斑模様になります。

斑模様ですから、当然、白色以外の遺伝子が関与します。どの遺伝子が関与するかによって相手の斑模様の色が決まります。

遺伝子型がSSの場合、白の斑模様が大きく、Ssの場合、白斑模様が小さくなります。ssの場合白斑はなく相手の色になります。

これは不完全優性の例で、アルデヒド脱水素酵素遺伝子とお酒の強さみたいなものですね。

遺伝子型がSSの場合、尾以外の部分がほとんど白色であっても、尾の部分には色がついています。つまり、SSで尾が白くなる場合は全身がほぼ白くなります。尾だけ白いネコはいません。

ここまでの話は、常染色体上の遺伝子の発現のしかたの説明ですので、オスとメスにちがいはありません。

日本にいるネコの遺伝子頻度はs=0.58S=0.42です。

 

3.X染色体上の茶色の色を規定するO遺伝子の話

O遺伝子はX染色体上にあり、発現すると茶色になります。o遺伝子をもてば、他の色を規定する遺伝子が関与して一般に黒色になります。

日本にいるネコの遺伝子頻度はo=0.69O=0.31です。

まず単純なオスの場合。

オスはX染色体をひとつしか持っていません。

したがってO遺伝子の対立遺伝子の概念はなく、O遺伝子を持つかo遺伝子を持つかの、いずれかしかありません。

オスネコで、ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww ss の場合、O遺伝子を持つと茶色になります、o遺伝子を持つと黒色の猫になります。

オスネコで、ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww SS または ww Ss の場合、O遺伝子を持つと茶白斑になり、o遺伝子を持つと黒白斑の猫になります。

SSSsかによって白斑の部分の割合が変わります。

 

 メスネコで、OOあるいはooの場合、X不活性化があったとしても、もともとOあるいはo遺伝子しか持っていないので、全身の細胞でOあるいはo遺伝子のみ発現するため、X染色体をひとつしか持っていないオスと同じような模様を示します。

 

 ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww SS、あるいはww Ss で、なおかつOoの場合、白、茶、黒の三毛猫になります。

ww ss Ooの場合は白色のない茶、黒二毛猫になります。サビネコですね。

 

 話がややこしくなりましたが、3つの遺伝子の遺伝子型と表現型を表にしてみると簡単に理解できます。

また、どの遺伝子型からどんな仔ネコが生まれるか、その割合はいくつかなど、これも表にしてみるとよくわかります。

チャレンジしてください。

 

 

 ここまでの説明で、オスの三毛猫、サビネコがいないのがわかったと思います。

しかし、何事にも例外があります。

オスでもO遺伝子とo遺伝子の両方持っていれば三毛猫になる可能性があります。

大きく2例あります。

 

 1例目は、染色体数異常です。

2-6 で説明したように、たとえばXXYの場合、Y染色体を持っているためオスになり、XXOo遺伝子がそれぞれのっていれば、オスで三毛猫になることもあります。

XXYはヒトにもみられます。クラインフェルター症候群と呼ばれています。

ヒトの場合、500人にひとりの割合で生まれてくるらしい。

ネコはなぜが少なく、3万匹に1匹程度で、かなり珍しいため、重宝がられています。

 

 2例目は転座による遺伝子の重複です。

1本のX染色体にOo遺伝子がのってしまうことで、あまり起こりません。

 

 ちなみに、招き猫は一般に三毛猫ですから、三毛猫そのものもありがたがられ、縁起のいいものと思われています。

 

4.アグチパターンを規定しているA遺伝子の話

 せっかくここまで話がきたので、もうひとつだけ対立遺伝子を追加しましょう。

アグチパターンを決めるA遺伝子(優性)とa遺伝子(劣性)です。常染色体上にあります。

これはX染色体上にあるO対立遺伝子とのかねあいで表現型に違いが見られるので、三毛猫と関連しています。

以下の話も、もちろんいずれもwwの場合です。

 

O遺伝子を持っていると、アグチ遺伝子であるA遺伝子の遺伝子型がなんであろうと、茶色になります。

メスで遺伝子型が ww OOの場合、茶色や茶斑になるわけです。

o遺伝子があるとき、A対立遺伝子の効果が現れます。

o遺伝子を持っていて、遺伝子型がAAまたはAaの場合、アグチパターンがみられます。

すなわち、毛の先端と根元が茶色で中間が黒色になります。

o遺伝子を持っていて、遺伝子型がaaの場合、根元から先端まで黒一色の毛が生えてくることになります。

つまり、メスで遺伝子型がooの場合、アグチ遺伝子のパターンが発現することになります。

ここまではOまたはo遺伝子を持っているオスにも当てはまります。

 

では、メスで遺伝子型がOoの場合、どうなるでしょう?

じっくり考えてみてください。

 

最後に、野性色は ww o A- ssです。

 

 

ネコにおける毛色に関与する遺伝子の遺伝子型と表現型

 

対立遺伝子

W  w

O  o

A  a

S  s

 

 

 

 

優劣

W>w

なし

A>a

S>s不完全

遺伝子型

毛色

表現型

白地

アグチ

白斑

 

 

 

 

 

WW

--

--

--

 

 

 

白色全色

 

Ww

--

--

--

 

 

 

白色全色

 

 

 

 

 

メス

 

オス

 

 

ww

OO O

--

ss

OO -- ss

 

O -- ss

茶色全色

 

ww

OO O

--

SS Ss

OO -- S-

 

O -- S-

茶白斑(SS白斑大,Ss白斑小)

 

ww

oo o

AA Aa

ss

oo A- ss

 

o A- ss

アグチ全色

 

ww

oo o

AA Aa

SS Ss

oo A- S-

 

o A- S-

アグチ白斑(SS白斑大,Ss白斑小)

 

ww

oo o

aa

ss

oo aa ss

 

o aa ss

黒色全色

 

ww

oo o

aa

SS Ss

oo aa S-

 

o aa S-

黒白斑(SS白斑大,Ss白斑小)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メス

 

 

 

 

ww

Oo

AA Aa

SS Ss

O -- S- o A- S- モザイク

三毛猫 茶アグチ白

 

ww

Oo

aa

SS Ss

O -- S- o aa S- モザイク

三毛猫 茶黒白

 

ww

Oo

AA Aa

ss

O -- ss o A- ss モザイク

二毛猫 茶アグチ(白なし)

 

ww

Oo

aa

ss

O -- ss o aa ss モザイク

二毛猫 茶黒(白なし)

上位遺伝子座

なし

W

W  O

W

 

 

 

 

下位遺伝子座

O A S

A

-

-

 

 

 

 

                          アグチ: 先端と根元が茶色で中間が黒

 

 

○雑種 かつてレオポンという珍獣がいた

 

 

 クローン技術とよく混同されるものとして、雑種、キメラなどがあります。

それぞれどのような方法なのか、具体例を挙げて説明しましょう。

 

 かつて日本で、客寄せのためにグロテスクな動物が動物園でつくられたことがありました。

胚操作や受精卵の操作がまだできなかった時代に、異なる種の動物を幼い頃から同居させて、自然の交配でつくるという戦略で雑種の育成が試みられました。

阪神甲子園球場の横にあった阪神パークにおいて、1959年、雄ヒョウと雌ライオンとの間に「レオポン」と名付けられた雑種2頭が誕生しました。

これは世界で最初の雑種猛獣でした。

さらにその2年後にも3頭生まれています。

 

 レオポンの体つきはライオンで、その体表はヒョウ柄でした。

雑種の宿命で、レオポンには生殖能力はありませんでしたが、そのうち1頭は24歳まで生きる長寿でした。

社会的な批判もあり、現在の動物園ではこのような客寄せを目的にした雑種猛獣をつくっていません。

剥製だけが残っています。

 

 雑種の受精卵のゲノムは掛け合わせた2種の混雑です。

雑種を構成するすべての体細胞には、基本的には受精卵と同じゲノムです。

レオポンの場合、ヒョウの精子とライオンの卵子が受精し、その受精卵はヒョウとライオンの各ゲノムの混合ゲノムになっています。

通常、異なる種どうしの受精では、それぞれのゲノムの染色体構成が異なることから、染色体が対にならないことなどの理由でうまく受精しません。

 

しかし、いったん受精し、雑種生物が成育できる程度のDNAの複製ができるようになり、細胞分裂もできるようになると、雑種が誕生することもあります。

生まれてきた雑種生物のすべての体細胞のゲノムは基本的にはその受精卵のゲノムと同じです。

雑種生物の染色体が対になっていないことなどの理由で、減数分裂はうまくいきません。

したがって、雑種は生殖細胞をつくることができないため、通常の受精による子孫を残すことはできません。

体細胞クローン技術を使うと子孫を残すことができるかもしれません。

 

 

 

 

○キメラ 妖怪「くだん」もキメラ

 

 キメラと呼ばれる異形の生物がいます。

 

 研究用につくられたキメラは多数いますが、伝説の中にもキメラは存在します。

たとえば、一角獣(ユニコーン)、人魚、スフィンクス(ヒト+ライオン)などです。

キトラ古墳の十二支の中にもキメラと思われる生物が描かれています。

 

 兵庫県や岡山県に「くだん」と呼ばれる妖怪の伝説があります。

漢字の件(にんべんにウシ)にみられるように、牛頭人身、あるいはその逆の人頭牛身などのバリエーションがあり、重要な証文などの末尾に書かれる「よって件(くだん)のごとし」の「くだん」です。

妖怪「くだん」は日本が大東亜戦争に負けるといった不吉な予言をし、その予言は必ず成就し、予言後しばらくして死ぬ、といった伝説が伝えられています。

くだんの予言は必ず的中し、つまり「くだん」は決してウソをつかないことから、証文に「くだんのごと」くウソはないといった意味合いでつかうというこじつけの説明もあります。

以前、大分の博物館ではくだんの剥製を展示していました。

もちろん、ニセモノですけど。

小説では小松左京の「くだんのはは」が傑作です。

 

 これらの伝説上のキメラや実験室でつくられるキメラの共通する特徴は、キメラを構成するすべての細胞は異種生物のいずれかのゲノムを持つことです。

たとえば、人頭牛身のくだんの場合、首から上を構成する細胞はヒトゲノムを持ち、首から下を構成する細胞はウシゲノムをもつことになります。

つまり、2種の生物のキメラの場合、構成する細胞はいずれかのゲノムを持ち、雑種のレオポンのような両者のゲノムが混じった細胞はありません。

 

 

 

 

○クローン人間をつくるための工夫

 

 単なるクローン人間を創ってもしかたがない。

ES細胞などの利用により遺伝子改変個体や移植用臓器を作るのにクローン技術は利用されます。

 

 クローン技術の障害として、卵子の調達と借腹である子宮の確保があります。

卵子は培養できないため生体からとる必要があります。

人工子宮もまだ開発途上である。

この2つの障害を解決する手段として、次のような方法が考えられます。

卵子も子宮もヒト以外の生物を利用する方法です。

 

 ヒトの体細胞のゲノム情報を持ったクローンをつくるために、ヒト体細胞をA生物由来の除核卵子に核移植し、A生物の子宮に着床させる場合です。

このとき、ヒトのゲノムとA生物のミトコンドリアを持った生物がA生物より生まれることになります。

しかし、この方法ではヒトとA生物のゲノムのハイブリッドであり、A生物から正常な発生が見られるとは限りません。

 

 そこで、A生物にヒトのミトコンドリアを持つように改変します。

A生物の体細胞などをヒトの除核卵子に核移植しA生物の子宮に着床させます。

そうすると、ヒトのミトコンドリアを持ったA生物がA生物より誕生します。

これをA2生物とします。

一方、A生物を改変し、ヒトの胎児の妊娠が継続できるようにします。

それには、A細胞にヒトの抗原遺伝子などを挿入し、ヒト遺伝子組換えA生物をA生物単独のクローン技術で作ります。

これをA3生物とします。

 

 ここで、ヒトの体細胞などのヒトゲノム情報を持った細胞とA2生物の除核卵子へ核移植します。

この細胞はヒトゲノムとヒトミトコンドリアを持ったA2生物由来の卵子です。

この細胞をA3生物の子宮に移植します。

このA3生物はヒトの胎児の妊娠継続が可能なように改変してあるため、発生が進みます。

結果的に、ヒトのゲノムとミトコンドリアを持った胎児がヒト以外の生物から誕生することになり、卵子の調達も子宮不足も解決することになります。

 

 以上は可能性の話です。

実際やっていいかどうかは別です。

これらの人工的につくる胚は、先に述べた日本で制定されたクローン規制法で定義してある9種類の「特定胚」という奇妙な造語の中に含まれています。

 

 

 

 

○クローン規制法

 

クローン規制法の概要と解説

 

□関連URL

1.「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」及び「特定胚の取扱いに関する指針」

について

http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/hai3/011201.htm

 

2.生命倫理・安全に対する取組

http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/main.htm

 

3.ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律 特定胚の取扱いに関する指針

http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/ethics/wadai3.html

 

クローン規制法で、9種の特定胚が定義されています。

 

 

 

○特定胚について

 

 指針では、9.動物性集合胚 (実際は9のcの一部)のみが「動物内でのヒト由来の臓器の作成を目的とする研究」のために作成することができる。

 (2004年6月24日の生命倫理専門調査会の答申が通れば、3.ヒトクローン胚も研究可能となる)

 

 その他の制限事項として、

・細胞の提供者から書面で同意を得なければならない。提供は無償で行われなければならない。

・特定胚の輸入・輸出は禁止。

・人や動物の胎内へ特定胚を移植することは禁止。

 

 

 

○ 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(平成12年法律第146号)」(法律の概要)

(法律の概要)http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/hai3/2_houritu.pdf

 

(法律について)http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/hai3/3_houritu.pdf

 

 

特定胚のうち、3.の人クローン胚のみ「人」となっていることに注目。

 

1.のヒト胚分割胚は通常の体外受精技術で卵割胚を分割したもの。ウシなどの家畜で以前から使われていた技術。

2.のヒト胚核移植と3.人クローン胚は桑実胚までの胚細胞や体細胞を核移植によりクローン個体をつくる方法。

人クローン胚がいわゆる体細胞クローンである。1.と2.は受精卵クローンとも呼ばれる。

 

ヒト性融合胚と動物性融合胚は胚や体細胞つかって核移植によるクローン個体をつくる方法。

2.や3.と違うのは移植する細胞や移植される卵子に動物を使う。

 

ヒト動物交雑胚はいわゆる雑種のこと。ヒトと動物の雑種。

 

ヒト集合胚、ヒト性集合胚、動物性集合胚はいわゆるキメラのこと。

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

2007221() 更新

 

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