平成16年度 定期試験問題

 

平成16年度 前期中間試験問題 (第1講−第6講)

平成16年 6月 8日  1025 1115

                                  

問1 次の遺伝子、遺伝子組換えにかんする次の2つの文章を読んで、「DNA」、「遺伝子」と

「ゲノム」を科学的に正しく定義して解説せよ。a) b) まとめて解説してもよい。 (40点)

 

a)  遺伝子汚染なんて言葉があるぐらいだから、遺伝子って害のあるもんでしょ。こんな気持ち悪い遺伝子なんてものは食べたくないよ。今まで遺伝子を食べないようにしてきたし、これからも遺伝子を組み込んでないものだけ食べたいな。

 

b)  遺伝子組み替え作物について

http://www.hh.iij4u.or.jp/~oonemoto/hitohachi/02.htmlより抜粋。誤字は原文のママ。)

 

<<本文3行目の「遺伝子組み替え作物とは」から「手を染めはじめたのです」まで引用。>>

 

(以下略)

 

 

 

問2 ある本に、「ヒトとチンパンジーのゲノムの遺伝情報の違いは1.23%である」という記述に

   対して「ヒトとチンパンジーのあいだで、30,000余りある遺伝子のうち 1.23%つまり約400

   個の遺伝子が異なり、残りは同じ」との解説がしてあった。

   間違いを指摘し、正しく解説せよ。

 

   ただし、527日に発表されたNature誌のデータとの不整合は考慮しなくてよい。(30点)

 

 

 

問3 次のような相談を受けた。相談者が納得するよう、科学的に正しい回答をせよ。 (30点)

 

うるおいのある美しい肌を維持するのに、コラーゲンが大切だとテレビなどで盛んに宣伝しています。コラーゲン配合の健康食品を売っているので、ちょっと高いけど摂ってみようと思う。

そんな高価なもの摂取しても効果ないよ、という説明も聞いたけど、全身のタンパク質の3分の1はコラーゲンだというし、コラーゲンにはプロリンとグリシンが極端に多く含まれているので、不足しがちだから、食べることに効果がありそうだし。

それに、食べたり飲んだりするだけじゃなく、直接肌にコラーゲンを塗ると、保湿効果があっていいと化粧品の能書きに書いてあるから、これもちょっと高いけど買おうと思う。これは直接塗るんだから効果ありそう。ほんとのところはどうなのかな?

 

参考:

下線部は正しい。

 

コラーゲン配合ミネラルウォータ:100 ml 3 mgの魚由来のコラーゲンペプチド(ゼラチン)配合

コラーゲン配合サプリメント:1日に2 g から 6 g 分の錠剤などを摂取することを勧めている。

  ただし、ほとんどのメーカはオリゴペプチドや「アミノ酸の分子量にまで分解した」コラーゲンを配合。

 

栄養素としてのタンパク質所要量:成人男子70g/日 成人女子55g/日(五訂食品成分表より)

 

可食部100gあたりのタンパク質量:

食パン8.4 g、米精白米 6.8 g、糸引き納豆 16.5 g、さんま生 20.6 g

和牛サーロイン脂身なし 18.4 g、豚ひき肉18.2 g、鶏卵全卵生 12.3 g(五訂食品成分表より)

 

 

 

 

平成16年度 前期末試験問題 (第7講−第13講)

平成16年 9月28日  1025 1115

 

問1   毎日大量に喫煙する人のDNAはタバコを吸わない人に比べてその変異率は高い。

    タバコの中にはDNAに変異を誘発する発癌物質が含まれている。

 

       発癌物質による暴露から発癌にいたるまで10年、あるいは20年と長い年月がかかることが多い。このように発癌にまで長い年月がかかるのはなぜか。非喫煙者と喫煙者との間の発癌率の違いも含めて考察せよ。

 

 

 

問2   突然変異はDNAに生じた化学的な修飾であり、遺伝的な設計図であるDNAの塩基配列を、分裂する前の細胞やそれ以前の世代とは変えてしまう。

 

       あるロボット組立工場で、ロボットの設計図のミスがあった場合、すなわち意図しない偶発的な事故があった場合、ロボットの機能などの改善につながると思うか。

       生物の進化と突然変異の理論と関連させながらその根拠を示して説明せよ。

 

 

 

問3   動物の構造は受精卵の中にあるゲノムの遺伝情報によって決まる。

       これを支持する事実を示せ。

 

       また、ある人に、コウノトリの卵のDNAをヒトのDNAに置き換えると、ヒトの赤ん坊が産まれるだろうか尋ねられたら、どう答えるか。根拠を示して説明せよ。

 

 

 

 

平成16年度 後期中間試験問題 (第14講−第22講)

平成16年12月21日  1025 1115

 

問1 遺伝子組換え技術と交配技術を今年のプロ野球球団の合併劇や選手のトレード、ドラフトでの選手獲得などのアナロジーとして解説せよ。

   また、その解説をふまえて、遺伝子組換え技術で作られた食品と通常の食品との安全性の違いも解説せよ。 (50点)

 

植物を使った遺伝子組換え技術で作られる遺伝子組換え食品と交配技術で作られる新品種(たとえば京野菜の新品種やハナッコリー)の違い、あるいは動物の遺伝子組換え技術と交雑を利用してつくられる雑種との違いを説明する方法として、次のアナロジーで説明することにした。

 

2004年、日本プロ野球団の再編があった。

パシフィック・リーグの「大阪近鉄バファローズ」が「オリックスブルーウェーブ」に吸収合併される形で消滅した。

かわりに仙台を本拠地とする「東北楽天ゴールデンイーグルス」が誕生した。

大阪近鉄とオリックスに所属していた選手全員は、合併球団である「オリックス・バファローズ」と楽天球団に不均等に振り分ける、いわゆる分配ドラフトによりどちらかの球団に振り分けられた。

 

また、毎年、球団間で選手を交換するトレード、金銭トレード、フリーエージェント(FA)資格選手の球団移動、選抜会議(ドラフト会議)による選手の獲得などがおこなわれ、若干の選手の入れ替えがある。

 

ゲノム、遺伝子などの専門用語を正しく定義しながら、選手を遺伝子と見立てて、球団、選手、試合、球団合併、選手のトレードなどのアナロジーとして遺伝子組換え技術と交配や交雑技術との違いを解説せよ。

 

 

以下、念のため、野球をよく知らない人のための解説。

野球は、1チーム9人または10人ずつの2チームが守備側と攻撃側に分かれ、守備側の投手が本塁上へ投げる球を攻撃側の打者がバットで打ち得点を争うゲーム。

日本プロ野球の場合、交代要員もふくめて、出場選手として登録される選手数は1球団当たり常時28名以内と決められている。

「球団は、同一年度中、70名を超える選手を支配下選手とすることはできない」という規則により、一般に1球団に1軍・2軍あわせて70名ほどの選手が登録されている。

また、「球団は監督1名、コーチ10名を超える登録はできない」と定められている。

 

 

 

問2 クローン技術にかんする次の問に答えよ。   (50点)

 

クローン人間にかんする是非が問われている。その是非を議論するにはクローン技術を正しく理解する必要がある。

そこで、次の3点について解説せよ。

 

1. まず、自分のクローン人間を作るとしたら、どのような手順になるか。概略を説明せよ。

 

2. 遺伝子を改変したクローンも作ることができる。たとえば、自分とは違う血液型を持ったクローン人間を作ることもできる。自分の祖先の血液型などから自分のABO式血液型の遺伝子型を推定し(できればでよい)、異なる血液型の遺伝子型を持ったクローン人間を作る方法の概略を説明せよ。

 

3. ABO式血液型が人の行動様式を規定したり、性格や人と人との相性を決めたりするとの前提で、多くのテレビ番組が作られている。番組制作者側は科学的な実験データに基づいて番組を作っていると説明している。この風潮にのって、企業でも採用試験の面接時に血液型を聞いたり部署替えに血液型を参考にしたりするところもある。この風潮を科学的に検証し、2.で作ったクローン人間と自分との性格などについて推測せよ。

 

 

 

 

平成16年度 後期末試験問題 (第23講−第27講)

平成17年 3月 1日  1025 1115

 

問1 遺伝子組換え食品に反対している人たちの反対する根拠としていくつかある。

   たとえば次のような例がある。

 

l  遺伝子組換え食品を作るときに、抗生物質耐性の遺伝子を目的遺伝子と一緒に目的植物に導入する方法がある。

 

l  その抗生物質耐性遺伝子が他の生物に取り込まれることにより、その生物が抗生物質耐性を獲得してしまう、という懸念がある。

 

l  たとえば、遺伝子組換え植物を栽培中に、まわりの雑草などの植物や細菌に遺伝子組換え植物由来の抗生物質耐性遺伝子が入り込むかもしれない。

 

l  あるいは、遺伝子組換え食品を食べた人の腸内細菌に食品由来の抗生物質耐性遺伝子が入り込んで、抗生物質耐性を獲得した細菌が誕生してしまうかもしれない。

 

l  このような可能性が否定できないのなら、遺伝子組換え食品をつくるときに抗生物質耐性遺伝子を使うのはよくないと反対している。

 

l  以上のような抗生物質耐性遺伝子の例とまったく同じようなことが、遺伝子組換え食品に組み込む目的の遺伝子、たとえば除草剤耐性遺伝子や害虫抵抗性遺伝子についても考えられる。すなわち、栽培地域の近辺にある野菜や雑草などが除草剤耐性や害虫抵抗性を獲得してしまうかもしれない。あるいは同様の理由で腸内細菌などが変質してしまうかもしれない。

 

このような遺伝子組換え食品反対派の人たちの懸念に対して、科学的に説明してあげてください。  (40点)

 

(馬刺しや刺身を食べると、ウマゲノムや魚ゲノムの遺伝子があなたのヒトゲノムの中に入り込みますか?)

(ヒトは数えきらないくらい多種類の細菌と皮膚や腸内などで共生しています。この共生は一生続きます。

 その間、ヒトゲノムと細菌ゲノムの関係は?)

 

 

 

問2 優生思想と脳死移植を題材にして、理想的な医療について意見を述べよ。   (60点)

 

 

 

 

● 計 算 問 題 ●

 

問1:  20分ごとに分裂する質量が 10-12 gの細菌 1個が、地球と等しい質量 (6 x 1027 g) になるまでにどのくらい時間がかかるか。また、その世代数はいくらか。

細菌が少なくとも 35億年前に起源をもち、それ以来分裂を続けているという事実をこの計算結果に照らし合わせ、ここで生じる矛盾を説明せよ。

 

時間 tにおける細胞の数 Nは、N=N0 x 2t/G と表せる。

ここで N0は時間ゼロにおける細胞数、Gは1世代の時間である。

log 6 = 0.778,  log 2 = 0.301

 

問2:  1個の細菌が現在の地球上のヒトの人口に匹敵するまで増殖するのにかかる時間はどのくらいか。また、そのときの細菌の総重量はいくらか。

 

問3:  ヒトの体には約 1013 個の細胞がある。ある細胞が制御されずに分裂できるような変異を獲得したとする(つまり癌化)。ある種の癌細胞は世代時間約24時間で増殖できる。1個の癌細胞が体の 1013 個の細胞と同じ数に増殖するまでにかかる時間はどのくらいか。この計算結果と実際の癌の進行速度との間の矛盾を説明せよ。

 

問4:  鈴木光司の「リング」の中で、ビデオテープによる呪い殺しの話がある(以下は架空の話)。

 

浅川はリングウイルスを感染させる能力を持つ1本のオリジナルビデオテープを持っている。これを1週間以内にダビングしてまだ見ていない人に見せないと、ビデオの所有者は死んでしまう。つまり、リングウイルスを2倍に増殖させ、まだ感染していないヒトに感染させる必要がある。

無事感染させることに成功すると、その人は生き延びる。

 

ヒトを次のように分類する。

a) ビデオを見ていない人−−>正常

b) ビデオを見た人

まだ正常人に見せていない人−−>仮性キャリア

2人の正常人に見せた人−−>真性キャリア

仮性キャリアが真性キャリアにビデオを見せても再感染させることはできず、仮性キャリアはダビングして2人の正常人に見せない限り1週間後に死んでしまう。

 

仮に、浅川がちょうど1週間後にオリジナルテープを2本ダビングして、その1本を高山に、他の1本を舞に見せたとする。高山と舞はそれをダビングし、1週間後にそれぞれ2人に見せ、見せられた4人も高山たちと同じことを繰り返したとする。

一人も犠牲者が出ないように、しかも全員正確に1週間後に上記を実行したとすると、最初の犠牲者が出るのは浅川がオリジナルテープを入手してから何週間後か?またその1週間後はどうなるか?

 

次のような条件に変わったとき、どうなるか

 

a) 日本人にしか効果がない場合。

b) 2人ではなく1人に見せると救われる場合。

c) 2人ではなく3人に見せないといけない場合。

d) 真性キャリアの数が1000万人を越えると、仮性キャリアの内、半数は

 正常人を見つけられず死ぬ場合。

 

問5:  コンパクトディスクCDでは、96 cm2 の中に約 4.8 x 109 ビットの情報が記録できる。情報はバイナリーコード、すなわち 0 1 かというかたちで保存される。

 

a) DNAの塩基配列を指定するには、塩基対1個につき何ビット必要か?

b) ヒトゲノムに含まれる情報 (30億塩基対) を記憶するには、CDが何枚必要か?

 

問6:  ヒトゲノムの塩基配列を以下の方法で紙に印刷した。

 

        a) 1枚のA4用紙に3,000塩基分印刷した。A4用紙は何枚必要か。

また、印刷した用紙をすべて積み上げると厚さはいくらか。この用紙100枚の厚さが1cmとする。

        b) 1塩基の文字幅を1mmで紙テープに印刷した。何メートルの紙が必要か。

 

 

 

 

 

解答例

 

○前期中間試験

 

問1(配点40点)

遺伝子組換え食品を批判するとき、a) にあるように遺伝子汚染とよく宣伝されているが、遺伝子そのものが汚染物質であるわけではない。このひとは遺伝子を食べたことがないように書いているが実際にはすべての生物の細胞には遺伝子があるので毎日遺伝子を食べていることになる。

 

すべての生物は細胞からなり、その細胞の中には遺伝子の本体であるDNA分子が含まれている(若干の例外を除く)。

DNAとは4種の塩基からなるポリマーの名称で、DNA分子の中でもRNAに転写される単位が遺伝子である。

ヒトの場合ゲノムあたり2万数千種ある。特にmRNAに転写されるとリボゾーム上でタンパク質に翻訳される。

このようにすべての細胞に含まれているDNA分子の機能単位が遺伝子といえる。

 

したがって、食品を食べるとその中には分解していない限りDNA分子は含まれているため、いわゆる遺伝子を食べていることになる。

一般に、このひとのように、遺伝子は普段食べていなくて、遺伝子組換え食品にのみ遺伝子が含まれていて、それを食べたくないと思いこんでいるひとが意外と多い。

 

b)も1行目からおかしい。

遺伝子操作で遺伝子を取り出すのはいいが、それを別の遺伝子に組み込む、ということでは意味が通らない。

おそらく別のゲノムに組み込むといいたいらしい。

それなら遺伝子組換え作物の作り方に該当する。その後の文章からも、この著者はゲノムと遺伝子が混乱しているように思える。

 

細菌の遺伝子を作物のゲノムに組み込むのが正しいが、著者はまた遺伝子に組み込むといっている。

そこで大きな混乱がある。自然界では存在しない作物という点では、古典的な品種改良の方がよくあてはまる。

古典的品種改良では、交配というテクニックで、別種を交配し新種を作ることが多い。

その場合、両者のゲノムが混在した全く別種でしかもどの遺伝子が残ったか組換わったかわからない生物が誕生する。

種を越えて別種を作ることもできる。

しかし、遺伝子組換え作物を作るときは、種を越えて別種の遺伝子をゲノムに組み込むだけで、別種ができるわけではなく、組み込む遺伝子も組み込まれた場所もわかる。

 

著者がイメージしているのはキメラ生物であり、ゲノム同士の組換えである。

遺伝子組換え技術でできるのは1種から数種の遺伝子を種を越えて組換えることができるだけであって、交配やキメラとは全く別のものである。

もし、どんな生物とでも交配が可能なのであれば、種の保全は不可能であるし、種の定義も変更しないといけない。

 

 

問2(配点30点)

ヒトとチンパンジーのゲノムのちがいということは、両者の遺伝情報(塩基配列)全体のちがいということだから、両者の塩基配列のちがいが1.23%あることになる。

遺伝子の種類や質のちがいということではないため、問題文のように共通の遺伝子や異なる遺伝子のちがいというわけではない。

 

両者のゲノムの1,000 bp あたり12個あまりの塩基配列にちがいがあることになる。

ここでは、遺伝子産物であるタンパク質の構造や機能にかかわるアミノ酸配列のちがいには言及していないため、遺伝子のちがいは全く不明である。

 

 

問3(配点30点)

いずれのコラーゲンも効果が期待できません。

普通の食品に含まれているタンパク質程度の効果しかないので、特に高価な商品を買う必要はなく普通の食品を食べるだけでじゅうぶんです。

 

そもそもコラーゲンにはその構造と機能の特徴から20種類ぐらいのタイプがあり、しかも複雑な高次構造をとっており、それぞれ特定の場所で特定の機能を発揮してこそ意味のあるものです。

サプリメントや化粧品に配合されているコラーゲンは魚や豚などのヒト以外のコラーゲンであり、多くの場合ペプチドにまで分解されていたり、可溶化するために変性していたりするため、本来のコラーゲンの機能は失われています。

 

コラーゲンに多く含まれているというグリシンとプロリンは共に必須アミノ酸ではなく、通常の代謝で作られるので、特にコラーゲンを補う必要もありません。

コラーゲンから得たアミノ酸がかならずしもコラーゲン合成に特に使われるということはなく、高価な高級フィッシュ由来(フカヒレなど)のコラーゲンをとったとしても、通常の食品由来のタンパク質と同様に分解・代謝されるだけです。

 

意味不明のサプリメントに頼るのではなく、むしろ、バランスのある食事をして栄養素としてタンパク質をとるように心がけた方がいいです。

 

肌のコラーゲンは真皮の結合組織に多量にふくまれています。その上層には皮膚の細胞があります。

表皮に塗っても巨大なコラーゲン分子が真皮にまで脱することはほとんど考えられませんし、たとえ浸透したとしても、化粧品に配合されているコラーゲンはすでにその機能を保持しておらず、単なるタンパク質のかたまりです。

 

 

 

○前期末試験

 

問1(30点)

発癌物質DNAに化学的な修飾を施すことがある。これがDNAの変異である。

その変異が遺伝子の部分に起こると、その遺伝子の発現に異常が生じる可能席が高く、結果的にその変異遺伝子から生じたタンパク質の働きによっては病態を示すことになる。

 

実際、多くの疾病において、このような遺伝子の変異が原因と思われる例が見つかっている。

病変が現れている細胞のゲノムを調べてみると、ある遺伝子の変異が見つかることがあり、病変と遺伝子の変異との関連づけが可能な例がいくつかわかっている。

癌化にかかわる遺伝子群もいくつか見つかっている。

その遺伝子群はゲノムにある遺伝子全体から見るとわずかであり、1本のタバコに含まれる変異原により、その遺伝子群が発癌するような変異を起こす確率は低い。

 

発癌物質等により遺伝子の変異が見られたからといって必ずしも病変に結びつくとは限らない。

発癌物質による遺伝子の修飾はランダムに起こり、時間とともにその変異が蓄積していく。

個々の細胞に起こる変異の数は少ない。DNAに変異が見られたからといって、その変異は細胞をすぐに癌化させるほど多いわけではないため、ただちに癌化するわけではない。

長期間発癌物質に暴露することにより、個々の細胞当たりのDNAに起こる変異が蓄積し、細胞の癌化を引き起こすのに充分な遺伝子に変異が起こる確率が高くなる。

 

喫煙者は非喫煙者に比べ、タバコに含まれる多くの変異原にさらされることになり、それにともなってDNAに起こる変異の割合も高くなる。

その結果、喫煙者のほうが非喫煙者よりも発癌率の上昇として現れる。

タバコの発癌物質は、喫煙により肺から入ってくることにより、その物質に曝露している細胞ほど遺伝子の変異が大きいことになる。したがって、喫煙により、肺癌、食道癌などのリスクが上昇することになる。

タバコに含まれる物質は喫煙により血液中にも取り込まれることから、血液を介して全身にも行き渡る。

 

高等生物にはDNAに特別な修飾が起こると、それを監視し修復する機構がある。

変異原によりDNAに化学的な修飾が起こっても、通常このDNAの修復機構が働き、もとの正常な構造に戻る。したがって、わずかの変異原だけでは、DNAに傷が付いたとしても修復される。

 

ほとんどの細胞は絶えず分裂を繰り返している。

発癌物質により被害にあった細胞が分裂をするにも難しいほどのダメージを受けた場合は、その細胞が死滅するだけで、癌化しない。

癌化に関わる遺伝子に変異があれば、必ず癌になるとも限らない。

すべての変異した細胞が異常な増殖を続けるわけではないからである。

異常な分裂を示すような変異が起こった場合は、とくに無制御に分裂してしまうような変異につながった場合、癌化に向かうことになる。

 

また、個々の細胞が癌化しても必ずしも発病(発癌)するわけではない。

一般に癌化した細胞は異物、すなわち非自己として認識されるため、免疫の作用により癌細胞は排除される。

実際年を取ると毎日のように新しい癌細胞が誕生しているが、それが癌の発病につながらないのは、新しく生じた癌細胞の多くは免疫で排除されるからである。

その免疫システムをくぐり抜けた癌細胞や全身の免疫力が落ちている場合には発癌につながることになる。

 

このような理由により、発癌物質に接したとしても発癌には数十年の年月がかかることになる。

もちろん、分裂が盛んな細胞や高頻度・高濃度に発癌物質にふれる細胞などでは短期間に癌化し、発癌につながることもある。

 

 

問2(30点)

変異原によるDNAの突然変異はランダムに起こり中立である。

ゲノムの中で遺伝子の部分は数%しかなく、遺伝子の部分に変異が生じたときに限ってなんらかの発現の違いが生じることがありえる。

 

変異は中立であり、その結果生じる変化も中立である。

したがって、変異により良くなるか悪くなるかはわからない。ある方向性を持って変化することもない。

多くの場合、その変異が、その生物の生存にとって有利になるか不利になるかは、生育環境によって決められる。

 

 

問題にあるロボットの場合、意図しない偶発的な事故であるから、突然変異の場合と似ている。

この場合もミスが偶然ロボットの機能を向上させるものであった場合もあり得るが、多くの場合ロボットの機能を低下させることにつながるであろう。

なぜなら、ある機能を発揮させるのに最もよいと考えられる設計をしてつくられたものの中に偶発的な事故が生じたとき、その設計された機能を損ねてしまう方向にミスが働くと考えられる。

どの部品であっても、それがなくなったり機能しなくなったりするような設計ミスであれば、当然ロボットとして機能しないであろうし、商品価値もなくなる。そのような欠陥品は市場の力で消されてしまう。

 

ほかに中立的な変化、つまり色や形の些細な変化もあるだろう。

しかし、時には、よりよいロボットにつながる変化もあるかもしれない。

このように、偶然の変化でも試行錯誤の回数がかなり多く、選択圧が加わるならば、意味のある改善につながり得る。

 

生物が進化する場合、自然選択に、ある方向性があるわけではないため、偶然の積み重ねによって生存にとってよい方向に変化する場合は進化に結びつくが、多くの変異は悪い方向に働くであろう。

 

農作物のように育種によって品種が改良される場合は、ある方向付けを人がおこなっていて、人為的に選択されるため、選ばれた変異は有用なものが残ることになる。

 

 

問3(40点)

生物の設計図に相当する遺伝情報はDNAに書いてある。

親から子へ遺伝するのもこの遺伝情報だけである。

しかし、設計図であるDNAだけ、つまりゲノムの遺伝情報だけでは生物を誕生させることはできない。

 

ウイルスは基本的には核酸とタンパク質の塊である。

したがって、簡単なウイルスであれば、完全な化学合成のみでつくることができる。

しかし、自然のウイルスも人工のウイルスもそれだけでは自己増殖できない。

ウイルスが増殖するためには、細胞である宿主が必要である。

 

生物の構造を決めているプランはDNAが出し、プランは発生の過程で実行に移される。

このためには、適切な条件が整わなければならない。

すなわち、細胞という装置が必要になる。

 

DNAのうち、遺伝子の部分の塩基配列は、タンパク質のアミノ酸配列を規定している。

生物の構造はタンパク質を中心にして構成されている。

遺伝子に変異が起こると、そのDNAの小さな修飾が生物そのものの変化につながることもある。

 

ゲノムの遺伝情報のうち、たとえ一塩基でも変化したことにより、酒の強さに変化が出たり血液型が変わったり病気になったり、あるいは逆に病気になりにくくなったりする。このように遺伝子の変異が形態の変化に結びつく例がたくさん見つかっている。

このように、ある特定の遺伝子を変化させることによりその表現型に変化が表れる例が見つかっていることから、生物の構造はゲノムの遺伝情報によって規定されているといえる。

 

組換えDNAにより、ある生物のゲノム中に別の生物の遺伝子を組み込んだり、ある遺伝子の働きをなくしたりすることができる。

この場合、もとのゲノムの生物の細胞を使って組換えを起こし、その生物の発生のしくみにしたがって生物が誕生する。基本的にはもとのゲノムとその細胞に大きな違いは見られないが、組み込んだり欠損させたりした遺伝子の性質が表現型として現れることからも、生物の構造はゲノムの遺伝情報によって決まることを支持するといえる。

 

このように、ゲノムが動物の形を決めているのは確かだが、ゲノムの遺伝子が正しく発現するには発現させる装置である細胞が必要である。

異なる種の細胞を使って発生させようとしても、ゲノムのDNAは単なる化学物質であり、発現のスイッチが入らないと発生は進まない。ゲノムの遺伝子の発現を調節するタンパク質などの環境が必要である。

 

親から子へ伝えられる遺伝情報は、ゲノムの塩基配列のみであり、その塩基配列にはその生物を構成するすべてのタンパク質のアミノ酸配列が規定されている。

すなわち、ゲノムはその生物の基本的な構造や多くの機能を規定している。

しかし、この遺伝情報は単に塩基がつながったものだけであり、DNA自身でタンパク質合成をおこなうことはできない。

ゲノムの遺伝情報からタンパク質合成が正確におこなわれるためには、DNAだけでなく、転写や翻訳を正確に実行するための場所やそれらに関わる数多くの因子が必要になる。

 

コウノトリの卵の中にヒトの染色体や核を移植したとしても、その細胞質はコウノトリ由来であるため、通常正しく細胞分裂が起こることはない。

また、適切な成長の環境、有用なツール、たとえば初期の発生に必要な遺伝子を調節するタンパク質など、ちょうどいい空間的な位置、たとえば初期の細胞分裂で細胞が正しく分化を遂げるのに必要な卵細胞内の非対称性など、その他のいろいろなことが必要である。

つまり、発生はDNAを受け継ぐということだけでは不充分で、そこには卵という親が用意した適切な準備がなければならない。

そのように一見大変難しくても、条件がすべて満たされれば、ゲノムに蓄えられて、プランに従って生物の体の構造は作り上げられる。

 

ヒトの場合、胚盤胞期までは人工的な環境で培養が可能であるが、それ以降の発生には胎盤が必要である。

胎盤は母体がつくるので、卵の中の栄養物だけでは胎児は育たない。

発生が進行するためには、無から有が生じることはあり得ないので、必ず外界からの栄養の補給がいる。

人の場合、胎児が成長するためには母胎の胎盤を介して胎児に栄養が供給される必要がある。

しかし、コウノトリの卵という閉じた環境では、外界から熱や気体の出入りはあったとしても、物質の補給は困難であり、卵の中にもともとある物質だけで胎児が成長することはあり得ない。

たとえ成長したとしても、コウノトリの卵の中にヒトの胎児は入りきらない。

 

 

 

○後期中間試験

 

問1

2−4.遺伝子の構造

  ○ゲノムと遺伝子 Part 2

 

に記載の内容を参照のこと。

 

 

問2

3−5.新しい医療 胚性幹細胞の応用

   ○血液型と性格 ES 細胞を使った遺伝子改変クローンの思考実験

 

に記載の内容を参照のこと。

 

 

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