平成20年度 定期試験問題

 

平成20年度 後期末試験問題 (第22講−第27講)

平成21220  935 1025

 

・基本用語「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」を正しく理解しているか

・「ゲノム」が遺伝情報を担っていることの理解

・ヒトのクローン技術にかんする基礎的な問題

・遺伝子と進化にかんする基礎的な問題

(問題量の関係から「バイオ燃料」にかんする問題は削除しました)

 

1. 記述式の問題

 (臓器移植・優生学・科学論)

 ある映画を題材に(配付した資料より)

 ヒトのクローン技術に関する問題

 ヒトクローン技術・臓器移植・優生学関連

 ソース

  1: 『クローンは故郷をめざす』公式サイト

    http://clone-homeland.com/

  2: 『クローンは故郷をめざす』及川光博・中嶋莞爾インタビュー

    http://catchy-tv.com/movie/movie2/clone/index.html

  3: 映画の森「『クローンは故郷をめざす』 消せない記憶 静かに見つめて」

   http://www.cinema.janjan.jp/0812/0812052962/1.php

  4: ネットで読める新聞記事など(朝日新聞・読売新聞・産経新聞)

 

体細胞クローン技術を使って作ったクローン胚由来のクローン人間について、細胞を提供した人間と比較しながら、身体的特徴や「記憶」などについて、一卵性双生児とも比較しながらゲノムレベルで解説せよ。

 

下の引用は映画『クローンは故郷をめざす』にかんする新聞やインタビュー記事などからの抜粋である。主演・監督、評論家、新聞記者の言うことが実感できるだろうか。もし実感できないなら、実感できるようにするためにはどのような技術が必要か。またその技術は実現可能だろうか。

科学的な根拠をあげて、行頭(1)〜(5)の番号を利用してそれぞれ解説せよ。

 

 

2. 記述式の問題

 (バイオインフォマティクス)

 ある書籍を題材に(配付した資料より)

 進化と突然変異

 人類の進化

 

著者は、現代のバイオインフォマティクスの考え方が間違っていると主張している。

バイオインフォマティクスの理解が次の通りだとして、その疑問点を指摘し、独自の進化論を展開している。

しかし、残念なことに、著者による現代バイオインフォマティクスの理解が間違っている。

 

著者がなぜ間違ってしまったのかも含め、本当の現代バイオインフォマティクスの理解を教えてあげてください。

 

 

 

 

 


平成20年度 後期中間試験問題 (第14講−第21講)

平成201212  935 1025

 (学会参加のため、試験当日は不在となる予定です)

 

・基本用語「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」を正しく理解しているか

・遺伝のしくみ、遺伝子型、表現型、体細胞分裂と減数分裂のちがいなどの基本概念を正しく理解しているか

・植物のクローン技術と動物(ヒト)のクローン技術を理解しているか

・遺伝子治療の可能性

 

1. 記述式の問題

 「ダイヤモンド・オンライン」誌・514日の記事を題材に

 植物のクローン技術にかんする基本的な問題

 クローン技術と種子の生成、寿命

 遺伝子組換え品種と伝統的品種改良品種のちがい

 

2. 記述式の問題

 「The Economist」誌・82日の記事を題材に

 ヒトの遺伝子改変とクローン技術

 成人の遺伝子ドーピングと遺伝子治療

 ゲノムと遺伝子のちがい

 

試験問題(予定)

1「ダイヤモンド・オンライン」誌・514日の記事を題材に

1-1. 次の項目について、科学的な根拠をあげて簡潔に解説せよ。

a.       植物のクローンについて

b.       下線部「クローンだから種子がない」について

c.       引用記事の下線部について

d.       引用記事の下線部について

e.       植物の遺伝子組換え品種は一般にそのクローン種子やクローン苗ではなく通常の品種改良種との交雑種として市販されている。なぜそのような交雑種を作るのだろうか。

 

2The Economist」誌・82日の記事を題材に

2-1.(引用記事の下線部:成人への遺伝子ドーピングについて)

   学術用語を正確に使って解説せよ。

2-2. 引用記事に対する次のようなコメントがあった。この人の誤解をといてあげてください。

   「人間とイルカの遺伝子を組み合わせたイルカ人間が棒高跳びで優勝するとか・・・」

2-3. 著者の考える遺伝子ドーピングに対して、その賛否を科学的な根拠をあげて私見を述べよ。

 

 

 


平成20年度 前期末試験問題 (第8講−第13講)

 平成20 725  935 1025

 

・基本用語「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」、「セントラルドグマ」を正しく理解しているか

・遺伝のしくみ、メンデルの法則、遺伝子型、表現型、対立遺伝子などの基本概念を正しく理解しているか

・遺伝子の構造を正しく理解しているか

・基礎的な実験技術(PCR法、アガロースゲル電気泳動など)の原理等を正しく理解しているか

 

 

1. 記述式の問題

  朝日新聞の記事(授業で取り上げた話題)を題材に

  ゲノム解析の限界と生体機能、セントラルドグマ

   ゲノムの塩基配列を決定することで何がわかるのか

   ゲノム解析だけでは分析できないこと

  ゲノムと遺伝子 遺伝情報とDNA

  常染色体と性染色体

   たとえば、ヒトの男女の違い

   ゲノムの塩基配列情報から男女の違いを読み取れるだろうか

 

 

2. 遺伝の法則、基礎的な実験技術を統合した実験にかんする問題

  穴埋め、予想されるアガロースゲル電気泳動像の図への書き込みなど

  PCR法とアガロースゲル電気泳動の組み合わせ実験

  アガロースゲル電気泳動の原理とDNA分子量マーカーの意味

  50-bp ラダーのDNA分子量マーカーを泳動すると

  遺伝子型と表現型 対立遺伝子 メンデルの法則

   ABO式血液型を決定する遺伝子を例に

 

 

3. 記述式の問題

  DNA型鑑定の方法 PCR法の応用として

  ゲノム解析でできること

   遺伝子型の判定に使う材料としての細胞

  セントラルドグマの理解

  ゲノムレベルの現象とタンパク質(酵素)レベルの現象の違い

  細胞の多様性とゲノムの同一性

 

 

==実際の試験問題===

平成20年度 前期末試験問題 (第8講−第13講)

1. ゲノム解析の限界と生体機能にかんする文章をよく読み、問に答えよ。

(30)

 

2008528日付朝日新聞に次のような新聞記事が載った(実際の試験問題には記事の全文を引用している)。

 

女性のゲノム初解読 オランダ・ライデン大医学センター

 

(タイトルにあるとおり、女性のゲノムをはじめて「解読」したとの記事)

(素性のわかっている男性4人しか解読されていなかったので女性では初とのこと)

 

その前日のWeb版のニュース(asahi.com)では次の記述が続いている。

(つまり紙媒体の新聞には以下の内容が削除されている)

 

女性のゲノム解読によって、ヒトの遺伝子の多様性がわかり、女性には通常は二つあり、男性には一つしかないX染色体の研究にも役立つという(下線1)

性差のバランスをとる(下線2)

 

1-1

ヒトゲノムに女性特有あるいは男性特有の遺伝子あるいは遺伝情報が存在するか。

簡潔に解説せよ。

 

1-2

下線1について。

「女性のゲノム解読」はどのような研究の役に立つと思うか。その根拠を簡潔に述べよ。

あるいは、「女性のゲノム解読」が役に立たないと思うのなら、なぜか。その根拠を述べよ。

 

1-3

4人の男性のゲノムが解析された後に1人の女性のゲノムを解析することにより「性差のバランスをとる (下線2) 」以外にメリットがあるだろうか?その根拠を簡潔に述べよ。

 

あるいは、そのメリットがないと思うのなら、女性と男性の違いを研究するのに「ゲノム解読」以外に有用な手段があるか?セントラルドグマのどの段階で調べるのがいいのか指摘し、解説せよ。

 

 

2. PCR法を利用した遺伝子型鑑定実験の方法と結果をよく読み、次ページの問に答えよ。

(40)

 

ヒトのABO式血液型にかかわる複対立遺伝子は次の3つである。

A遺伝子 ; 遺伝子記号=A

B遺伝子 ; 遺伝子記号=B

O遺伝子 ; 遺伝子記号=O

 

実験方法:

3種類の遺伝子が個別に検出できるような特異的PCRプライマーセットを設計した。

次の実験条件(8通り)に示した鋳型DNAPCRプライマーセットを使ってPCR実験を行った後、アガロースゲル電気泳動によりPCR増幅断片を確認した。

 

PCR実験条件

鋳型DNAの由来     プライマー                     電気泳動のレーン

 血液型A型の人        A遺伝子特異的プライマーセット            A

 血液型B型の人        B遺伝子特異的プライマーセット            B

 血液型O型の人        O遺伝子特異的プライマーセット            O

 血液型不明の人1    3種混合プライマーセット                 1

 血液型不明の人2    3種混合プライマーセット                 2

 血液型不明の人3    3種混合プライマーセット                 3

 血液型不明の人4    3種混合プライマーセット                 4

 血液型不明の人5    3種混合プライマーセット                 5

 

(3種混合プライマーセットというのは、3[A, B, O各遺伝子特異的]のプライマーセットをすべて混合したもの)

 

 

実験結果:

下図はDNA分子量マーカーと8種類のサンプルを同時に電気泳動したときの泳動像である。

 

 

2-1

  レーンA、レーンB、レーンCのそれぞれのPCR増幅断片の長さを推定せよ。

 

2-2

  1番から5番までの人の泳動像から、それぞれのPCR増幅断片の長さを推定せよ。

  また、その結果から、それぞれの人の遺伝子型と血液型を推定せよ。

  必ずしも実験が理論的にうまくいっているとは限らない。

 

2-3

  6番の人の両親の血液型は、ともにAB型であることが免疫学的な方法で確認されている。

  このペアから生まれる可能性のあるすべての遺伝子型を列記せよ。

  その推定理由も書け。

  また、生まれる可能性が一番高いと予想される遺伝子型の実験結果を6番のレーンに書き込め。

   解答用紙の図に書き込むこと

 

2-4

  7番の人から見て、父方の祖父の血液型がO型、父親の血液型がB型、母親の血液型がAB型である

  ことが免疫学的な方法で確認されている。

  父親と母親の遺伝子型を推定し、7番の人の可能な遺伝子型をすべて列記せよ。

  その推定理由も書け。

  また、7番の人の推定されるすべてのDNA型鑑定結果を図の7番のレーン(4レーン用意してある)

  に書き込め。

   解答用紙の図に書き込むこと

 

説明: 問2

 

3.  「ゲノムで解析できること」にかんする次の問に答えよ。

(30)

 

飲酒の許容度の高低は肝臓におけるアルコール代謝にかかわる酵素の種類に依存している。

ABO式血液型は、血液中の赤血球の表面抗原に結合している糖鎖の種類に依存している。

飲酒の許容度やABO式血液型を肝臓や血液を使わなくても例えば髪の毛を使って判定できる。

なぜそれが可能なのか。

その理由を含め、その判定方法を概説せよ。

 

 

== 配点など ===

1-1   10

1-2   10

1-3   10

よくできた解答には3点を上限に加点した。

 

2-1   5

2-2   10

2-3   10

2-4   15

よくできた解答には5点を上限に加点した。

 

2-23番と5番→よいコメントには加点した

 

 

 

1-1

男性または女性しか発症しない遺伝性の病気などがあるので、男女特有の遺伝情報はある

ミトコンドリアが女性特有との解答があった。

 

1-2

X染色体が交叉によりぐちゃぐちゃになるからメリットがないとの解答があった。

 

1

ゲノムの塩基配列を読むことだけからわかることは何か?

病気のなりやすさなどの男女差はゲノムの塩基配列からだけではわからない。

 

 

3     30

 すべての体細胞でほぼ同じゲノムを持つことの説明が欲しい

 

 

 

== 解答例と解説 ===

平成20年度前期末試験

(模範解答でも唯一の正解というわけでもありません)

 

1-1

女性のゲノムは常染色体、すなわち第1〜第22染色体までの対と性染色体であるX染色体の対の合計2346本のDNAの遺伝情報である。

男性のゲノムは常染色体の対は女性と同じであるが、性染色体X染色体とY染色体を各1本ずつ含まれる。

つまり、常染色体とX染色体は男女で共通に持っており、Y染色体の有無だけが男女の違いとなる。

#各染色体には1分子のDNAが含まれており、そのDNAの塩基配列が遺伝情報である。

#遺伝子は遺伝情報の内、RNAに転写される単位である。

 

このことから、女性の持つ遺伝情報は男性にもあるため、女性特有の遺伝情報はない。

したがって、女性特有の遺伝子はない。

 

一方、男性にはY染色体があり女性はY染色体を持たないことから、Y染色体上にあるDNAの遺伝情報は男性特有ということになる。

Y染色体には300個程度の遺伝子が認められている。

 

Y染色体の一部にX染色体と交叉する部分があるため、Y染色体のすべての遺伝情報が男性特有というわけではない。

しかし、Y染色体の遺伝情報・遺伝子の内大部分はY染色体にしかないため、その部分が男性特有の遺伝情報・遺伝子と言うことになる。

 

 

1-2

前問で解説したとおり、ヒトゲノムに男性特有の遺伝子はあるが、女性特有の遺伝子はない。

ある常染色体の遺伝情報があった場合、これが女性由来か男性由来かを塩基配列を解析するだけでは判定できない。

男性のゲノムの全塩基配列を読むだけでヒトのゲノムを読んだことになる。

したがって、女性のゲノムの塩基配列を単に決定しただけでは男性のゲノムで得られた塩基配列以上の情報は得られないため、そのことが役に立つとは思われない。

 

 

1-3

ヒトゲノムの遺伝情報のみを解析しても、女性と男性の違いを理解することは難しい。

ゲノムはあくまでも遺伝情報である。

細胞内で実際にさまざまな代謝反応が起こっているが、これはゲノムの遺伝子領域が発現し、転写、翻訳後に合成されたタンパク質の働きに由来する。

タンパク質の細胞内での働きや、個体としての性差を調べるためには、細胞や個体レベルでの働きを調べる必要がある。

このことは、ヒトゲノムをいくら解析しても得ることはできない。

 

 

2

説明: 解答用紙回答例H20前期末4

 

3

ヒトのすべての体細胞は基本的には同じゲノムを持つ。

体細胞は受精卵が分裂してできもので、体細胞分裂時にほぼ正確にDNAのコピーがとられるため、すべての体細胞は同じ遺伝情報を持ったDNAを持つことになる。

 

ABO式血液型を決定する因子は赤血球にある表面抗原への単糖の転移酵素である。

ヒトには2種類の転移酵素がある。

この転移酵素の遺伝子はゲノムにあるため、基本的にはすべての体細胞でこの転移酵素の遺伝子のタイプを決定することができる。

すなわち、髪の毛の中にあるDNAを抽出できれば、このDNAから該当する遺伝情報を読み取れれば遺伝子型を決定することができる。

 

 

一般的な方法として、問2で紹介したように、被験者の細胞からDNAを抽出し、PCR法により特異的なプライマーを利用して該当遺伝子を増幅し、アガロースゲル電気泳動法により増幅断片を確認する。

 

 

アルコールによる許容量は、それにかかわる酵素、すなわちアルデヒド脱水素酵素2の遺伝子型を決定する。

ヒトの細胞として、たとえば髪の毛を利用し、その細胞からDNAを抽出する。

アルデヒド脱水素酵素遺伝子に特異的なプライマーを設計し、PCR法により特異的な遺伝子を増幅する。

このとき、ヒトによる違いを認識するようなプライマーを設計することで、増幅断片の有無をアガロースゲル電気泳動によりチェックすることで、どの遺伝子型を有するか判定できる。

 

 

 

ヒトゲノムの遺伝情報は塩基配列の羅列で、その配列そのものから細胞の機能まで類推することは難しい。

遺伝情報が発現するということは、遺伝子から転写により作られたmRNAの情報から翻訳により新たにタンパク質(アミノ酸の重合体)が合成されることである。

 

つまり、遺伝子の遺伝情報はタンパク質のアミノ酸配列の情報を含んでおり、このタンパク質の構造(アミノ酸配列によりある程度決まる)によりある特定の機能があり、その機能によってさまざまな代謝反応を触媒したり、構造物を築いたりしている。

 

しかし、遺伝情報から、つまり、アミノ酸配列からだけでは、合成されるタンパク質の機能は(ある程度推定できても)決定できない。

また、すべての遺伝子が、ある細胞で発現するわけではなく、細胞内でコントロールされた環境でしかるべき遺伝子のみが発現する。

これらの細胞内での発現の様式は、ゲノム解析だけでは(ある程度推定できても)決定できない。

 

 

 


平成20年度 前期中間試験問題 (第1講−第7講)

 平成20年 530  935 1025

 

1. 遺伝のしくみ、遺伝情報の伝わり方(親から子へ)を正しく理解しているか

2. 基本用語「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」を正しく理解しているか

 

 

(出題予定)

1. 遺伝情報の伝わり方にかんする問題

-- 20080420日付の朝日新聞書評欄に載った朝日新聞本社論説委員による書評から出題

-- 遺伝情報の伝わり方

--「減数分裂」を「ゲノム」、「遺伝情報」で解説

--「きょうだい」の遺伝情報

-- その他

 

2. 遺伝子組換え食品にかんする問題

-- セントラルドグマ

-- 基本用語「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」の理解

-- バクテリアの「害虫抵抗性遺伝子」を導入したトウモロコシ

-- 家畜が植物を、ヒトが家畜を食べたとき、「DNA」、「遺伝子」、

   「ゲノム」、「タンパク質」はどうなるか

-- その他

 

込み入った難しい議論をするのが目的ではないため、基本的で常識的な判断力で答えられます。

科学用語(DNA、遺伝子、ゲノム、遺伝情報、タンパク質など)を正確に使って解説できるかどうかを問う問題です。

 

 

==実際の試験問題===

平成20年度 前期中間試験問題 (第1講−第7講)

 

1遺伝情報の伝わり方にかんする次の文章をよく読み、問に答えよ。

30点)

20080420日付の朝日新聞書評欄に、朝日新聞本社論説委員(2004年より東京科学医療部長)の尾関章氏による、ポール・デイヴィス著、吉田三知世訳「幸運な宇宙」(日経BP社)の次のような書評が載った。

 

ここにいるワタクシの危うさと幸運

おばあさんは2人。ひいおばあさんは4人。「ひい」が九つ並ぶおばあさんなら千人を超す。そのなかの1人が、ちょっとだけ面食いで「ひい」が九つ並ぶおじいさんを拒んでいたら、今のこのワタクシはいなかった。

考えてみれば、ワタクシって危うい。

その危うさは宇宙だっておんなじ。この本は、そこのところを突いてくる。

 

 

自分の10世代前の祖先は計算上1024210乗)人いる。

この書評氏は「私が生まれてきたことの幸運さ」を説明するのに、多数の祖先のひとり、例えば11世代前の「あるひとりの女性」の行為しだいで自分は生まれてこなかったかも、と心配している。

おそらく、遠い昔の多くの人の中のたったひとりの行為如何で自分の誕生が危うい、だから自分の存在は幸運だと説明しようとしていると思われる。

 

この論説委員氏宛に次の論点で投書することにした。

すべての論点を含む(順は問わない)投稿文を作成せよ。

 

l  「ここにいるワタクシの危うさと幸運」を「ゲノム」の「遺伝情報」で解説する。

 

l  科学用語の「ゲノム」、「遺伝情報」、「減数分裂」をきちんと解説する。

 

l  「自分のゲノム」に含まれる「遺伝情報」に焦点を当て、11世代前まででなく、親の世代の「気まぐれ」を焦点にする。

 

l  同じペアから産まれてくる子(つまり「きょうだい」)の間でよく似ているが異なるゲノムを持つのはなぜかを例に解説する。

 

 

 

2 遺伝子組換え食品にかんする次の文章をよく読み、問いに答えよ。

70点)

世の中には遺伝子組換え作物由来の飼料を食べた牛の肉や牛乳を疑問視する人たちがいる。

この人たちは、遺伝子組換えでない飼料を食べた牛由来の肉や牛乳なら安心・安全だと信じており、このように宣伝されている通常より高価な商品を好んで購入している。

 

 

このような人たちに次の項目で「分子生物学」を解説してあげてください。

(個別に解答すること)

(解答用紙に書く順は問わないが、何番の解答か明記すること)

 

1. 分子生物学のセントラルドグマとは?

 

2. 遺伝子組換え作物は、遺伝子組換えでない作物と比べ、「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」のレベルでどのような違いがあるのか。

バクテリアの「害虫抵抗性遺伝子」を導入したトウモロコシを例に説明。

 

3. ヒトが牛肉や牛乳を食べると、それらに含まれているDNA、タンパク質などはどうなるか。

そのとき、ヒトゲノムは安泰か。

牛肉には牛ゲノム、牛DNAが含まれているが、牛肉を食べてもヒトが牛にならないのはなぜか。

 

4. 遺伝子組換え作物由来の飼料を食べた牛由来の牛肉や牛乳をヒトが食したとき、ヒトに害を与えるのであれば、どのようなメカニズムを想定する必要があるか。

遺伝子組換えでない作物を食べた牛由来の食品と比較しながら解説。

 

5. 「ブロッコリー」、「はなっこりー」、「あすっこ」、「菜の花」を例に、普段食べている野菜を作るとき、「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「タンパク質」のレベルでどのように変化しているのか。

 

 

 

== 配点など ===

最初の試験なので、甘めに採点しました。

 

1

基礎点は30点。よく書けている解答には10点を上限に加点した。

 

2-1

基礎点は15点。よく書けている解答には3点を上限に加点した。

 

2-2

基礎点は20点。満点をつけた解答は3名。

 

2-3

基礎点は15点。よく書けている解答には5点を上限に加点した。

 

2-4

基礎点は20点。よく書けている解答には10点を上限に加点した。

 

2-5

ボーナス問題。元々の配点には加えていない。

10点を上限に加点した。満点は3名。

 

 

 

== 解答例と解説 ===

平成20年度前期中間試験

(模範解答でも唯一の正解というわけでもありません)

 

1

 

「ここにいるワタクシの危うさと幸運」を説明するのに、書評氏が、なぜ11世代前までさかのぼって考えたのか理解に苦しみます。

自分のゲノムに含まれる遺伝子に焦点を当てることで、「ここにいるワタクシの危うさと幸運」は親の世代の気まぐれを心配するだけで十分考察できるはずです。

 

自分の心や意識はともかくとして、自分の肉体の独自性は自分のゲノムによって決まると考えられます。

つまり、自分の物質レベルでの存在は、基本的には親から引き継がれた遺伝情報から成り立っています。

その遺伝情報の本体はDNAという化学物質であり、DNAを構成しているヌクレオチド、すなわち、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの並ぶ順番、塩基配列が遺伝情報といえます。

 

ある生物を構成している遺伝情報のすべてをゲノムといいます。

ヒトの体細胞内の核にはゲノムは2セットあります。

ひとつは親の卵子ゲノム由来で、もうひとつは親の精子ゲノム由来です。

このふたつのゲノムの遺伝情報にしたがって、自分という物質は構成されます。

 

 

では、親の卵子ゲノムや親の精子ゲノムとはいったい何者でしょうか。

 

卵子や精子は減数分裂によって生じます。

減数分裂は、卵母細胞や精母細胞から生じます。

卵子も精子も、生じ方の基本は同じですので、以降、卵子のみ説明しましょう。

 

母親の体細胞にも2セットのゲノムがあります。

母親を構成する約 60兆個の体細胞には卵母細胞を含めて基本的には同じゲノムが存在します。

卵母細胞から減数分裂によって卵子が生じる過程で、対になっている染色体がひとつになります。

つまり、卵母細胞のゲノムは2セットですが、卵子のゲノムは1セットだけです。

 

ヒトの染色体は23対あります。

対になっている染色体の遺伝情報は基本的にはよく似ていますが、0.1%程の違いがあります。

23対の染色体の内、どちらかひとつの染色体だけが卵子に残りますので、卵子のゲノムは223乗通りあることになります。

 

減数分裂する過程で、交叉という現象が起こります。

これは対になっている染色体同士がねじれるようにして分裂することで、卵子に残された染色体は卵母細胞の染色体対のモザイクになっています。

このようなことから、ひとりの女性から作られる卵子のゲノムは無数と言っていいくらい多くの種類があることになります。

 

この無数と言っていいくらいの多くの卵子の中からたった1個だけが偶然選ばれて自分のゲノムセットの一員になるわけです。

 

精子も同様です。

 

 

したがって、自分のゲノムセットは、無数と言っていいくらいの種類からたまたま選ばれたある一組のゲノム(親の卵子ゲノムと精子ゲノム)からなり、幸運な偶然の産物と言うことになります。

 

 

そう認識すれば、自分の存在は、11世代前の1024人の女性の内のひとりの気まぐれを心配しなくても、1世代前、つまり親の気まぐれだけで、自分の存在が危うくなることがわかります。

 

 

同じペアから産まれてくる可能性のある子も無数にあることがわかります。

 

産まれてくる子に含まれるゲノムセットは、必ず両親のゲノムセットにある遺伝情報が使われており、両親以外の遺伝情報が入り込む余地はありませんが、両親の持つ遺伝情報のセットのうちいずれかが偶然選ばれることによって、無数と言っていいくらいの可能性のうちのひとつということになります。

 

同じペアからきょうだいでよく似た子が産まれてきます。

これは上記で説明した偶然の産物が複数生じたからです。

 

ここまで考えてくると、私を構成しているゲノムセットは、このゲノムセットであることは恐ろしいくらい確率的にあり得ないほど幸運な偶然の産物と言うことがわかります。

ワタクシがワタクシとして誕生するのは偶然であって、その偶然は親の世代の減数分裂の過程で選ばれた染色体の数多くの組み合わせのうちから、たまたま選ばれた遺伝情報を持って誕生したわけです。

 

 

この自分の存在を考察するのに、11世代前の女性の気まぐれを考えることも重要でしょうが、あえてそれを想定しなくても、1世代前を考えるだけで、ものすごく危うい存在であることが容易に理解できます。

 

 

もし、この自分を構成しているゲノムセットからつくり出された「脳」の「機能」として自分の「意識」があるのなら、自分の意識もこの世に誕生すると言うことはあり得ないくらい低い確率から誕生したことになります。

 

 

 

 

2

 

1. 地球上のすべての生物は共通の材料物質からなり、それらの合成するメカニズムは基本的に同じです。

 

例えば、DNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンというヌクレオチドが直鎖状に数珠つなぎになったもので、二重らせん構造をとっています。

 

DNAには方向があり、二本のDNA鎖は逆向きで、塩基の部分はアデニンとチミン、グアニンとシトシンという組み合わせしかありません。

 

つまり、二本のDNA鎖のうち一本のDNAの塩基配列があるともう一本の塩基配列は必然的に決まります。

このようなDNA構造の特徴から、同じ塩基配列を持った複製物を作ることが簡単にできます。

 

 

DNA鎖には遺伝子と呼ばれる領域があります。

この遺伝子の部分の遺伝情報から転写という過程でmRNAが新たに合成されます。

真核生物の場合、合成されたmRNAは細胞核を出てリボソームに達すると、翻訳という過程でmRNAの遺伝情報からタンパク質が合成されます。

 

タンパク質は20種類のアミノ酸が数珠つなぎになった化合物のことです。

 

つまり、DNAという物質にある遺伝子と呼ばれる領域の遺伝情報というのは、どのような構造のタンパク質を作るかといった情報のことであり、DNAの遺伝情報には、どのタンパク質をいつどのくらい作るかといった情報も内包しています。

 

 

生命を構成する基本物質(核酸・タンパク質)、転写・翻訳の基本的なしくみなどを分子レベルでみてみると、調べられた限り地球上に存在するすべての生物で共通しています。

そのようなことから、これらのことを分子生物学のセントラルドグマと呼んでいます。

 

転写・翻訳は一方向しか情報が流れません。

つまり、DNAの遺伝情報がmRNAへ、mRNAの遺伝情報がタンパク質のアミノ酸配列へと情報が流れています。

この逆、たとえば、タンパク質のアミノ酸配列という情報がmRNADNAに流れるといったことは確認されていません。

 

 

 

2. トウモロコシにはトウモロコシゲノムがあり、その中には数万の遺伝子があります。

 

このトウモロコシにバクテリアの害虫抵抗性遺伝子導入することを考えます。

害虫抵抗性遺伝子を構成する本体は害虫抵抗性という遺伝情報を持ったDNA分子です。

このDNA分子をトウモロコシのゲノムを構成しているDNAに導入することになります。

 

すると、もともとあったトウモロコシのDNAは導入したDNAの長さだけ長くなります。

他の領域に変化はありません。

 

導入したDNAは遺伝子ですので、トウモロコシの転写・翻訳システムを使って、導入遺伝子由来のタンパク質が合成されます。

これが害虫抵抗性タンパク質です。

 

害虫抵抗性遺伝子を導入したトウモロコシは、そうでないトウモロコシと比べて、DNAは導入したDNA分だけ長くなり、その結果もともとあった数万の遺伝子に1個だけ遺伝子が追加され、もともとあった数万種類のタンパク質群に1個の害虫抵抗性タンパク質が加わることになります。

害虫抵抗性遺伝子を導入しても、元々トウモロコシの持っていたDNA、数万の遺伝子、数万種類のタンパク質群に基本的には変化がありません。

 

 

 

3. ヒトが牛肉や牛乳を食べると、牛肉や牛乳には牛遺伝子、牛DNA、牛タンパク質が含まれていますが、DNAやタンパク質はヒトの消化器官によって分解され、それぞれの構成要素の最小単位にまでばらばらに分解されてから小腸などから吸収されます。

 

このように、牛由来のDNAやタンパク質がそのまま機能を持ったままヒトに吸収されるわけではありませんので、ヒトの体細胞ゲノムDNAは何ら変化がありませんし、牛タンパク質の機能がヒトの体内で発揮されることもありません。

 

このようなことから、牛ゲノムの遺伝情報がヒトに組みこまれることはありませんので、牛由来の遺伝情報をもったヒトに変化することはありません。

 

万一、食品中のひとつの牛遺伝子が摂取したヒトの体細胞ゲノムに取り込まれたとしても、その細胞だけが取り込まれた遺伝子由来のDNAを含むだけで、必ずしもその遺伝子が発現するとは限りませんが、万一発現したとしても、その遺伝子由来のタンパク質がひとつ多く合成されることになります。

このようなことは起こり得ませんが、万一起こったとしても、ひとつのタンパク質でヒトが牛になることはありません。

 

 

 

4. たとえば、害虫抵抗性遺伝子が牛のゲノムに組みこまれたり、それを食べたときにその遺伝子がヒトのゲノムに組みこまれたりすることを想定する必要が生じます。

 

一番よくあるパターンは遺伝子の水平移動という考え方です。

ウイルスによって遺伝子が平行移動することはあり得ます。

ただし、この場合、平行移動する両方の生物に共通して感染するウイルスが必要になります。

通常異種生物に感染するウイルスはいませんので、滅多に異種間でウイルスを介して遺伝子が平行移動することはありません。

 

植物から牛へとなると、ほとんどと言っていいくらい遺伝子が平行移動する可能性はありません。

 

 

このあり得ないことがもし起こるとすると、害虫抵抗性遺伝子が牛ゲノムに取り込まれることになります。

ただし、この場合、害虫抵抗性遺伝子だけが特にウイルスにより運搬されやすいと言うことは考えにくく、植物に存在する数万の遺伝子が等しくこの可能性を享受することが考えられます。

もしそのようなことが起こるなら、植物と牛にあるそれぞれ数万の遺伝子がお互いに行き来するだけでなく、植物と牛に限らず生物一般に遺伝子が水平移動してしまうことになります。

 

実際にはそのようなことは起こっておらず、もし起こっているのなら種の固有性は保てません。

 

 

 

5. ブロッコリーなどの伝統作物は人為選択によって品種改良によりつくられたヒトの作品です。

菜の花はその野生種が元になって作られています。

 

はなっこりーはブロッコリーゲノムとサイシンゲノムのモザイクです。

はなっこりーゲノムに含まれるDNAはブロッコリーとサイシンのDNAから適当に選ばれたものであり、偶然の産物です。

この偶然選ばれたDNAにある遺伝子からタンパク質が合成され、はなっこりー個体ができあがります。

 

あすっこはブロッコリーとビタミン菜との交雑種で、はなっこりーと同様ブロッコリーゲノムとビタミン菜ゲノムのモザイク種です。

 

はなっこりーやあすっこの形態は菜の花のそれとよく似ていますが、親品種のブロッコリーとは全く異なります。

形態が変化したということは、遺伝子に変化が生じていると考えられます。

その変化した遺伝子由来のタンパク質の構造と働きにより親新種とは異なる形態を示していると考えられます。

しかし、どの遺伝子が変化したかは調べることは難しく、実際に調べられていません。

 

ワトソン博士の個人のゲノムを読むのに100万ドルの費用と2カ月の期間が必要だとの論文が掲載されました。日本円にして1億数千万ほどの費用です。安くなったとはいえ、それなりの設備なども必要で、そう簡単にゲノム解析できるわけではありません。

 

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

 

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