平成19年度 定期試験問題

 

○平成19年度 前期中間試験問題 (第1講−第7講)

 平成19 6 1  935 1025

 

遺伝子、ゲノムなどの基本用語を理解しているか

転写や翻訳システムを理解しているか

など

 

1 (30) 遺伝子:塩基配列とタンパク質:アミノ酸配列。転写・翻訳にかんする問題

 遺伝子の構成要素

 エキソンとイントロン(スプライシング)、翻訳領域と非翻訳領域(翻訳過程)

 翻訳と3つのフレーム

 逆翻訳 アミノ酸配列からmRNAの塩基配列の推定 コドンとアミノ酸

 

2 (20) 遺伝子と遺伝子組換え食品を食することにかんする問題

 病気と遺伝子 遺伝子は病気の原因か?

 「遺伝子」を食べるとどうなるか?

 

3 (30) 翻訳システムにかんする問題

 コドンとアミノ酸とtRNAの関係

 リボソームとtRNAの関係

 翻訳の終止過程

 

4 (20) 試験範囲全体に対する正誤問題(5問)

 遺伝子の本体

 mRNAの種類、多様性

 逆翻訳 問1の発展問題

 ミトコンドリアの遺伝

 分化した細胞の多様性とゲノム

 

 

1 遺伝子・塩基配列とタンパク質・アミノ酸配列にかんする次の問に答えよ。(30点)

1)     ヒトの肝細胞に存在するタンパク質Aは、アミノ酸300個がペプチド結合でつながった単量体である。このタンパク質AmRNAの長さは1,200塩基、この遺伝子Aの長さは2,000塩基対であった。この遺伝子Aの塩基の数、遺伝子Aから転写により合成されるmRNAの塩基の数とタンパク質Aのアミノ酸の数との関係を、転写・翻訳システムを絡めながら簡潔に解説せよ。

 

2)     次の塩基配列から合成されるアミノ酸配列を推定せよ。ただし、どのフレームが使われるか不明なため、考えられるすべてのアミノ酸配列を推定せよ。開始コドンの有無は無視してよい。アミノ酸の表記方法は何でもよい ( 3) の設問参照)

 

5’(P) - augguacagcuaagcu - 3’(OH)

 

3)     次のアミノ酸3個からなるペプチドがあるとする。このペプチドを作り得る可能なすべてのmRNAの塩基配列を記せ。

 

1文字表記 M - S - W

3文字表記 Met-Ser-Trp

フルネーム メチオニン-セリン-トリプトファン

 

 

2 遺伝子と遺伝子組換え食品を食することについて書かれた次の三段論法をよく読み、問いに答えよ。(20点)

1.      多くの病気の原因は遺伝子である。

2.      遺伝子組換え食品には虫を殺したり、抗生物質に耐性を持つようにしたりする遺伝子が組み込まれている。

3.      したがって、遺伝子組換え食品に使われている危険な遺伝子をヒトが食べると病気になるし、場合によっては死に到る。

 

1)     3段目の命題は正しいか?科学的に検証し、簡潔に解説せよ。

 

 

3 海野真凛著「かぐやひめの遺伝子」(新風舎・200611月)という小説に次のような記述がある。よく読んで問に答えよ。(30点)

解答しやすいように、せりふの行頭に「(番号)」を付加した。< >内は引用者。

 

p296

<とある報道番組で森本キャスターと女性アシスタントがフリップを使って説明している>

RNAのランダムな塩基配列が書かれたフリップとコドン表の書かれたフリップを使って

説明している場面で>

p297からp298 を引用した。

 

1)     著者が説明している「アミノ酸をつくる過程」と「停止コドン」にかんする記述を科学的に検討し、作者の誤解を簡潔に指摘せよ。

2)      (1)-(8)までのせりふのうち、誤っている部分だけ正しいせりふに書き改めよ。

 

 

4 次の文章を科学的に検討し、誤りがあれば指摘・訂正せよ。根拠をあげて簡潔に解説すること。(20点)

1)     遺伝子の本体はDNAとタンパク質である。

2)     1個の細胞で合成されるmRNAは、すべて同じ塩基配列をもつ。

3)     ヒトのシトクロームCというタンパク質はアミノ酸が103個からなり、このアミノ酸配列がわかっているとする。このアミノ酸配列からこのタンパク質をコードするmRNAの塩基配列を推定することができる。

4)     「細胞生物学の知識がある人はよく知るように、ミトコンドリアは女性から女性にしか伝わらない」(立花隆著「滅びゆく国家」(日経BP社)より引用)

5)     受精卵とそれから発生・分化した脳細胞や肝細胞は、互いに異なるゲノム構成をもつ。

 

 


○平成19年度 前期末試験問題 (第8講−第13講)

 平成19 7 20  935 1025

 

遺伝子の構造と遺伝形式を理解しているか

基本的な実験技術を理解しているか

基本技術の応用例が基礎知識で説明できるか

 

1 (35) 病気と遺伝子の変異

変異の例、フレームシフト、塩基置換(アミノ酸置換)

メンデルの法則 劣性遺伝病と優性遺伝病 遺伝子診断 DNA診断

 (問題文のゴシック体の部分を熟考して解答すること)

 

2 (20)  組換えDNA実験に使う遺伝子(DNA断片)の調製方法のちがい

 そもそも組換えDNA実験に使う「遺伝子」とは何か

 

3 (45)  PCR法を利用したDNA鑑定法

 種とゲノム

 「体細胞と分化」とゲノム

 実験科学の基本的な考え方

 

 

1 アデノシンデアミナーゼ (ADA: Adenosine Deaminase) という酵素は、細胞内で核酸の代謝にかかわる重要な酵素である。この酵素活性が先天的に欠損していると重篤な免疫不全の原因になり、治療しないと乳児期で死亡する。ADA欠損症は常染色体劣性遺伝の遺伝性疾患であることがわかっている。あるADA欠損症を発病している患者ADA遺伝子の構造とその遺伝にかんして、次の問に答えよ。(35)

 

1)     この患者の変異のタイプは「エクソン4の中の1塩基欠損によるフレームシフト」と説明されている。その意味を簡潔に解説せよ。また、同様の変異の例(教科書や授業で取り上げた例など)を挙げよ。

 

2)     この患者の変異のタイプは「エクソン8の中の35番目のコドンが1塩基置換による [アルギニン

グルタミン]  への変異」と説明されている。どのような変異が考えられるか、簡潔に解説せよ。また、同様の変異の例(教科書や授業で取り上げた例など)を挙げよ。

 

3)     別の患者の変異のタイプは「エクソン4の中の119番目のコドンが1塩基置換による [グルタミン 終止]  への変異」と説明されている例がある。どのような変異が考えられるか、簡潔に解説せよ。

 

4)     この患者の変異が両親のどちらに由来するかを検出することは可能か。変異遺伝子が親から子へどのように遺伝したかも含めて、簡潔に解説せよ。

 

 

2 組換えDNA実験に使う目的遺伝子の調製方法にかんして、次の問に答えよ。(20)

まず、細胞や組織からからDNAおよびRNAをそれぞれ水溶液として抽出する。

その後、図説p100p101に記載してあるような方法で目的のDNAを得る。

 

1.      制限酵素で切り取る(図説p100

制限酵素を用いて目的の遺伝子を含む部分を切り取る。このDNAには、イントロンも含まれている。

2.      mRNAから合成する(図説p100

目的のタンパク質を合成しているmRNAからDNAを合成する。このDNAcDNAと呼ばれ、イントロンを含まない。

 

3.      PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)を使うことでも目的のDNAを得ることができる。

 

1)     1.の制限酵素を使う方法の欠点は何か。EcoRI (認識配列GAATTC)を使ってヒトのゲノムDNAを分解したときの例で考えよ。

 

2)     2.cDNAを使う方法の特徴は何か。また、この方法で、目的遺伝子を単離できるか。簡潔に述べよ。

 

3)     3.PCR法は 1)2) の方法と違ってどのような特徴があるか。簡潔に述べよ。

 

 

 

3 PCR法を利用したDNA鑑定にかんして、次の問に答えよ。(45)

先月、「牛肉」と表示しながら意図的に豚肉や鶏肉も使用するという牛ミンチ偽装・詐欺事件が発生した。農林水産省などはPCR法を用いたDNA鑑定により検査し、その偽装を確認した。

独立行政法人農林水産消費安全技術センターは、次のような分析結果を公表した。

「牛肉」使用の表示のあった冷凍コロッケに使用されている原材料(牛肉、豚肉、鶏肉)の判別

・分析点数:29

・分析方法:PCR法による遺伝子分析

・分析結果:牛肉のみ5点、牛肉と豚肉15点、牛肉と豚肉と鶏肉9

 

原材料名に食肉として「牛肉」のみが表示された冷凍コロッケに使用されている原材料が、実際にどの肉を使用しているかを確認するために、PCR法を利用した判定試験を行った。偽装使用していることが疑われたのは、豚肉、鶏肉である。

 

1)     PCR法を利用したDNA鑑定方法を、次の用語等を使って簡潔に解説せよ。

・原材料からPCR反応に使う「鋳型」の調製

・特異的プライマーの設計およびその確認(および、ポジティブコントロール)

・アガロースゲル電気泳動法

・塩基配列決定法

 

2)     この検査により、牛肉のみと判定された5点は、本当に豚肉、鶏肉を使っていないといえるか、考察せよ。

3)     同様の鑑定方法を使って、他の動物(羊、ヤギなどの使用が疑われている)の肉や臓器の混入を調べることができるか。理由も含めて解説せよ。

4)     同様の鑑定方法を使って、牛や豚のどの臓器をミンチとして使っているかの判定は可能か。 理由も含めて解説せよ。

5)     同様の鑑定方法を使って、牛や豚などの家畜の産地特定は可能か。理由も含めて解説せよ。

6)     牛肉と豚肉を使ったコロッケがあるとする。この製品に使われている牛肉と豚肉の割合を、同様のPCR法を利用したDNA鑑定法で算出することは可能か。簡潔に解説せよ。

7)     テレビにおける特集によると、他社の「牛肉のみ使用」と表示のある冷凍食品を同様の方法でPCR検査すると、ほとんどの製品に極微量の豚遺伝子の混入が見られた、との報告があり、コメンテーターによる「けしからん」との意見のみが報じられた。このような報道をどう受け止めるべきか、PCR法の感度など利点と欠点を考慮して解説せよ。

8)     テレビや新聞はこの牛ミンチ偽装・詐欺事件を、「食の安全が脅かされた」、「裏切られた食の安全」との視点で報じていることが多い。発覚前に購入した冷凍コロッケが怖くて食べられないという一般人の意見も報じられている。この事件と「食の安全」との関係について、どう思うか、感想を述べよ。

 

 


○平成19年度 後期中間試験問題 (第14講−第21講)

 平成19 12 14  935 1025

 

「遺伝子」と「ゲノム」の意味を正しく理解しているか

遺伝子組換え技術やクローン技術全般を正しく理解しているか

 

1(30) 「クローン技術」と「遺伝子・ゲノム」

 「ヒトiPS細胞作成に成功」を報じた全国紙のニュース記事(第1報)から問題を作成。

 小問2(解答用紙1枚)

 

2(70) 「遺伝子組換え技術」

 書籍やWeb等に見られる遺伝子組換え技術に対する意見、質問を引用した問題。クリティカルに解説。

 小問6(解答用紙3枚)

 

例題

遺伝子組換え作物に対するよくある意見・質問について、科学的かつクリティカルな考察を加え、素人にもわかりやすく解説せよ。

質問4

Btタンパク質という毒素は人体にとって危険性は低いと言われています。

これはBtタンパク質に対する抗体ができているから安全性が高いと考えていいのでしょうか。

 

 

1

文章120071121日付の毎日新聞の記事、文章24は同日の産経新聞の記事、文章3は同日の読売新聞の記事からの引用である。よく読んで以下の小問に答えよ。(30点)

 

(参考文1 クローン技術というのは同じ遺伝子を持つクローン動物をつくることである!?)

(新聞記事から引用することで問題文をつくった。以下、問題文の下線部分のみ引用)

 

文章1 iPS細胞:ヒトの皮膚から万能細胞 京大などが成功  毎日新聞 20071121

患者自身の遺伝子を持つ細胞を作り、治療に利用することに道を開く技術。

拒絶反応のない細胞移植治療などの再生医療や新薬開発など、幅広い応用に向けた研究が加速しそうだ。

四つの遺伝子

マウスでの4遺伝子と同様の働きをするヒトの4遺伝子を成人の皮膚細胞に導入し、

京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子を使い

 

文章2 ヒトの皮膚から万能細胞、再生医療に画期的成果 京大チームが成功  産経新聞 20071121

患者と同じ遺伝子を持つ臓器細胞を作れるため、薬の効き目や副作用の診断などにも役立つ。

 

文章3 ヒト皮膚から万能細胞拒絶反応なし、臨床応用に道  読売新聞 20071121

患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。

 

文章4 倫理問題回避する万能細胞 夢の再生医療へ前進  産経新聞 20071121

この万能細胞は精子や卵子も作れるため、自分と同じ遺伝子を持つ人間を作ることも原理的には可能という。

 

 

小問1:  文章13の下線部について次の問に答えよ。

文章12には「遺伝子」という用語が複数使われている。文章3の表現と比べながら、「遺伝子」という用語・概念の使い方を各新聞社で比較せよ。

また、科学的な情報を読者に誤解がないように伝えるためにはどうしたらいいか述べよ。

 

小問2:  文章4の下線部について次の問に答えよ。

ヒトiPS細胞(今回つくられた細胞)から精子や卵子が作れると仮定して、「自分と同じ遺伝子を持つ人間」を「原理的に」作られる可能性はあるか。また、これはいわゆる「クローン人間」のことなのか。検証し、解説せよ。

 

 

2

遺伝子組換え作物に対するよくある意見・質問について、科学的かつクリティカルな考察を加え、素人にもわかりやすく解説せよ。(70点)

 

意見1

遺伝子組換え作物の安全性試験に慢性毒性の試験はありません。

作物を丸ごと食べる毒性、しかも長期にわたる慢性の毒性は全く調べられていません。

遺伝子組換え作物は自然界に存在しなかった新しい生物由来であり、人類がはじめて食べるものです。したがって、どのような毒性があるのかわからず、食べ続けてもいいのかどうか全く調べられていません。あまりにもずさんです。

安全性の評価の際に、哺乳動物を使った検査や細胞を使った検査をしていません。

生きた人で試験できないのなら動物や人の細胞を使った試験をするべきです。

 

意見2

従来の品種改良も遺伝子組換えだとの意見があります。

しかし、それは偶然の産物とはいえ、自然の中で起きていることであって、万一問題のあるものができたとしても子孫を残せないので大丈夫です。つまり、自然による選択がなされています。

従来の品種改良法では近縁種としか組み換えは起こりません。これは種の壁を越えていないことを意味しています。

従来の品種改良法と遺伝子組換え技術の一番の違いは、種の壁を越えるかどうかの違いです。自然の摂理の範囲内で行うことと、自然の摂理に反する行いの違いでもあります。

遺伝子組換え技術では自然による選択・淘汰も受けることはなく、遺伝子組換え作物は人によって保護されながら栽培されています。

 

意見3:(質問1:とセットで解答せよ)

遺伝子組換え作物を飼料として食べた家畜にどう移行するのかもよくわかっていません。

欧米の人たちはよく肉をレアで食べますが、生で肉を食べた場合、組み込んだ遺伝子が我々の中に入らないのかという心配も出てきます。牛乳も生で飲みます。

遺伝子組換え飼料により育てられた乳牛から搾乳した牛乳には、当然、遺伝子組換え作物の影響があります。

そのような牛乳を飲んで我々の健康に害がないとは言い切れません。

 

質問1

遺伝子組換え作物を食べると、その遺伝子や遺伝情報やタンパク質などがヒトや腸内細菌に組み込まれることはないのでしょうか。

 

意見4:(質問2:とセットで解答せよ)

遺伝子組換え技術とは、植物の遺伝子に細菌の遺伝子などを導入することです。

遺伝子組換え技術は、異なる遺伝子を組み合わせて新しい性質を持たせた新種の作物をつくることです。

魚の遺伝子を植物に導入することで、魚の要素を持った植物の新種ができます。

この新種は魚なのか植物なのかわからない生物です。

 

質問2

除草剤耐性大豆や害虫抵抗性トウモロコシは、植物以外の遺伝子(細菌由来)が導入されています。

できあがった作物は植物と呼んでいいのでしょうか(細菌植物ではないのでしょうか)。

 

質問3

遺伝子組換え作物には、食品への最高混入量の制限や、摂取許容量の設定がありません。

消費者には根強い遺伝子組換え作物に対する警戒心があるのに、これは手抜きではないでしょうか。

 

質問4

Btタンパク質という毒素は人体にとって危険性は低いと言われています。

これはBtタンパク質に対する抗体ができているから安全性が高いと考えていいのでしょうか。

 

 


平成19年度 後期末試験問題 (第22講−第27講)

 平成20 215  935 1025

 

「遺伝子」「DNA」「遺伝子組換え技術」などの基本用語の意味を正しく理解しているかを問う問題

ニセ科学に対して科学的に解説する問題

 

1 次ページに引用した文章1と文章2をよく読んで、次の問に答えよ。

文章1 (ある小説の宣伝文)

 

文章2 (ある健康食品「脳内核酸」の宣伝文)

最近では214日(木)付(試験の前日だ)の朝日新聞に全面広告が載っています。

Web上の宣伝文も参考にして問題文を作りました。

 

 

==実際の試験問題===

1 次ページに引用した文章1と文章2をよく読んで、次の問に答えよ。

文章1は遺伝子を食べることに対する警告で、文章2は核酸を食べることの重要性を説いている。

 

<文章1について>

海野真凛著「かぐやひめの遺伝子」(新風舎・200611月)という小説に編集者が書いたと思われる帯、裏表紙、広告の文章より引用したものである。

この小説は、「かぐやひめ」という品種名の遺伝子組換え米が主題である。

引用文からわかるように、編集者は、我々が他の生物の「遺伝子」を食べており、それが消化されていることを問題視している。

この編集者に次のことを教え、誤解を解いてあげてください。

1)     遺伝子とは何か 物質レベルで説明する

2)     「遺伝子を食べる」とどうなるか

3)     もし「ヒトが他の生物の遺伝子を食べる」ことが危険なのであれば、その遺伝子がどのように振る舞う必要があるか。

 

<文章2について>

某社の商品「脳内核酸」のWeb上に書いてある説明文、新聞広告から再構成した。

「脳内核酸」という商品には鮭由来のゲノムDNAと酵母由来のRNAが含まれている。

ヒトは年齢とともに核酸の合成能力が劣るようになり、特に脳機能の低下は脳内の核酸不足から来ると主張している。そこで、核酸の豊富な「脳内核酸」が摂ろう、という話である。

今まで問題にされてこなかった栄養素としての「核酸」にスポットを当てている。

参考:五大栄養素=タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)、ミネラル、ビタミン

1)     特に下線部分をよく読んで、記述の矛盾点(少なくともすべての下線部)を科学的に説明せよ。

2)     この商品を買おうとしている人に対して助言してあげてください。

 

 

文章1:

読者の皆様へ

あなたはいま、何を食べていますか。野菜。肉。乳製品。米。魚。パン。

加工食品。レトルト。スナック。わたし達は日々、何かを食べて生きています。

著者の海野氏は農業を営みながら遺伝子を研究し、

<食>をテーマにこの重厚なフィクションを書き上げました。

それだからこそわかる、一つの事実を浮き彫りにしています。

それは、わたし達が常に、「遺伝子を食べている」という事実です。

栄養素のこと、健康のこと、様々な人間にとってのことを考えるより前に、

わたし達の体には、別の生命の遺伝子が消化されているのです。

この小説を読み終えた後、冒頭の質問への答えが必ず変わります。

もう一度聞きます。

あなたはいま、<何>を<食べて>いますか。

 

いまや食べること自体、危険だ。

政府と農業研究場がつくりだした遺伝子組み換え米「かぐやひめ」が日本中を大パニックに陥れる。

ある日を境に「かぐやひめ」を食べた人間が次々と心臓発作で倒れ、死んでいく。

その原因は、脳内で異常発熱した細胞内物質ミトコンドリアだった――

死因は、遺伝子。

 

文章2   注目される第七の栄養素 核酸  「脳内核酸」の重要性

脳に必要な栄養として忘れてはならない成分が、核酸です。

核酸にはDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の2種類あります。

私たち人間には60兆個の細胞があるといわれています。

そのすべての細胞の中にあるのがDNA

中でも、人間では脳などに広く分布しています。

核酸は細胞の増殖・分裂をつかさどる重要な物質です。

つまり、核酸は細胞が生まれ変わる時に必要不可欠な成分なのです。

核酸は、もともと私たち人間の体内で生成されます。

ところが、年齢とともにその能力がおとろえてしまうため、積極的に核酸を摂取する必要があります。

最近、記憶力のおとろえを感じたことはないでしょうか?

脳年齢をいつまでも若々しく保つためには、不足しがちな核酸を補うことが必要なのです。

普段の食事で摂取する肉や魚、野菜などの細胞には必ず核酸が含まれています。

しかし、その量はほんのわずかです。

1日に必要な23 gの量を摂取するには、とうてい及びません。

そんな中、手軽に核酸を摂取できる食材として注目を集めているのが鮭(サケ)の白子です。

ところが、鮭の白子は入手するのが困難です。

そこで登場するのが「脳内核酸」(注:商品名。1カ月分で7,000円程)。

「脳内核酸」には、普段の食事では不足しがちな核酸が含まれています。

鮭の白子にDNA(デオキシリボ核酸)が多く含まれています。

また、ビール酵母に多く含まれているのがRNA(リボ核酸)です。

「脳内核酸」には、鮭の白子とビール酵母が絶妙なバランスで配合されています。

=====

 

2 高等学校の教科書からの引用文をよく読んで、科学的な間違いを指摘しながら感想を書け。

5教科6冊(5出版社)の教科書からバイオテクノロジーにかんする記述を引用

「理科基礎」「生物II」「保健体育」「家庭基礎」「現代社会」

(東京書籍)(第一学習社)(一橋出版)(教育出版)(実教出版)

(少なくとも3つ答えよ)

(引用文の「組換え」「組み換え」表記は原文のママ)

教科書1 「理科基礎」(東京書籍)p198-19920020320日検定済、20060210日発行

【遺伝子組換え作物】

「ある農作物の遺伝子に、その作物がもともともっていなかった遺伝子を組みこんで有用な性質をもつ農作物をつくることが行われている。これが遺伝子組換え作物である。そのような作物には、除草剤をまいても枯れにくいダイズやイネ、ウイルス病にかかりにくいトマト、ペチュニアの遺伝子をもつ今までになかった青いカーネーション、害虫に強いワタなどがある」

「すべての技術がそうであるように、遺伝子組み換え作物をつくり出す技術も優れた面だけをもった技術ではない。自然界には存在しない生物をつくり出してしまう技術でもある。したがってこの技術は常に安全性を厳しく守っていく必要があるのはいうまでもない」

 

教科書2 「生物II」(東京書籍)p7920030320日検定済、20050220日発行

【遺伝子組換え作物の安全性】

「農作物を農薬に強くすれば、雑草の駆除は容易になるがそのことが農薬散布量の増加につながらないだろうか。害虫抵抗性の遺伝子として、細菌の生産する毒素の遺伝子が導入されているが、これは本当に人体には影響しないのだろうか。これらの懸念に対しては、今のところ安全性が100%保証されているとはいえない」

 

教科書3 「保健体育」(第一学習社)p9420060120日検定済、20070210日発行

【食品による健康被害】

「新たな不安としては、遺伝子組み換え作物があげられる。現在、遺伝子の配列を組み換えたり、新たな遺伝子を組み入れることで、除草剤に強い品種など、意図した特徴を持つ植物をつくりだすことが可能になった。しかし、操作された遺伝子の影響で人体が新たなアレルギー反応を引き起こす可能性も指摘され、議論・研究がつづいている」(引用者注:この引用文は「食中毒」と「食品添加物」の話題の間に挟まれている)

 

教科書4 「家庭基礎」(一橋出版)p7820020310日検定済、20050120日発行

【食品の安全性について知る】

(引用者注:食中毒、食品添加物、有害化学物質、輸入食品の各問題点の指摘のあと、「遺伝子組み換え食品の問題点」を次のように指摘している)

「アレルギーを引きおこしやすいたんぱく質や有害な物質がつくられる可能性、昆虫に対する耐性が自然生態系を攪乱する可能性など、いくつかの懸念も完全には否定できない」

 

教科書5 「新現代社会」(教育出版)p2520060320日検定済、20070120日発行

【遺伝子組み換え作物の誕生】

「長らく人類は、違う品種の作物の花粉を受粉させることによって、病気になりにくい品種や実りの多い品種を開発してきた。しかし、今では、直接に遺伝子の配列を変えること(遺伝子組み換え)によって、いろいろな品種の作物を開発できるようになった。

その結果、今では強力な除草剤にも耐えられる品種が作られている。こうした品種の作物は、農業が巨大ビジネスになっているアメリカなどではさかんに栽培されている。しかし、他方では、そうした作物の安全性をはじめ、多くの問題が指摘されている」(引用者注:具体的な問題点は指摘されていない)

 

教科書6 「新版現代社会」(実教出版)p2720060320日検定済、20070125日発行

【バイオテクノロジーは何をもたらすか】

「われわれ人間は、いまや設計図のレベルから生命をつくり出し、コントロールする段階に到達しようとしている。遺伝子操作をおこなう人間の責任は、きわめて重いといえるだろう」

「遺伝子組み換え作物の安全性について、日本ではどのような議論がなされているのかを、新聞やインターネットなどで調べてみよう」

「『遺伝子組み換え』に抗議するNGO 遺伝子組み換えトウモロコシを切り落とす環境保護団体『グリーンピース』の活動家。ドイツ」(大きなはさみを使って成長途中のトウモロコシを切り落としている写真。活動家はマスクをして防御服と分厚い手袋もして身を守っている)

 

試験問題には出さなかったが、次のような興味深い教科書もある。

教科書 番外編 「高校現代社会 現代を考える」(一橋出版)p7120020320日検定済、20040120日発行

【技術革新と経済社会の変化】

「こうした技術革新の進展は、かならずしも人類に幸せをもたらすとはかぎらない。核兵器をはじめとするハイテク兵器の開発や、化学物質による環境汚染、遺伝子組み換え作物の問題などを考えればあきらかであろう。私たちは、科学技術の成果がどのように応用されているかという点にも、つねに注意を払うことが大切である」

(引用者注:「あきらかであろう」と言い切られても困惑するしかありませんが、例によってなぜ「人類に幸福をもたらすとはかぎらない」のか具体的な指摘は、この教科書のどこにも書かれていない)

 

ちなみに、教科書における「遺伝子くみかえ」表記は以下の通り

(詳しくは一覧参照

高等学校教科書 「遺伝子くみかえ」表記一覧

生物II

8社中

A組換え8

 

 

理科基礎

3社中

A組換え3

 

 

図録図説

4社中

A組換え4

 

 

家庭総合

7社、 8種中

A組換え6

B組み換え1

C組みかえ1

家庭基礎

7社、10種中

A組換え8

B組み換え2

 

保健体育

3社、 5種中

 

B組み換え5

 

現代社会

9社、13種中

 

B組み換え9

C組みかえ4

 

中学校教科書 「遺伝子くみかえ」表記

技術・家庭

家庭分野

2社中

A組換え1

 

C組みかえ1

公民分野

3社中

 

C組みかえ3

 

 


○平成19年度 前期中間試験 解答例と解説

1 (30)

1) 遺伝子Aの塩基対の数は2,000なので、転写直後のmRNAの塩基数も2,000である。遺伝子AmRNAの塩基の数は1,200なので、エキソンの塩基数の合計は1,200、スプライシングにより除去されるイントロンの合計は800塩基ということになる。タンパク質Aのアミノ酸の数が300なので、翻訳領域のmRNAの塩基数は900塩基である。成熟したmRNAには翻訳領域が900塩基、非翻訳領域が300塩基あることになる。

遺伝子Aの内訳は、全体が2,000塩基、イントロン部分が800塩基、エキソン部分1,200塩基のうち翻訳領域が900塩基、非翻訳領域が300塩基となる。

 

 

2) 3フレームあるので、翻訳可能なアミノ酸配列は3通りある。アミノ酸は1文字表記で示した。

             augguacagcuaagcu

1フレーム目  M  V  Q  L  S  X

2フレーム目   W  Y  S  *(終止コドン)

3フレーム目    G  T  A  K  X(L)

 

1フレーム目 6番目のアミノ酸は不明

2フレーム目 アミノ酸3個分翻訳された後、終止コドンが来る

3フレーム目 5番目のアミノ酸はコドンの3塩基目が不明だが、どの塩基が来てもロイシンになる

 

3) メチオニントリプトファンのコドンは、それぞれaug ugg のひとつのみ。セリンのコドンは6つある。したがって、このアミノ酸3つのペプチドを作りうる可能なmRNAの配列は次の6通りである。

 

M  S  W

augucuugg

auguccugg

augucaugg

augucgugg

augaguugg

augagcugg

 

 

2 (20)

1) 遺伝子そのものが病気の原因になるわけではない。遺伝子由来のタンパク質の構造と機能により病気になることはありえる。遺伝子の本体はDNAである。生鮮食品などに細胞が含まれていれば、その細胞核にDNAが存在する可能性が高い。生鮮食品を食べるとDNAも食べることになる。摂取したDNAはタンパク質や脂質などと同様、消化管内で分解されて代謝などに使われる。遺伝子はDNA上にある機能単位であり、植物の遺伝子は植物細胞の中にあるときに機能するが、ヒトが植物を摂取すると、細胞は破壊され、DNAも分解される。万一遺伝子を含むDNAが無傷で存在しても、このDNAがヒトの細胞に取り込まれることはないので、このDNAが機能することはない。

 

 

3 (30)

1)作者はコドンが直接アミノ酸を合成すると勘違いしている。さらに、コドンそのものも直接遺伝子からつくられると勘違いしているらしい。

分子生物学のセントラルドグマでいうところの、DNA->mRNA->Proteinという流れは情報の流れであって、DNAがコドンを、コドンがアミノ酸を合成していることを表しているわけではない。

mRNAやタンパク質が合成されるとき、DNAmRNAの塩基配列という情報が使われ、タンパク質やRNAなどの多くの因子が関与して合成される。

翻訳過程で合成されるのはタンパク質であって、アミノ酸ではない。翻訳に使われるアミノ酸はtRNAと結合した形で細胞質に多数存在している。コドンがそれに合うアミノ酸を合成するわけではなく、アミノ酸は翻訳過程の前にすでに合成されている。

 

2)

(2)「になります。」UUAという塩基の並び、つまりコドンがリボソーム内のtRNA結合部位に来たとき、ロイシンtRNAがリボソームのtRNA結合部位に結合し、ロイシンtRNAのアンチコドンとmRNAUUAコドンが相補的に結合します。

 

(3)すごいですよね。たった四つの塩基がタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を規定しているんですから。

 

(4)「なので、」メチオニンtRNAのアンチコドンとmRNAAUGコドンが相補的に結合します。

 

(5)元はといえば、たった四種類の塩基の配列、すなわち遺伝情報から私たちの命は成り立っているんです。

 

(7)「停止コドン」->終止コドン

「アミノ酸の生成を止めるわけです」->

終止コドンに相補的に結合するアンチコドンを持ったRNAはなく、代わりに終止コドンを認識する特殊なタンパク質が結合し、合成されたタンパク質はtRNA、リボソームから切り離されることでタンパク質合成は終わります。

 

 

4 (20)

1) 遺伝子の本体はDNAとタンパク質である。

 

遺伝子の本体はDNAである。

 

2) 1個の細胞で合成されるmRNAは、すべて同じ塩基配列をもつ。

 

mRNAは2本鎖DNAの一方の鎖が鋳型となり、その鋳型に相補的な鎖が合成されることで作られる。したがって、すべてのmRNAの塩基配列はDNAの遺伝子領域の塩基配列に依存している。

 

3) ヒトのシトクロームCというタンパク質はアミノ酸が103個からなり、このアミノ酸配列がわかっているとする。このアミノ酸配列からこのタンパク質をコードするmRNAの塩基配列を推定することができる。

 

メチオニンとトリプトファンのコドンはひとつしかないが、他の18種類のアミノ酸のコドンは複数ある。

逆翻訳によりmRNAの塩基配列を推定することは不可能ではないが、膨大な種類の推定mRNAができる。

たとえば、少なく見積もって、100このアミノ酸がすべて2個のコドンを持っているとすると、2100乗通りのmRNAの可能性がある。実際にはひとつのアミノ酸に4個から6個のコドンを持つ物もあり、その推定mRNAの数は莫大な数になる。

 

4) 「細胞生物学の知識がある人はよく知るように、ミトコンドリアは女性から女性にしか伝わらない」(立花隆著「滅びゆく国家」(日経BP社)より引用)

 

ミトコンドリアは女性から子孫に伝えられる。男性のミトコンドリアは子孫に伝わることはない。

 

5) 受精卵とそれから発生・分化した脳細胞や肝細胞は、互いに異なるゲノム構成をもつ。

 

同一個体の分化した体細胞は、クローン細胞のため、基本的には、お互いに同じゲノム構成を持つ。ただし、細胞分裂の過程で起こった複製ミスやテロメアの長さなど、多少の変異はある。

 

 


○平成19年度 前期末試験 解答例と解説

 

1

1)     1塩基欠失すると、その欠失したコドン以降のコドンの読み枠が1塩基分ずれ、それ以降に翻訳されるアミノ酸配列が異なる。多くの場合、すぐに終止コドンが現れ、そこで翻訳は停止する。したがって、野生型と比べて、フレームシフトの発生したところ以降のアミノ酸配列の異なる短いタンパク質が合成されることになる。たいていの場合、野生型のタンパク質の機能が消失する。ABO式血液型遺伝子のうちA遺伝子がO遺伝子に変異するときも、同様に、1塩基欠失によるフレームシフト、翻訳産物の機能消失の例である。

 

2)     アルギニンのコドンはCGU, CGC, CGA, CGGAGA, AGGの六種類である。グルタミンのコドンはCAACAGの二種類である。

アルギニングルタミンの置換として、1塩基置換だとすると、CGA->CAACGG->CAGCGG->CAGが考えられ、いずれも、コドンの2塩基目のGAに置換する例である。

1塩基置換による1アミノ酸置換のみで、他のアミノ酸の変異はない。同じような変異の例として、鎌状赤血球症やアルデヒド脱水素酵素にみられ、いずれも翻訳産物の機能消失の例である。

 

3)     グルタミンのコドンはCAACAGの二種類である。終止コドンはUAA, UAG, UGAの三種類である。

グルタミン停止の置換として、1塩基置換だとすると、CAA->UAACAG->UAGの二通りが考えられる。いずれも、コドンの1塩基目のCUに置換する例である。

この変異のあったコドンで翻訳は終わるため、野生型に比べて短いタンパク質ができる。

 

4)     可能である。

劣性遺伝病であるため、対立遺伝子のうち、両方とも変異型を持つ場合に発病する。両親はともに対立遺伝子が正常型と変異型というヘテロ接合体のキャリアであると思われる。患者と両親のゲノムから、PCR法などを組み合わせた遺伝子診断により、当該対立遺伝子の変異のタイプがわかる。

仮に、父親は正常と1)の例、母親は正常と2)の例のそれぞれヘテロ接合体であったとすると、4分の1の確率で1)2)の遺伝子を両方持つ子が生まれ、この子は発症する。

 

 

2

1)     制限酵素EcoRIの認識配列は6塩基である。ゲノムの中にEcoRIサイトが出現する確率は、4^6=2^12=4096塩基対である。ヒトゲノムは30億塩基対あるので、ヒトゲノムをEcoRIで完全消化すると、73万断片ができる計算になる。その中から目的の遺伝子を含むDNA断片を見つけ出すのは大変難しい。

 

2)     mRNAからcDNAをつくると、ゲノムのうちmRNAに転写される領域のみに絞り込まれる。そのため、1)の方法に比べて目的の遺伝子を含むcDNAを見つけ出しやすい。しかし、このままでは目的遺伝子は単離できない。

 

3)     PCR法を使えば、目的の遺伝子を含むDNA断片を直接増幅させることができ、比較的純粋な状態で単離することができる。

 

3

1)     PCR法を応用することで判別可能である。

牛と豚と鶏が対象になっているので、それぞれに特異的な塩基配列を利用することで判別が可能と思われる。

 

3種の生物(ウシ、ブタ、ニワトリ)が区別できるPCRプライマーを設計する。

そのために、3種の生物で塩基配列の異なる部分を見つけ、その違いが判別できうるプライマーを合成する。

生物種ごとに複数組のPCRプライマーを用意するのが望ましい。

プライマーに利用する領域は、遺伝子領域でも繰り返し領域でもかまいませんが、品種により塩基配列の異なる領域は使えないので、品種間で保存されている領域がのぞましい。

 

原材料からPCR反応に使う鋳型となるDNAを調製する。

冷凍コロッケよりDNAを抽出し、DNAの水溶液とする。この水溶液を検体の鋳型溶液とする。

同時に、牛肉、豚肉、鶏肉とはっきりとわかっている肉より同様の方法を使ってDNAを抽出する。

このDNA溶液を標準の鋳型として使用する。

PCR反応の感度はかなり高いため、いずれのDNA抽出でも、他の検体の混入は絶対に避けなければならない。

 

まず、そのプライマーが3種の生物を特異的に判別できるかどうかの確認実験を行う。

3種の生物由来のDNA溶液を鋳型とし、それぞれ各生物に特異的になるように設計したPCRプライマー3組を用いてPCR反応を行う。

PCR産物をアガロースゲル電気泳動法により検出する。

牛肉由来のDNA溶液では牛プライマーのみ、豚肉由来のDNA溶液では豚プライマーのみ、鶏肉由来のDNA溶液では鶏プライマーのみバンドが見え、他のプライマーを用いたときにはバンドが見えないはずである。

もし、見えないはずのところにバンドが見えたら、その生物に特異的なプライマーではないということになる。この考えで、各生物に特異的プライマーであることを確認する。

 

つぎに、冷凍コロッケ由来のDNA水溶液を鋳型として、各生物に特異的なPCRプライマー(3組)を用いてPCR反応を行う。PCR産物をアガロースゲル電気泳動法により検出する。

 

もし、冷凍コロッケに牛肉のみ使っているのなら、牛プライマーを用いたPCR産物にのみバンドが見え、豚プライマー、鶏プライマーを用いたPCR産物のバンドは見えないはずである。

もし、冷凍コロッケに牛肉の他に豚肉と鶏肉を使っていれば、3種類のPCR産物すべてでバンドが見えることになる。

 

ネガティブな結果の判定は難しい。つまり、たとえば「豚肉は含まれていない」という判定は事実上不可能である。複数組のPCRプライマーを用いて検出を繰り返す必要がある。

 

PCR反応は非常に感度のいい方法であるため、PCR反応がそれぞれの生物に対して特異的に行われていることを確認する必要がある。

それぞれ特異的なバンドであることを確認するために、ジデオキシ法を応用した塩基配列決定法を用いて、増幅断片の塩基配列を決定する。

 

2)     PCR法により鑑定できるのは、単離したDNAの状態がわかるだけである。冷凍コロッケからDNAが単離できなければ鑑定することはできない。少なくとも牛プライマーを使ってバンドが見えていることから、冷凍コロッケからDNAが抽出できていることがわかる。

しかし、たとえば、牛肉と豚肉を使っている冷凍コロッケを想定すると、牛由来細胞からはDNAが抽出できるが、豚由来細胞からはDNAが抽出できなければ、豚プライマーを使ってPCRを行っても、バンドは見えない。コロッケを揚げる条件は牛肉も豚肉も同じであれば豚肉由来のDNAが抽出されていると考えられるが、牛肉と豚肉のミンチを混合する前に、豚肉だけDNAが壊れるような処理をしていれば、豚肉由来のDNAが分解されているため、PCR鑑定してもバンドは検出できないことになる。

 

3)     調べたい動物種に特有の配列があれば、その配列を利用したプライマーを設計するだけでこの鑑定方法は成り立っている。したがって、理論的には、どんな生物種が混入しているかを調べることは可能である。

 

4)     この方法で判定しているのはゲノムDNAの塩基配列だけである。牛や豚の体細胞のゲノムはみな同じである。つまり、どの臓器からDNAを抽出しても、用いたPCRプライマーを含む断片があるかないかしか判定できない。したがって、牛のどの臓器を使っているかなどの判定は不可能である。

 

5)     産地の特定は難しい。PCR検査で可能なのは生物腫のゲノムの特定だけである。どのような環境で育ったかの判定はできない。

ある特定種がある特定地域だけで飼育されているのであれば、その特定種をPCR検査により検出できれば産地の特定が可能である。

 

6)     定量することは難しい。この方法で鑑定できるのは定性的な結果だけであり、定量的な鑑定は基本的には難しい。PCR反応に使う「鋳型」の中に含まれる牛肉と豚肉由来の各DNAの割合を求めることは可能である。しかし、その値が必ずしもコロッケに含まれる牛肉と豚肉の割合を反映しているとは限らない。

 

7)     PCR反応は感度が非常に高いため、たった1個の細胞が混入しても、理論的には検出される。豚肉を使った製品を正規に扱っているのであれば、極微量の混入は製造過程のいろんな段階で起こりえる。したがって、意図的な混入かどうかの判定は難しい。

 

今回の事件は、食の安全とは基本的には関係ない。牛肉だと思っていたところが豚肉が混じっていた、本来安いはずのところが高い値段で買わされたといった被害がある程度である。

 

 

採点基準:

1

35

1) 8点、2) 8点、3) 8点、4) 11

「遺伝子」と「DNA」の誤用が目立つ。

1) フレームシフトの例として、(ABO式血液型の)A型とO型の男女からB型の子供が生まれるとの解答があった。

2) 点突然変異が起こると、必ず病気になるというわけではない。むしろ、中立な変異のほうが多い。

3) 前期中間で出題した「かぐやひめの遺伝子」並みの間違いがあった。

4) 常染色体劣性遺伝病であることに注目。

AA-aaAA-Aaからaaの子が産まれるとの解答があった。特にAA-aaからaaが産まれるとした解答が4例あった。

たとえば、次の文章のどこがおかしいか考えよ。

「ある対立遺伝子のうち優性遺伝子をA、劣性遺伝子をaとすると、遺伝子型がAAaaの両親から遺伝子型がaaの子が産まれる」

X Y で説明する解答が4例あった。XY染色体は性染色体であり、常染色体やその遺伝子にXYを使うことは混乱の元になる。

 

1) 2) 例なし-2点。

2) 3) コドンの変化を書いて欲しい。なし-2点。

1)-3) 完全な解答+3点。

 

2

20

1) 6点、2) 7点、3) 7

組換えDNA実験に使う目的遺伝子の調製方法にかんする問なので、その目的に関係する特徴などの記載を求めている。

教科書の図説を引用したのは、その引用文の説明が不十分、あるいは間違いがあるためで、授業ではそれを正す説明をした。

したがって、引用文をそのまま引用した解答、たとえば、イントロンの有無だけの解答では不十分。

図説にあるイントロンの記載に引きずられた解答が多かった。

過去問の解答例も参照のこと。

4-2. 平成18年度 定期試験問題

4-3. 平成17年度 定期試験問題

 

3

45

1) 9点、2) 6点、3) 6点、4) 6点、5) 6点、6) 6点、7) 6点、8) 5

8) はボーナス問題。ほとんどの解答に加点した。

 

「ゲノム」と「DNA」の誤用が目立つ。

「ゲノム」を使って解答した例は少なかった。

 

 


○平成19年度 後期中間試験 解答例と解説

 解答例と解説(模範解答でも唯一の正解というわけではありません)

 

1 小問1

「ゲノム」の概念を説明するのに、毎日新聞と産経新聞は「遺伝子」を読売新聞は「遺伝情報」を使っている。

毎日新聞の記事には二通りの「遺伝子」が登場する。

一つ目は「ゲノム」の意味で、二つ目はc-Mycなどの具体的な「遺伝子」として使っている。

 

この毎日新聞の記事のように、同じ記事の中で専門用語である「遺伝子」に異なる意味を持たせるのは、混乱の元であろう。

 

記事にある「患者自身の遺伝子」(毎日新聞)、「患者と同じ遺伝子」(産経新聞)という表現はその後に両者ともに「細胞」という言葉に続き、免疫学的に自己の細胞を得て移植に使うなどの用途を考慮しているため、この「患者自身の遺伝子」や「患者と同じ遺伝子」の「遺伝子」は、あきらかに「患者のゲノム」であり、患者と同じ遺伝情報を持つ細胞の意味のはずである。

この点、読売新聞の記事は極めて正確である。

 

毎日新聞には「四つの遺伝子」「4遺伝子」という表現がある。

これは、実際にはc-MycOct3/4Sox2Klf4の各遺伝子を指しており、具体的なある機能を持った遺伝子の名前である。

 

「遺伝子」を遺伝情報全体の意味と、ある特定の遺伝子の両方を区別しないで使い続けると、「遺伝子」の持つ意味が恣意的に変えられてしまうことになる。

これでは「患者自身のゲノムを持つ細胞」と「患者自身のc-Myc遺伝子を持つ細胞」が全く違うことの区別がつかなくなる。

この区別をしないと、「遺伝子組換えトウモロコシは、トウモロコシの遺伝子に細菌の遺伝子を導入してつくる」といった誤った説明につながる。

 

ゲノムという用語は、一般的に新聞の記事の科学面以外の登場することはあまりない。

科学記事でも「ゲノム(遺伝情報全体)」という形で使われることが多い。

その代案として、読売新聞のように「遺伝情報」を使うのは「遺伝子」を使うより遙かに誤解が少なく正確に情報が伝わるであろう。

 

 

1 小問2

いわゆる「万能細胞」は万能であるから、あらゆるタイプの細胞に分化できるとされている。

体細胞だけでなく、生殖細胞にも分化できるとされている。

 

女性の性染色体はXX、男性の性染色体はXYである。このことから、減数分裂により女性はX染色体を持つ卵子を、男性はX染色体を持つ精子とY染色体を持つ精子の2タイプの生殖細胞をつくる。

 

万能細胞から生殖細胞ができる過程は不明であるが、仮に男性の体細胞からつくったiPS細胞から卵子をつくることができるのであれば、自然には存在しないY染色体を持つ卵子ができることになる。

もしY染色体をもつ卵子ができるのなら問題が大きいが、記者はそのことを問題にしているのではなさそう。

 

通常の減数分裂では相同染色体間で交叉が起こり、できた生殖細胞の染色体は体細胞の相同染色体がモザイクになっている。

交叉を考慮に入れなくても、減数分裂をするとき、娘細胞に残る染色体の組み合わせはランダムである。

 

そのことから、仮に、男性の体細胞からY染色体を持つ精子とX染色体を持つ卵子をつくり、それを受精させても、親の染色体セットと同じではなく、ある染色体は親のもつ祖父由来の染色体を対に持ち、別の染色体は親の持つ祖母の由来の染色体を対に持つこともあり得る。

そのことから、親のクローンではなない。

 

問題文には「自分と同じ遺伝子を持つ人間」と書かれている。

この「遺伝子」が仮に「ゲノム」のことであれば、この「人間」はクローン人間のことで、自分と同じゲノムを持つ人間をつくることの意味になる。

すなわち、小問1でも指摘したような単なる遺伝子の誤用なのであれば、上記の理由から不可能とまで行かなくてもほとんど無理である。

 

文字通り「自分と同じ遺伝子を持つ人間」だとすると、ある一つの遺伝子に注目するなら、その遺伝子を持つ人間は普通に2分の1の確率で産まれてくる。iPS技術やクローン技術を使わなくてもよい。

「自分と同じ遺伝子」がある一つの対立遺伝子のことであるなら、iPS細胞から減数分裂を経てつくった卵子と精子を使うのであれば、自分と同じく見合わせの対立遺伝子を持つ人間は、これも2分の1の確率で産まれてくる。

(仮にこの対立遺伝子の遺伝子型をAaで表すとすると、Aを持つ卵子、aを持つ卵子、Aを持つ精子、aを持つ精子ができる。この精子と卵子を受精させると、AAAaaAaaの子が同じ割合で産まれるので、自分と同じ遺伝子型Aaが産まれる確率は2分の1になる)

「自分と同じ遺伝子」がすべての遺伝子で同じ対立遺伝子の組み合わせを持つという意味であれば、これは限りなく不可能なことになる。

一つの対立遺伝子に注目しただけでも、先の例でいえば、遺伝子型がAAaaの子が産まれるわけであるから、単純にクローン人間が産まれるわけではないことは簡単にわかる。

 

ただ、自分の持つ遺伝子セット以外の遺伝子を持つ子は産まれないわけで、自分の持つ2セットのゲノムをシャッフルした子が産まれてくることになる。

 

記者は「原理的に」と書いているが、「自分と同じ遺伝子」の意味が不明なので、何が「可能」なのかもわからない。

仮に「自分と同じ遺伝子」が「自分と同じゲノム」のことであれば、iPS細胞から誘導してつくった精子や卵子からクローン人間をつくることはできない。

 

 

2

意見1

遺伝子組換え作物は基本的には食品として使われる限り、加工品であれ生であれ、口から入ります。

口にした食品は、消化管で分解され吸収されます。

つまり、口にしたものが消化されるかどうかが問題になります。

 

また、遺伝子組換え技術でつくった生物が、「自然界存在しなかった新しい生物」というのは言い過ぎでしょう。

遺伝子組換え技術でできることは、ある生物にある機能のわかった特定の遺伝子をひとつ導入するだけです。

したがって、その遺伝子の本体であるDNA、および、その遺伝子産物であるタンパク質が加わることになります。

食品に含まれるDNAは食べると消化されるだけです。

遺伝子組換え技術で導入する遺伝子由来のタンパク質は、アミノ酸配列がわかっていますし、人工的につくることも生物から精製して単離することもできます。

その精製タンパク質の性質を調べることで、毒性などを試験することができ、アレルギー性などが実際に調べられています。

基本的には、タンパク質ですから、他の高分子と同様、消化されて吸収されるだけです。

 

細胞を使って遺伝子組換え作物の投与実験をするのもナンセンスです。

遺伝子組換え作物由来のタンパク質や核酸がそのまま細胞に取り込まれることはありませんので、細胞に投与する実験を行っても意味がありません。

 

 

意見2

自然による選択と人為選択

自然による選択は完璧で人為選択はダメというのは、単なる「自然信仰」「天然信仰」に過ぎません。

従来の品種改良にしても、人為選択は入っています。

遺伝子組換え技術でつくられた生物でも、「問題のあるものができた」ら育ちませんので、通常の自然選択は働いています。

 

種の壁

種の壁の誤解は根強いようです。

通常の品種改良でも種の壁は越えています。

「従来の品種改良では近縁種としか組み換えは起こりません」というのであれば、立派に種の壁を越えています。近縁種で品種改良するのなら、違う種同士で交配するわけですから、種の壁を越えて「自然界では起こりえない」交雑をし、「自然界に存在しなかった新しい生物」が誕生します。

おそらく近縁種ならいいが遠縁種ならだめとの考えだと思われます。

確かに、通常の方法で遠縁種との単なる交雑は無理でしょう。

しかし、従来の品種改良技術の中には細胞融合の技術があるため、遠縁の種同士で新しい種を作ることは可能です。

このように近縁種の交雑であろうと細胞融合技術であろうと、できた新種のゲノム構成は親種のゲノム構成とは似ても似つかぬものとなり、遺伝子組換え技術でつくられるとされる「地球上に今まで存在しなかった生物」が誕生することになります。

 

一方、遺伝子組換え技術でつくられるのは、ある種のゲノムに別の種の遺伝子が導入されるだけで、種の壁を越えるのはこの遺伝子レベルの話です。

 

「従来の品種改良では近縁種としか組み換えは起こりません」という「組換え」は異種のゲノム間での「ゲノム」レベルでの大幅な「組換え」です。

遺伝子組換え技術での「組換え」はゲノムに異種性物由来の遺伝子を導入する「一つの遺伝子」レベルのことです。

 

一般に種の壁というのは、ゲノムレベルで使われるため、このように遺伝子レベルで異なる種の遺伝子に対して種の壁という言葉を使うのは不適切ですが、それを抜きにしても、新しくつくられた生物の安全性議論するのであれば、本来の意味で種の壁を超えて全く新しく誕生した新生物に対して懸念するのが妥当であって、遺伝子レベルで別種の遺伝子を数個導入しただけで圧倒的多数の遺伝子は変化せず、ゲノム構成も元もママほとんど変わっていない遺伝子組換え技術の法に対して、種の壁を云々するのはおかしい。

 

自然の摂理

自然の摂理というのが何を指しているのかわからないため、厳密に議論できません。

おそらく、遺伝子組換え技術が自然の摂理に反していて、従来の品種改良は自然の摂理の範囲内で行っているとの話でしょうが、従来の品種改良でも、自然界では決して起こりえないことを起こしている。

従来の品種改良でつくられた生物も、人によって保護されないと育たないのはたくさんあります。

 

 

意見3 質問1

食べた食品は基本的には分解されてから吸収されます。

遺伝子組換え作物由来のDNAが遺伝子の単位で細胞に吸収されるということはありません。遺伝子組換え作物由来のタンパク質もそのまま細胞に吸収されるということもありません。

 

そもそも、遺伝子組換え作物由来の飼料は毒物であるとの認識で書かれています。

その毒物が食べた牛に移行し、牛肉や牛乳にその毒が蓄積するとのイメージでしょう。

あるいは、その毒が牛肉や牛乳にヒトにとって悪い影響を与えるのではといった懸念のようです。

しかし、遺伝子組換え技術でつくられた作物は、組換える前の作物と比べて毒性が増すとの科学的知見は今のところ全く得られていないことから、そもそもの前提からしておかしい。

 

牛乳に関して言えば、搾乳された牛乳には数多くの細菌が混入しています。これらの細菌が人に無害というわけではなく、有害な細菌も存在します。

そのため、搾乳された牛乳を生で飲むのは一般的には危険で、殺菌してから飲む必要があります。

殺菌方法の中には、低温殺菌というのがあり、6530分ぐらいで加熱処理する方法があります。

一般には、この方法により有害菌だけ死んで有用菌は生き残っていると言われていますが、それほど都合よく温度によって細菌が棲み分けているわけではなく(そもそも人間とは関係なしに細菌は生きている)、きれいに有害菌が死んでくれるわけではありません。牛乳に含まれる成分は栄養満点ですので、細菌にとっても天国のような場所です。したがって、牛乳の中に残っている生きた細菌はたとえ冷蔵庫で保存していても繁殖しています。

超高温殺菌とよばれる120℃〜130℃で数秒加熱する方法であれば、ほとんどの細菌は死滅します。滅菌された容器で滅菌環境下で封入された商品であれば、常温で長期間保存しても細菌が繁殖することはありません。

 

このようなことから、牛乳を生で飲むのは大変危険で、できるだけ自然に近い条件の低温殺菌でも絶対安全というわけではありません。この危険性は、遺伝子組換え飼料を食べた牛由来の牛乳に遺伝子組換え飼料由来の危険性を考えるより遙かに高いものでしょう。

 

遺伝子を食べることで食べた人の細胞に遺伝子が導入されるわけではありません。

まして、遺伝子組換え作物を食べ続けたからと行って、子孫に遺伝子組換え作物由来の遺伝子が受け継がれるというわけでもありません。

 

このような疑念を持っている人が共通に持っている誤解として次のようなものがあります。

あなたは遺伝子を食べたことがありますか?と聞くと、食べたことはありません、そんなもの危険なので絶対に食べません、といった回答が得られます。

俄かには信じられないでしょうが、これが一般的な人々の認識です。

遺伝子という言葉のイメージが悪いのかもしれません。

遺伝子には遺伝する物質という概念が強く、その物質を食べる自分に取り込まれ、子孫にもその物質が受け継がれると思われています。

さらに、通常食べている食品に遺伝子が含まれていることも知らず、遺伝子が何か特別な物質だと思われている節もあります。

 

人間は今まで遺伝子をふくむ食品を食べ続けてきました。

それでも、その遺伝子によって人間が変わったということはありません。

このことは、人間に限らず、すべての生物にいえることです。

外来の遺伝子・DNAが簡単に自分のゲノムに取り込まれないようにするためのシステムは、進化の過程で巧妙に発達しており、ヒトであろうと大腸菌であろうとその防御システムは持っています。

 

遺伝子組換え植物由来の遺伝子が、腸内細菌などに水平移動したという記述がよく見られます。

ヒトゲノムの概要版が発表されたとき、ヒトゲノムには細菌から水平移動の結果と思われる細菌から持ち込まれた遺伝子が数百も含まれているという報告がありました。

この報告を根拠に、遺伝子組換え食品に反対する人たちは、その逆も起こり得るとして、植物から細菌へ遺伝子が水平遺伝する可能性が高く、いわゆる「遺伝子汚染」の危険性を声高に叫ばれています。

 

実際、遺伝子組換え作物をつくるときに、以前は抗生物質耐性遺伝子も同時に導入されることがあって、この遺伝子が細菌に取り込まれると、細菌が抗生物質耐性を獲得することから、この細菌が病原性を持っていたり、この細菌から病原性を持つ細菌へ水平移動させたりすることにより、抗生物質耐性菌の危険性もよく主張されます。

 

しかし、この懸念には多くの誤解と誤認があります。

一般に、遺伝子の水平移動は、ウイルスを介したり、細菌のプラスミドを介して細菌間で起こり得ます。

 

ヒトゲノム概要版の発表の時に話題になったヒトゲノムに存在する細菌由来と思われる遺伝子はその後の解析により、実は水平移動の結果ではないということが明らかになりつつあります。

遺伝子組換え食品に反対する人たちは、ヒトゲノム概要版発表時の情報だけから遺伝子の水平移動の危険性を唱えていますが、その根拠が今は崩れており、ヒトゲノム概要版発表時の情報をもとに遺伝子組換え食品の危険性を説くのは間違っています。

 

ヒトゲノム概要版発表時には、細菌ゲノムの解析は進んでいましたが、真核生物のゲノム解析はまだまだ不十分でした。いわゆる下等動物のゲノム解析はほとんどなされていない状態での「水平移動説」の発表でした。

このような事情であったために、ヒトゲノムに細菌由来の遺伝子が水平移動してきたと誤解されてしまいましたが、今では粘菌などのゲノム解析の結果、細菌から直接ヒトゲノムに水平移動してきたのではなく、粘菌などの進化の過程で初期に出現した動物にも当該遺伝子が含まれていることが見つかり、単なる進化の産物であることがわかっています。

他にも多くの解析結果があって、数百あった細菌からヒトへの水平移動遺伝子の候補はほとんど消えてしまっています。

 

遺伝子組換え食品に反対しているグループが、遺伝子組換え食品由来の遺伝子が細菌から見つかったとの報告をよく引用します。

しかし、意外と知られていませんが、真核生物のDNAを完全に精製するということは、ほとんど不可能なことです。

なぜなら、細菌やウイルスによる寄生や感染はどんな真核生物であっても普通に起こっており、これらの汚染を除いて問題の真核生物由来のみのDNAを単離するというのは、容易なことではありません。

つまり、この手の実験には常に汚染・コンタミネーションが懸念されることから、実験結果の解釈は慎重にならざるを得ません。コンタミではないという証明に多くの実験が必要になります。

水平移動の証拠を見つけたという報告は、じつはコンタミの結果であったという誤認の例が意外と多い。

 

 

意見4 質問2

遺伝子とゲノムを混同しています。

遺伝子組換え技術でできるのは、ある生物のゲノムに別の生物(同種でもよい)の遺伝子を導入するだけです。その導入する遺伝子の数は1個から数個で、導入される生物のゲノムには通常、数万種類の遺伝子が含まれています。

たとえば、トウモロコシに細菌の遺伝子一つを導入する場合では、トウモロコシゲノムに存在する数万の遺伝子は基本的には変化せず、そのゲノムに細菌の遺伝子が一つ加わるだけです。

トウモロコシゲノムを構成している遺伝子群には大きな変更は加わらないことから、この組換えを行ってもトウモロコシはトウモロコシのままであり、細菌らしくなるということはありません。

 

たとえば、トウモロコシゲノムと細菌ゲノムが一緒になった新生物をつくるのであれば、トウモロコシでも細菌でもない新しい生物が誕生することになります。どんな生物なのか全く予想できません。

遺伝子組換え技術で誕生する生物が、このような生物だとイメージしているのであれば、完全な誤解です。

 

このような誤解は、遺伝子組換え技術はある生物の遺伝子に別の生物の遺伝子を導入することである、といったよく見かける文章が原因と思われ、つまり、ゲノムの概念なしに遺伝子という言葉の誤用が原因だと思われます。

 

 

質問3

遺伝子組換え技術でつくられるのはある生物のゲノムに別の生物の遺伝子が1個から数個導入されているだけです。したがって、導入する遺伝子由来のタンパク質の性質が一番重要になります。

 

基本的には食品ですので、消化管で分解・吸収されるため、元生物の毒性が問題にならないのであれば、遺伝子組換え技術でつくった生物も同様の安全性であると予想できます。

一番大きな違いは導入された遺伝子由来のタンパク質ですので、そのタンパク質の毒性が問題になります。

基本的にはタンパク質ですので、消化管で分解され、アミノ酸レベルになってから吸収されます。

なかには分解しにくいタンパク質もあり、アレルギーの原因となるペプチドをつくる場合もあります。

このことは、ある程度予測でき、アレルゲンとなるかどうかの実験は、その遺伝子を導入する前に検査されています。

このようなことから、遺伝子組換え技術でつくられた食品を多く食べようが、いずれは基本的には分解されますので、摂取量を制限したり許容量を決めたりするといった概念にはなじみません。

 

DNAやタンパク質は巨大な高分子であるため、そのまま吸収されることはありません。

農薬や食品添加物のような低分子量の化合物のばあいは、そのままの形や化学反応を起こしてから吸収されることがあり、直接的な影響があるため、その影響が有害なのであれば、摂取許容量のような概念が生じます。

 

多くの安全性試験により、遺伝子組換え技術でつくられた食品に、従来の品種改良でつくられた食品と比べて高い危険性は確認されていないことから、そのような食品を栽培・販売許可が下りているのであり、安全性の確認されている原料にたいして、最大「混入」量の概念が出てくる余地はありません。

消費者の遺伝子組換え作物に対する警戒心はあるでしょうが、その警戒心に対して混入量の制限をするということはあり得ません。

混入量の制限や摂取許容量と言った概念はあくまでも科学的な安全基準の話であって、消費者の安心感の話ではありません。

 

 

質問4

Btタンパク質は口にすれば消化管で消化されます。

抗体ができるためには、抗体が認識する場所で直接ある程度の高分子の状態の抗原として提示する必要があります。

一般に食品由来のタンパク質自身に対する抗体はできません。

 

部分分解されたペプチドには抗体ができます。これはアレルギーの原因にもなります。

ただ、この場合でも、質問者がいうように、抗体ができているから安全性が高いわけではありません。

抗体ができて有用な場合は、ウイルスやバクテリアなど人にとって有害な外的がやってきたときのためのシステムであって、食品として食べる物質に抗体ができてしまいますと、その食品を食べることができなくなってしまうことが予想されます。

 

Btタンパク質が人にとって危険性が低いという根拠は、抗体ができるからというものではありません。

Btタンパク質が有害になるターゲットは鱗翅目の昆虫です。

この昆虫の胃は弱アルカリ性であり、腸にはBtタンパク質に対するレセプターを持っています。

ヒトの胃は強酸性であり、腸にはBtタンパク質に対するレセプターがありません。

 

昆虫の胃は弱アルカリ性のため、Btタンパク質に限らず、胃によるタンパク質分解は強酸性の胃を持つヒトなどに比べて弱い。そのため、多くの未消化や不十分な消化産物が腸へ行きます。

ヒトなど強酸性の胃を持つものはある程度タンパク質は分解されてから腸へ行きます。

鱗翅目の昆虫にとってBtタンパク質が有害になる理由のもう一つの原因が、その腸の中にBtタンパク質に対するレセプタータンパク質があり、そのレセプターにBtタンパク質が結合すると、腸細胞の機能が低下し、重篤な消化不良に陥ります。その結果、食べたものがしょうか・吸収できなくなり、死にます。

ヒトの腸にはBtタンパク質に対するレセプターはありません。

したがって、もし胃で不十分な消化であっても、あるいは胃を切除した人であっても、腸にはBtタンパク質に対するレセプターがないため、他の大多数のタンパク質と同様に消化・吸収されるだけです。

 

このように、Btタンパク質はターゲットの鱗翅目の昆虫と摂取する人にたいして、大きく作用の仕方が異なります。

このように作用の仕組みが異なることに目をつけて、Btタンパク質遺伝子を利用して遺伝子組換え作物がつくられています。

もしBtタンパク質がターゲットの昆虫だけでなく人にとって有害なのであれば、このようなタンパク質の遺伝子を組み込もうと考えることはありません。

 

 


○平成19年度 後期末試験 解答例と解説

 

感想

1

1)     核酸であるDNARNAが分解されるとアミノ酸になるとか、DNARNAの本体がタンパク質であるという記述が複数の人に見られたのは残念。

1)     教科書の丸写しはよくないが、教科書の記述のつまみ食いはもっとよくない。つまみ食いによって、重要な記述が抜けてしまった解答が多かった。

 

2

全体的によく理解してまとめてあった。

しかし、一部ではあるが、「遺伝子組換え作物は安全である。全く問題がない」と言い切る解答があったのは残念。

 

解答例と解説

1

文章1

1)     遺伝子とは、DNA上の転写される機能単位です。つまり、遺伝子はDNAという化学物質の一部です。ヒトの場合、1セットのDNA(ゲノム)に約3万カ所の遺伝子領域があります。植物ゲノムにも同じくらいの遺伝子があります。

 

2)     遺伝子の化学物質としての本体はDNAです。他の生物の遺伝子を食べるということは、他の生物のDNAを食べるということであって、遺伝子という機能を食べて吸収するわけではありません。遺伝子の本体であるDNAを食べると、人の消化器官で分解されてから吸収されます。DNAの長い鎖の状態で細胞に吸収されることはありませんので、食べた遺伝子はその機能を失っています。

 

3)     裸の遺伝子そのものが機能を持っているわけではありません。遺伝子がその機能を発揮するためには、生きた細胞という装置が必要です。その装置に備わっているシステムにより、遺伝子の遺伝情報は読み解かれ、つまり、転写・翻訳され、タンパク質が合成されます。もし、食べた遺伝子が何らかの機能を発揮するというのであれば、少なくともそのDNAが食べたヒトの細胞内に取り込まれる必要があります。食べたDNAは通常分解され、代謝に使われたり排泄されたりします。食べたDNA断片が食べたヒトの細胞の中に取り込まれるためには、細胞膜を通過する必要があり、通常親水性の高分子が脂溶性の細胞膜を通過することはあり得ないことから、食べたDNAが食べたヒトの細胞内に取り込まれることはあり得ません。また、万一遺伝子単位のDNAが細胞内に取り込まれても、それが核内に入り、さらにゲノムDNAに組み込まれるという一連の反応はほとんど起こり得ません。

 

文章2

核酸はそもそも必須の栄養素ではありません。したがって、1日に必要な量という設定もありません。

核酸が脳に特に必要とか、脳に多く含まれるということもありません。

ヒトは約60兆個の細胞からなります。

この60兆個の細胞のほぼすべてに同じ量で同じ塩基配列のDNAが存在します(一部例外あり)。

 

引用文に書いてあるとおり、核酸は確かに重要な役割を果たしていますが、核酸が必要だからといって核酸を摂取すればいいというわけではありません。

 

細胞当たりのDNAの量は決まっています。

年を取ったからといって、細胞当たりのDNA量が減るわけではありません(テロメアは別ですが、ゲノム全体から見るとテロメア部分は極微小)。

転写・翻訳により合成されるタンパク質の機能などにより、細胞機能は決まってきます。

年を取ると、その細胞内の機能に衰えが見え、細胞分裂が遅くなるとかいった変化は起こるでしょう。

だからといって、その衰えを防ぐために核酸を摂ればいいというほど単純ではありません。

 

DNAは一部の細胞を除きすべての細胞に必要セットだけきちんと存在します。

細胞分裂の時、DNAは正確に2倍に複製され、娘細胞に分配されます。

このDNA合成に必要なヌクレオチドは、細胞内で合成されます。食べたDNAがそのまま使われるということはありません。

RNAは必要なときに必要な分量だけDNAを鋳型として合成されます(転写)。

このRNAの原料のヌクレオチドも細胞内で合成されます。

細胞内で合成されるRNAの変わりとして食べたRNAが使われるということはありません。

 

もし、鮭由来のDNAや酵母由来のRNAがそのままそれぞれの機能をもって吸収されることを期待しているのであれば、これまた恐ろしい事態になります。

ヒトと鮭、酵母との間でDNARNAの塩基配列は異なります。

そればかりか、食べたDNARNAが細胞内に取り込まれるのだとしたら、鮭や酵母に限らず、核酸を保持しているすべての食品由来のDNARNAも細胞内に取り込まれることになり、ヒトゲノムのアイデンティティは保てなくなります。

 

もちろん、ヒト由来のDNAを食べても同じですが。

ヒト由来のDNAを食べるとすると、ヒト由来の細胞・臓器を食べるということで・・・。そのために食べる食材といえば・・・。

 

脳内核酸の宣伝文に第七の栄養素とあります。

核酸が主要な栄養素であると主張をする人たちは、第六の栄養素として「食物繊維」をあげています。

 

 

2

教科書1 「理科基礎」(東京書籍)p198-19920020320日検定済、20060210日発行

【遺伝子組換え作物】

「ある農作物の遺伝子に、その作物がもともともっていなかった遺伝子を組みこんで有用な性質をもつ農作物をつくることが行われている。これが遺伝子組換え作物である。そのような作物には、除草剤をまいても枯れにくいダイズやイネ、ウイルス病にかかりにくいトマト、ペチュニアの遺伝子をもつ今までになかった青いカーネーション、害虫に強いワタなどがある」

「すべての技術がそうであるように、遺伝子組み換え作物をつくり出す技術も優れた面だけをもった技術ではない。自然界には存在しない生物をつくり出してしまう技術でもある。したがってこの技術は常に安全性を厳しく守っていく必要があるのはいうまでもない」

 

「生物II」や「理科基礎」の記述は、理科の一分野であるためか、比較的客観的であることが多い。

少数派ですが、疑問点の残る教科書があります。そのうちの一つが引用した東京書籍です。

ちなみに、「生物II」(8社)と「理科基礎」(3社)における「遺伝子くみかえ」表記はすべて「遺伝子組換え」でした。

 

まず、「ある農作物の遺伝子に、その作物がもともともっていなかった遺伝子を組みこんで」とあります。

ある生物の「遺伝子」に別の生物の「遺伝子」を組み込むという記述は、遺伝子組換え技術に反対するあらゆる媒体でみることができます。

この技術が恐怖の技術であり、悪魔の技術であって、フランケンシュタイン作物をつくる技術であると主張するときによく使われるフレーズです。

この教科書では「自然界には存在しない生物をつくり出してしまう技術」と表現されています。

確かに遺伝子に遺伝子を組みこむのであれば、そのような解釈も成り立つでしょう。

ある生物の遺伝子と別の生物の遺伝子が合わさった訳のわからない生物が誕生するとイメージしても仕方がありません。

教科書に書いてあるように「自然界には存在しない生物をつくり出してしてしまう」ことにつながるでしょう。

 

しかし、遺伝子組換え技術はある生物のゲノムに別の生物(同種でもよい)の遺伝子(ひとつまたは数個)を導入するか、ある生物のゲノムからある遺伝子(ひとつまたは数個)の機能を喪失させる技術に過ぎません。

できあがったものは、元の生物と同じ種であり、ゲノムとしての変化はほとんどなく、数万ある遺伝子の内、数個の遺伝子が変化しただけです。

 

この教科書のような記述、たとえば、「トウモロコシの遺伝子に細菌の遺伝子を組み込む」といった表現は遺伝子組換え技術が不当に嫌われるようになった元凶ではないかと私はにらんでいます。

このフレーズで使われる「遺伝子」という表現はあきらかに誤解に基づくものです。

この誤解を解かない限り、遺伝子組換え作物の正しい理解は得られないでしょう。

 

それだからこそ、「やさしいバイオテクノロジー」では「ゲノム」と「遺伝子」の説明に多くのページを割いています。

 

 

教科書2 「生物II」(東京書籍)p7920030320日検定済、20050220日発行

【遺伝子組換え作物の安全性】

「農作物を農薬に強くすれば、雑草の駆除は容易になるがそのことが農薬散布量の増加につながらないだろうか。害虫抵抗性の遺伝子として、細菌の生産する毒素の遺伝子が導入されているが、これは本当に人体には影響しないのだろうか。これらの懸念に対しては、今のところ安全性が100%保証されているとはいえない」

 

8社の「生物II」を参照しました。ほとんどの高校生が「生物II」を履修しません。

出版社により難易度が大きく異なりますが、遺伝子組換え技術やバイオテクノロジーに対して、詳しい技術的な記載が見られ、実際の応用例を写真で紹介するところも多く見られました。

 

1社を除いて、技術的な問題点などの指摘がありました。

その指摘のしかたは玉石混合でした。

 

ほとんどの教科書では、遺伝子組換え技術の問題点を指摘するとき、比較的冷静で、この技術の危険性を指摘するときでも、他の技術と併せて議論するように配慮されています。

このように客観的に現状を伝える出版社が多いなかで、遺伝子組換え技術のみ(つまり細胞融合法などには安全性の件は全く触れていない)安全性を懸念する指摘をする教科書がありました。

それが、問題文として引用した東京書籍の文章です。

 

「バイオテクノロジーの光と陰」と題するコーナーで数多くの技術的問題点を取り上げています。

多くの問題点の中のひとつとして「遺伝子組換え作物の安全性」が指摘されていますが、その指摘の仕方は「農作物を農薬に強くすれば、雑草の駆除は容易になるがそのことが農薬散布量の増加につながらないだろうか」とか、「害虫抵抗性の遺伝子として、細菌の生産する毒素の遺伝子が導入されているが、これは本当に人体には影響しないのだろうか」といった内容で、完全にポイントが外れています。

さらに、「これらの懸念に対しては、今のところ安全性が100%保証されているとはいえない」という結びは、まともな教科書の記述とは思えません。

もし100%の安全性が確認されている技術があるのだとしたら、どんな技術なのか教えてほしいものだ。

 

雑草の駆除は容易になるがそのことが農薬散布量の増加につながらないだろうか

農薬は無料ではありません。農家の方がお金と労力を使って、無駄な農薬散布をするはずがありません。

除草剤耐性や害虫抵抗性でない農作物の場合、複数(多数)の農薬を計画的に複数回散布する必要があります。

そのために、お金や労力がかかります。

一方、除草剤耐性を持っていれば、汎用的な1種類の農薬を散布するだけでよく、害虫抵抗性も併せ持っていれば、その害虫に対する殺虫剤の散布も省けます。

実際にアメリカなどでは、遺伝子組換え作物を導入することで、農薬の使用量は減っています。

 

この教科書の著者は、農家に便利な農薬を与えてやれば、何も考えないでジャバジャバ使ってしまう、といっているようなもので、非常に失礼な物言いです。

教科書の著者に、実際の農作業の行程をイメージできる能力があるなら、このような記述にはならないはずです。

 

細菌の生産する毒素の遺伝子が導入されているが

いいたいことはわかるのですが、正確ではありません。

細菌由来で、昆虫に対して毒素となるタンパク質をコードしている遺伝子が導入されています。

また、「害虫抵抗性の遺伝子」が「本当に人体には影響しないのだろうか」と述べています。

細菌の生産する毒素の遺伝子が導入されている」のだから、安全なはずがないとの思い込みからでしょう。

単に「毒素」と書くことで危険を煽ることも忘れていません。

このように書くのなら、この「毒素」がどのようなメカニズムで昆虫(の幼虫)に効くのか、またこの「毒素」をヒトが摂取するとどのような影響があるのかを説明する必要があるでしょう。

それなしに、単に「本当に人体には影響しないのだろうか」とだけ書いて突き放してしまうのは、市民運動家のレトリックと同じです。

 

 

教科書3 「保健体育」(第一学習社)p9420060120日検定済、20070210日発行

【食品による健康被害】

「新たな不安としては、遺伝子組み換え作物があげられる。現在、遺伝子の配列を組み換えたり、新たな遺伝子を組み入れることで、除草剤に強い品種など、意図した特徴を持つ植物をつくりだすことが可能になった。しかし、操作された遺伝子の影響で人体が新たなアレルギー反応を引き起こす可能性も指摘され、議論・研究がつづいている」(引用者注:この引用文は「食中毒」と「食品添加物」の話題の間に挟まれている)

 

参照した3社、5種の「保健体育」教科書で、すべて「遺伝子組み換え」表記でした。

全体的な論調は社会科目の一分野として書かれています。

社会的な問題点を指摘しようとしているのでしょうが、無責任な記述で終わっています。

 

まず、この引用文のタイトルは「食品による健康被害」です。

そのわりには「新たな不安としては」との書き出しで、遺伝子組換え作物を取り上げています。

 

食中毒により、あるいは昔使われていた食品添加物により、食品が原因となって健康被害が起こることは確かにあります。このふたつの話題が引用文の前後に使われています。

 

しかし、遺伝子組換え作物が直接の原因として生じた健康被害の報告は今のところありません。

(よく引き合いに出される「トリプトファン事件」は「トリプトファン事件はまだ有効なのでしょうか」参照)

議論・研究がつづいている」としながらも「健康被害」の項目の中で遺伝子組換え作物を取り上げるのは不適切でしょう。

 

ちなみに、食品添加物の問題点を「アカネ色素」を例にあげて指摘しています。

安全性の確認されたものしか食品添加物として認可されていないのに、よく使われていた「アカネ色素」を調べてみたら危険性があったことを指摘し、だから、食品添加物には未知の危険性が残っているといいたいらしい。

しかし、この話をするのに、アカネ色素は不適切です。

アカネ色素がよく使われていたのは、これが「天然の」添加物だったからです。

世間では「天然信仰」があつい。

天然であれば危険性はなく、有用性があると信じられています。

人工の化学物質であれば何でも危険だと信じられています。

人工の添加物はみんな危険だろうけど、アカネ色素は天然なのだから、安全なのに違いない、そういう思想の元によく使われていたものです。

ところが、この「天然の」添加物が有害であることがわかったわけで、これは別に珍しいことでもないのですが、とにかく「天然」にもかかわらず危ないとわかって騒いだ曰く付きの添加物です。

 

食品による健康被害」や「新たな不安として」「議論・研究がつづいている」具体的な例が「操作された遺伝子の影響で人体が新たなアレルギー反応を引き起こす可能性」だそうです。

その「可能性」が「ある」か「ない」かと問えば、「ない」とは絶対に答えられませんから「ある」としかいいようがありません。

問題はその「可能性」がどの程度かということでしょう。

 

ここで言う「可能性」がもしあったとしても、それは限りなく低い「可能性」でしかありません。

なぜなら、もし遺伝子組換え作物が明らかにアレルギーの原因になることがわかっているのであれば、当然のことながらその作物は栽培も販売も許可されません。

そもそも、そのような危険性が考えられる遺伝子を導入しようと考えることすらあり得ません。

 

遺伝子組換え技術で導入される遺伝子が産生するのはタンパク質です。

そのタンパク質のアミノ酸配列はわかっているわけですから、このタンパク質がアレルゲンになるかどうか調べることはいくらでもできます。そして、実際に調べた上で、導入する遺伝子が選択されています。

この点からだけでも、遺伝子組換えでない食品と比べて、特にアレルギーの危険性が高いという可能性も低いことがわかります。

 

 

教科書4 「家庭基礎」(一橋出版)p7820020310日検定済、20050120日発行

【食品の安全性について知る】

(引用者注:食中毒、食品添加物、有害化学物質、輸入食品の各問題点の指摘のあと、「遺伝子組み換え食品の問題点」を次のように指摘している)

「アレルギーを引きおこしやすいたんぱく質や有害な物質がつくられる可能性、昆虫に対する耐性が自然生態系を攪乱する可能性など、いくつかの懸念も完全には否定できない」

 

食品の安全性について知る」というタイトルで「遺伝子組換え食品の問題点」の「可能性」を人体に対する影響と環境榎影響という観点から考えて、「いくつかの懸念も完全には否定できない」と結んでいます。

 

まず、結びの言葉について。

ここに引用されている「可能性」は当然のことながら「完全には否定でき」ません。

科学の力で、これらの可能性が「完全に否定」することは永遠に不可能です。そもそも科学はそういうものです。

遺伝子組換え技術に限った話ではありません。

これは当たり前のことであって、もし、この教科書の執筆者が科学によって完全に否定できることもあり得ると考えているのであれば、それはまた別の意味で恐ろしい問題です。

 

アレルギーを引きおこしやすいたんぱく質や有害な物質がつくられる可能性

これは教科書3のところで述べました。「有害な物質がつくられる可能性」というのは、かの有名な「トリプトファン事件」が念頭にあるのでしょう。しかし、残念ながら、この事件はとっくに否定されていますし、そもそも高等植物を遺伝子組換えによって食品とするものと、細菌を遺伝子組換えによって有用物質を抽出するので技術的な問題点は全く異なります。

 

昆虫に対する耐性が自然生態系を攪乱する可能性

遺伝子組換え作物の茎や葉を食べる昆虫は遺伝子組換え作物由来の導入された遺伝子由来のタンパク質を食べることになりますが、その機会のある昆虫(の幼虫)の種類は限られています。

昆虫の幼虫が食べる植物は昆虫の種ごとに限られています。

同じ毒素タンパク質を散布するという形で長い間農薬として使われてきており、現在も、遺伝子組換え作物を栽培していないところでは散布され続けています。

こちらは、タンパク質として単離されたものを散布していますので、つまり、葉や茎に含まれるタンパク質ではなく裸のタンパク質ですので、この毒素タンパク質に触れる機会のある昆虫やその幼虫は無差別に食べることになります。

このように、もし、この毒素タンパク質により「昆虫に対する耐性が自然生態系を攪乱する可能性」があるのなら、裸の毒素タンパク質を散布するほうが危険性が高いのではないでしょうか。

 

 

教科書5 「新現代社会」(教育出版)p2520060320日検定済、20070120日発行

【遺伝子組み換え作物の誕生】

「長らく人類は、違う品種の作物の花粉を受粉させることによって、病気になりにくい品種や実りの多い品種を開発してきた。しかし、今では、直接に遺伝子の配列を変えること(遺伝子組み換え)によって、いろいろな品種の作物を開発できるようになった。

その結果、今では強力な除草剤にも耐えられる品種が作られている。こうした品種の作物は、農業が巨大ビジネスになっているアメリカなどではさかんに栽培されている。しかし、他方では、そうした作物の安全性をはじめ、多くの問題が指摘されている」(引用者注:具体的な問題点は指摘されていない)

 

違う品種の作物の花粉を受粉させること」によって開発される品種は(同一種の異なる品種の受粉のことなら)限られます。

現在市販されている野菜などは、違う種の品種同士を掛け合わせたり、化学物質や放射線によりランダムな突然変異を誘発させたりして作られたものです。

その過程で組織培養や細胞融合など多くの技術が使われています。

 

遺伝子組み換え」の説明が「直接に遺伝子の配列を変えること」となっています。

ある遺伝子の塩基配列を変更させることはできますが、教科書の記述がゲノム上の遺伝子の配列を直接変えることを意味しているのであれば、それは無理です。残念ながら、そのような、それこそ神業を人類はまだ手にしていません。

もしかしたら、これは公の建前で、裏社会では、この教科書の執筆者だけが知っているヒミツの研究があるのかもしれません。

 

市販されている遺伝子組換え作物で直接遺伝子の配列を変更させて作ったものはありません。

遺伝子組換え技術で実現していることは、ゲノムの中に遺伝子単位で直に挿入しているだけです。

 

除草剤の説明をするのに「強力な」という修飾を使うことに悪意が感じられます。

どこの世界の話か明記してありませんが、先ほどの神業的な技術により、「強力な除草剤にも耐えられる品種」が作られたそうです。

それはともかくとして、「強力な除草剤」といえば、恐ろしい除草剤に思えますが、実際に「強力な除草剤」のヒトに対する毒性は食塩と比べても低いことがわかっています。

この除草剤はヒトに対して「強力」なのではなく、広く植物に普遍的に働く化合物なのであって、つまり、植物の種類に選択的な除草剤なのではなく、また、植物以外の生物にはほとんど影響がありません。

 

安全性をはじめ、多くの問題が指摘されている」といいながら、具体的な問題点を指摘していません。

根拠もなく危険性を指摘するのは、単に不安をあおっているだけで不適切でしょう。

 

 

教科書6 「新版現代社会」(実教出版)p2720060320日検定済、20070125日発行

【バイオテクノロジーは何をもたらすか】

「われわれ人間は、いまや設計図のレベルから生命をつくり出し、コントロールする段階に到達しようとしている。遺伝子操作をおこなう人間の責任は、きわめて重いといえるだろう」

「遺伝子組み換え作物の安全性について、日本ではどのような議論がなされているのかを、新聞やインターネットなどで調べてみよう」

「『遺伝子組み換え』に抗議するNGO 遺伝子組み換えトウモロコシを切り落とす環境保護団体『グリーンピース』の活動家。ドイツ」(大きなはさみを使って成長途中のトウモロコシを切り落としている写真。活動家はマスクをして防御服と分厚い手袋もして身を守っている)

 

この教科書を読んではじめて知りました。

人類は、「いまや設計図のレベルから生命をつくり出し、コントロールする段階に到達しようとしている」らしい。

すばらしい科学の発展ですね。どの程度の段階にまで到達していて、いつごろ達成できる見込みなのか是非とも知りたいところです。

どこのだれがそのようなすばらしい研究をしているのか知りませんが、どうやら教科書の執筆者だけが知っているヒミツの研究があるらしい。

このようなヒミツの研究があり、神をも恐れぬ技術を手にしているのなら、確かに「責任は、きわめて重いといえる」でしょうね。

 

遺伝子組み換え作物の安全性について、日本ではどのような議論がなされているのかを、新聞やインターネットなどで調べてみよう」といいながら、提供されている教材は「グリーンピースだけです。

いかにも「現代社会」を執筆陣の考えそうな話で、興味深いです。

 

なかなかおもしろい写真が使われています。

問題文にも書いたように、まだ成長しきっていないトウモロコシを1 m 以上はあろうかという巨大なハサミで切り落としています。パンデミックウイルスの出現かと見まがうほどの格好をしています。

物々しい格好をすることで、危険なものを成敗している正義の味方だぞ、というパフォーマンスなのでしょう。そのインパクトはなかなかのものです。

しかし、このパフォーマンスは無知な消費者を騙すことができる程度で、かえって逆効果ではないでしょうか。

 

遺伝子組換え作物の遺伝子が独立して飛び出し、周りの生態系を攪乱したりヒトに対して悪い影響を与えたりすると広く信じられています。グリーンピースはそういう風に読める主張をしています。

しかし、遺伝子組換え作物に直接さわっても、遺伝子組換えでない作物と比べて特に危険性があるということはありませんし、空気感染によって病気になるわけでもありません。

 

活動家によるこの写真のような行為はまだやさしいほうで、研究所を焼き討ちしたり研究者や農家の人たちに暴力的に危害を与えたりするという事件も起こっています。

これは、日本の調査捕鯨船に対するテロ行為と似ていますね。

日本でも、農家の方が許可を得て試験栽培されていた遺伝子組換えダイズを、活動家により収穫前にトラクターで無理矢理すき込むという犯罪事件も起こっています。

 

 

教科書 番外編 「高校現代社会」(一橋出版)p7120020320日検定済、20040120日発行

【技術革新と経済社会の変化】

「こうした技術革新の進展は、かならずしも人類に幸せをもたらすとはかぎらない。核兵器をはじめとするハイテク兵器の開発や、化学物質による環境汚染、遺伝子組み換え作物の問題などを考えればあきらかであろう。私たちは、科学技術の成果がどのように応用されているかという点にも、つねに注意を払うことが大切である」

(引用者注:「あきらかであろう」と言い切られても困惑するしかありませんが、例によってなぜ「人類に幸福をもたらすとはかぎらない」のか具体的な指摘は、この教科書のどこにも書かれていない)

 

遺伝子組み換え作物の問題」は「核兵器をはじめとするハイテク兵器の開発や、化学物質による環境汚染」並みに「つねに注意を払うことが大切」なのだそうです。

遺伝子組み換え作物の問題」とは、実に恐ろしい問題ですね。

 

遺伝子組換え技術はいつの間にか核兵器並みに恐怖の技術になったらしい(原子力発電所のような核技術の利用ではなくハイテク核兵器と同列扱いである点に注意)。

 

人は見えないもの、理解不能なものに恐怖を感じます。

その恐怖の多くは無知から来るのもまた事実です。

無知は悪いことではありません。誰でも最初はどんな物事にも無知です。

しかし、教科書の執筆者が諸手を挙げて無知であることを宣言し、いたずらに恐怖をあおるだけの言説をとなえるのはいかがなものでしょうか。

少なくとも、教科書で「あきらかであろう」と主張するのであれば、執筆者には、客観的に知られている事実を理解し、租借してから書く義務と責任はあるでしょう。

市民運動家の主張じゃないのですから。

 

 

以上、高等学校の教科書を読んでみて、教科書執筆陣の創造力には感服させられました。

次々と恐ろしい問題点を考え出し、その空想の世界を信じ、さまざまな警告を発してくださっています。

とりあえず、そのご高説をありがたく頂戴するのが礼儀かもしれません。

その上で、ウソや捏造を見分け、執筆陣の意図をくみ取り、なおかつ、教科書には書いていない現代科学の共通の認識を理解し、勉強していかないといけない高校生に深く同情します。

 

 

なお、次のブログでも同様の指摘をしています。

「新しい高校生物の教科書」

「新しい高校生物の教科書」(ブルーバックス)に記載の問題とその解答の疑問点を指摘

「遺伝子組換え作物は安全といえるのか」

との問に対して

「安全性は長い時間かけて確かめられたものではないので、まったく危険性がないとはいえない」

という答が載っています。

これを書いたときは、このブルーバックス版が特別におかしいのだとばかり思っていましたが、まさか本家の教科書にこれほどのトンデモが見つかるとは思いませんでした。

ニセ科学の生産 農林水産省監修のトンデモ本

ニセ科学の生産 農林水産省監修のトンデモ本 その後

農林水産省中国四国農政局監修の漫画本に問題な描写や記述を細かく指摘しています。

この指摘をメールで問い合わせると、「中国四国農政局企画調整室」からお返事をいただきました。

その顛末記です。

 

2の「解答と解説」は次のブログシリーズのひとつとしてアップする予定です。

遺伝子組換え技術について1 ゲノムに占める遺伝子のイメージ1

遺伝子組換え技術について2 ゲノムに占める遺伝子のイメージ2

遺伝子組換え技術について3 遺伝子くみかえの法則 単行本編

 

また、問1の文章1に関連して、次のようなブログも書いています。

コドンがアミノ酸を合成するわけではありません

 

 

 

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無断転載を禁じます。 ashida@msi.biglobe.ne.jp・芦田嘉之

 

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