平成18年度 定期試験問題

 

○平成18年度 前期中間試験問題 (第1講−第7講)

 平成18年 6月 2日  1025 1115

 

問1 ある遺伝子Aから転写・翻訳の後、分子量45,000のタンパク質が合成されるとする。この遺伝子AのDNA鎖の塩基数はいくらか。この遺伝子Aにはイントロンはないものとし、翻訳領域の塩基数のみを計算せよ。アミノ酸の平均分子量を100とする。その答にいたった根拠も必ず解説せよ。

(10点)

 

 

問2 現在地球上に存在するすべての細胞が共通の祖先細胞から進化したという根拠を複数あげ、概説せよ。

(20点)

 

 

問3 一般に、ヒトが生きている間に獲得した形質はその子孫に伝わることはない。つまり、獲得形質は遺伝しない。なぜか?ヒトを例にして、「分子生物学のセントラルドグマ」、「体細胞と生殖細胞の違い」などをキーワードにして解説せよ。

(20点)

 

 

問4 ヒトのゲノムと遺伝子について次の問に答えよ。(50点)

  

1)     一卵性双生児はお互いに外見がよく似ているのはなぜか。

2)     あるカップルから産まれる複数の子どもは、お互いに見た目や性格などがよく似ていることがある。しかし、一卵性双子のようにそっくりな子どもが産まれることがないのはなぜか。

3)     ヒトのゲノムにチンパンジーの遺伝子を挿入し、クローン技術により誕生した生物にはチンパンジー的な要素が含まれるだろうか(日本の法律・指針ではこのような技術は禁じられている)。

4)     2)で答えた兄弟姉妹の間の違いと3)で答えたチンパンジーの遺伝子を挿入したヒトとの本質的な違いは何か。

5)     チンパンジーの卵子とヒトの精子を受精させ、培養して胚を得たとする(日本の法律・指針ではこのような技術で作られた胚を「ヒト動物交雑胚」と明確に定義し、作成を禁止している)。どんな胚細胞ができるか。3)の生物の細胞と本質的な違いは何か。

 

「DNA」、「遺伝子」、「ゲノム」、「染色体」、「細胞」などの科学用語を正しく使って、「遺伝情報の流れ」に絞って解説せよ。

また、1)〜5)のすべての小問に対し、ダイズやトウモロコシの品種改良の場合ならどのような事例に対応するかも合わせて概説せよ。

 

 

 

 

○平成18年度 前期末試験問題 (第8講−第13講)

 平成18年 7月21日  1025 1115

 

問1 次のアミノ酸配列を持つペプチドに対して次の問に答よ。         (30点)

 

 1文字表記  N末端  M   - W   - F   - M   - W   - F   - Y   - C   - W    C末端

  3文字表記    N末端  Met - Trp - Phe - Met - Trp - Phe - Tyr - Cys - Trp  C末端

 

1)このアミノ酸配列を持つペプチドを作るmRNAの塩基配列を推定せよ。

複数の塩基配列が考えられるときは、そのうちのひとつだけ解答せよ。塩基配列の向きも明示せよ。

     解答例

       5AAAAAAAAAAAAAA 3

 

2)1)で答えたmRNAを作るDNAの塩基配列を推定せよ。2本鎖の塩基配列で示し、その向きも

  明示せよ。

     解答例

       5AAAGGGCCCTTT 3

              3TTTCCCGGGAAA 5

 

3)この遺伝子を持つヒトが長年タバコを吸っていて、この遺伝子の5’末端から4 番目のヌクレオチドが

  1個欠失した。この遺伝子からどんなタンパク質(ペプチド)ができるか?

  また、このヒトはその後どうなるだろうか?

 

 

参考:コドン表

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

U

 

 

 

C

 

 

 

A

 

 

 

G

 

 

 

 

 

 

UUU

Phe

F

 

UCU

Ser

S

 

UAU

Tyr

Y

 

UGU

Cys

C

U

 

 

U

UUC

Phe

F

 

UCC

Ser

S

 

UAC

Tyr

Y

 

UGC

Cys

C

C

 

 

 

UUA

Leu

L

 

UCA

Ser

S

 

UAA

Stop

 

 

UGA

Stop

 

A

 

 

 

UUG

Leu

L

 

UCG

Ser

S

 

UAG

Stop

 

 

UGG

Trp

W

G

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

 

CUU

Leu

L

 

CCU

Pro

P

 

CAU

His

H

 

CGU

Arg

R

U

 

 

C

CUC

Leu

L

 

CCC

Pro

P

 

CAC

His

H

 

CGC

Arg

R

C

 

 

 

CUA

Leu

L

 

CCA

Pro

P

 

CAA

Gln

Q

 

CGA

Arg

R

A

 

 

 

CUG

Leu

L

 

CCG

Pro

P

 

CAG

Gln

Q

 

CGG

Arg

R

G

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AUU

Ile

I

 

ACU

Thr

T

 

AAU

Asn

N

 

AGU

Ser

S

U

 

 

A

AUC

Ile

I

 

ACC

Thr

T

 

AAC

Asn

N

 

AGC

Ser

S

C

 

 

 

AUA

Ile

I

 

ACA

Thr

T

 

AAA

Lys

K

 

AGA

Arg

R

A

 

 

 

AUG

Met

M

 

ACG

Thr

T

 

AAG

Lys

K

 

AGG

Arg

R

G

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GUU

Val

V

 

GCU

Ala

A

 

GAU

Asp

D

 

GGU

Gly

G

U

 

 

G

GUC

Val

V

 

GCC

Ala

A

 

GAC

Asp

D

 

GGC

Gly

G

C

 

 

 

GUA

Val

V

 

GCA

Ala

A

 

GAA

Glu

E

 

GGA

Gly

G

A

 

 

 

GUG

Val

V

 

GCG

Ala

A

 

GAG

Glu

E

 

GGG

Gly

G

G

 

 

 

 

問2 次の文章の「正」「誤」を判定せよ。「どちらともいえない」との判定もあり得る。

   また、その判定の根拠を必ず解説せよ(「正」の場合も)。正誤のみの解答は採点しない。(70点)

 

1)  生物を構成する細胞の構造と機能は物理と化学の法則によって記述できる。

 

2)  受精卵とそれから発生・分化して生じた脳細胞は、互いに異なるゲノム構成をもつ。

 

3)  遺伝子組換え技術を使うと、理論上、どのようなヒトタンパク質でも大腸菌に作らせることができる。

 

4)  遺伝子組換え操作をすることで大腸菌にヒトのインスリンを作らせるようにしたとすると、この大腸菌の性質は子孫に伝わる。

 

5)  ヒトインスリン遺伝子を組み込んだプラスミドは、大腸菌内に導入しなくても、単独でインスリンを生産する。

 

6)  ウイルスは生物ではないため、ウイルスの遺伝情報を遺伝子操作法を使ってヒトのような真核生物の染色体に組み込んでも、その遺伝情報が転写・翻訳されることはない。

 

7)  ヒトのゲノムDNAを制限酵素EcoRIで切断することで、インスリン遺伝子を単離することができる。

 

8)  アガロースゲル電気泳動法によりDNAとタンパク質をその分子量の違いで分離することができる。

 

9)  ヒトの個人の目の色や髪の毛の色等の特性を決定する遺伝子が解明されているとする。その遺伝子を受精卵の段階で操作すると、理論上、これらの特性を変えることができる。

 

10) 殺人現場に残された容疑者のものと思われる指紋から、DNA鑑定法により犯人の特定が可能である。

 

11) PCR法によるDNA鑑定法で、血液以外の細胞でも血液型を判定することができる。

 

12) DNA配合化粧品の宣伝文(この化粧品に含まれる核酸DNAとRNAの効能)。私たちの身体は、たくさんの細胞でなりたっています。この細胞が皮膚や髪など体のすべてをつくりだしていることはご存知でしょうか。美容に関する成分では、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなども細胞がつくりだしています。実際には、これらの成分は必要なとき必要な量を細胞に作らせる指示は核酸DNAによっておこなわれているのです。核酸DNAは、美しさ源、生命の根源物質なのです。この重要物質「核酸DNA」は肝臓で合成されており、20才くらいまでは体内で十分に産生されていますが、加齢とともにだんだんと減少していきます。この化粧品に使われている核酸DNAは、魚()の白子から、RNAはビール酵母から抽出した天然の素材ですから安心してご使用いただけます。核酸RNAは、細胞の中でDNAとともに働いている大切な物質です。細胞の中では、DNAが物質を作る設計図、RNAは実際に物質を作る役割を果たして、肌の美しさも、健康もDNAとRNAが両輪となって働いています。

 

 

 

 

○平成18年度 後期中間試験問題 (第14講−第20講)

 平成18年12月15日  1025 1115

 

問1 文章1は20061013日付のasahi.comの記事、文章2は上山信一氏のコラム『ヒトと動物の共生関―「殺さないこと」が正しいとは限らない』からの引用である。よく読んで解答用紙の小問に答えよ。

 

文章1 クローン猫売れず、廃業へ 米企業「毛の模様が違う」

 http://www.asahi.com/science/news/TKY200610130260.html

 

文章2 上山信一の「続・自治体改革の突破口」(日経BP ITpro

 第52回 ヒトと動物の共生関係 ―「殺さないこと」が正しいとは限らない

 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20061017/250800/

 

1-小問1 下線1と下線4について

a) 体外受精とクローン技術のちがい、および、受精卵クローンと体細胞クローンのちがいを述べよ。

b) a) をふまえて、下線1と下線4の記述の妥当性を判定し、その根拠を示せ。

(下線1)クローン技術を使って元の猫のDNAからクローン猫を誕生させて届けていた

(下線4)お気に入りの色・体型・鳴き声の犬猫を何代にもわたって飼える

 

1-小問2 下線2と下線5について

a) 「DNA」と「ゲノム」のちがいを簡潔に述べよ。

b) a) をふまえて、下線2と下線5の記述の妥当性を判定し、その根拠を示せ。

(下線2)同じDNAを引き継いでいても、

(下線5)クローン猫ではDNAが「新型猫」に移せる

 

1-小問3 下線3について

体細胞クローン猫をつくっても元の猫と同じ「毛の模様」にならないと述べている。

その科学的根拠を「遺伝子」、「遺伝子型」、「表現型」などの用語を使って簡潔に説明せよ。

(下線3)毛の模様は同じにはならず

 

1-小問4 下線6と下線7について

下線6で筆者が言いたいのはどういうことと思うか。コラム全体から判断せよ。

また、下線7にあるような「輩」があらわれると思うか。その根拠を示して判定せよ。

(下線6)だがクローンは世の中の基本原則を壊す

(下線7)クローン・ペットができると病気のペットは殺して「新型」に買い換える輩も出てくる。

 

 

 

2     以下の文章は環境保護団体「グリーンピース」のWebサイトからの引用である。

よく読んで、科学的な根拠を示しながら解説せよ。

 

「遺伝子組み換えをもっとよく知りたい!!」  http://www.greenpeace.or.jp/campaign/gm/basic/

 (引用者注:解答しやすくするため、各段落の頭に番号を付加した。)

 

引用した部分

1. 「遺伝子組み換え」ってなに?

2. これまでの品種改良とどう違うの?

3. 私たちの健康にどんな影響があるの? (一部省略)

  もっと詳しく

4. 環境にどんな危険をもたらすの?

  もっと詳しく (一部省略)

 

 

 

 

○平成18年度 後期末試験問題 (第21講−第26講)

 平成19年2月16日  1025 1115

 

次の一連の文章は、新谷弘実著「病気にならない生き方」(サンマーク出版・2005年)と「病気にならない生き方2実践編」(サンマーク出版・2007年)からの引用である。著者は米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授で、米国ナンバーワンの胃腸内視鏡外科医。「病気にならない生き方」は大ベストセラーとなり、各界から絶賛された。

 

次の文章1〜文章4をよく読んで、解答用紙に書かれた各問(問1〜問4)に答えよ。

 

文章1 <ミラクル・エンザイム説の考える遺伝子像>

「病気にならない生き方2実践編」 pp84-85 を部分的に引用

「病気にならない生き方2実践編」 pp263-264 を部分的に引用

 a) DNA、塩基配列、遺伝情報、遺伝子について簡潔に説明せよ。

 b) ミラクル・エンザイム説がいう遺伝子像を定説と比べて解説せよ。

  また、その遺伝子像は解析可能か?反証可能か?

 

文章2 <ミラクル・エンザイム説の基本>

「病気にならない生き方」 pp6-7 を部分的に引用

「病気にならない生き方」 pp144-147 を部分的に引用

 a) 現在の分子生物学のセントラルドグマ(特に、転写・翻訳)を簡単に説明せよ。

 b) ミラクル・エンザイム説が成り立つためには、セントラルドグマをどのように修正する必要があるか、

  簡潔に説明せよ。また、それはどのような方法で検証できると思うか。

 

文章3 <遺伝的要因と環境的要因(努力と意思)>

「病気にならない生き方」 pp144-147 を部分的に引用

ここで述べられている「アルコール分解エンザイム」は具体的にどの遺伝子由来の酵素か不明であるが、仮に、アルデヒド脱水素酵素であるとして問に答えよ。アルデヒド脱水素酵素およびその遺伝子の構造や働きについては「やさしいバイオテクノロジー」pp106-109を参照せよ。「遺伝子型」と「表現型」については、pp104-105等を参照せよ。

 a) 2段落目の文章を検証し、「遺伝子型」と「表現型」を使って解説せよ。

 b) ミラクル・エンザイム説が成り立つためには、どのような転写・翻訳機構が必要か述べよ。

 

文章4 <ミラクル・エンザイムをつくる「情報」をもつアミノ酸説>

「病気にならない生き方2実践編」 pp74-77 を部分的に引用

「やさしいバイオテクノロジー」のp82にコラーゲンと美肌効果にかんするコラムが載っている。コラーゲンはエンザイムではないが、文章4の「情報を記憶するアミノ酸説」をコラーゲンにまで拡大解釈すると、経口摂取するコラーゲンに効能が期待できる。

先のコラムを文章4の「情報を記憶するアミノ酸説」に則って書き換えよ。

 

 

 


解答例と解説

○前期中間試験

 

問1(配点10点)

 

タンパク質はアミノ酸のポリマーである。

遺伝子Aから作られるタンパク質の分子量は45,000、アミノ酸の平均分子量は100であることから、このタンパク質は

 

45,000÷100450

 

のアミノ酸のポリマーである。

ひとつのアミノ酸に対するコドンは3個の塩基が必要である。

したがって、遺伝子Aの塩基数は 450×31,350 個である。

 

解説:

厳密には終止コドンも遺伝子に含まれるので、1,350 + 3 = 1353 塩基である。

チトクロームCの場合の場合は翻訳後にN末端のアミノ酸が1個加水分解してはずれるという翻訳後修飾が起こる。

しかし、この翻訳後修飾はチトクロームCに限った反応で、他のタンパク質では多様な翻訳後修飾が起こる。

この設問では、遺伝子A由来のタンパク質の翻訳後修飾は指定していないので、このような翻訳後修飾は考慮しなくてよい。

また、アミノ酸の平均分子量は100ではない。この設問では計算しやすいようにアミノ酸の平均分子量を100にした。

 

 

問2(配点20点)

 

1.地球上に存在するすべての生物の遺伝子の本体はDNAである。DNAを構成する塩基は4種類あり、この4種の塩基はすべての生物に共通である。

2.遺伝子の情報から作られるタンパク質を構成するアミノ酸は20種類あり、これもすべての生物で共通である。また、20種のアミノ酸はすべてL型であり、D型アミノ酸はタンパク質には含まれない。

3.mRNAから翻訳されてタンパク質が合成される過程で使われるコドンは、基本的にはすべての生物で共通である。

 

解説:

この問題は、「共通の祖先細胞から進化したという根拠」を問うものである。

すべての細胞は細胞から生じるのは確かである。つまり、現在地球上に存在するすべての細胞はその親細胞から生じたことは事実である。

しかし、このことが「現在地球上に存在するすべての細胞が共通の祖先細胞から進化したという根拠」にはならない。

これだけなら、現在の細胞が複数の祖先細胞から生じたことも考えられる。

 

 

問3(配点20点)

 

分子生物学のセントラルドグマは遺伝子の本体であるDNAから遺伝子の部分が転写されてmRNAが合成され、さらに、このmRNAからリボソーム上で翻訳されてタンパク質が合成される、というものである。

この流れは一方のみで、逆はない。

すなわち、タンパク質のアミノ酸配列の情報からDNAが合成されることはなく、タンパク質がDNAの塩基配列に変更を加えることもない。

また、親から子に伝わるのはDNAの塩基配列である遺伝情報のみで、親のゲノムから減数分裂によって新たに組換えられて作られた新しい半数体のゲノムである。

このように、生きている間に獲得した形質はDNAに反映されることはないし、仮に体細胞のDNAにたいする突然変異などで遺伝情報が変化したとしても、体細胞のDNAが遺伝するわけではなく、子孫に伝わるのは生殖細胞の遺伝情報だけである。

 

 

問4(配点50点)

 

1)一卵性双生児は、受精卵が卵割したあと、何らかの理由で割球が別々に発生した場合に誕生する。

その割球に含まれるゲノムは受精卵と同じであることから、誕生した一卵性双生児も同じゲノムを持つ。

ゲノムが同じであることから、遺伝子も同じであり、遺伝子から作られるタンパク質も同じである。

植物では挿し木や取り木などがこれに対応し、球根やイモを使って増やす場合も同様である。

受精を経ずにクローン個体が栽培できるため、背丈や大きさが揃った作物が作れる。

 

2)生殖細胞が減数分裂するとき、相同な染色体が分割するだけでなく、交叉によって染色体の組換えが起こる。

このことから、減数分裂によって新たに生じたゲノム=遺伝子セットに同一のものはない。

ヒトの染色体は23対あるため、2の23乗通りの組合せのゲノムができる。

減数分裂の時に交叉が起こるため、さらに多様な生殖細胞ができる。

これらのことが両親共に起こる。

両親の半数体ゲノムが合体することで子が生まれることから、子は多様であり、同一のゲノムを持つ子が生まれる確率はほとんどない。

植物でも同一個体から複数のタネをとっても、そのタネはすべて異なるゲノムを持つことから、次世代には多種類の形質を持った作物ができる。

トウモロコシのひとつの実になる多数のタネはすべて異なるゲノムである。

 

3)チンパンジーとヒトとの間のゲノムの塩基配列の違いは1%ほどである。

また両者で共通の遺伝子は多数あり、両者で異なる遺伝子は少ない。

たとえば104個のアミノ酸からなるチトクロームCの場合、ヒトとチンパンジーで全く同じタンパク質ができる。

このようなチンパンジー遺伝子をヒトに挿入してもヒトとしてのアイデンティティが失われることはなく、チンパンジー遺伝子をひとつ挿入したヒトと挿入する前のヒトとは一卵性双生児ほど似通っている。

トウモロコシにダイズの遺伝子をひとつ遺伝子組換え技術で挿入してもトウモロコシのままで、親トウモロコシとの関係はクローンといっていいくらい似通っている。

 

4)チンパンジー遺伝子を挿入したゲノムとその親ゲノムとの間の違いは、チンパンジー遺伝子が異なるだけで、ほぼクローンといってもいい。

兄弟姉妹では、親からもらった遺伝子セットの組合せが異なるので、チンパンジー遺伝子をもらったヒトよりも多様であるといえる。

植物では遺伝子組換え技術がこれに相当する。

たとえば、トウモロコシに大腸菌の遺伝子を導入するなど種を越えてあるゲノムに遺伝子を導入することができる。

この場合、大腸菌の遺伝子を導入したトウモロコシは、大腸菌的な要素を含むわけではなく、あくまでトウモロコシのままである。

 

5)これは全く予想できない。

チンパンジー染色体とヒト染色体がすべて保存されるような受精卵ができると、ヒトとチンパンジーで染色体レベルで見るとほぼ同じであるため、染色体が対合することも可能かもしれないので、初期の卵割は進むかもしれない。

この細胞は、チンパンジーゲノムとヒトゲノムを両方含まれる新しいゲノムを持つことより、両方のゲノムの遺伝子が活性を持っていれば、両方のゲノム由来のタンパク質を持つモザイク細胞ができることになる。

しかし、実際には、おそらく最初の細胞分裂すら起こらないであろう。

3)で答えたチンパンジーの遺伝子を導入したヒトはあくまでヒトのままであるが、ヒト・チンパンジー交雑胚は両者のゲノムが含まれる全く新しいゲノムである。

植物では遺伝子組換え技術とトマトとジャガイモといった異種の交雑や細胞融合技術がそれぞれ対応する。

 

解説:

1)「一卵性双生児は同一の卵子から受精卵が作られる」との解答があった。

ひとつの卵子から複数の精子を使って受精卵ができるように読み取れるが、そのようなことは起こらない。

ひとつの卵子とひとつの精子からできたひとつの受精卵から、たとえば最初の卵割のときにできたふたつの細胞が分離し、別々に発生して誕生したのが一卵性双生児である。

 

 

 

 

○前期末試験

 

問1(配点30点)

 

1)5aug ugg uuu aug ugg uuu uau ugu ugg uaa 3

    5aug ugg uuc aug ugg uuc uac ugc ugg uaa 3

  など

 

2)5atg tgg ttt atg tgg ttt tat tgt tgg taa 3

    3tac acc aaa tac tcc aaa ata aca acc att 5

  など

 

3)5atg ggt tta tgt ggt ttt att gtt ggt aa 3

       M - G - L - C - G - F - I - V - G   ?

 

    5atg ggt tca tgt ggt tct act gtt ggt aa 3

       M - G - S - C - G - S - T - V - G   ?

  など

 

この1塩基欠失の突然変異により、本遺伝子由来のペプチドが作られなくなり、また、変異により新たにアミノ酸2残基目以降の配列が全く異なるペプチドが合成される。

したがって、このいずれかまたは両方の影響を受けることになる。

つまり、本ペプチドがなくなることにより、本ペプチドが直接・間接にかかわっていた機能が失われると考えられる。

あるいは、新ペプチドが合成されることにより、この新ペプチドが何らかの機能を持つのであれば、その影響が出ることになる。新ペプチドが細胞内でなんら働きを持ち得ないのであれば、単に分解されて消えるだけである。

これらの影響が、たとえば、増殖に関与していて、ターゲットの細胞が細胞増殖の調節を抜けて無限に増殖するような変化を受けると、癌化することも考えられる。

このように、必ずしも影響が出るとは限らないが、影響が出るときには癌化など深刻な病状を示すこともあり得る。

 

解説:

1)mRNAの塩基配列の最後に終止コドンも入れてあると、なおよい。前期中間試験問1参照。

2)DNAの塩基配列なのでU->Tに置き換えること。

 

 

問2(配点70点)

1) 生物を構成する細胞の構造と機能は物理と化学の法則によって記述できる。

 

<○>

生物といっても、生物に特有の物質や法則があるわけではない。生物を構成する細胞は化学によって記述可能な化合物により構成され、化学法則通りの化学反応が起こる。

生物特有の化学結合とか生物特有の化学反応があるわけではない。

細胞内で起こっている代謝や、細胞間の相互作用、個体レベルでの生物の機能など、すべての反応や運動などは化学や物理の法則で記述可能である。

まだ記述されていない現象は、我々の知識がたりないだけである。

 

 

2) 受精卵とそれから発生・分化して生じた脳細胞は、互いに異なるゲノム構成をもつ。

 

<×>

基本的にはすべての体細胞は受精卵のクローンであるため、お互いに同じゲノムをもつ。

脳細胞は体細胞の一種であるから、受精卵と脳細胞は互いにクローンであり、基本的には同じゲノムをもつ。

ただし、両者は全く同じゲノム構成というわけではない。

例えば、テロメアの長さが異なったり、DNA複製の時に間違いが起こったり、化学物質や放射線などにより突然変異を受けたり、ウイルスに感染したり、トランスポゾンを受けたりすることにより、若干の塩基配列に違いが生じる。

「平成17年度 前期末試験問題」問2 の解答例も参照。

 

 

3) 遺伝子組換え技術を使うと、理論上、どのようなヒトタンパク質でも大腸菌に作らせることができる。

 

<○>

ヒトと大腸菌で、DNAの構成する塩基、タンパク質を構成するアミノ酸、DNAからタンパク質を合成する転写・翻訳システムは共通である。

したがって、ヒトの遺伝子を取り出して、大腸菌のゲノムに組み込むと、大腸菌は挿入されたヒト遺伝子を自身のゲノム遺伝子と同じように転写翻訳してタンパク質を合成することができる。しかし、できあがるのはアミノ酸の重合したタンパク質だけである。

真核生物の遺伝子から合成されるタンパク質は、様々な翻訳後修飾を受け、その修飾がタンパク質の機能に重要な役割を果たしていることが多い。このような真核生物の翻訳後修飾システムは一般には大腸菌にないため、大腸菌を使ってヒトの機能性のタンパク質が作られないこともある。

実際には遺伝子の転写を調節する部分、すなわちプロモータの構造や機能がヒトと大腸菌で大きく異なるため、ヒトの構造遺伝子の部分のみを大腸菌に挿入しても適切なプロモータがなければ大腸菌は遺伝子と認識できないため、転写、翻訳は起こらない。

したがって、ヒト遺伝子には大腸菌が認識できる適切なプロモータを付ける必要がある。

 

 

4) 遺伝子組換え操作をすることで大腸菌にヒトのインスリンを作らせるようにしたとすると、この大腸菌の性質は子孫に伝わる。

 

<○>

この操作により、ヒト遺伝子は大腸菌ゲノムに組み込まれるか、あるいはヒト遺伝子が挿入されたベクタープラスミドを持った形質転換体ができる。

このとき、挿入された遺伝子は安定して大腸菌に存在するため、大腸菌が分裂するとき、自身のゲノムと同じように挿入された遺伝子も複製され、あるいはプラスミドも複製され分配されることから、新たに付加された性質は子孫に伝わる。

このように、遺伝子組換え技術とは、目的の遺伝子を安定して子孫に伝えることができるように生物のゲノム構成を改変する技術のことである。

「平成17年度 前期末試験問題」問3 の解答例も参照。

 

 

5) ヒトインスリン遺伝子を組み込んだプラスミドは、大腸菌内に導入しなくても、単独でインスリンを生産する。

 

<×>

大腸菌から取り出したプラスミドは単なる裸の環状の二本鎖核酸であり、単独で自己複製することはない。

大腸菌などのプラスミドは細胞内の複製システムにより複製する。

同じく、プラスミド内の遺伝子は細胞内の転写、翻訳システムにより転写翻訳される。

転写、翻訳するためには様々な酵素やその基質が必要であり、プラスミドだけではその遺伝子は転写、翻訳されない。

人工的なインビトロの転写翻訳システムを構築し、その中にプラスミドを導入したときは、大腸菌などの細胞がなくても目的の遺伝子が転写、翻訳され、目的のタンパク質を試験管内で人工的に作ることはできる。

つまり、問題文に「単独で」の部分がなければ成り立つ。

 

 

6) ウイルスは生物ではないため、ウイルスの遺伝情報を遺伝子操作法を使ってヒトのような真核生物の染色体に組み込んでも、その遺伝情報が転写・翻訳されることはない。

 

<×>

ウイルスは細胞を持たない、自己複製能を持たない、代謝機能を持たないという点でからみると生物とはいえない。

しかし、ウイルスの持つ核酸は生物の持つ核酸と同類であり、ウイルス核酸にも遺伝子はある。

ウイルス遺伝子の遺伝情報は真核生物の遺伝情報と同様に機能している。

実際に、ウイルスはウイルス遺伝子を宿主ゲノムに導入する機能を持っており、宿主の転写、翻訳システムによりウイルス遺伝子が転写、翻訳され、ウイルス遺伝子由来のウイルスタンパク質が宿主内で合成される。

 

 

7) ヒトのゲノムDNAを制限酵素EcoRIで切断することで、インスリン遺伝子を単離することができる。

 

<どちらともいえない>

ヒトゲノムのDNAは30億塩基対ある。EcoRIの認識配列はGAATTCで6塩基である。

したがって、ヒトのゲノムDNAをこの制限酵素で切断すると、確率的には3x10^9/4^6=7.3x10^5 の断片ができる。

インスリン遺伝子はその中の1〜3断片の中にあるはずである。

ゲノムDNAが正確に単離できていて、制限酵素反応が完全にいっているのであれば、必ずその反応溶液中にインスリン遺伝子のDNA断片があるはずである。

しかし、その膨大な断片の中から目的遺伝子のみを単離するためには、さらに膨大な実験ステップが必要である。

「平成17年度 前期末試験問題」問4 の解答例も参照。

 

 

8) アガロースゲル電気泳動法によりDNAとタンパク質をその分子量の違いで分離することができる。

 

<×>

アガロースゲル電気泳動法で分子量の違いで分離できるのはDNA断片だけである。

タンパク質の電荷は様々あり、DNAのようにマイナスのチャージのみというわけではない。

たとえば、DNAと同じようにアガロースゲルにアプライし電流を流しても、移動しないタンパク質や逆方向に移動するタンパク質が出てくるであろう。

工夫をすればタンパク質の電荷の違いで分離することは可能であろうが、アガロースゲル電気泳動法によりタンパク質の分子量の違いで分離することはできない。

 

 

9) ヒトの個人の目の色や髪の毛の色等の特性を決定する遺伝子が解明されているとする。

その遺伝子を受精卵の段階で操作すると、理論上、これらの特性を変えることができる。

 

<○>

体細胞は受精卵のクローンである。

すべての体細胞は受精卵が分裂してできた細胞である。

したがって、受精卵の段階で遺伝子操作を行うと、その変異したゲノムを持つ細胞として発生が進むため、すべての細胞のゲノムに変異遺伝子が含まれる。変異した遺伝子が機能するなら、目の色や髪の毛の色が目的の色に変わった子が誕生することになる。

ただし、あくまで「理論上」のことであって、導入した遺伝子が機能するとは限らず、たとえ発現しても目の色や髪の毛の色を変えるという表現型があらわれるとは限らない。

 

 

10) 殺人現場に残された容疑者のものと思われる指紋から、DNA鑑定法により犯人の特定が可能である。

 

<×>

DNA鑑定には、かならずDNAが必要である。指紋そのものからはDNAは単離できないので、DNA鑑定はできない。

ただし、指紋を採取するのと同じ場所から細胞のかけらなども採取可能なこともあり、採取された細胞からDNA抽出が可能なら、そのDNAを使ってDNA鑑定することは可能である。

たとえば、素手で触ったコップからDNAを採取できることがある。

よく似た例として、握手した手から握手した相手のDNAを抽出することもできる場合がある。

 

 

11) PCR法によるDNA鑑定法で、血液以外の細胞でも血液型を判定することができる。

 

<○>

基本的にはDNAがあればDNA鑑定できる。

血液型を決定する遺伝子はゲノムのDNAにあり、一部の細胞を除いてヒトのすべての細胞にゲノムDNAはあるため、基本的にはどの細胞を使ってもDNA鑑定できる。

血液型を決定している遺伝子が発現してそのタンパク質をもつ細胞・臓器は限られるが、基本的にはすべての細胞のゲノムには血液型を決定している遺伝子はある。

 

 

12) DNA配合化粧品の宣伝文(この化粧品に含まれる核酸DNAとRNAの効能)

私たちの身体は、たくさんの細胞でなりたっています。この細胞が皮膚や髪など体のすべてをつくりだしていることはご存知でしょうか。美容に関する成分では、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなども細胞がつくりだしています。実際には、これらの成分は必要なとき必要な量を細胞に作らせる指示は核酸DNAによっておこなわれているのです。核酸DNAは、美しさ源、生命の根源物質なのです。この重要物質「核酸DNA」は肝臓で合成されており、20才くらいまでは体内で十分に産生されていますが、加齢とともにだんだんと減少していきます。この化粧品に使われている核酸DNAは、魚()の白子から、RNAはビール酵母から抽出した天然の素材ですから安心してご使用いただけます。核酸RNAは、細胞の中でDNAとともに働いている大切な物質です。細胞の中では、DNAが物質を作る設計図、RNAは実際に物質を作る役割を果たして、肌の美しさも、健康もDNAとRNAが両輪となって働いています。

 

<どちらともいえない>

ここに書いてある細胞、DNA、RNAにかんする記述で特に間違っているところはない。

この手の文章としては合格点である。

はっきりした効能を宣伝文に入れると薬事法違反になってしまうので、この点ぼかして書いてある。合法性という点でも合格である。

しかし、書いてあることは正しくても、この化粧品に含まれている白子由来のDNAやビール酵母由来のRNAは皮膚に何らかの影響を与えるとは考えられない。

白子のDNAや酵母のRNAが機能を持っていて、その機能が肌の若さや美しさを保つような働きを持つというのであれば、とんでもないことでなる。

つまり化粧品由来の白子のDNAから魚のタンパク質が合成されたり、酵母のRNAから酵母のタンパク質が合成されたりし、そのタンパク質が機能を持つという意味であれば、そもそもこのようなタンパク質合成は決して行われないし、たとえタンパク質合成が起こったとしても、合成された魚や酵母のタンパク質がヒトのコラーゲンやエラスチンに関与することはあり得ない。

また、化粧品由来のDNAやRNAが皮膚の細胞に吸収されたり働きかけたりすることもない。

たとえ吸収されたとしても、それは魚のDNAであったり酵母のRNAであるから、ヒトのDNAやRNAとは全く別のものである。

化粧品ではなく健康食品としてDNAやRNAを摂取しても、食べたDNAやRNAは胃液や腸液で分解されるだけで、白子のDNAや酵母のRNAが機能を持ったまま吸収されることはない。

栄養素としてDNAが必要であるとも読み取れるが、摂取したDNAからDNAが合成されるのではないことから、DNAを摂取したからといって特に栄養素としてすぐれているわけでもない。

 

 

 

 

○後期中間試験

 

解答例と解説など(模範解答、唯一の正解というわけではない)

 

問1(配点60点、各小問15点)

1-小問1 下線1と下線4について

 a) 体外受精とクローン技術のちがい、および、受精卵クローンと体細胞クローンのちがいを述べよ。

 b) a) をふまえて、下線1と下線4の記述の妥当性を判定し、その根拠を示せ。

(下線1)クローン技術を使って元の猫のDNAからクローン猫を誕生させて届けていた

(下線4)お気に入りの色・体型・鳴き声の犬猫を何代にもわたって飼える

 

a) 体外受精では通常の有性生殖と同じで、両親の配偶子から両親とは異なるゲノムの子ができる。

クローン技術は、お互いに同一のゲノムをもつクローン個体をつくる技術である。

クローン技術のうち、受精卵クローンでは、できた子の間がクローンである。

体細胞クローンでは、体細胞を提供した親とできた子の間がクローンである。

受精卵クローンは、卵割胚を人工的に分離して、分離胚をそれぞれ培養後着床させてつくる。あるいは、胚細胞のひとつから核移植技術を使って除核卵と融合させてクローン個体をつくる。

体細胞クローンは、成体体細胞を初期化後、除核卵と融合(核移植)させてクローン個体をつくる。

 

b) 下線1と下線4で取りあげられているクローン猫は体細胞クローン技術を使ってつくられた。

下線1: 元猫のDNAではなく、元猫の「体細胞」を使ってクローン猫をつくる。

元猫の体細胞にDNAは含まれているが、元猫のDNAだけからはクローン猫は作れない。

下線2: 元猫のゲノムを含む細胞からクローン猫を作るだけで、作られたクローン猫は元猫と同じ色、体型、鳴き声などになるとは限らない。

別のゲノムをもつ猫よりは似ているかも知れないが、毛の模様や体型などといった後天的に獲得する形質は、当然、遺伝しない。

 

 

1-小問2 下線2と下線5について

 a) 「DNA」と「ゲノム」のちがいを簡潔に述べよ。

 b) a) をふまえて、下線2と下線5の記述の妥当性を判定し、その根拠を示せ。

(下線2)同じDNAを引き継いでいても、

(下線5)クローン猫ではDNAが「新型猫」に移せる

 

a) DNA4種のデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)の重合体である化合物の名前である。

ゲノムはある個体に含まれる遺伝情報、すなわち塩基配列全体のことである。その中にはすべての遺伝子が含まれる。

DNAは塩基配列に関係なく使われる物質名であり、ゲノムは塩基配列といった情報である。

 

b) 小問1-bで述べたように、クローン猫は元猫の体細胞を使って作るため、元猫のDNAではなくゲノムを引き継いでいる。

つまり、元猫の物質としては体細胞を、情報としてはゲノムからクローン猫を誕生させている。

DNAを直接「新型猫」に移したり、引き継いだりしているわけではない。

 

誤解答例:

DNAとは塩基配列のことで、染色体のことである。ゲノムとは、その染色体の集まりのことをさす。

ゲノムは全遺伝情報の1組のことで、DNAとはひとつの遺伝情報だけのことである。

DNAとは細胞に含まれる遺伝情報のことで、ひとつの化合物のことである。

DNAとは遺伝子のことであり、ゲノムとはその情報のことである。

DNAが同じでも、ゲノムの並び方の違いによってゲノムは異なる。

ゲノムとは、塩基配列のことであり、DNAとは遺伝子の複製をするものである。

ゲノムはDNAのかたまりで、DNAは塩基配列である。

 

 

1-小問3 下線3について

 体細胞クローン猫をつくっても元の猫と同じ「毛の模様」にならないと述べている。

 その科学的根拠を「遺伝子」、「遺伝子型」、「表現型」などの用語を使って簡潔に説明せよ。

(下線3)毛の模様は同じにはならず

 

猫の毛の模様を規定している対立遺伝子は多数ある。

そのうち、たとえば、A(優性)とa(劣性)の2種類の対立遺伝子があったとすると、その遺伝子型はAAAaaa3通りである。

それぞれの遺伝子型に対応した表現型である毛の模様があらわれる。

ある対立遺伝子では、遺伝子型がAAの場合、白の斑模様が大きくでて、Aaの場合、白斑模様が小さくなることがある。

それぞれ、白の割合や白のあらわれる場所などは偶然である。

この遺伝子の場合、aaでは白斑はなく別の色になる。

この例のような斑模様を規定している遺伝子の場合、遺伝子型が同じであっても(AAでもAaでも)、できる表現型である毛の模様は異なることになる。

つまり、クローン猫であれば、当然同じゲノムをもつため同じ遺伝子型のはずであるが、その表現型である毛の模様は必ずしも一緒になるとは限らず、むしろ異なることの方が多い。

 

 

 

1-小問4 下線6と下線7について

 下線6で筆者が言いたいのはどういうことと思うか。コラム全体から判断せよ。

 また、下線7にあるような「輩」があらわれると思うか。その根拠を示して判定せよ。

(下線6)だがクローンは世の中の基本原則を壊す

(下線7)クローン・ペットができると病気のペットは殺して「新型」に買い換える輩も出てくる。

 

下線6: おそらく筆者は、クローン猫は単に元猫のゲノムを受け継いでいるだけに過ぎないことを理解しておられないのでしょう。

クローン猫は形や模様だけでなくおそらく性格まで元猫と同じだと勘違いしているのかも知れません。

また、クローンそのものが邪悪な存在だと勘違いしているのでしょう。

あるいは、クローンは気味が悪いもので、しかし役にたつものだ、といった誤解もあるのかもしれません。

なんだかわからないけど(実際、筆者はここまでの記述でわかっていないことは間違いない)、嫌なものはイヤだし、でも、役にたつというようなおぞましい考え方が浮かぶくらいだから、やっぱり使ってはいけないことだと。

一卵性双生児がクローンであることを理解すれば、また違った考えになると思います。

どんな技術を使うにせよ、生まれてきた個体をみれば、それは唯一無二の存在であることも知る必要があります。

 

下線7: 同じ模様の猫ができない可能性が高いだけでなく、性格や記憶を含む後天的に獲得するものは元猫と同じであることはあり得ず、そのことを多くの人は知っているわけであるから、クローン猫に乗り換えるという輩はそういないであろう。

 

 

 

問2(配点40点)

 

遺伝子組換え技術で作った作物にリスクはないとか安全であると言い切ったり、環境への影響(生態系への影響)もないと言い切ったりする解答が目につきました。

これらの意見は、グリーンピースの主張と同類で、科学的ではありません。

 

 

1-a: 「自然界に存在しなかった生命体」を強調しすぎている。遺伝子組換え技術でできるのは、ある生物の「ゲノム」に別の生物の「遺伝子」を導入するだけである。

元の生物のゲノムに大きな変更はない。

交配技術を使った場合は、複数のゲノムが入り交じった新しいゲノムの生命体が誕生する。

 

1-b: 「組み換えられた遺伝子が、新しい毒素やアレルギーの原因となる可能性」は当然ある。

可能性の否定はできない。

しかし、この可能性をもって、遺伝子組換え技術の問題点とするのはおかしい。

問題はその可能性の大小や高低であり、遺伝子組換え技術で使われる遺伝子由来のタンパク質の性質は、タンパク質単体であるから純粋なタンパク質を使って事前に調べることができ、実際、そのタンパク質の毒性やアレルギー性のチェックは事前に行われている。

そもそも、危険性が高いタンパク質の遺伝子を使って組換え実験を行うことはあり得ない。

「除草剤の使用量を増やす原因となり」とあるが、実際に遺伝子組換え作物を使うことにより除草剤の使用量は減少している。

通常の品種の場合、複数の除草剤や殺虫剤を時期をずらしながら何度も散布される。ダブルの遺伝子組換え作物の場合、殺虫剤を使う必要がなくなり、1種類の非選択的除草剤を散布するだけですむため、散布回数も総量も減らすことができる。

 

1-c: 「不確実で不安定な技術」で「長期的な影響は予測不可能」とある。

遺伝子組換え技術に反対している別のグループの文章に、「確実で安定していつも同じ物ができ、長期的にも予知が可能なのが技術である」、と述べているのがある。

この部分はこの定義を念頭に入れての批判と予測される。

すなわち、遺伝子組換え技術は技術でないと言いたいらしい。

しかし、上記のように定義された技術は当然存在しない。

遺伝子組換え技術の場合、ゲノムに導入する場所が指定できなかったり、指定できてもいつもターゲットの場所に導入できないことから、不安定な技術といわれている。

しかし、実際この技術を応用するときには、様々な導入体を作り、その中から目的にあった作物のみをスクリーニングされて、選び出される。できあがった作物のゲノムは、それほど変化する物ではなく、通常の栽培法により安定して栽培できる。

交配や放射線・化学物質による突然変異誘発、つまり、従来の古典的品種改良技術の方が、目的の作物を作る確率が悪く、スクリーニングに時間もかかる。

筆者のいう「不確実で不安定な技術」を使って作られた作物は、大量に栽培・販売されている。

 

1-d: 環境への影響について良くある批判である。

遺伝子組換え技術で組み込まれる遺伝子は既知の遺伝子ひとつだけである。

組換え体を環境に放っても、そのひとつの遺伝子が放たれるだけである。

これがなぜ未知の脅威になるのか不明である。

むしろ、古典的な品種改良技術により、突然変異を誘発させた不特定多数かつ変異個所のわかっていない遺伝子を放つ方が大きな脅威と思われるが、そのことは考慮されている樣子はない。

 

2-a: 1-a. と同じで、「本質的に全く新しい生命体を生み出す」といっているが、イチゴのゲノムに別の生物の遺伝子を導入するだけであって、イチゴにどんな遺伝子を導入しようと、イチゴに含まれる圧倒的多数の遺伝子群に大きな変化はないことから、イチゴであることにかわりはなく、「本質的に全く新しい生命体」になるわけではない。

古典的品種改良技術を使ってつくられた「本質的に全く新しい生命体」になった作物は栽培・販売されている。

 

2-b: 遺伝子組換え技術では「自然界では起こりえない生命体」ができることを強調しすぎている。

筆者は従来の品種改良を説明しているが、ここに紹介されている方法では、品種改良はできない。

品種を改良したければ、筆者が言う「自然界では起こりえない生命体」ができるような工夫が必要であり、実際、「自然界では起こりえない生命体」ができるような技術が使われ、作られた作物は栽培・販売されている。

 

2-c: 種の境界を越えるのは遺伝子組換え技術だけであろうか?遺伝子組換え技術ではある生物の「ゲノム」に別の生物の「遺伝子」を導入するだけである。

種の壁は導入する「遺伝子単位」だけであり、改良後にできる生物は元の生物と同じ「種」のまま変わらない。

従来の品種改良では、違う種を掛け合わせたり細胞融合したり、あるいはランダムな突然変異を誘発したりする。

その結果できた種は、当然元の種とは全く別の新しい種である。

種の壁を越えているのはどちらの技術であろうか?

 

3-a:「おそれがあります」という可能性の議論。

「これまでになかった毒素やタンパク質」の意味が不明。

これまでになかったものをどうして導入することができるのであろうか?1-bの解答も参照。

大量に除草剤が使われるとあるが、実際には除草剤の使用量は減っている。

1-bの解答も参照。

農家にとって、除草剤の使用量が減ったり除草剤を散布する回数が減ったりすることは経済的にも労働力的にも大きなメリットがあり、わざわざ必要がないのに大量に除草剤を散布することはしない。

また、もともと除草剤耐性の遺伝子組換え作物を作るときの対象除草剤は、人にとって安全性の高いものが選ばれている。実際には食塩の毒性より低く、通常の農家が使っている(複数の除草剤を複数回散布する)除草剤に比べて毒性は低い。

 

3-b: 食品を長期的に摂取したときのヒトへの影響を調べる方法はない。

したがって、通常の食べているすべての食品について、長期的に摂取したときの影響は調べられていない。

普段食べている食品も、「健康に問題を引き起こす要因となる可能性は排除できません」。

というより、例えば癌に限ってみても、発癌要因の1/3は通常食べている食品であることから、通常食べている食品は決して安全な食品ではない。

通常食べている食品の中に無数の発癌物質が含まれていることは、すでに確認されている。

問題は、このように元々高いリスクがある作物に遺伝子を導入することで、そのリスクがどのように変化するかである。

 

3-c: 技術に関しては、1-cの解答参照。「不正確で無造作に行われる」という表現にバージョンアップしているだけ。

健康への悪影響の議論は、これも可能性の議論。従来の技術とのその可能性の大小や高低を議論するべき。

「予防原則」を厳密に適用するのであれば、遺伝子組換え技術で作られた作物より、古典的技術で作られた作物の方が(変異した遺伝子やゲノム構成が不明なのであるから)「疑わしい」可能性が高いので、従来の食品すべてに対して、予防原則の考え方を導入する必要がある。

 

3-d: 典型的な誤解。多量の除草剤が残留するのは多量の除草剤を散布するからと思っているらしいが、散布量と残留量に比例関係はない。

そもそも散布する量は少なくなっている。

さらに、除草剤の種類により、残留性(分解しやすさ、蓄積しやすさなど)もヒトの健康に対する影響も異なる。

 

3-e: よく知られていません。完全な捏造。

組換え遺伝子由来のタンパク質のアレルギー性は、その遺伝子を組み込む実験の前に調べられている。

 

3-f: これも3-eと同じ。ここに書かれている可能性は当然ある。

まともな専門家は絶対に「可能性はない」とは言いきらない。

可能性がないと言い切ってしまうとウソになるから。

一般の人が議論するときの可能性と専門家が口にする可能性には大きな意味の違いがある。

慎重、かつ、まともな専門家に危険性の可能性はあるかどうか聞けば、答はかならず「ある」になる。

これは遺伝子組換え技術に限ったことではなく、どんな技術に対しても当てはまる。

問題は、その可能性の大小や高低である。

栄養素に変化を起こす可能性も当然ある。

これはむしろ従来の品種改良にあてはまり、すべての従来の品種改良作物は栄養素に変化を来している。

というより、栄養素に変化がなければ、改良にならないし、栄養素の変化のない改良はあり得ない。

このことが「懸念されて」いるのでしょうか?

 

3-g: ここに指摘されている関連性はほとんど無視できる。むしろ、風邪やインフルエンザのように、ウイルス性の病気に対して抗生物質を処方する医療関係者の方がたちが悪い。

抗生物質は細菌に効果がある化合物でウイルスには無害である。

効果がまったく期待できないにもかかわらず、医者の都合(もうけ)や患者が欲しがるから処方することにより、抗生物質耐性菌が生まれていることは周知の事実である。

そもそも、遺伝子組換え作物を栽培するときも食するときも「抗生物質」は一切関与していない。

もし関与するとするのなら、遺伝子組換え作物由来の「抗生物質耐性遺伝子」だけである。

関与があるとするなら、その植物ゲノムに組み込まれた遺伝子が抜けだし、種の壁を越えて細菌のゲノムの中に取り込まれなければならない。

実際にこのようなダイナミックな遺伝子の移動が起こる可能性は非常に低い。

たとえ、このような遺伝子の水平移動が起こるとしても、植物には数万の遺伝子があるため、そのうち、問題の遺伝子が水平移動するのに選ばれる確率を考慮すれば、さらに低い可能性しかないことがわかる。

 

4-a: 「これまでに地球上に存在しえなかった人工的な生命」は遺伝子組換え作物に限らない。

通常食べている野菜のほとんどは、人間が野性の生物のゲノムにランダムに介入して作り上げた「これまでに地球上に存在しえなかった人工的な生命」である。

ペットの犬・猫や家畜の多くも人間が野性の生物のゲノムにランダムに介入して作り上げた「これまでに地球上に存在しえなかった人工的な生命」である。

これらはすべて野に放たれており、すでに「自然界に存在していた種と交配し、無制限に増殖」している。

「これまでに地球上に存在しえなかった人工的な生命」は遺伝子組換え技術を使わずに人工的に改良された生物の方が圧倒的に多種類存在し、ゲノム構成も大幅に改変されていて、その改変個所も不明で解析もなされていない。

遺伝子組み換え作物に使われた「遺伝子」が「野に放たれ」、「生態系のバランスを崩」すとあるが、そもそも当該遺伝子は自然界に存在する野生の生物由来である。

この自然に存在する天然の遺伝子が、なぜ「無制限に増殖」するほど暴走し、「生態系のバランスを崩」してしまうほど悪役なのか、意味不明である。

 

4-b: 指摘されている自生が起こったところで、なぜ環境に危険をもたらすのか不明。

 

4-c: 生物の多様性を脅かしているのは、人による農業全般にいえることである。

過去1万年あまり、人類は農業を行うことにより、生態系に大幅に介入している。

遺伝子組換え作物が特に生物の多様性を脅かすという根拠はない。

そもそも「近縁種の野性植物との交雑」が起こるとあるが、遺伝子組換え作物をつくる元作物も栽培されており、遺伝子組換え作物が「近縁種の野生植物との交雑」を起こすのであれば、この元作物も「近縁種の野生植物と交雑」を起こすことになり、その違いはあまりない。

「生物の多様性を脅か」すほど交雑が起こるのであれば、すでに、多くの栽培作物により「生物の多様性」が脅かされているはずである。

そもそも、遺伝子組換え作物に使われた遺伝子だけが悪者であり、その悪者が多様性を脅かしているように書いてあるが、そもそも当該遺伝子がなぜ悪者なのか記載がないため、論理的でない。

 

4-d: 「雑草」と呼ばれている種と遺伝子組換え作物とは種が違うので、このような種を越えて交雑することはほとんどあり得ず、交雑によりスーパー雑草が誕生する可能性は非常に低い。

「雑草」が除草剤耐性になる原因としては、農薬の大量散布による可能性の方が高い。

遺伝子組換え作物を栽培するということは、農薬の散布量が減ることでもあるから、農薬散布による耐性雑草や耐性昆虫の出現の可能性を低くしていることになる。

また、農薬耐性「雑草」の出現により、「毒性の強い農薬が使われる」ことによる「悪循環」がすでに起こっていると述べているが、たとえ農薬耐性雑草が出現したとしても、「毒性の強い農薬」を使う必要はなく、毒性(効果)の異なる農薬を使用すればいいだけであり、不必要な「毒性の強い農薬」を持ち出すのは、単なる脅しである。

 

4-e: 「汚染」の意味が不明。汚物でもないのになぜ汚染なのか?

 

4-f: 「人間では制御不可能」な環境への影響は、遺伝子組換え作物を栽培することに限ったことでない。

通常の農業や酪農、林業などにより、自然に介入している人間の行為は、いずれも「人間では制御不可能」である。

筆者はこれらが制御可能と思っているのであろう。それこそ、自然に対する奢った考え方である。

 

4-g: 主張に論理性がまったくない。

食肉の消費増大・アマゾンの破壊と遺伝子組換え作物との関連性がみえてこない。

 

4-h: 「汚染」の定義のしかたによる考え方の相違。

導入に使われた遺伝子、あるいはその産物であるタンパク質が「汚物」の場合に、「汚染」という言葉が成り立つ。

これまでの話で、導入に使われた遺伝子、あるいはその産物であるタンパク質が「汚物」であったり、「危険物」であったりする証拠は一切示されていない。

そもそも、組換えと非組換えを隣り合って栽培し、たとえ交雑があり得たとしても、次年度以降に影響が出る作物は少ない。

たとえば、ダイズは自家受粉するため交雑することはほとんどあり得ず、F1雑種を栽培する作物では、収穫した作物から種子を採取するわけではないため、菜種を除けば交雑を懸念する必要はほとんどない。

 

4-i: これも「汚染」の考え方の相違。

4-hなどの解答を参照。「遺伝子汚染を起こす高い危険性」がたとえあったとしても、なぜそれが「環境に危険をもたらす」のか不明。

 

4-j: 「混入」も「汚染」と同様、考え方の相違。

「分別」することは当然不可能。ただし、なぜ分別しないといけないかの根拠はここまでの長い話の中で一切示されていない。

 

 

 

 

○後期末試験

 

解答例と解説など(解答例であって、唯一の正解というわけではない)

 

1-文章1(配点25: a10, b) 15点)遺伝子、塩基配列などの基本用語

 

a) 省略「やさしいバイオテクノロジー」他参照

 

b) ミラクル・エンザイム説

 単純なミス。「ヒトの遺伝子は30億個」とあるのは「30億塩基対」の間違い。

 遺伝子のOn/Off(村上和雄説)の意味を勘違いしている。

 遺伝子にはタンパク質の一次構造を規定している部分以外に、転写を調節する部分、翻訳を調節する部分があり、それぞれに特異的なタンパク質性の因子によって転写・翻訳が調節されている。遺伝子のOn/Offというのがこの転写や翻訳の調節のことと思われる。

 

 ガンを例にして説明すると、ミラクル・エンザイム説では、ガンになるのはガンの遺伝子がOnになるからで、Offにすると病気が治るそうである。とくにOffにするのは自分の意志により可能だそうで、病気を克服するというのはOffにできた人と言うことになる。定説のガン遺伝子の理解では、ガン遺伝子の転写や翻訳がOnになったりOffになったりすることで発癌したり治癒したりするという実験結果はない。

 ガン遺伝子というネーミングが悪いのでよく誤解が生じるが、ガン遺伝子によってガンになるわけではなく、まして、ガン遺伝子の働きを止めることでガンが治癒するわけでもない。

ガン遺伝子と呼ばれている遺伝子は、正常なときにも転写・翻訳されており、正常な機能発現にかかわっている。ガン遺伝子に変異原などにより塩基配列が変異すると、通常とは異なるタンパク質を作ることがある。そのタンパク質により、たとえば、細胞の増殖を無制限に高めたり、正常な細胞増殖の調節下から抜け出るようになったりすることにより、発癌のきっかけになったりする。ガン抑制遺伝子というのは、その遺伝子由来のタンパク質により、通常なら正常な細胞増殖などにかかわっているところが、変異などによりその本来の働きを失うことにより発癌のきっかけになる遺伝子である。

 

 ミラクル・エンザイム説では、遺伝子のOn/Offは人の意思や行動により可能だそうである。これを分子レベルで検証することは難しいが、正常なとき、ガンを患っているとき、ガンを克服したときからそれぞれ適切な細胞を採取し、ゲノムの解析、網羅的なmRNAの発現解析などを行うことで違いが見つかるであろうが、ターゲットの遺伝子が不明であることから解析はほとんど不可能である。また、対照を取るのが難しく、ガンの種類によっても個人によっても異なる解析結果になると思われる。そもそもミラクル・エンザイム説のいう遺伝子のOn/Offの検証は具体的に何を指しているのか不明のため、これも解析はできない。

 ミラクル・エンザイム説のいう傷口やガン治癒の「記憶」の反証は難しい。どんな解析結果になっても、「記憶」というあいまいな基準で判定することが可能で、ある意味解析する前から答が得られている。そういう点で、反証は不可能である。

 

 

 

 

2-文章2(配点25: a10, b) 15点) セントラルドグマ(転写・翻訳)など

a) DNAに塩基配列として保持されている遺伝情報は、転写によりDNAの遺伝子部分がmRNAに写し取られ、このmRNAが細胞質のリボソームに移動し、リボソーム上で翻訳によりタンパク質が合成される。転写、翻訳ともに特殊なタンパク質によって制御されており、必要なときに転写、翻訳が起こり、合成されたmRNAやタンパク質は必要なくなるとすみやかに分解される。

 

b) エンザイムに限らず、すべてのタンパク質の一次構造(アミノ酸配列)は遺伝子の塩基配列に規定されている。ヒトの場合、2万数千の遺伝子があり、個々の遺伝子から個々の遺伝情報に規定されたアミノ酸配列をもつタンパク質が合成される。

 ミラクル・エンザイム説が正しいのであれば、ミラクル・エンザイムを作る少数の遺伝子から少数のミラクル・エンザイムのプールができ、そのプールエンザイムから、必要なときに必要なタンパク質のみに変化してできることになる。

 タンパク質の構造と機能を決めている一番大きな要因はタンパク質のアミノ酸配列である。生体には10万種類以上の多様なアミノ酸配列をもつタンパク質があることがわかっており、それぞれ特異的な遺伝子から合成されることもわかっている。この中でミラクル・エンザイム説が成り立つためには、5千種類と著者が言っているエンザイムを作る遺伝子の数は小数でよく、この小数の遺伝子からミラクル・エンザイムが合成される。このミラクル・エンザイムからアミノ酸配列の再構築が起こることで、多種多様なアミノ酸配列を持ったタンパク質が作られるということを検証する必要がある。つまり、タンパク質プールであるミラクル・エンザイムからすべてのエンザイムが合成される過程を検証する必要がある。

 

 

 

3-文章3(配点25: a10, b) 15点) 遺伝的要因と環境的要因

a) アルコール分解エンザイムがどの遺伝子由来のタンパク質をさすのか不明であるが、例えば、アルデヒド脱水素酵素を意味していると考える。「あまりもっていない」「少ない」という表現型も不明であるが、例えば、「多い」「少ない」「ない」の3つの表現型があるとする。すると、「少ない」の遺伝子型はヘテロ接合体になる。もしそうであれば、親がヘテロ接合体の場合、他方の親の遺伝子型により、子の表現型は「多い」「少ない」「ない」のいずれも発現する可能性がある。親が「少ない」からといって必ずしも子も「少ない」になるとは限らない。

 

b) ミラクル・エンザイム説では、努力と意思によって表現型が変わると主張している。さらにそれが子孫に遺伝するという。つまり、「獲得形質の遺伝」が成立する必要がある。

 

 セントラルドグマとは関係なく、本人の意思によって遺伝情報を変えることができ、その変化させた遺伝情報が子孫にまで伝えられるという。この説が成り立つためには、転写や翻訳は本人の意思でコントロールできること、さらに、本人の意思によりDNAの遺伝情報自身も変化させることができるということを検証する必要がある。

 また、子孫に伝わるためには生殖細胞のゲノムも同時に改変する必要がある。体細胞のゲノムだけ本人の意思により改変しただけではその改変個所は子孫に伝わらない。したがって、生殖細胞ゲノムも解析し、実際の子孫にその改変個所が伝えられるかを検証すればよい。

 

 

 

4-文章4(配点25点) 「情報」をもつアミノ酸

解説

 ミラクル・エンザイム説によれば、エンザイムを構成するアミノ酸は特殊な情報を保持しており、エンザイムを分解して生じたアミノ酸とエンザイム以外のタンパク質から生じたアミノ酸は異なるという。エンザイム由来のアミノ酸はエンザイム由来であることを覚えており、その情報が体内でエンザイムを作るのに役に立ち、エンザイムを多く含む食品をなるべく新鮮な状態で食べれば食べるほど、体内でのエンザイム合成が効率よくなるという。

 このように個々のアミノ酸が由来タンパク質の情報をもつとすると、コラーゲンを経口で摂取することに意味が持てるようになる。ミラクル・エンザイム説では、エンザイムのアミノ酸にのみ「情報」が保存されているそうであるが、この説をコラーゲンタンパク質に援用すると次のように説明することができる。

 

 コラーゲンを摂取すると、コラーゲンはアミノ酸にまで分解され、そのアミノ酸はコラーゲンの成分であったことを覚えている。その情報故に、体内でコラーゲン合成されるときにそのコラーゲン由来のアミノ酸が選択的に使われる。したがって、自分の体の中でコラーゲンをたくさん作って美肌効果を発揮したいときは、コラーゲンをたくさん摂るとよく、コラーゲンを多く摂るほどたくさんのコラーゲン合成が起こることになる。

 

 ミラクル・エンザイム説では、エンザイムの由来生物は何でもよい。植物由来でも、動物由来でも、細菌由来でも、エンザイムであればその構成アミノ酸が特殊な情報を持っており、それを摂取したヒトはその特殊な情報を持ったアミノ酸を認識でき、ヒトのエンザイムに取り込んでくれることになる。コラーゲンの場合も同様に考えると、ヒトのコラーゲンを摂取することにこだわる必要はなく、ヒト以外の動物由来のコラーゲンを食べることにより、そのコラーゲンをアミノ酸にまで分解し、その特殊な情報を持ったアミノ酸を特異的に使ってヒトのコラーゲン合成に使えることになる。

 

 このように、由来生物に関係なく、コラーゲンを含む食材を食べることにより、コラーゲンを効率よく多量に合成することができるようになる。

ただし、本質的なことであるが、コラーゲン合成が効率よく促進されたからといって、美肌になるとは限らない。

 

 また、コラーゲンを含む化粧品を肌に塗ることでも効果を発揮することも期待できる。コラーゲンを肌に塗っても、その分子量が大きいことから、そのままの形で肌の細胞に吸収されることはない。しかし、ミラクル・エンザイム説では、肌に塗ったコラーゲンがいったん吸収できる形のアミノ酸にまで分解され、そのアミノ酸はコラーゲン用という情報を持っていることから、吸収されたアミノ酸を使って効率よくヒトのコラーゲンが再合成されることが期待できる。

 

 ここまでの話より、コラーゲンやコラーゲンを部分分解したコラーゲンペプチドを食べたり化粧品に配合したりするよりもっと効率的な方法があることがわかる。つまり、美肌効果をより効率よくするためには、コラーゲンをアミノ酸にまで分解し、それを摂取したり化粧品に配合したりする方がいいであろう。アミノ酸であるから吸収されやすい形になっており、吸収されたアミノ酸はコラーゲン以外のタンパク質合成に使われたり、代謝使われたり(アミノ酸はタンパク質合成だけでなく、多くの代謝に使われる)せずに、効率よくコラーゲン合成だけに使われることになる。

 

 これを検証するためには、たとえば、高級食材のコラーゲン由来のアミノ酸に特殊なラベルを入れておき、それを摂取したヒトがラベルされたアミノ酸をどのように使うか追跡すればよい。ラベルされたアミノ酸が、代謝に使われたり、コラーゲン以外のタンパク質合成に使われたりせず、コラーゲン合成に特異的に使われることが検証できればよい。

 

 このような考え方は一読するまでもなく奇妙なものであるとわかるはずであるが、健康食品や化粧品のコピーに上記の考えに基づく「効能」を述べて宣伝するものが、たとえばWeb検索するだけでも多数ヒットする。書籍にも同様の記述が見つかる。

 

 竹内富貴子料理、藤本大三郎監「コラーゲンたっぷりの料理 美容と健康に欠かせない」(グラフ社・2004年)には誰が書いたのかわからない次のような囲み記事がある。

「コラーゲンを食べる意味:(前略)コラーゲンもたんぱく質の一種ですから、摂取されると体内でアミノ酸に分解されます。コラーゲンを努めて食べても必ずしも美肌や関節症、骨粗鬆症に効き目があるとは限らないと思われる方がいらっしゃるかも知れません。しかし実際にコラーゲンを食べることで関節症が改善されたり、骨が丈夫になったりすること、また、動物実験で皮膚のターンオーバー(再生)が早まったという報告があります。アミノ酸をまんべんなく含む良質なたんぱく質と違って、コラーゲンを構成しているアミノ酸は種類が偏っているため、分解されても再びコラーゲンとなりやすいのかもしれません。食べたコラーゲンの効用のメカニズムについては、他の考えもあり、研究が進められています」

 

 ちなみに、本書のはじめに監修者の藤本大三郎先生がコラーゲンについて解説しておられる。コラーゲン研究の第一人者の文章だけあって、コラーゲンの構造、機能について簡潔にまとめられている。このなかには、当然のことながら、本書のタイトルである「コラーゲンたっぷりの料理」が「美容と健康」によいとの記述は全くない。コラーゲンが「美容と健康」に関与していることを示唆する文章はあるが、コラーゲンを食べることによりその効果が期待できるような記述は全くない。このちがいは非常に大切である。

 同様の誤解に核酸パワーをウリにする核酸配合食品や化粧品にもみられる。

 このようなコピーには必ずコラーゲンや核酸の重要な機能について解説してある。先の本のようにきわめて正確なものから全くのウソ解説まで玉石混交であるが、とりあえずコラーゲンや核酸は生体にとって、あるいは細胞にとって大切なものだとの解説がある。コピーでは、だから食べるとよい、だから化粧品として配合するとよいと続く。このつながりの飛躍を理解することはとても重要である。

 

 コラーゲンについて少しだけ補足すると、ヒトの場合、30種類近くのコラーゲンの型があり、それぞれを合成する30種以上の遺伝子がある。各型のコラーゲンはそれぞれ特有の構造を取り、それぞれ分布する組織は異なる。

 コラーゲン分子は1000個ぐらいのアミノ酸からなる3分子による三重らせん構造を取っている。そのアミノ酸配列をみるとGly-X-Yという三個のアミノ酸の繰り返し構造を取っている。Xのうち100個ぐらいはプロリン、Yのうち100個ぐらいはヒドロキシプロリンである。ヒドロキシプロリンはプロリンから翻訳後修飾によりつくられる。つまり、コラーゲンのアミノ酸組成のうち、グリシンとプロリンで半分くらいを占める。ヒドロキシル化以外に糖鎖が付くなどの翻訳後修飾も起こる。三重らせんになるためにはらせんになる部分の両端が必要で、三重らせんになった後、両端部分は切りとられる。繊維状構造を取るコラーゲンの型は、ひとつの三重らせんコラーゲンと別の三重らせんコラーゲンは4分の1ずつずれながら立体的に繊維状に束ねられ、共有結合による架橋により補強され、それぞれの構造にあった機能を発揮する。

 このように、多種類の遺伝子から多種類の型のコラーゲンが合成され、それぞれ特有の翻訳後修飾が起こり、それぞれ特有の構造を取り、それぞれ特有の機能を持つ。細胞や組織によって発現するコラーゲンのタイプは異なる。

 

 細胞がコラーゲンを合成すること、細胞の構造や細胞間の相互作用にコラーゲンが重要な訳割りを果たしていることは確かである。しかし、これらの機能に必要なコラーゲンは細胞が生合成し、その生合成に多くの細胞内の因子が関与し、複雑な条件下で管理されている。核酸も同様である。その仕組みに、食べたコラーゲンや肌に塗ったコラーゲンが関与するというのは、ミラクル・エンザイム説のようなトンデモ説を援用しない限り、現在の分子生物学の定説で考えることは難しい。

 

 

 

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