12 小規模代理店−ケーススタディ(4)

 

金融ビッグバン後の保険業界における、環境変化による競争激化の中で、これからすべての代理店が保険会社からの厳しい選別に晒されることになっていく。特に厳しい淘汰の動きに直面するのが小規模の代理店である。既に保険会社によっては、小規模で生産性の低い代理店に対しては、最低保険料収保の設定等の具体的な選別の基準を設けて、見直しにとりかかっている。また事務の効率化と営業支援を目的とした代理店支援システムも、今後は代理店ビジネス遂行上不可欠のものとなり、これらに投資、活用できるかどうかも今後は選別の重要な基準になってくる。

一方、顧客自身は自由化の過程において、ニーズによりマッチした商品の選択の幅が大きく広がると同時に、保険商品の選択に自己責任を求められることになる。またインターネット等の普及によって情報の入手が格段に容易になり、顧客の側からも代理店へのサービスの要求レベルが今後どんどん上がってくる。

こういった事業環境の中で、小規模代理店が生き残るためには、これまでも述べてきたように、まず顧客との強固な関係を築き、顧客・商品・サービス等を絞り込み、自分なりの強み(=競合優位性)を持つこと。さらに弱みの部分を自社にはない強みを持った代理店どうしで協業することによって補完し、経営基盤を強固なものにすることが有力な施策となろう。この具体的な一例として参考になるのが米国のクラスター制度である。

 

クラスターとは、主に中小規模の保険代理店がそれぞれの独自性を保ちながらも結集することにより、規模の経済により生み出される各種の利益を享受しながら事業を営む協業のスタイルである。

クラスターは、独立代理店(メンバー)、クラスター本部、保険会社の3者の利害関係者で構成される。まずクラスター本部が各保険会社と代理店委託契約を結ぶ。そして代理店は、顧客、契約満期更改権を自社に維持したまま、クラスター本部が契約した各保険会社の商品を取り扱うことができる。米国では保険業界におけるクラスターは現在、250を数えるまでになっている。

クラスターを形成するメリットにはどのようなものがあるだろうか。まず代理店にとってのメリット。第1は、保険料収保の最低ラインを協業によってクリアできることにある。またクラスター本部が契約する複数保険会社の商品を取り扱えるので、品揃えを大幅に増やせ、自社の専門性、強みを維持しながら顧客ニーズによりきめ細かく対応することが可能となる。保険会社に対する交渉力も本部を通すことにより大きなものになる。またマーケティングや情報システムならびにシステム関連の人材等への投資もクラスター本部で一元化でき、各代理店で見ればコスト負担をかなり小さく抑えながらそのメリットを享受できるのである。保険会社にとっても個別に小規模の保険会社へ対応するのに比べて大幅な営業コストの削減が可能となる。

ではこのクラスター本部の果たす役割を具体的に見てみよう。まずは各保険会社との代理店委託契約締結。その後は各保険会社からの商品、料率といった各種情報の取得・管理、メンバー代理店からの保険契約の集計と保険会社への契約受渡・保険料の精算、手数料の配分、顧客・見込み客データの管理、販促ツールの作成、クラスター組織自体の運営管理などが主なものとしてあげられる。かなり広範囲に渡って様々な業務をこなす必要があることがわかるだろう。

従ってクラスター組織においては、情報システムをいかに上手く活用するかが成功の大きな鍵を握っているのである。クラスターを形成した場合の情報システムのイメージを図に示した。通信手段は当然インターネットが活用されることになる。セキュリティ問題が懸念されるが、暗号技術の標準化が進み、米国から輸出規制を受けていたより強固な暗号の利用も可能となってきた。クラスター本部では、代理店と保険会社を結ぶホームページ、データベース等を持ち、相互の情報を共通フォーマットのもとに翻訳して情報の流通を行う。メンバーは複数の保険会社の商品を扱っているにもかかわらず、クラスターの用意する標準システムだけで業務が遂行できるのである。

もちろんクラスター制度は、現状では保険会社の協力体制、運用ノウハウなど実現が難しい面もあるが、小規模代理店の協業を模索する上で、大いに参考になることは間違いない。