15 中規模代理店−ケーススタディ(5)

 

従業員3〜9人からなる家業タイプの中規模代理店は、今後その強みを活かして独自路線を歩む個業タイプを目指すか、さらに規模を拡大したり、クラスターを形成するなどの企業タイプを目指すかの選択を迫られるようになる。

このクラスの代理店は、概ね豊富な顧客基盤を既に持ちあわせている。したがってどちらの道を選択するにせよ、昨今の金融自由化による激しい競争環境においては、この顧客データという資産を、営業面でいかに効果的に活用できるかが生き残りのポイントとなる。このためにはまず、顧客データをはじめとした様々な情報を共有し、活用できるようにするための基盤づくりが必要だ。つまり事務所内のネットワーク化=LAN環境の構築である。

保険会社毎には接続されているが、事務所内では分断されているパソコンを相互に接続し、ファイルなどの情報を共有できるようにしよう。代理店のネットワーク構築後のイメージを図に示したので参考にしてほしい。このことにより個々のパソコン毎に行っていた事務作業も一元化でき効率向上が見込める。その結果削減できた時間、人員を営業活動へとシフトするのだ。環境作りと同時に社員が早く情報の共有・活用ができるように教育も重要である。

情報共有の基盤が整ったところで、次のステップでは顧客データを中心としたSFAのしくみを導入する。SFAの一般的な概念について少し説明を加えておこう。

 

SFAとは、セールス・フォース・オートメーションの略で、ひとことで言えば提案から契約、サポートまでの顧客に対するすべての営業プロセスを支援する情報技術・活用のしくみである。

SFA発展のもっとも大きな要因は情報技術の革新である。パソコンの飛躍的な性能の向上と小型化・低価格化、インターネットなどの通信ネットワーク環境の整備、グループウェア技術の進展、マルチメディアを駆使した表現技術の進歩などが挙げられる。

一方で顧客データや営業ノウハウなどをデータベース化して共有化すること、情報技術を利用して営業活動に活用することでSFAのしくみができあがる。その狙いは、営業のプロセスに関わる担当者に適切なタイミングで、適切な情報を、適切な形態(ツール)で提供することにある。これにより組織としての営業効率を上げ、営業力を底上げすることが可能となる。さらにその情報とツールを駆使して売上向上に貢献し、高品質のサービスにより顧客満足度向上をはかり、顧客維持率を高めることがもうひとつの狙いである。

最近のSFAの事例をひとつ紹介しよう。キリンビールではノートパソコンと携帯電話を利用して、営業担当者が外出先から情報を引き出せるようにしている。出荷実績データの検索、営業日報、電子掲示板による競合企業の動向や成功事例の共有、画面での棚割提案やPOP作成支援などの機能により営業活動を情報面で支援している。

ではSFAのしくみを中規模代理店に導入するには、どのような手順で進めていけばよいだろうか。SFAといっても難しく考える必要はない。営業活動にモバイルパソコンを持ち歩かなくてはいけないわけでもない。

まずは、顧客データを営業活動に活用、再利用しやすい形にデータベース化し共有することである。今後の重要な営業資産となる顧客データが、現在は各保険会社の代理店支援システム上にあり、「代理店の顧客」という視点からの捉え方ができない。これをとにかく一元化したい。代理店支援システムで活用できそうな顧客管理システムがあればそれを利用してもいいし、表計算ソフトを利用して整理してもいい。多少手間はかかるが、まずは一箇所にまとめてデータベースとして活用できるようにしよう。

これにより代理店の顧客データとして、さまざまな集計、検索、絞り込み、加工などが効率的に行なえるようになる。契約更改間近の顧客のリストアップ、新商品の性格に応じた的確な販売ターゲットの設定、家族単位でのニーズを捉えた提案とクロスセリング、ダイレクトメールや電話を利用した仮説に基づいたチームでの営業展開なども可能となる。これがSFA導入の第一歩だ。あとはこの顧客情報を活用して、営業活動そのものをデータに基づいた効率的で質の高いものに徐々に進化させていけばよい。またその過程で営業支援ツールなどを必要に応じて揃えていけばいいだろう。