保険代理店の情報化―今やらなければ明日はないー

16 大規模代理店の経営 新GNP経営(6

―インターネットでバリューチェーン―

98年度保険代理店申告所得ランキングのトップ3には,日立保険サービス,東芝保険サービス,松下電器共済会が上がっている。我が国の場合,大規模代理店の多くは,企業代理店あるいは機関代理店といわれる系列取引をベースとした企業である。

大規模代理店は,法人分野の競争激化を受けて手数料の減少に直面しており,今後さらに個人分野にも自由化による減収の波が及びだす。正社員を抱え固定費負担の高いこれら大規模代理店は,独立系代理店以上の大胆な事業の再構築(リストラ)が必要となる。

大規模代理店においても,今のところ契約データの入力接点は保険会社であり,代理店を経由して顧客までの事務の流れは依然紙とエンピツとなっている。独立系代理店と同様,情報システム化による内務事務の徹底合理化と内務要員の営業戦力化が急務である。

この点で大規模代理店は大きなアドバンテージがある。顧客が大企業の社員などであり,一人一台のパソコンにより社内のイントラネットで結ばれているため,代理店サイドのイントラネットと結ぶことで,データ入力の接点を一挙に保険会社から顧客に移せる。

これにより顧客を起点に代理店を経由して保険会社まで一貫した事務の流れをインターネット上に実現出来る。大規模代理店リストラのグランドデザイン(G)として,これを「インターネットでバリューチェーン」と呼びたい。

―保険会社とのネットワーキング―

「インターネットでバリューチェーン」が実現すれば,顧客サービスの向上と事務の効率化が大きく達成できる。これを実現するためには,保険会社との戦略的ネットワーキング(N)による,シームレスな情報接点の開発が必須の条件となる。

ただし,その前提として,原点に戻り顧客ニーズにあった保険が,今の取引保険会社で確保できるか,系列関係の見直しを含め検討する必要がある。さらに,いわゆる構成員規制の撤廃による生命保険の販売チャンス拡大が予想されるため,その対応も重要となる。

現在,保険各社は代理店支援システムを,代理店囲い込みの武器として使い始めている。そのため,各社それぞれの独自性を出した専用システムが主流になっており,乗合代理店では多端末現象に悩まされている。大型代理店においても事情は同じである。

また,データ提供を損保VANからインターネットに移す動きが加速している。問題の多いVANからの移行は時代の流れであるが,皮肉なことに,VANでは入手可能であった他社データが,インターネットへの移行に伴い,各社バラバラの提供になりそうである。

バラバラのデータの再統合にはインターネットEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)の仕組みが必要となる。「インターネットでバリューチェーン」は,EDIなくして実現が出来ない。

―エクストラネット―

大規模代理店におけるプロセスイノベーション(P)の決め手は,エクストラネット(EX)である。別図に示したように,保険会社のEXとEDIを介して,また,機関構成員のEXとSFA(Sales Force Automation)を介して,代理店イントラネットと結ばれる。

EDIとSFAは顧客データベース(DB)により統合され,「インターネットでバリューチェーン」を構成する。これらについては次回以降詳述するが,ここでは困難が予想されるインターネットEDIの実現方策について述べたい。

EDIによる標準化は,業界全体からみると大きな効果を生むが,現時点では,独自のオンラインシステムを武器に,代理店囲い込みを狙っている保険会社から見ると,EDIによる標準化はこの囲い込みに逆行しかねず,なかなかすんなり実現しそうにない。

ただ,大型代理店にとっては,各社のバラバラなシステムを自社の責任で統合することは,現実的にみて大変な困難を伴いそうである。協議会を組織する等その交渉力を発揮して,コアとなる保険会社を巻き込み,EDIによる標準化を実現できるかがカギとなる。

「インターネットでバリューチェーン」を実現した場合,次の展開としてそのインフラを使い,独立系代理店等に対するアウトソーシングサービスの提供,一般顧客への保険販売,更には,構成員に対する保険以外の様々なサービスの提供も考えられよう。