20 データ中心の経営 −−情報化の実践(7)
今回は、保険代理店の顧客データベースの構築について考えたい。
顧客・契約の登録・変更、請求、入金、契約更新、事故処理といった基幹業務は、保険会社のデータベースによって保険会社毎に行われるため、ここで考えるデータベースは、代理店の営業支援専用となる。以下に保険代理店の顧客管理データベースの概要、構築のための課題、構築の手順について整理してみよう。まず、顧客データベースの目的は主に以下の2つが考えられる。@顧客の層別管理: 保険会社、保険種類の異なる顧客を、契約金額、受取り手数料等で重要度の順に分類する。Aデータベースマーケティング:既存顧客に対するクロスセリング等販促を行う元となる。特定の条件の顧客をデータベースから抽出し、商品の販売をDMにより行う。複雑な抽出条件を試みてテストマーケティングを行うことがデータベースによって初めて可能となる。
次に、顧客データベースの内容について考えよう。
保険に必要なデータを分類すると、既存顧客では、@顧客属性、A顧客の契約内容(損保契約なら対象物件の内容も)、B契約変更、入出金、事故情報などの取引履歴。さらに、C保険会社の保険の内容。見込み客では、顧客属性、仕掛り案件(引き合い中の契約)、過去の提案履歴などが考えられる。顧客データベースの概念図を付表に例示した。
この例では、顧客データ、契約データ、仕掛かり案件データのみを示している。
データベース構築のための主な課題と解決策は以下通りである。
@会社ごとにデータ定義が異なる 顧客データ、契約データとも会社によって内容、レイアウトが異なる。対策としては次に述べるコード値の読み替えに加え、データの共通部分と固有部分に分けてデータベースを定義すること、必要最小限のデータに絞ることなど。A会社ごとにコードの定義が異なる データ項目によっては値そのものでなく、値をコード値に置き換えて保有するものがある。会社によってコード化する項目も値も異なる。対策としては営業支援に必須のコードのみ読み替え、他はカットする。B代理店支援システムとの同期 新規登録、変更にともない顧客データベースも更新する必要がある。対策としては、フォーム(後述)を用いた1件づつ個別の更新でも対応は可能である。しかし、件数が多いと同期取りのためのアプリケーションを作成し、変更データを代理店支援システムなどから受け取って行う、更新処理が必要になると思われる。
次にデータベースを作る手順を考えよう。
@データベースの要件定義 必要情報、検索・抽出方法の定義など。Aデータベース設計 データベースは同じ様式(レイアウト)のデータ(レコード)の集まりであり、このレコードの内容、検索のキー項目、その他のデータ項目の名称、長さ、属性(テキスト(英数字)、数値、メモ型など)を決定する。さらに個々のレコードの関係を確定する。Bデータベースソフトの選定 データベースのデータ量、データベースを運用するサーバ(パソコン)の機種などに応じて決める。Cデータベースの定義と作成 器としてのデータベースをデータベースサーバのディスクに作成し、代理店支援システムから抽出し、加工用のプログラム(これは作成が必要)で加工したデータを初期登録する。D確認 元データと新データを比較し、作成結果を確認。データベースレコードの相互関係の確認も行う。
データベースに対する更新、参照の基本的操作はデータベースソフトの機能で実行できる。顧客データベースへのデータ入力・更新は、データベース管理ソフトのフォームの機能(画面から項目別にデータ入力する機能)を利用する。データベースからデータを抽出・加工するにはクエリーの機能、作表にはレポート機能が利用できる。つまり、営業支援データベースとして利用するためには、特別なアプリケーションプログラムは不要である。しかも、パソコン利用経験さえあれば、3〜5日程度のデータベースソフトの研修でこれらの機能を容易に修得できる。
こうして構築した顧客データベースが営業力強化に寄与し、売上利益の向上につながると期待できる。
中小企業診断士 瀧中 英一
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