21 データに基づく経営−ケーススタディ(7)

 

これまで数回に渡って、大小さまざまな規模の代理店を取り上げて、ケース毎にとるべき戦略に沿った情報化のシナリオを解説してきた。どのケースにも共通して言える最も重要なことは、顧客データをいかに上手に活用できるかということになろう。

顧客データを活用し成果を上げるためには、顧客データベースと顧客との関係作りを進めるためのツール、それに顧客データを活用するための知恵が必要である。一口に顧客データベースといっても、データウェアハウスのような本格的なものから、一般的なパソコン上で動く簡単なデータベースまでさまざまである。どれだけコストをかけることが可能か、その規模によって実現方法も変わってくるだろう。

中小規模の代理店は、まずパソコンの簡単なデータベースソフト上に顧客データベースを作り、代理店支援システムや紙、営業の頭の中にある情報などをデータベースを使って登録して一元化し、整理してみよう。そうすることで顧客の顔が徐々に見えてきて、どういった商品が適しているのか、どのようなサービスが求められるのかを読み取ることができるようになる。あとはDM、電話などを使って実際にマーケティング、サービスを展開していけばよい。

大規模代理店の場合は、顧客データの件数も多くスケールメリットも活かせるため、本格的なデータベースシステムの導入も可能になろう。SFA、CTI、インターネットなどの情報技術も成熟してきた。

 

このところ生保会社はこぞってCRMに取り組んでいる。CRMとは、カスタマーリレーションシップマネジメントの略である。ひとことで言うと、顧客を中心に据え、顧客の立場に立ってマーケティング、販売、サービスを展開し、顧客との関係を強化して囲い込んでいこうとする考え方だ。顧客がある商品に対して一生涯に使う価値は大体決まっている。これをライフタイムバリューという。顧客との関係作りを通じてこのライフタイムバリューを最大化することが課題である。そのためには、顧客の真のニーズを深く理解した上で、場面に応じて最適なチャネルを組み合わせてさまざまな活動を展開する必要がある。ここで利用されるのがSFA、CTI、DM、インターネットなどのチャネルである。

CTIについて少し説明を加えておこう。CTIとはコンピュータ・テレフォニー・インテグレーションの略、すなわちコンピュータと電話や通信機器などを上手に連携させて活用する新しいコミュニケーションシステムのことである。主にコールセンターで使われているこの技術を利用すると、例えば多数の電話を空いているオペレータに自動で振り分けたり、プッシュホンを利用して音声自動応答などが実現できる。また最近では、発信者番号通知の機能を利用して、電話番号をキーにしてデータベースを検索して、オペレータの画面に取引の進捗や履歴、クレーム情報などを事前に表示することも可能になっている。

では具体的なCRMのシステムとその利用イメージについて見てみよう。図をご覧頂きたい。CRMモデルは顧客データベースを核として構成される。データベースの中には、顧客の氏名、住所、年齢、趣味といった基本属性データ、それから家族に関するデータ、家計の資産状況、取引の状況・履歴、クレームなどが格納され、日々更新される。

まず代理店は、保険商品の販売に関するマーケティングプランを立案する。どの商品をどういった顧客にどのような方法で提案すれば顧客ニーズを満たし、結果利益につながっていくかといった仮説の構築だ。顧客データに基づいてどれだけ知恵を絞れるかがポイントである。あとはその仮説にしたがって、最適なチャネルを組み合わせてプランを実行していく。まずはDM、ウェブ、メールなどを顧客のタイプにより使い分けて商品情報を発信、レスポンスがあった顧客に対して電話でフォローし、営業が実際に面談し、SFAを使って最適なリスクプランニングに基いた保険商品の提案を行ない契約に結び付ける。実行結果はすぐにデータベースに反映し、データベースそのものを成長させることも忘れてはならない。

複数の保険会社の商品を扱える代理店は、より顧客に近い立場で活動できる。つまり努力次第で顧客の購買代理人として高いロイヤリティを獲得することが可能である。そのためにはいかに早く顧客データを活用した経営にシフトできるかが大きな鍵を握っている。