保険代理店の情報化―今やらなければ明日はないー
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まったなしの情報化 新GNP経営(2)―なぜ今代理店情報化―
筆者が代理店の経営実態に触れたのは約1年前であるが,その紙とエンピツの事務を見て,製造業に長く在籍した者からは,30年前にタイムスリップしたようだった。規制が消費者に結果的に高い買い物を強いることをしみじみ実感した。
日本はアメリカとの対比で保険の事業費率が倍以上になっており,そのため保険料が30%程度高いのではといわれている。事業費の削減には,コンピュータとネットワークの導入が決め手であり,保険会社は一斉に情報化に向けて走り出している。
最近,代理店サイドでは過渡期の大混乱が生まれている。新製品のラッシュ,料率の煩瑣な変更や複雑化を,紙とえんぴつで立ち向かおうとしているためである。鉄砲を竹槍で迎え撃つようなものでそもそも無理がある。
事業費の圧縮と的確な顧客対応に情報化の推進が不可欠である。これと裏腹に,非効率な代理店を排除し,効率的な代理店に集約するいわいる代理店選別がすすむ。パソコンとネットワークに対応出来るかどうかが,代理店選別の手段となるのは避けられない。
一方,代理店サイドからみて情報化は,生き残りのために不可欠というだけでなく,保険会社が進める代理店支援システムを積極的に取込むことにより,経営革新を進める絶好のチャンスといえる。その効果をやや具体的に見てみたい。
―情報化の効果―
グラフは代理店の経営状況について,現在(1998年)と3年後(2001年)を規模別に表したものである。左が1998年,中央が対策を打たずに今後想定される売上減少に直面した場合の3年後,右が情報化により生産性の向上を図った3年後である。
顧客サイドの保険リストラの動き,保険会社による保険料率や手数料率の引き下げ,新チャネルからの圧力等様々な要因が,代理店売上にマイナスの影響を与え始めている。ここでは,手をこまねいていると3年間で30%の売上減に直面することを想定している。
代理店を個業(手数料収入1000万円,従業員なし)家業(5000万円,5人)企業(1億円,10人)と規模別に分け30%減の影響をみると,従業員を抱える代理店は固定費の圧迫から利益(役員報酬を含む)が大幅に減少し,事業継続が難しい事態となる。
一方,グラフの右が,情報化で生産性を上げ,現状の従業員数で売上を50%アップさせたケースである。企業(1億円,10人)では利益が1998年で2600万円が手をこまねくと200万円に激減,それが情報化の推進で3000万円に回復する。
3年間で50%の生産性の向上と50%の売上増を両立させるという意欲的目標であるが,パソコンとインターネットを駆使して,内務事務を徹底的に合理化し,そこで生まれた時間を,練り上げた戦略のもとで,営業に投入すれば決して達成不能な数字ではない。
―生き残る条件―
最近,ある保険協同組合の情報化調査を受託し,その関係で代表的保険会社の代理店支援部門を数社お訪ねした。そのなかで代理店の生き残りの条件について色々と議論をしたが,煎じ詰めると効率化と大型化を如何に達成するかに行き着く。
筆者は10年以内に代理店が今の3割程度に選別・淘汰されると見ている。生き残る代理店は,一匹狼の個業タイプと組織で動く企業タイプに2極化し,数人で経営している家業タイプの多くは,いずれかになるよう選択を迫られそうである。
個業タイプは,パソコンとインターネットを駆使して1人で何でもこなしていく。本連載1回目「2001年ある日の代理店」で紹介したタイプである。このような一匹狼は,将来的には様々な提携関係を模索していくことになろが,当面1人で充分やって行ける。
一方,企業タイプは,自社で顧客データベースを立上げ,情報を共有化することで,チームで営業が可能となるタイプである。先進的代理店はこれに向けて具体的な取り組みを始めている。人材の確保と情報化のための資金調達が大きな課題となる。
今年が代理店にとって本当の意味で情報化元年となる。後に触れるように,保険会社の代理店支援システムは,今のところ決して扱いやすいものにはなっていないが,躊躇することなく,積極的に活用して行くことが,先ず生き残りの第1歩となる。