本コラムの連載も53回目と2年目に入ることになった。1年程度の連載ということで始まったが、中崎編集長よりもう少し続けてはとのお話をいただき、有り難くお受けすることにした。これからもしばらくお付き合い下さい。
この1年、電子メールの急速な普及に見られるように、ビジネスネットワーキングにおいても、電子的手段が手軽に使われだした。
私が所属している(社)中小企業診断協会が、昨年末会員約7000名を対象に、「会員情報ネットワークに関する意識アンケート調査」を行った。中小企業診断士の大部分は、企業に所属しているいわゆる企業内診断士であり、また、有効解答数が約3000名と高い回収率を得たことから、このアンケートは知的サラリーマンの実態を反映している。
これによるとパソコンを利用し通信を行っている者の割合は33%である。インターネットの利用は、26%でありその内の20%がホームページを保有している。また、今後パソコン通信やインターネットの利用を検討している者が60%前後とその割合は高い。
この調査は昨年末実施であり、私が世話役をしている中小企業診断士のグループでも、電子メールのアドレス保有者が最近50%を超えたことから、現在では、メール保有者が知的ワーカーの50%程度となったと見てよさそうだ。いずれにしてもコンサルタント仲間ではネットで繋がった者が多数派となった。いよいよ電子ネット上のコラボレーションが今年から本番を迎えることとなろう。
そこで、これからの連載は、私自身もこのコラムを励みにしてコラボレーションの実をあげていきたい。具体的には、インターネットにおける新しいサービスを試す、出席した展示会、セミナー、集会等のご報告をする、読んだ本の感想を述べる、私が見つけた役に立つホームページをご紹介する等実践中心にコラムを書くことを心がけたい。
最近にわかにインターネット電話が注目されている。従来インターネット電話といえば、パソコン同士で行うものであったが、そちらの方は会議機能を組み込んだテレビ電話システムに統合されはじめている。
ここでご紹介するのは普通の電話機によるものである。7月28日より東京大阪間で実験運用を始めた、KDDコミュニケーションで試してみた。
利用の手順であるが、先ずホームページを通じて簡単なアンケートに答えると、折り返しオンラインでユーザIDが発行される。東京からかける場合、KDD東京のインターネット・ゲートウエイに電話するとユーザIDの入力を要求され、IDを電話機のプッシュボタンで入力後、大阪の相手番号を入力すると相手に通じる。実用上問題の無い音質であったが、やや通話中に間隔があく、いわいるディレイがあり、テレビの衛星中継のようである。また、回線が途中で切れるトラブルもあった。
国内サービスは、大手プロバイダーのリムネットが営業を開始しているが、何といっても本命は国際インターネット電話である。国際「公-専-公」接続を、インターネット電話に限って、8月から解禁すると郵政省が発表したのをうけて、10社近くが8月より参入する。
安さの秘密は、インターネット回線を中抜きで利用することによる。プロバイダーのアクセスポイントまで電話をかけ、そこからインターネット網に入り、その後相手先の最寄りアクセスポイントからまた電話網に入って相手に繋がる。インターネットは、全世界がいわば均一料金でしかも安いため、通話料全体として安くなる。インターネットウオッチが東京・大阪と東京・ニューヨーク間で料金の試算しているが、業者によりばらつきがあるが、電話代が国内で約半分、国際間で3分の1程度で済む。電話の品質にやや難があるものの、国際電話では相当メリットがありそうでかなり普及するのではないか。
ネットワーカーのお祭り、ネットワーカーズジャパン97が8月1日から3日間、おふらいんまつりと銘打って、パシフィコ横浜で開催された。今年で3回目で入場者数は5万人を超えかなりの盛況であった。
小生の九州の関係先がブースを出すこともあって始めて行ってみた。主催者側から以下の感想が述べられた。一昨年の第一回目はインターネットとは一体何かが話題になり、昨年はその可能性が議論となった。それが、今年は、インターネットを如何に使うかが問題となっていると。
おふらいんまつりというように、ネットワーク上でテーマごとに議論している仲間が実際に集まる、つまり、オフラインミーティングをすることが大きな目的となっている。今回は41のグループが参加した。ちなみにプログラムの最初は、全国BBSフォーラム・ネットワーク情報フォーラムで、最後はマッキントッシュ・モディフィケーション・クラブであった。趣味的なクラブが大部分である。
BBSとはもともとは伝言板システムのことであり、ニフティサーブのような大手パソコン通信会社と草の根BBSといわれるものに区分されている。この10年、無数の草の根BBSが生まれ、ネットワーク活動の主流であったが、インターネットの普及につれ最近は往年の勢いはない。
実行委員長は、ニュースキャスターの木村太郎氏である。氏はその年に似ず、電子ネットワークを真に理解するには触って見るしかないと、自らホームページを立ち上げる等、ネットワーク活動をアクティブに実践しており、それに基づく電子ネットワークに関する見識は高い。
氏は、会場での討論の中で、今回の酒鬼薔薇騒動に見られるように一部の暴走族的振る舞いで、インターネットに対する規制が誘発されることは大変危険である。日本のインターネットがいよいよ社会的存在感を持つようになり、出るくぎは打つといった日本の風潮で、安易に規制することになりかねない、それはぜひ避けなければと述べた。
数回前の本コラムでプッシュとプルという用語を使ったところ、読者よりもう少し良く分かるように説明せよとのお話があった。こららはやや分かりにくい概念であること、また、インターネットの活用を考えるにあたってのキーワードのひとつと思うのでやや詳しく述べたい。
プッシュとプルは本来はマーケティングでのプロモーション・ミックス(販売手段の組合せ)を考える時の基本方針をいう。典型的例として松下電器のプッシュ戦略とソニーのプル戦略があげられる。松下が多数の系列店のチャネルパワーを活用するのに対して、ソニーは技術的優位性を背景に広告やパブリシティー重視のプロモーションを進めてきた。
つまり、言い方は悪いが、お客さまに押しかけていくのがプッシュでお客様を引きずり込むのがプルである。
インターネットのサービスでこれを考えてみよう。情報をサーバーに取りに行って引き出してくるのがプルである。ホームページ(WEB)にアクセスして情報を得るのが典型例である。一方、情報がサーバーから送り付けられてくるのがプッシュである。電子メールのサービスが典型例である。
最近、インターネットの良く取り上げられる話題に、新しい形のプッシュ型サービスがある。放送型の情報提供サービスである。例えば米国ポイントキャスト社は昨年初めより、パソコンの空きスペースに個人の選択に応じてニュース、株価情報、気象情報、スポーツ等の情報をほぼリアルタイムに伝えるポイントキャストネットワークというサービスを開始している。
このサービスはインターネットと常時専用線で接続されていないと快適に使えない。当面、企業向けに普及していこう。LANで繋がっている社内では、この技術を使って社内の緊急連絡に使ったり、情報共有のためのグループ化が可能なのでイントラネットとしての利用も増えよう。
最近、パソコンの個人向け需要が落ち込んでいる。マリチメディア総合研究所が調べた、3大電気街(東京秋葉原、大阪日本橋、名古屋大須)の97年4―6月パソコン販売が、台数で見て、軒並み前年同期比20%以上の落ち込みを示している。パソコン全体では、法人需要の堅調さを受け、4%増(日本電子工業振興協会調べ)にもかかわらずである。
3電気街での4―6月パソコン販売台数は、約16万5千台、その内秋葉原は10万台強と圧倒的シェアを占めている。秋葉原を始め電気街は、当然、店頭販売による個人ユーザーを主力ターゲットとしている。最近は携帯型で高機能なパソコンに個人ユーザーが向かっているため、金額でいえば、台数ほどの落ち込みはないものの、個人向けパソコンがメインの電気街にとっては個人消費の落ち込みは死活問題である。
秋葉原では、10月18日から21日の4日間、ホットネットフェスタという大キャンペーンを打つ。これは秋葉原の有力店が結集し、中小企業やSOHO(スモールオフィスホームオフィス)を対象に、パソコンLANやインターネット等情報ネットワーク化関連のハード、ソフト、ソリューションを売り込もうというものである。
亜土電子工業、石丸電気、ソフトクリエイト、ソフマップ、九十九電機、ネットワークプロショップ、ぷれっとホーム、ラオックスの8社の法人向けセクションが、推進委員会を作り取組む。私は、推進委員会からの依頼で、中小企業診断士による無料相談コーナーの運営を引き受けることとなった。
先ほどパソコンが個人需要が落ち込むなか法人需要が堅調と述べた。理由は企業のネットワーク化である。秋葉原の過去を振り返れば、顧客のニーズに合せて、主要商品がダイナミックに変化してきている。家電→オーディオ→Tax Free→パソコンといった流れである。今回のホットネットフェスタは、大きな変化への予兆かもしれない。
8月末に、インターネットウオッチャーが注目しているNetwork Wizards社によるインターネットホスト数の発表があった。この調査は、半年に一度、全世界を網羅して行われるため、インターネット普及の程度を知るのに貴重なものである。このような詳細な調査が、インターネット上でしかも無料で提供されるとは、一昔前には考えられなかった。
世界全体の増加率は、96年7月の前年比94%から今回97年7月は52%とさすが鈍化傾向がみられる。ただ、増加数でみると、96年1月以降、半年毎に340万台増とコンスタントな増加を示している。
トップのアメリカは、44%増の1180万台とダントツの位置にある。日本は、93%増の96万台と世界第二位をキープしている。ところが、その国の電網度を端的に示す、人口当りのホスト数では大きく後退し、22位と香港の後塵を拝している。我国を100としてその格差をみると、トップのフィンランドが864、また、4位のアメリカが583と圧倒的差がついている。
日本がこのままアメリカの約倍の増加率で伸びたとして、キャッチアップまで6、7年かかる。動きの早いこの世界で、この年数は決定的差といえる。なぜ、このような差がついてしまったのだろうか。
私は通信の自由化に伴う新しい通信事業の立ち上げや、ハイビジョン関連事業に関わった経験がある。その時に目にした通産と郵政の熾烈な縄張り争いは想像を絶するものがあった。コンピュータと通信、放送と通信の領域が限りなく重なり合うなかで、それを両省に切り分ける作業は困難を極めた。ベニスの商人では、肉を切り取るのをシャーロックはあきらめたが、両省はあきらめずに、優秀な官僚が神学論争に明け暮れた。この知性を前向きに使っていれば、このような差は生まれなかったのではと悔やまれる。今回の行政改革では、やっと通産に統合されそうである。遅まきながら、今後に期待したい。
ネットワーク分野で国際的に活躍されている会津泉さんが主宰するメーリングリストで、インターネットの普及と社会の開放度との相関について、面白い議論が行われているので紹介したい。
メーリングリストに参加している杉井鏡生さんが、Network Wizards社のインターネットホスト数調査に関連して、詳細なレポーティングをされたことがきっかけとなって議論が始まった。
社会の開放度を示すいくつかの指標を使って分析が行われたが、その中にジェンダーエンパワーメント率という社会指標がある。これは、国連開発計画が1995年度版より「人間開発報告書」のなかで発表している。女性の政治参加率、職業参加率、経済参加率に関する指標を使って、その地域における、女性の社会参加達成度を算出しているとのことである。杉井さんは分析の中で、インターネットの普及率を端的に示す人口当りホスト数と各種指標の間の相関係数を算出している。世界全体(78カ国)を対象に計算すると、1人当りGNPとの相関係数が0.896と採用した指標のなかでは最も相関が高い。ところが、人口当りホスト数上位20カ国でみると、GNPとの相関大きくうすれ、ジェンダーエンパワーメント率との相関が一番高くなる。
杉井さんは取りあえずの結論として、以下のコメントをされている。
この結果だけで結論を導くのは無理がありますが、人口当りホスト数は、全体的にはGNPに代表される経済力との相関が最も大きいが、ある程ホスト数が多くなってくると、経済力よりも、ジェンダーエンパワーメント率に代表されるような社会的要素との相関が高くなるのではないかという仮説は立てられるかも知れません。ただし、社会指標とインターネットの普及の関係は、インターネットの普及が、1人当りGNPを高めたり、社会のオープン化を促進するという相互作用の面もあります。片方が原因で片方が結果という一方的な関係ではないでしょう。
前回のコラムで人口当りインターネットホスト数と社会の開放度について述べた。これに関連した話題を1つ提供したい。
人口当りホスト数の上位10カ国をならべると、1位がフィンランド、以下アイスランド、ノールウェイ、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、カナダ、オランダの順である。
これを見て、お気づきのように北ヨーロッパの国々のインターネットの普及率は極めてたかい。北欧は女性の社会進出など社会的にオープンなことで知られている。やはり、インターネットと社会のオープンさとはなにか関係があるのだろうか。
かれこれ約20年前、仕事で北欧をまわる機会があり、ストックホルムでタクシーに乗った。既に当時から、タクシーはかなり高度な無線システムで運行管理がなされ、ちょっと昔のことで記憶が定かでないが、音声だけでなくプリンターで運行指示がなされていたように思う。
インテリ風のタクシー運転手は、なぜスウェーデンでこのように通信のシステムが発達しているのかを次のように説明した。スウェーデンのような人口の少ない国は、労働生産性を高めない限り豊かな暮らしは得られない。そのために通信はとっても大事だ。それに関連して、スウェーデンにおける女性の社会進出が盛んなのも、皆で働かざるを得ないということで、通信の発達と根っこは同じだと述べた。
これを書きながら妻と女性の社会進出について雑談した。女性の社会進出を、すべて経済的要因で説明するのは男の論理ではないか。女性が積極的に社会に働きかけることで、女性の社会進出がすすむという面を考えることが重要だと妻はいう。確かに真実はその中間にあるのだろう。
いずれにしても、妻は日本に生まれてきたことを後悔しているようだ。これから長い老後を妻と一緒に楽しく過ごすには、私もかなりの努力を重ねる必要がありそうだ。