「外部環境への1視点」
1街づくりビックバン
金融ビックバンの陰に隠れて目立たないが,これから街づくりビックバンが始まる。60年間続いた中小小売店の保護政策が今回大店法の廃止で事実上終る。保険業界と同じく,これを見込んで外資系デベロッパーが超大型のショッピングセンターを次々と計画している。農業振興地域に立地を求めて農水省と対立し話題となっている,アメリカン・モールズ・インターナショナル(AMI)が茨城県守谷町で計画している規模は,敷地面積100万u,売場面積20万u,駐車台数1万台という巨大さである。我が国流通業界と外資系流通デベロッパーの実力差は大きく,彼我の差を嘆いて,業界ではこのままでは第二の敗戦になりかねないとささやかれている。
地方中小都市の商店街は,今空洞化の危機に直面している。空店舗率が30%を超え,商店街がシャッター街になっているところも少なくない。大店法廃止はそれを加速することになり,商店街関係者の大変な抵抗があったが,これも時代の流れであった。
大店法は廃止になり,環境や街づくりとの調和といった観点から大型店を規制していく大型店立地法に変わる。また,これと関連して都市計画法が改正され,中心市街地活性化法が制定される。近づく参議院選対策という意味もあり,中心市街地活性化関連に11省庁が連絡会をつくり,200にのぼるメニューを用意して,98年度の予算に一兆数千億円の対策が盛り込まれた。
これで,シャッター街になってしまった中小地方都市の中心市街地が救われるかは疑問がある。今回の一連の対策は,まだ実力が残っている地方の中核的都市には有効であろうが,中小都市は手遅れになってしまっているところが多い。
なぜシャッター街になったか?直接の原因は郊外に展開する大型店との競争に敗れたことである。中小商店の保護を目的にした大店法は,外圧によりじりじりと後退し,数次にわたり段階的に骨抜きになっていった。これが結果的に中小小売店の転換する機会を奪ってしまったと思う。
茹で蛙というのがある。蛙を熱湯にほうり込めば飛び出すが,水から茹でるとそのまま死んでしまうということである。商店街のお店を蛙にたとえて恐縮であるが,大店法がじりじりと後退していったことで結果的にはそうなってしまった。
保険業界においても大蔵省は,当初段階的自由化つまりソフトランディングのシナリオを書いていたが,結果はご存知のハードランディングになった。災いを転じて福となすではないが,保険業界,なかんずく保険代理店は茹で蛙にならずに済んだと前向きに考えて経営に取り組まれることを,中小企業のコンサルティングに携わるものとしては望みたい。
「外部環境への1視点」
医療ビックバン(2)
最近,健康保険の自己負担率が大きく上がった。これにより,病院の来客数が大きく落ち込んでいる。ビジネス街の診療所では10%以上ダウンのところもある。こんなに払うなら良い病院にかかりたいと患者による病院選別の動きも進み始めたようである。
医療・福祉業界も金融業界と同様ビックバンの波にさらされ始めている。ご存知のように、これから本格化する高齢化は,医療保険制度の収入を減少させ支出を増大させる。自己負担の増加や新たに介護保険の導入など保険の見直しが急ピッチである。今後、これに加え、少子化の影響が本格化することを考えれば、老人医療保険の導入も不可避であろう。
この収入対策に加え、医療・福祉分野への競争原理導入による支出対策も本格化する。現在の健康保険は基本的には出来高払いである。また、やぶも名医も値段は一緒である。つまり、医者は全て優秀で聖人君子であるという前提になっている。制度の建前と実体がこれほど食い違っているのも珍しい。多くの医者は経済人であり,経済人がこの制度を前提に合理的に行動すれば過剰診療になる。
ここに今後メスが入る。長期の入院患者に対して保険報酬を減額する方向で進んでいるが,次は,1日当たり定額制の導入ということのようだ。その先は、病気毎に入院日数に関係なく一定額が支払われる疾病別包括払い制が導入されそうである。
人をもの扱いにするようで恐縮だが、個別受注生産方式の導入が不可欠となる。病院経営も今までの売上高管理から180度転換し,これからのキーワードは、コスト・品質・納期になる。製造業で培われた経営管理手法の導入がこれから進みそうである。
病院経営は70%が赤字といわれ経営改善が急務となっている。その中で人件費の比率が外注費も含めると40から50%に達しておりその削減がポイントとなる。聖域であった医師に踏み込んだ対策が必要となっている。
最近お話を伺った杉並区のある地域医療の拠点病院では,医師の削減に踏み切るとともに大変抵抗があったが年俸制を導入した。具体的には,技術レベル,クレーム数,患者数,手術数,獲得点数等を考慮した評価に基づいて目標管理をすることになった。若い意欲のある医師には好評だそうである。
医薬品の営業マンは、今までは、ドクターに対してGNP(義理・人情・プレゼント)に務めていれば済んでいたが、最近は経営者に対する病院経営に関する情報提供が重要になってきている。営業マンが病院経営者に持っていく情報誌が必要となりそれがビジネスになる時代である。病院をめぐる状況はここしばらく流動的で目が離せない。
大和生命のインパクト
4月中旬,大和生命本社ビルを米大手投資銀行ゴールドマン・サックスが購入,証券化するというニュースが流れた。同ビルは,スイス大手銀行クレディ・スイスが不動産信託を設定,ゴールドマン・サックスがその信託受益権を購入,それを証券化して投資家に売却するスキームと報じられている。大和生命は,これにより不良債権を一掃するとともに自己資本を充実した。
総額600億円と初めて本格的な国内不動産の証券化となる。1983年オリンピア・アンド・ヨーク社がニューヨークのオフィスビルを担保に巨額の資金を資本市場から調達,それをきっかけにして,米国においても伝統的であった,不動産は銀行や生保から間接金融を受けるという従来の流れが大きく変わった。今回の大和生命本社ビルの取引は,こんな事も出来るのかとの気づきを一般人に与え,流れを変えるきっかけになりそうである。
この取引の背景には,米国の場合と同様,銀行の貸し渋りによるクレジット・クランチがあると思われるが,この取引の本質は,バブル後の不動産市況の調整が最終局面に入り,東京都心の一等地が底値に達したと考えられることにある。
97年9月の商業地基準地価が,東京都心部の一部で反転,大規模ビルの募集賃料も値上がりに転じている。大相場の後の暴落過程を半値,八掛け,5割引と称し,ピークの20%になれば底を打つという。東京都心商業地はピークの四分の一程度になっており,おおむね底値に達したとの見方ができよう。
総額600億円,5%の利回り確保との新聞報道をベースに,必要坪当たり月額賃料を推計すると3万円強となる。これから見るとおおむね達成可能な利回りである。我が国もやっと収益還元法で不動産投資が議論できることになった。筆者の関係先が大和生命ビルに入居していることもあり時々訪れるが,立地条件に恵まれて希少性があり,今後キャピタルゲインも得られそうである。
不動産価格は,価格=収益÷(金利+リスクプレミアムー収益の期待上昇率)と定式化される。戦後の高い人口増加率と都市集中,高い経済成長率は,収益だけでなく,収益の期待上昇率をも高め,不動産価格の高騰をもたらした。
今後,一般的には収益の上昇が期待できないとすると,不動産の事業リスクが厳しく問われることになる。不動産の事業リスクには,市場変動のリスクに加え,流動性リスク,制度の変更,災害,地域の変化,陳腐化,テナント構成等様々なリスクがある。
不動産証券化の前提には,それぞれのリスクを細かく評価して,それを投資家に公開する必要がある。今回もゴールドマン・サックスにより厳しい評価がなされたと思う。この取引が,我が国不動産業界に新風を吹き込むことになるよう期待したい。
「外部環境への1視点」
地球環境と省エネ(3)
4月28日地球温暖化対策推進法案がやっと閣議決定された。これは,昨年12月の地球温暖化防止京都会議で決まった我が国の約束を果たすためのものである。企業に温暖化ガス削減計画を義務づけようとする環境庁と省エネ法との二重規制で混乱を招くとの通産省が対立,結局環境庁が折れた形で企業への義務づけを削除することで決着した。
昨年12月の京都会議では,CO2,メタン,亜酸化窒素等温暖効果6ガスを,2008〜2012年までに,1990年比日本6%減,米国7%減,EU8%減とし,先進国全体で少なくとも5%削減することが決まった。ホストである環境庁長官が国会出席のため抜け出し,慌てて引き戻されるといった国際感覚の無さ暴露したり,色々あった京都会議であるが,この数値の決定過程もはたから見ればかなりいい加減である。
国際会議では交渉期限を設定し,それに向けて決着を図るといったことが常套手段となる。今回も当初削減目標について,米国はゼロ回答(業界向けスタンドプレー),日本は
2.5%(現実解),EUは15%削減(数字のマジック)と言っていたのが,色々なルートの交渉の積み重ねで,結局上記の数字に決まってしまったという。通産省は当初,我が国が2010年に90年比横ばいを達成するのには,新エネルギーを3倍,原子力発電所を20個所建設しても,1996年からエネルギー消費を横ばいにする必要がある
,その場合ゼロ成長も覚悟と言っていた。それを,さらに6%削減するといった今回の決着は,産業界から見ればあまりに無定見といえよう。温暖ガスの削減は,原子力発電が難しいとすれば,結局省エネにしか頼れない。企業にとって省エネは待った無しの課題となった。我が国の省エネ技術は,2回のオイルショックをきっかけに,世界的に見て極めて高い水準に達している。これを活用して,省エネをビジネス化する動きも目立ち始めている。
その中での注目株は,ESCO(エネルギー・サービス・カンパニー)である。顧客に対してパフォーマンス(成功報酬)契約により,省エネのための計画立案から設備投資,その管理までトータルで請け負う。欧州では
ESCOのことをTPF:サード・パーティ・ファイナンスというように,通常設備投資のリスクマネーも提供し,客先のエネルギー削減額で回収する。我が国でも,いくつかの会社が立ち上がって来ている。この成功報酬といった考え方が定着するか注目される。成功報酬方式は欧米ではよくあるタイプであるが,ある外資系の情報アウトソーシング会社の責任者が私に,日本人は成功報酬をとったというリスクに理解がない,すぐ儲けすぎだというと嘆いたのが印象的であった。
大和生命のインパクト
東京の不動産事情
大和生命を題材に,今回は,東京の商業不動産を実体面から追ってみたい。これからの商業地投資は,3つのキーワード,収益還元,二極化,サイクル化で語られると私は考えている。
大和生命の投資利回りについて,オフィスビル総合研究所が内部的に試算した数字がある。新聞発表にある総額600億円,5%程度の利回り確保との数字をベースに,建物面積,レンタブル比,取得経費等を想定して,5%利回りに相当する坪当たり月額賃料を算出すると2万8千円となる。これに信託報酬等を加算すると,テナントの世代分布がはっきりしないものの,現状から見て600億円はちょっと高いかも知れない,ただ,立地の希少性等を考えると許容範囲であるといったことのようだ。
このような計算を収益還元法という。バブルのピーク時は,投資利回りが1%前後といった物件が一般的で,賃料の持続的上昇,それに伴う地価上昇,さらには節税効果等を加味して,十数年後に累積損失を解消するといったシナリオで投資が行われていた。それが,東京都心商業地の暴落で,収益還元で合理的な投資判断が可能となりつつある。
ただ,これで不動産投資がやり易くなったわけではない。二極化,サイクル化といった傾向を考えると,かなり緻密な分析をしないとヤケドをする。
近年,東京都心の商業地地価の変動係数(バラツキ具合)が大きく拡大している。これからは良いものと悪いものが二極化していく。東京都心のオフィス募集賃料でみても,大規模ビルは既に強含みになっているが,中小ビルは依然として値下がりが続いている。環境条件が格差を生む。大和生命ビルは,帝国ホテルに隣接,しかも,緑豊かな日比谷公園を望むといった立地が評価されたと思う。
有名なビジネスサイクルにピッグサイクルがある。豚肉が高騰すると農家が子豚を飼い始め,それが一斉に市場に出て価格が暴落,皆が飼うのを止めて又暴騰といったサイクルである。右肩上がりの上昇とそれに続くバブルを挟んだ乱高下で陰に隠れていた,不動産の循環要因がこれから表面化する。バブル崩壊で中断していた都心3区の大型ビルがこれから増え出す。丸の内の再開発も始動した。
大和生命ビルでもこれら動向がかなり検討されたと思う。また,このようなビルの需給という実体面だけでなく,今後,循環要因として金利の動向にも目を離せない。
収益還元,二極化,サイクル化といったキーワードは,不動産が金融資産化するための前提である。不動産は長期に保有するものという我が国の常識がこれから崩れていく。次回は,不動産の証券化等金融資産としての不動産を考えてみたい。
大和生命のインパクト
不動産の証券化
米国においても,商業不動産証券化の歴史は新しい。1983年,大手不動産デベロッパーであるオリンピア・アンド・ヨーク社が,9億7千万ドルという巨額な資金を資本市場から調達したことをきっかけに,商業不動産証券の急速にかつ多様な展開が始まった。
マンハッタンに同社が所有していたオフィスビル3棟を担保に,変動利付債権を発行した。巨額な発行という点だけでなく,発行会社に遡及しない,いわいるノン・リコース型であり,3棟の共同抵当になったことなどもあり市場での注目を浴びた。
米国不動産ファイナンスの最大の特徴は,仕組みファイナンス(
structured finance)にある。ノン・リコースを前提に構成不動産や設定債務を仕組むことで様々な信用状況を作り出せる。そのため,発行会社が資本市場で未公開や低格付でも,対象資産をディスクローズすれば資金が調達できる。オリンピア社の場合は不動産開発事業を急拡大しており,未公開のプライベートカンパニーであることから企業としての借入に限界が来ていた。米国では,個人住宅ローン市場には,1960年代後半より住宅抵当証券が急速に拡大していたが,商業不動産金融は伝統的な銀行や生保による間接金融の牙城であった。ところが,この証券化プロジェクトをきっかけに,投資銀行が商業不動産金融の主役に踊りでた。今回の大和生命本社ビルも,米大手投資銀行ゴールドマン・サックスが主役であり,今後我が国においてはこの分野にも外資が攻め込んできそうである。
オリンピア社の証券化は債券型(
debt)のものであるが,最近は株式型(equity)が注目されている。不動産エクイティ商品の代表に,MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)とREIT(不動産投資信託)がある。これらはニューヨーク証券取引所を始めとした市場に上場され,不動産が金融市場においても通常の投資商品として活発に取引されている。今回の緊急経済対策では,日本版
401kプランとならんで日本版リート(J-REIT)が盛り込まれている。これは,不良債権処理の対策として考えられている特定目的会社(SPC)の利用拡大を検討する過程で生まれた。我が国では不動産の証券化が不良債権解決の目玉のようにいわれるが,筆者のバブル後,虫食い土地の開発に携わった経験からいうと,とてもうまく機能するとは思われない。価格を下げれば処分が可能な土地が多かった米国の場合と我が国はかなり異なる。
今後不動産証券化は,大和生命のような優良商業不動産が本命になると筆者は考えている。この問題は,保険業界に直接・間接に様々な影響を及ぼす。具体的対応が求められる問題の一つであろう。
「外部環境への1視点」
NPO法
NPO法が、3月25日公布された。都道府県などの準備状況などを勘案しながら、来年3月までの間に施行されることとなる。当初,市民活動促進法案と呼ばれていたNPO
(Non Profit Organization)法は,一部議員が市民という名前にアレルギーがあったようで,結局,特定非営利活動促進法といったいかにも無味乾燥な名前に落ち着いたようだ。この法律の目的は、ボランティア活動をはじめとする社会貢献活動など特定非営利活動を行う団体に,法人格を与えることで,その健全な発展を促進することとうたわれている。いずれにしても,ボランティア団体等市民活動を進めている皆さんから色々不満はあるものの一歩前進と歓迎されているようである。
本法で認められる活動分野は以下の12分野に限定されている。@保健,医療,福祉
A社会教育 Bまちづくり C文化,芸術,スポーツ D環境保全 E災害救助 F地域安全 G人権,平和 H国際協力 I男女共同参画 J子どもの健全育成 K前各号の支援 である。本来であれば基本法である民法改正で対応するのがベストであるが,民法改正となると審議会での小田原評定が始まり,長いトンネルに入り何年もかかる。今回,議員立法で特別法としてとりあえず成立させ,施行から3年以内に見直すこととなった。
神戸の震災でのボランティア活動は,国民にかなりの意識改革をもたらした。大変な犠牲が出たわけであるが,震災は,色々の意味で自分の生き方を見直すきっかけとなった。NPO法は,多分震災がなければ成立しなかったと思う。
NPO法は,これからの高齢化社会の向けて大きな役割が期待されている。介護保健法とNPO法は高齢化対策の車の両輪とさえいわれている。また,その経済的効果に対する期待も高い。
80年代のレーガン,サッチャー政権下、両政府とも政府部門を縮小し,公的なサービスをNPOが担い手となるよう促進する政策をとった。大胆な民活路線は有名だが、民営化は企業だけでなく民間非営利団体をも視野に入れたものであった。その経済効果をアメリカで見ると,NPO雇用者数は77年350万人→
94年900万人,NPO付加価値は77年550億ドル→94年3000億ドルと拡大し,一大セクターになっている。現在,施行に向けて都道府県で準備が進められている。所轄庁は原則事務所所在地の都道府県知事,2以上の都道府県に事務所がある場合は経済企画庁長官となる。基本的には,書類審査による認証になる。かなりの数のボランティア団体が特定非営利団体として再発足することのなろう。筆者としても,自分の生き方を見直す場,自己実現を図る場として関わりを持っていきたいと考えている。
「外部環境への1視点」
Fast Caf
é(8)スターバックスをご存知であろうか?外資系の喫茶店チェーンの日本進出第一号である。アメリカではヤッピー(ヤングエリート)御用達のカフェで,アメリカとカナダで1000店を超えるチェーン展開を行っている。ニューヨーク帰りの若い友人が,昨年お茶の水店が出来たときに懐かしがって,新宿からわざわざ車で連れて行かれた覚えがある。
セルフサービススタイルの喫茶店は,我が国ではドトールがデファクトスタンダードをつくった。ドトールもスターバックスも創業者がヨーロッパ旅行の時にヒントをえて,チェーンオペレーションの仕組みを作って成功した点が共通していて面白い。ヨーロッパ人は独立独歩の精神が強く,なかなかチェーンオペレーションが根づかないようだ。
私はこのような喫茶店の業態を
Fast Cafeと呼んでいるが,最近,新規参入が増えて戦国時代となっている。プロント,ベローチェ,カフェドクリエ,カフェドカーサ,カフェデュモンド,カフェジュニア等々ちょっとした繁華街には毎日のように開店する店がある。筆者は50代であるが,学生時代,喫茶店は生活の一部であった。当時の喫茶店は,コーヒーにこだわったマスターがいて,常連がたむろしてだべっているといったイメージであった。小奇麗な商売で新規参入が比較的容易ということもあり,個人経営の喫茶店が急速に増えていった時代であった。その後,このタイプの喫茶店は,家賃の高騰や経営者の老齢化により減少の一途をたどる中で,チェーンオペーレーションを武器にしたこれら新業態
Fast Cafe にとどめを刺されてしまった。小売の輪の理論というのがある。高価格・高サービスな業態が成熟すると,新たに低価格を武器にした新業態が参入しそれを淘汰,またその新業態自身が高価格・高サービスにシフトするといったサイクルを描くという理論である。ドトールが低価格戦略で参入し市場を制覇したが,最近はややコーヒーは高いが,ゆとりをもったオープンカフェ風の店が増えだしている。
再び喫茶の時代が到来したようである。若者が仲間で喫茶店にはいると備え付けのコミックをとって,お互いに一言もしゃべらず読みふけるといった光景が良くあった。最近は,我々学生時代と同じように,仲間同士のおしゃべりが復活したようだ。携帯電話の電話料金がかさみ,音楽CDの売上が落っこちたと言われている。コミックやCDから携帯電話や喫茶店へと若者はコミュニケーションに励む。一方で,最近,1人で所在なげに時間をつぶしている,中高年の男性が増えているのは気にかかる。そういう自分も傍から見ればそうかもしれないがーーー
「外部環境への1視点」
社会資本整備と民間活力(9)―中曽根VS橋本―
最近にわかに「PFI」という3文字が目につかれないだろうか?プライベート・ファイナンス・イニシアティブの略で社会資本の整備に民間資金を積極的に導入しようということである。英国ではPFIが公共投資の10%を超えるまでに伸びており,これを手本にしている。
筆者は1983年から84年にかけての一年間,(社)日本プロジェクト産業協会が経済企画庁より受託した「公共的事業分野への民間活力導入方策」の調査とその取りまとめに当たった。本調査は400ページをこえる包括的調査で,当時中曽根首相のイニシアティブで進められていた民活路線を裏付けるものの一つとなった。
当時の状況を振り返ると,国鉄等の財政破綻と民営化,行政改革・規制緩和,景気の停滞による税収不振に加え歳出抑制が進まないことでの財政赤字の拡大,更には,貿易黒字による経済摩擦等を背景にしたもので,今の日本と比較すると類似点が多く,まさに,歴史は繰り返すといえる。
本報告書に当時の第二次臨時行政調査会基本答申の一部が引用されている。「社会,経済の変化に対応して,国民の意識や行政の役割に変化が生じていることは確かであるが,現状ではこうした変化への対応が十分であるとは到底いえず,とりわけ行政の制度や運営に立ち後れが目立つ。この場合,対応の基本的方向の第一は民間に対する指導,規制,保護に重点を置いていた行政から,民間の活力を基本として,その方向付け,調整,補完に重点を置く行政への移行である。」
これをご覧になって中曽根以降15年経ったが,事態は何も変わっていないことがお分かり頂けると思う。6月17日急速な円安を受けて橋本首相はクリントン大統領との電話会議で不良債権問題の解決による金融システムの安定,内需主導の経済成長の実現,市場開放と規制緩和を改めて約束している。一体,バブルをはさんだこの15年間は何だったろうかという感が強い。
前述の調査の一環として欧米へ現地調査に行った。当時,サッチャー,レーガンの民活路線が始まったばかりで,各種のメニューは揃いつつあるもののどのような展開になるかは未知数であった。
今回,改めてサッチャー,レーガン路線のその後をチェックしてみたら着実に民活路線が進展している。PFI,エージェンシーあるいは前回ご報告したNPOといった官民の境界部分が,社会にしっかりと根づいている。
中曽根民活がなぜ線香花火になってしまったか,一度総括する必要がある。次回は,PFIについて具体的に見ながらその辺のところを考えてみたい。
「外部環境への1視点」
PFI(10)―リスクを誰が取るか―
先月,石油公団が出・融資している石油開発会社の多くが経営破たんに陥り、回収不能債権が一兆円を超えていることが報じられた。公団は,石油や天然ガスの探鉱・開発には大きなリスクを伴うことから、国が開発資金を民間石油会社に円滑に供給するため1967年に設立された。資本金は約1兆5千億円で、政府全額出資。
総裁を更迭するとともに開発会社の整理統合を進めることになったが,公団が債務超過に陥る可能性があり,この場合公的資金の投入が必要となる。開発会社は自主開発原油を確保するための国策会社として次々設立されたが,これら会社の処理は,これから破綻が表面化することが見込まれる,地域開発等を目的として設立された多くの第3セクター処理の先行事例になりそうである。最近では数兆円の公的資金の投入といっても誰も驚かなくなり,これをチャンスに第三セクターの整理が加速しそうである。
政府は昨年11月,「二十一世紀を切りひらく緊急経済対策」として、規制緩和、土地取引の活性化・有効活用、中小企業対策、科学技術振興、市場アクセスの改善、税制見直しと並んで,民間の資金や技術を活用して社会資本を整備する「PFI」(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)を盛り込んだ。今国会では,このためのPFI法は時間切れで継続審議となったが,ゼネコンを始めとして期待も大きく,次回国会での成立が見込まれている。
筆者は民間側の立場で,第3セクターへの出資等にしばしば携わる機会があったが,その経験から見て,これら多くが失敗したのは,文字どおり民間活力の活用にとどまり,結果的にリスクをすべて官が取ることになったことが根本的原因ではないか。
第3セクターでは,公的資金を入れるのだから儲けてはいけないという論理が,当然のごとく言われていた。この場合,民間側から見ると出資に見合ったリターンが期待出来ないとすると,様々な不透明なやり方でその回収を考えることになる。つまり,出資金は捨て金と考えることになり,基本的な資本の緊張関係がなくなり,第3セクターの無責任体制が,結局つけを官に回すことになる。
PFIが成功するためには,文字どおり民間のイニシアティブが必要となる。確かに,公的事業分野を民間セクターにまかせるには,収益性を確保するために,補助金を始め様々な支援,つまり,下駄をはかせる必要性は高い。ただし,最終的リスクは民間が取るとの原則が欠かせない。この原則を確保できれば,PFIは公共投資をめぐる様々な矛盾を解決し,我が国の社会資本整備についての救世主になりうる。ぜひ,前向きな検討が必要となる。
「外部環境への1視点」 経済白書(11)―企画庁の調査能力―
夏の風物詩,恒例の経済白書が7月17日発表となった。平成10年度「年次経済報告」は,1947年の「経済実相報告書」いわいる都留白書から数えて52回目となるが,副題を―創造的発展への基礎固め―として
17日閣議決定された。筆者は,1969年と70年の2年間,民間企業より経済企画庁への派遣制度のもとで白書を執筆した。かれこれ30年前になるが,筆者にとって調査企画畑に足を踏み込むきっかけになった得難い経験で,白書の新聞発表があるたびに当時を思い出す。
執筆の担当は,企画庁内国調査課,企画庁プロパー,各官庁の出向者,民間企業派遣者の寄り合い所帯であった。お互いに切磋琢磨する中でも和気あいあいで,新聞発表当日は,我が子を送り出す気持ちで,大きな事件が起こって記事が小さくならないよう祈った。
今回の白書は,日経新聞が社説で「戦後最大不況誤認の弁解白書」と酷評したり,読売新聞が「国民の疑問に答えていない」と称したようにマスコミの評判は芳しくない。最近の白書は,押し並べて批判の的になっているが,今年は特にひどい。
昨年の白書は,「民間需要主導の自律的回復軌道に乗りつつある」との判断をしたもののこれが大きく外れた。外れた原因を本年の白書は@消費税引き上げの影響を過小評価,A不良債権等バブル経済後遺症,Bアジア経済の混乱の3点をあげている。
ここに多くの批判が集中している。読売新聞は「今年の白書にもっとも求められたいたのは,この過程を丹念に分析して,国民に明らかにすること」と述べている。また,日経では分析が大蔵省管轄の領域に及ぶと議論が及び腰なるとの指摘もしている。
最近,企画庁の調査企画能力に疑問の声が大きい。また,民間調査機関の能力が向上しており,企画庁の相対的役割が低下しているとの意見も強い。また,第一回の都留白書のような骨太な政策提言が不足しているとのプロトタイプの批判もある。
白書の出来上がる過程では,いわば,各省庁からの検閲がきつい。私がいたときも,我々の原稿に対して「全文削除」といったコメントが戻ってくることもあり,最初のビビットな文章が各省庁とのやり取りでだんだんつまらなくなっていく。
役人同士のやり取りでは,自分の誤りを認めるわけにいかないのでどうしてもそうなる。やはり,役人にはキチットした根拠に基づき現状分析をさせ,政策の選択肢とそれをとった場合の影響を出させ,それにより,政治が主体的に決定していく他になかろう。
金融ビッグバンにより大手銀行を始めとした金融系調査機関の能力が大幅に低下しつつある。企画庁としてはそこにチャンスがある。OBとしては,少なくとも,企画庁の生命線である調査能力で批判が出ないよう,その点はぜひ死守して欲しい。