「外部環境への1視点」 SFA(12)―営業力の革新―

最近,SFA(Sales Force Automation)という言葉を聞かれないだろうか?ここ数年来,米国では数百社の業者が参入しブームとなっている,経営技術(MT)と情報技術(IT)の進歩を取り込んで作られている,営業支援のためのソフトウエアである。

我が国においても,十数社が参入しており,各種展示会では専門のコーナーが設けられ,顧客開拓にむけて各社がセミナーの開催などを活発に行っている。専門書も何冊か発行され始めており,我が国においてもブレーク寸前といった感じがある。

この背景は,MTの面でいえば,規模の経済から範囲の経済へということで,ひとり一人の顧客に個別に対応するONE TO ONEマーケティングの重要性が高まり,これに関する様々なノウハウや技術が蓄積され始めていることがある。

また,この蓄積に合わせITが著しく進歩しているが大きい。パソコンなどのハードやSFAなどのソフトの低価格化,インターネットの普及,営業マンに持たせる携帯端末等モバイル環境の高機能化,また,それを支えるデータベースの進歩が急速に進んでいる。

SFAの目的は,一言で言えば,効率的で効果的な営業活動を達成することにある。営業マンは色々な雑務に追い立てられ,本来の営業活動,つまり,顧客との面会時間に良くても30%程度しか当てられない。SFAで雑務を効率化して面会時間を多くする。

また,営業のステップを明らかにして,そのプロセスを管理することで効果的な営業が可能になる。例えば,見込み客から契約客に至る何段階かのステップを設定して管理すれば,売上目標を達成するには何人の見込客が必要かが読めるなど事前管理が可能となる。

SFAのソフトは,ノーツ等グループウエアを利用してその上で開発されたものと専用のソフトとして開発されたものがあるが,商談進捗管理,顧客管理,情報共有,提案書・見積書作成支援,商品・競合情報等のデータベースなどから構成されている。

営業マンは20%のトップ,60%のそこそこ,20%のだめで構成されるといわれるが,SFAは60%のそこそこをトップセールスマンにする武器と言われている。トップセールスマンはSFAが無くてもやれるが,SFAは全体の底上げを目指す。

SFA成功のための要件は,@何はともあれ経営課題としてトップ主導で進めること,A導入の前提として営業戦略がしっかり定まっていること,B担当営業マンが進んで使いたくなるシステムにすることなどが大切である。

保険業界の営業は,ひたすら代理店や営業員を増やす人海戦術と経験と勘と度胸(KKD)で進められてきた。これからは,代理店は家業から企業へ,保険会社はグローバルスタンダードに合せた経営効率化が急務である。SFAはその切り札になりそうである。

「外部環境への1視点」 零子高齢化(12)―生きるリスク―

合計特殊出生率が,前年の1.43から引き続き低下し,平成9年1.39と初めて1.4を切り,史上最低水準を更新中である。合計特殊出生率とは、1人の女性が一生の間に生む子供の数であり,現在の人口を維持するのに必要な2.08を大きく下回っている。

出生率の低下には、未婚率の上昇によるところが大きい。昭和40年代半ば以降、男女とも晩婚化が進むなかで、女子の未婚率は最近10年で、25〜29歳が3割から5割に、30〜34歳が1割から2割に上昇している。

バブルのさなか,子供を生まず豊かな生活を謳歌するライフスタイルをDINKS(Double Income No Kids)と称しもてはやされた。これからは,主体的かやむなくかは別として,DINKSに加え,結婚せずに一生を送る人々が増えていきそうである。

少子高齢化は我が国のマクロ問題としてはそのとおりだが,ミクロつまり個人の問題として見ると,実は零子高齢化の問題である。子供に頼れない反面,子供のことを考える必要もない,すべては自己責任で人生を送っていくというわかりやすい世界になる。

子供を持つ人々の間でも,子供に頼らず頼られずという態度をとる向きが増えているように思う。そろそろこれに的を絞った保険が出てきても良さそうではないか。今までは,生命保険は死ぬリスクをメインに構成されていたが,生きるリスクに的を絞る。

家内と茶飲み話でこのようなことをはなしていたら,家内より死んだらお金が入らず生き残ったら年金がでる保険はないかという質問があった。つまり,保険金払込期間中に死亡したら一銭も入らない代わり,生き延びれば手厚い終身年金が支払われる。

この保険は,現在の年金制度に似ているが,年金では遺族年金等後に残ったものに対する保障がセットとなっている。この保険では生きるリスクに的を絞り本人のみをカバーする。この保険が開発されれば,相当需要がありそうな気がする。

専門家にこの様な保険の可能性を伺ったところ,人の死により利益を得ることになる保険は,現行の制度では難しいそうだ。現状では,死亡保険金について元本を保証した上で,満期一時金なり年金を厚めに支払うという保険がそれに近いとのことである。

家内がこの様な発想をしたのは,テレビで中国の医者と患者のユニークな関係を見たことによる。中国では,患者が健康を維持している限り患者が医師に金を払い,患者が病気になると医者が金を払う制度がある。保険も生と死を逆転できないかということだ。

いずれにしても,これからは基本的には自己責任で長生きのリスクをカバーする工夫が不可欠となる。年金,医療,介護といった仕組みもこれから選択肢が大きく広がって行きそうである。保険も生きるリスクに着目し始めているが大いに有望な分野である。

 

 

「外部環境への1視点」 Sun Street(13)―有期限建築―

昨年の11月7日にJR総武線亀戸駅前に新しいショッピングセンター(SC)が開業した。江東区という下町に生まれたSCとして注目を浴びており,順調に顧客を集めているとのことなので,7月のある暑い日の午後訪れてみた。

名前はランブリングマーケット「サンストリート」,亀戸東口を出てすぐの京葉道路をはさんで対面にある。太陽をイメージしたカジュアルな感じのロゴマークにぴったりの,オープンで路地感覚溢れる2階建てSCである。

敷地を南北に名前のいわれとなったS字型のサンストリートが通り,それを囲む形で広場やお店が連なる。キーテナントとして「トイザらス」「無印良品」「セレクト・イン・キムラヤ」が入り,約50店が路面店感覚で連なっている。

ガイドマップには「買い物だけでなく,ブラブラ歩き(=ランブリング)を楽しめる,まちの居間としての次世代商店街の提案です」とある。広場・みち・テラス・緑などのパブリックスペースを充実し,まわりから自由にサンストリートにアクセスできる。

サンストリートはセイコーインスツルメンツ(旧第二精工舎)の本社跡地で,その開発・運営を関連会社のタイムクリエイトが行っている。いわゆるデベロッパー業務を実質的には直営で進めており,本社より出向されている責任者の方よりお話を伺った。

お話によると,下町亀戸ということで若干の危惧はあったものの開業三日で30万人を集めた。その後も平日2万人,土曜・休日は4〜5万人と順調で,当初目標の年間来場者数400万人,売上目標100億円は十分達成出来るとのことであった。

サンストリートは商業施設としてのユニークさに加え,専門家の間で注目されているもう一つの側面がある。当初より恒久施設としてではなく有期限の暫定的利用を前提にしている点である。商業をめぐる変化を考えると15年もたすのがやっとという背景がある。

建設に携わった鹿島建設がそのホームページで「建築や都市環境が垣間見せる文化の表情の中で、その時々を最も鋭敏に反映する舞台装置、それが時間を限って建つ「有期限建築」です」とあるが,企業にとってはもっと戦略的な土地利用という意味が強い。

セイコーインスツルメンツでは跡地利用の検討がかなり前から進められており,バブル期にはツインの超高層オフィスビルというお決まりの構想もあったようである。結果的にはバブル崩壊が地元に喜ばれる商業施設の誕生となった。

土地価格の値下がりにより,東京の中心市街地にも様々な形でヒューマンスケールの商業施設建設が可能となる。外資の参入による土地の流動化も活発化しており,足元の経済の暗さはあるものの,いろいろ楽しみな開発が始まりそうな予感がある。

マイナスの地価 ―もう一つのグローバルスタンダードー

金融機関の不良債権処理は,先延ばしも限界に達し,ハードランディングによる最終段階を迎えたようだ。それに伴い不動産価格も相場の最終局面,つまり,セリング・クライマックスが始まる。大相場の後の暴落過程,半値・8掛け・5割引の世界が実現する。

外国金融機関が我が国金融機関の不良債権をまとめ買いする,いわゆるバルク買いが話題となっているが,その中には価格が1円という備忘価格による取引もあるようである。収益を生まない土地は,実質的に地価がマイナスになり始めている。

収益還元法による土地取引では,収益がマイナスの土地は価値がマイナスにならざるをえない。従来,取引事例による評価法で値段が付いていた土地が,収益還元というグローバルスタンダードで厳しく評価され始めた。

最近,相続税の納税を土地の物納でという向きが増えているそうである。固定資産税が上がり実質マイナスになった土地を相続を契機に国に引き取ってもらいたい,それがだめならただでも引き取ってくれないかとの相談である。

我が国の固定資産税はバブル期にその相対的低さが指摘され,基本的に時価で評価するとともに税率を適正化することとなった。一度にその調整を進めると,何倍にも税金が上がることから段階的に上げることとなり,現在も徐々に上がっているところが多い。

国の方でも収益性のない土地は引き取らない。相続税の計算では路線価つまり取引事例をベースとした評価をしていながら,その価値を認めないのはちょっとおかしいが致し方がない。土地は持っているだけでOKの時代から見ると様変わりである。

外国金融機関のバルク買いは収益性の見込める土地と処理が難しい殆ど無価値の土地をセットで買うことで進められている。虫食いの土地や暴力団がらみの土地が殆どただで手に入ることになり,うまく処理できればメリットが大きい。

欧米の不動産開発は,様々なノウハウを駆使して,無価値の土地を価値ある土地に変える,いわば,無から有を生じさせるというところに特徴がある。つまり,知的産業という側面があり,地価上昇に依存してきた日本の不動産業と基本的に違いがある。

この様なノウハウを日本の不動産市場で生かせるかは定かでないが,地価が下がり開発に様々な工夫が可能となっている。外国勢は短期的値上がりを狙ってバルク買いを進めていると言われているが,不動産開発によるキャピタルゲインも狙っていると思う。

不良債権の直接の買い手は今のところ外国勢しかないが,その資金の出し手は日本の個人といったことも十分考えられる。筆者は日本の将来に基本的には悲観していないので,保証は出来ないが,この投資は大変高いリターンが得られるのではないか思っている。

 

 

「外部環境への1視点」(14)SPC ―不動産と金融の融合―

9月3日,安田火災,三井海上と米大手金融保証会社2社が,債権証券化に伴う金融保証についての業務提携を発表した。損保業界においてこのような提携は珍しく,金融ビッグバンをにらんだ保険業界での戦略的同盟として注目される。

安田火災と三井海上はダブルA,提携先のMBIA社とAmbac社はトリプルAと高い格付けを持つ。これら高い格付けを背景にすれば,保証する証券の安全性を高めることができることが狙いである。格付けの高さを直接ビジネスに活用する点でも注目される。

9月1日よりSPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)が施行された。証券化手法で不動産に関連した不良債権を処理する切り札として期待されており,金融機関等の今期決算処理に間に合わせることを目的に急いで施行された。

企業や金融機関が不動産や不動産に関連した貸付債権等を特別目的会社(SPC)に売却し,SPCはそれを担保に資産担保証券(ABS)を発行する仕組みである。今回の4社による提携は,ABSの共同保証をビジネスにすることを目的としている。

SPCについては1993年に施行された特定債権法で限定的に認められたが,1996年に一般的ABSがほぼ解禁になり,それを使った不良債権の証券化がトライされるようになった。しかしながら,様々な法的障害からコスト高になりうまく機能しなかった。

今回,@SPCという実体に着目しての法人税の二重課税回避や不動産取得税を軽減A最低資本金を300万円,取締役最低人数を1人,登録免許税を軽減等でSPCを設立しやすくするBABSを証券取引法上の「有価証券」とするなど抜本的改善が図られた。

米国における不動産証券化市場の拡大は,80年代末の貯蓄銀行破綻にともなう不良債権処理の過程で,様々な証券化の試みがなされるとともに,それをささえる多数の調査,運営管理,債権回収等の専門サービス業者が立ち上がったことが大きい。

これら外資系業者が進出し始めており,我が国の実状に合わせノウハウの活用が進むことになる。これにより実物投資主体の前近代的な我が国不動産市場に風穴が開けられる。また,証券化による新たな資金ルートの開発が良質な不動産ストックの形成につながる。

これからの商業地投資は,3つのキーワード,収益還元,二極化,サイクル化で語られると前に述べた。これらの動きをうけて,今回のSPC法は,単なる不良債権処理の枠を超え,不動産証券化の本丸,優良不動産の証券化へとつながって行くことが期待される。

「200X年X月X日,丸の内ファンドとデズニーランドファンドが上場され高値引け。三菱地所と三井不動産が,それぞれ,丸の内再開発と第2デズニーランド建設の資金調達を狙った,我が国初のREIT(不動産信託)」といった記事が保毎に出るかもーー

 

 

定期借地・借家権 ―生活空間倍増プラン―

家内は「どうせ置くところが無いのだから」というのが口癖である。買いたいものを見つけても,そうつぶやいて,結局買うのを諦める。家の狭いことをあてつけがましく言われても,こればかりはそう簡単には解決出来ない。

家に物があふれ,買いたくても買えないといった状態のお宅も多いのではないか。不況・不況と言いながら実際は,家の狭さを考えると買うものも無く,もう物は十分ということである。逆に言うと,広い住宅の供給は,経済活性化に大いに役立つ。

9月10日の第2回経済戦略会議で,小渕首相は「生活空間倍増戦略プラン」をぶち上げた。この首相主導のアイディアには戦略会議の委員の間には戸惑いもあるようだが,住宅だけでなくオフィスや公園もふくめ5年間で倍増という着想は大変良いと思う。

我が国経済のこれからを考えた場合,フロンティアとして残っているものには,情報ネットワーク化と生活環境の改善があると常々考えている。今回のプランが,池田首相の「所得倍増計画」にならぶものに育てば,小渕首相が後世に名を残すことになる。

「定期借家権法案」が現国会で審議中である。成立すれば戦時立法がまた一つ変わる。昭和16年銃後の守りのため,借地借家法を改正し,借家人保護のための「正当事由」条項を設け,「正当事由」が無い限り,建物賃貸借の解約ができなくなった。

現在もこれが生きており,家主からの解約は著しく困難になっている。仮に解約が出来たとしても高額の立退き料が必要となる。このため,賃貸住宅は老朽化した木造アパートと回転率の高い若者向けワンルームマンションしか供給されないことになってしまった。

今回「定期借家権法案」が成立すれば,新規契約からとはいえ「借りたものは期限が来れば必ず返す」というまともな契約形態となる。これにより,賃貸収入の見積もりを始め様々な要素が精度をあげて予測でき,不動産投資の不確実性が大きく減ることになる。

定期借家権に先立ち定期借地権が認められたが,これを活用した質の高い一戸建て住宅やマンションの供給が始まっている。また,定期借地権,定期借家権,SPC法,不動産証券化をキーワードに,これら制度を組み合わせたプロジェクトも進みつつある。

小渕首相の「生活空間倍増戦略プラン」については,年内にも具体的計画を立てたいとしている。その中では,上のような新しいタイプの仕組みを活用し,適正な価格で広くて質の高い賃貸住宅が続々生まれてくることを期待したい。

昭和16年制定の保険業法が改正されたり今回の「定期借家権法案」など,戦時中の立法がいくつか変わり始めた。60年近く続いていた戦時体制がやっと終りつつある。我が国が,グローバルスタンダードという新たな戦時体制に入るということであろうか?

 

 

「外部環境への1視点」中小企業情報化(15)―旬が一番―

最近,全国信用金庫連合会総合研究所が,中小企業の情報機器利用状況調査を行った。連合会加盟信金の取引先16,000社を対象にした大規模なもので,さすが取引先相手ということで回収率が90%を超えており信頼性は高い。

同じテーマで2年前の96年6月にも実施しており,この2年間の中小企業の情報化に対する変化が調査を通じてうかがえる。中小企業対象とはいえ,1〜4人から200〜300人とかなり幅広く調査されており,また,業種別の傾向もつかめる。

この2年間の動きをこの調査で見ると,一番大きな点はやはりネットワーク化の波がヒタヒタと押し寄せていることである。いよいよ中小企業においても,インターネットを始めとした情報ネットワークに無縁では居られない事態になりつつある。

情報ネットワーク化進展による営業活動の影響については,「影響があるとは思わない」に前回調査では45.7%がイエスと答えていたが,今回はそれが27.1%と大幅に減少した。影響について「広告・宣伝の多様化」,「インターネット直接取引」をあげる向きが多い。

また,インターネット利用については,「利用している」はまだ16.8%と少数派であるが,前回の4.8%から12ポイントも上昇している。前回は「利用を考えていない」が64.2%と多数派で,自社とは無縁と考えていたが,今回は36.3%と少数派になっている。

中小企業の情報化は技術がこなれた状況になる,つまり,扱い易くコストも安くなるまで待って取り組むことが肝要だ。ウィンドウズ98に発売と同時に飛びついてトラブルに巻き込まれた例があったが,趣味ではともかく,ビジネスでは旬が一番である。

最近,保険会社各社により新しい代理店支援システムの導入が相次いでいる。今までの代理店支援システムは使い勝手があまり良くなく,評判がいまひとつであったが,今回はウィンドウズ対応になるなど,その辺はかなり改善されている。

代理店支援システムは保険会社と代理店がネットワークで結ばれ,契約データを始め各種データが電子上でやり取りされている。損保は現在VAN(付加価値通信網)によりネットされているが,徐々にインターネットへ移りシステムも扱い易くなっていくと思う。

製造業に長年在籍した筆者から見ると,代理店が今やっている紙と鉛筆の事務は,誤解を恐れずにいうと,30年前にタイムスリップした感がある。代理店支援システムは,このような事務をこれから劇的に変えることになりそうである。

自由化により,保険業界も普通の業界になる。パソコンやインターネットなど情報ネットワークの活用なくして,仕事自体が進まなくなる。これら旬の技術を取り入れて,どのように生き残りを図るか,待った無しのタイミングのようだ。

 

 

「外部環境への1視点」街に住む(16)―高齢化と街づくり―

私事で恐縮だが,私の母が最近足を骨折し,近所の病院に入院した。高齢ということもあり,家族総出で,かわるがわる介護にあたっている。介護の大変さは色々聞いてはいたものの,実際直面してみるとよく分かる。

両親とは2世帯住宅に上下に分かれて住んでおり,こういう場合は便利である。幸い病院が歩いて5分程度と近くにあり,ひんぱんに行くことができる。私も時間がある程度自由になるので,介護を手伝っている。

高齢者は,やはり,身内が面倒を見ることができればベストだろうが,なかなかそうはいかない。核家族化によりそもそも家族がばらばらになっており,高齢者自身も自立が求められるとともに,介護などを社会化する動きは避け難い。

この点に関連して,街に住むメリットを再確認しようとの動きが始まっている。高齢者をケアするものとされるもののために街づくりを考える動きが,建設省と厚生省の間で動き始めているのでそれを紹介したい。

地方の市町村をたずねると,立派な老人福祉施設が街中から遠く離れた田んぼの中などに,ドーンと立っていることによく出くわす。実は,これは利用者である高齢者にとっても,お世話する担当者にとっても不便極まりない。

お年寄りは送り迎えのバスに長時間揺られる。また,お世話する側もこれから高齢者や主婦が増え通勤の負担がこたえる。これを何とかできないかということから,建設省の呼びかけに厚生省が応じて,ケーススタディなどを行いそれに基づき対応が進んでいる。

対応の方向としては,街の外に広がっている施設を街中に呼び戻すための政策的支援を進めることにある。具体的には,やや小規模の施設をネットワーク的に街中に配置することで,利用し易く勤め易い施設になるよう誘導を図ることになった。

昨年6月の都市計画中央審議会答申では,都市行政は歴史的転換期を迎えたとし,スプロール的開発を抑制し,既成市街地の再構築に政策を集中すると述べている。いわいる中心市街地活性化政策であり,その具体的展開のひとつの例が今のべたものである。

私自身は,東京生まれの東京育ちということで,街での暮らしを離れられない。歩いて行けるところに焼き立てのパンが売られているとか,タクシーワンメーターで劇場から自宅へ帰ってこられるといった暮らしをしたい。

高齢者は郊外の自然豊かなところでのんびりというのも良いが,都会暮らしが増えてきたことから,必ずしもこの図式は当てはまらないのではないか。これからは,街なかに,高齢者とって暮らし易い様々な仕掛けが生まれそうで大変楽しみだ。