「外部環境の1視点」17若い女性の豊かさ課税最低限と親がかり

10月の終わりの土曜日、井の頭線に乗りながら、本コラムの題材を考えていた。コラムはおおむね日曜日に書いており、前もっていくつかのテーマにたどり着いているのが通例であるが、今回はいろいろばたばたしていて、実はテーマが見つからず困っていた。

ふと、中吊り広告をみると面白いことに気がついた。座りながら見える範囲にある広告のほとんどが女性誌のしかもファッションをテーマにしたものである。Zipper, Spur, Can Can, An An, mc Sister, JJとカラフルで楽しい紙面がずらっと並んでいる。

雑誌では季節はもう冬で、コートなど冬物のアレンジをどうするかといったことがテーマに多い。チープシックとか着回し術といったほのかに不況を感じさせる記事も無いわけではないが、全体から見て、戦後最悪の不況とはどこの国のことといった風情である。

若い人たち,中でも,女性の海外旅行熱は相当なものである。1996年でみると,海外渡航者が1700万人弱と過去最高を更新する中で,20歳代が全体の約3割と最も多く,ほとんどの年齢層で男性が多い中で、10才から29才まででは女性が上回っている。

日本のように若者が海外に大挙して遊びに行くというのはあまり例がないとのことだ。外国での一般的なプライベートの海外旅行は,退職後の老夫婦がやっとためたお金で,のんびりと旅行を楽しむというイメージのものであろう。

若い女性の突出したファッションと旅行熱は,結婚すれば家に縛り付けられ,子育てをしなければならないのだからと,大目にみられていたきらいがある。ただ,未婚の女性がこれほど増え出すとそれも説得力がない。

このように若い女性が豊かなのは,1つには税制の問題がある。弱者救済の名の下に課税最低限が上がり,税金の負担が極めて低くなっている。また,親からは意図的に自立せず,親もそれを喜んで引き受けるといった幸せな娘さんも多い。

課税最低限の引き上げは,皆が必要性を感じながら政治的にとても出来ない問題であり,親の世代も高度成長の恩恵を刈り取った最後の世代で貯蓄も豊かで,年金も満額得られそうである。ということで,若い女性のポジションはしばらく安泰そうである。

長期的に見た我が国の最大のリスクは,いま子供がどんどん生まれなくなっていることだと私は考えている。合計特殊出生率が,平成9年1.39と初めて1.4を切り,史上最低水準を更新中である。出生率の低下には、未婚率の上昇によるところが大きい。

我が国有史以来最高の豊かさを謳歌する若い女性ということで,残念ながら結婚のインセンティブは低い。一方,若い男性の結婚願望は依然強く男の受難の時代が続く。我が家にも息子が2人いる。その被害者意識からやや若い女性に偏見があるのかもしれない。

 

 

「外部環境への1視点」(18)50年後の東京―江戸は蘇るか―

建築関係5団体が主催する「アーキテクチャ・オブ・ザ・イヤー」のシンポジュームに参加した。6年目を迎える今年は「環境革命時代の建築―巨大都市東京の限界と再生」をテーマに,展示と連続シンポジュームが10月28日から11月8日にわたり行われた。

本年は,日本建築学会会長で早稲田大学教授の尾島俊雄氏がプロデューサーを務めた。巨大都市東京の抱える深刻な問題,防災や環境破壊の現状をリヤルにシミュレーションし災害に強いまちづくり,水と緑の回復,地下空間の活用を考えるということがテーマである。

11月5日に行われたシンポジューム「都市計画の可能性」にでた。新宿新都心NSビルのアトリュームに,左に戦後50年の結果,右にこれから50年後を示す東京の巨大地図を配置した会場に,満員の参加者を集め,尾島教授の挨拶でシンポジュームが始まった。

左は環状6号から8号にかけアメーバーのように不気味に赤く広がる地震被害を表す地図,右は新宿新都心を一桁大きくした1000メートルのツインビルを中心とした都市群がクラスター状に環状道路に沿って点在する緑豊かな50年後の地図である。

尾島教授には10数年前,私がプロジェクトマネージャーをしていた都市再開発プロジェクトの関係で,お知恵をお借りする機会があった。教授はその時から「下町マンハッタン計画」というプロジェクトを進めておられた。

過密木造密集市街地を再開発し,極超高層ビル群と緑のオープンスペースに変えるこのプロジェクトは,コルビジェ流の近代機能主義をイメージさせ,あまり評判の良いものではなかったが,尾島教授の意図は別のところにある。

江戸のまちは,街のなかに仕組まれた水と緑のネットワークを東京湾の海風が循環し,巨大都市でありながら世界有数の環境共生都市を形成していた。尾島プロジェクトは,大きな緑地のネットワークにより風の道を作り,砂漠化する東京を救うことを意図している。

冬の夕方,巨大地震が東京を襲うと環状6号から8号に挟まれた地域は半数の家屋が焼失する。木造モルタル住宅は,8分以内に消防自動車が駆けつけることが前提の防火建築である。地震で駆けつけられなくなれば結果は明らかである。

戦後50年,経済効率一点張りの市街化の結果がこの様な市街地を生んだ。これを50年かけて環境共生都市に戻そうという試みである。1000メートルのハイパービルを30本,事業費30兆円強のプロジェクトである。

神戸の教訓から事前復興という考え方が生まれつつある。起こってからの対応の大変さが骨身にしみたことである。最近では30兆円といっても驚かない。東京生まれで東京育ちの筆者にとっては,子供のためにぜひ実現させたいと思う事業である。

 

 

「外部環境への1視点」(19)記名捺印―技術と社会慣行―

10月27日の保険毎日新聞(損保版)で,AIUがオンライン方式で海外旅行保険を販売することが報じられた。インターネットとクレジットカードを活用して,ペーパーレスで契約と支払を完結するサービスで,保険業界では我が国初とのことである。

数ヶ月前,ある代理店の方との雑談で,インターネットによる保険販売が話題となった。オンライン方式の契約は,申し込みの際に必ず記名捺印した申し込み用紙が必要な現行制度になじまないので,なかなか簡単には進まないのではとの話がでた。

その時に,インターネットを通じたオンライン取引は,今後大きな流れになるので,保険業界だけがその外にいるわけには行かないのではとの感想を私は述べたが,こんなに速く現実になるとは考えていなかった。

多分,AIUがこの商品の認可を受けるにあたって,大蔵省との間で,相当大変なやり取りがあったのではと推察される。林女史による保険金詐欺事件のさなかであり,本人確認について,より慎重にならざるを得ない局面での認可申請である。

50代以上の読者にはおなじみのなつかしい映画に「太陽がいっぱい」がある。そのなかで主演のアランドロンが自分の殺した富豪のサイン(書名)を盗み取るシーンがあった。プロジェクターで写したサインを繰り返し模写する場面が印象に残っている。

我が国においても,明治以前には花押というサインの制度があった。氏名の一部などを抽象化して氏名に下に書いて印としたもので,そのデザインの美しさにはいつも感心させられる。それが,明治に入り記名捺印制度に移行して行く。

明治33年「商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律」が制定された。そのなかで「商法中署名スヘキ場合ニ於テハ記名捺印ヲ以テ署名ニ代フルコトヲ得」と規定され,日本のハンコ文化が例外的かたちでスタートしたが,それが民事一般にも広がり現在に至っている。

これが,技術の進歩により揺らいでいる。今回のAIUによるインターネット販売では,本人確認はクレジットカードの番号を直接AIUのホームページに書き込むことで行う。私も本の購入をこの方式でしており,取引相手に信頼性があればほとんど不安はない。

個人識別のためのコンピュータソフトが続々開発中である。顔,目,指紋,サイン等のパターンを識別して本人確認を行う。いずれこの様な技術が一般化していこう。その間は,ネット上ではID・暗証番号と暗号技術を組み合わせてという現行方式がとられよう。

少し前であったら,記名捺印制度との調整で,簡単には今回の保険認可は下りなかったであろう。我が国において官僚主導の意思決定システムが急速に変わりつつある。慣行より合理性が優位に立つ,わかりやすい時代に入ったということである。

 

 

「外部環境への1視点」(20)国民生活白書―生涯現役―

12月4日「中年―その不安と希望」と題した98年度の国民生活白書が発表となった。堺屋長官の白書らしく「団塊の世代」を中心とした中年世代(40〜50歳台)に的を絞り,本格的な高齢化社会に向けての不安や悩みの解決策を提案している。

総理府の「国民生活に関する世論調査」によると、生活の面で「悩みや不安を感じている」中年世代が他に比べて特に多く,自分の親や配偶者の親のこと、子供のことなど、前後の世代にまたがる様々な問題を同時に抱えざるを得ない人が多いと白書は述べている。

仕事の面では,高齢者の就業を妨げている終身雇用や年功序列の慣行をあらためて「生涯現役社会」の実現を求めている。キーワードは「ポータブル」で,ポータブルな能力をつけるための自助努力と話題のポータブル年金,確定拠出型年金の導入に言及している。

また生活の面では,中年世代の大きな心配事である介護問題を重点的に取り上げた。女性を中心とした家族に大きな負担がかかっている現状を分析し,このままでは女性が「家事と介護で生涯現役」になりかねない実状を明らかにしている。

解決策としては「民間事業者のメリットを積極的に活用し、市場を通じての効率的なサービス供給を拡充することによって、多様で、拡大する介護サービス需要への対応を図っていくことも重要」とし,社会的支援の重要性を訴えている。

現在,同居で高齢者介護をしている人は70万人強いるが,その内の80%強が女性である。ただし,まだ,団塊の世代に属する女性は本格的に介護に参加していない。その点でこの世代は,つかの間の平和を楽しんでいるのかもしれない。

「2000年4月あなたの家では」と題した介護保険を解説したパンフレットには,寝たきりの父親(63歳)体の弱った母親(78)大手メーカー勤務の夫(55)に困惑した顔で考え込む専業主婦(50)と団塊女性の将来を暗示しているイラストがある。

実は我が妻も団塊世代である。私の母が骨折で入院しその介護のために陰に陽に大変な努力をしている。妻によると団塊世代の女性は,戦前の家族主義と戦後の個人主義の狭間にある世代で,頭は個人主義,行動は家族主義といったところがあるそうである。

母の退院にあたり杉並区よりベットや車椅子等介護用品は無償で貸与され大変助かった。一方で,デイケアや訪問入浴等在宅サービスの体制は,まだ,はなはだ不十分である。このままでは2000年の介護保険がスムーズに開始できるか大きな疑問が残る。

介護保険をめぐっては,在宅サービスや介護施設の充実に向かって関係者の大変な努力が進められている。その努力を促進することが重要で,一部で言われている現金給付の導入は,女性への介護における過度な負担を固定化することになり避けなければならない。

 

 

「外部環境への1視点」(21)中心市街地活性化法

最近の街づくり関係者のキーワードは,中心市街地の活性化である。「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」という長い名前の法律が本年7月24日施行され,それをきっかけとして一大ブームが起こっている。

この法律は空洞化が進む中心市街地の再生を目指すもので,今年の春,本コラムの第1回「街づくりビッグバン」で触れたとおり,街づくりにとって色々の意味でエポックメーキングな法律で関係者の注目度は高い。

過去の地域開発法の例にもれず,各市町村が負けてはならじと基本計画を競って策定しており,本年度末には100ないし150の計画が出揃いそうである。しかしながら,本法律の最大の特徴は,各自治体に計画づくりを預けたことで担当者の戸惑いも大きい。

従来であれば市区町村の立てた計画を県なり国が許認可を与えるというプロセスが必ずあったが今回はそれが無い。法律上緩いガイドライン(基本方針)を国が定めるものの,実質的には殆ど自治体の自由裁量に任されている。

提出の第1号は福島県郡山市で,900ヘクタールという広大な地域を中心市街地に設定している。これは数年前から駅前再開発計画として立てられていたものを,活性化法にのせて促進しようと考えたものであるが,中心というにはあまりに広すぎる。

一方,狭い計画では三鷹市の例がある。こちらは20ヘクタール弱である。殆どの計画が商業の活性化を目的としている中で,情報系SOHOの集積を狙ったユニークな計画である。あれもこれもの幕の内弁当タイプの計画が多いなかで注目される。

実プロジェクトを推進するための計画から住民の間での議論を喚起することを狙った計画まで,また,スタイルも従来通りの型にはまった分厚い報告書から広告代理店がプレゼンに使うような派手なタイプのものまで様々な計画が立てられている。

自治体が最初に悩むのが区域の設定である。街の中心という以上,常識的に考えて大きくても数十ヘクタールといったところであろう。ところがこれに利害が絡むとコンセンサスを取りにくい。どんどん区域が広がって,へそのない計画も増えそうである。

自治体に権限と責任を委譲し,そのイニシアティブで中心市街地の再生を図るというのが今回のポイントとなる。自治体の戦略的な自由度が大きく高まり,主体性と戦略性の無い自治体にある中心市街地は,競争に負け淘汰されるといったことも起こりそうである。

この自治体の戦略的対応という点に関連して,第50回全国能率大会における筆者らの論文「中心市街地の競争戦略」のレジメを,ホームページ(末尾参照)に掲載しているのでご興味の向きはご覧頂きたい。

 

 

「外部環境への1視点」(22)2000年問題

元旦近所のセブンイレブンに買い物に出かけた。ドコモとツーカーの番号変換機の周辺が賑わっていた。元旦に携帯電話の番号が11桁に移行することから,それに対応して,変換無料サービスの端末がセブンイレブンに設置されている。

帰り道に喫茶店に入ったところ,隣席の若者の携帯に電話が入り,相手にすぐセブンイレブンに行って変換するようアドバイスしていた。どうも,携帯の番号メモリーが効かなくなったと訴えているようであった。

半年ぐらい前からテレビ,新聞,雑誌など様々なメディアで番号を変換するよう呼びかけていたにも関わらず,ことほど左様に周知徹底は難しい。最近話題の2000年問題(y2k=Year 2 Kilo)も,特に,中小企業では,問題自体の認識がない例も多い。

y2k問題とは,ご存知のように年号を下2桁で表示しているコンピュータプログラムがかなりあり,2000年に00表示になることで,様々なトラブルを引き起こしそうだと懸念されていることである。

私自身も30年ほど前に計量経済モデルを動かすためにプログラムを組んだ覚えがあるが,年号は当然のように2桁表示であった。コンピュータの記憶容量を有効活用するためである。その時代のプログラムが依然相当数現役として活躍しているのが実状である。

最近,このコンピュータプログラムによるトラブルだけでなく,様々な製品に埋め込まれている,カレンダー機能を持った制御用マイコンチップの問題も表面化している。これによるy2k問題は,数が多いだけに端的にいってお手上げのようだ。

通産省が昨年9月に行った調査によると,中小企業においては,事務処理系情報システムでは約3割,マイコンチップの制御系システムでは約5割の企業が具体的対応を行っていない。これから判断すると相当数の企業が時間切れで2000年突入となりそうだ。

y2k問題の難しさは,識者によって影響の程度について意見が極端に分かれていることであろう。また,コンピュータがネットワークを通じて有機的につながっており,自社だけの対応で万全というわけにいかないところに複雑さがある。

これから,社外と結んだ接続実験が色々と精力的に進められよう。しかしながら,結局は,時間切れを前提に,様々な事態を想定し,起こった場合に備えてそれぞれ危機管理計画(コンテンジェンシー・プラン)を立てておくことに,重点が移って行きそうである。

私としては,2000年をまたいで飛行機・新幹線には乗らない,病院には極力入院はしないようにする,今年の暮れには預金通帳に残高記入をしておくといった危機管理対策を考えている。停電にそなえてろうそくを買って置くことも必要かもしれない。

 

 

「外部環境への1視点」(23)21世紀のネット社会

Linuxという言葉をご存知であろうか?最近話題のコンピュータ用基本ソフト(OS)である。マイクロソフト(MS)のOS,Windowsに大きな脅威を与えるのではといったこともささやかれ,一般紙にもちらほら記事が登場し始めている。

Linuxは,もともと,フィンランド人のプログラマー,リーナス・トーバーズ氏が開発して,ネットを通じて,無料で配ったソフトウエア(フリーウエア)で,米国ではPC(パソコン)サーバー用OSとしては,既に10%のシェアを獲得しているとの見方もある。

上で「もともと」と述べた意味は,ソースコード(プログラムの中身)を開発者がただで公開したため,ソースコードの改良技術を持つ多数のプログラマーがボランタリーに改良に参加し,どんどん優秀なソフトとなって,今も発展途上にある点にある。

改良したソフトを販売するのも自由で,開発者はロイヤルティーもとらないという。ユーザーはLinuxの安定性を高く評価しており,安定性が強く要求されるインターネット関連システムやデータベース処理システムのOSとして急速に普及している。

開発者リーナス・トーバーズ氏は,アンチMS派が多いフリーウエア信奉者からMSに脅威を与えた人物として英雄視されている。専門家の中では,逆に,このようなモチベーションの高いフリーウエア信奉者に支えられているための限界を指摘する向きもある。

この件に関してPC WEEK日本版98/12/14を引用すると「Linuxがアナーキーで,自由奔放な世界を形成している限り,どんなソフトウエアベンダーもハードウエアベンダーも,利益を上げることは不可能だ」とある。

フリー・フェア・グローバルがビッグバンのキーワードとなっている。これでイメージされる世界は,マーケティング戦略に長けた起業家が競争社会のなかで勝ち昇っていくといったところであろう。MSビル・ゲーツ氏の世界である。

よく考えるとこのLinuxをめぐる動きも対極にあるものの,フリー・フェア・グローバルである。無料(フリー)のソフトを,世界中(グローバル)の技術者が改良を重ね,評価はユーザーが決める(フェア)という世界である。

これから始まる21世紀は,がちがちの競争社会か,はたまた,ボランタリーに支えられた関係の経済になるのか。現在,ネットをめぐる犯罪など様々な陰の部分が表面化する中,ネットワークのもつ社会的意味を考えるチャンスでもある。

私としては,シナリオは充分描けないものの,関係の経済の方に軍配をあげたい。もし,そうなれば,マイクロソフトは,20世紀最後に生まれた世界最後の巨大企業ということになろう。10年後が楽しみである。

 

 

「外部環境への1視点」(24)共生するロボット

東京オペラシティにあるNTTインターコミュニケーションセンターで開かれている「共生する/進化するロボット」展をたずねた。人間とロボットの相互交流をテーマに,新しいロボットのイメージを提示することをねらいとしている。

ATR知能映像通信研究所が赤ん坊の言語獲得プロセスに似せて作ったMiMIC,お互いに話し合っているうちに段々賢くなって行く。セイコーエプソンがつくった世界最小のロボットとしてギネス入りしたEMRoS,光を当てると可愛らしくよちよち近づいてくる。

また,人工生命(A-Life)などの知的システム技術の実用化に取り組むAAIジャパンが,衝突を回避し,自動運転を可能にする知的車椅子を動かしていた。AAIは知的能力をもった介護ベットなど福祉介護機器の開発にも取り組んでおり早い成果を期待したい。

SFファンにはおなじみのロボット3原則というのがある。SF作家アシモフが提唱して有名になった原則で,@人間を傷付けてはいけないA第1原則に反しない限り人間の命令にしたがうB第1と第2原則に反しない限り自分の身を守るがそれである。

アーサー・C・クラーク不朽の名作「2001年宇宙の旅」が映画化されてから約四半世紀が経つ。HALという高度な知能を持ったコンピュータが反乱し,船長が窮地に追い込まれる緊迫したシーンが今でも目に浮かぶが,ここでもこの3原則が議論となった。

日本人はロボットに対してプラスイメージを持つ数少ない国民といわれている。欧米ではロボットは労働力の代替として労働者から反感を買い,他の何かに支配され動く存在として考えられているようだ。そのような背景がこの3原則を生んだのだろう。

今回の展覧会の趣旨には「人からの一方通行に留まらず,人間とロボットの相互交流(=インターコミュニケーション)を前提にロボットを考える」機会にしたいとある。プラスイメージを持つ日本人が取り組むフロンティアとしてロボットは最適であろう。

ロボットは自動車の生産ラインへの大量投入に見られるように今までは産業分野への活用が主力であったが,最近は医療現場や老人介護といった福祉分野への導入が始まっている。また,子供の教育やペットとして低価格のロボットが市場に現れ始めた。

私の若い友人に,ソニーでロボットの開発をしている越山さんがいる。彼の開発したロボットにQ太郎というのがあり,球形で前後左右どちらへも移動出来るユーモラスなものである。開発のコンセプトは,家庭内で人間と接して遊べることである。

彼には,老後の介護と話し相手として,自動車程度の値段になれば,買っても良いと酒を飲みながら話している。本田技研が一家に一台を視野に置いて,2足歩行のロボットをこの10年来開発している等,私の老後にかろうじて間に合うのではと期待している。

 

 

「外部環境への1視点」(25)還元セール

2月19日の新聞各紙に,通産省より発表された98年小売販売額についての記事が載った。これによると前年比4.6%減の138兆1720億円と,2年連続で前年を下回り,減少率は戦後最大,消費不況の深刻さを裏付ける結果となった。

同じ紙面に「三越,上場以来初の無配転落,希望退職600人」といった三越のリストラ策が載っている。1月20日の中内功ダイエー代表取締役社長の電撃的辞任に続く,新旧流通トップ企業の相次ぐ挫折である。

一方昨年末,スーパーを中心に小売業各社が「消費税分還元セール」を行い,消費不況のなか,期間中の売上をヨーカ堂が前年比5〜6割,ジャスコは4〜5割伸ばし,いわば2人勝ちとなり,大変注目された。

昨年12月について,既存店ベース前年同月の売上を見ると,ダイエー△4%,ヨーカ堂+4%,ジャスコ+1%,西友△10%,マイカル△3%,ユニー△3%,イズミヤ△7%,長崎屋△8%となり,大きな格差が生まれたことがわかる。

なぜ,このような格差が生まれたのか?煎じ詰めると,価格値下げにより生じたお客様のニーズの変化に,素早く対応して,品揃えを調整出来たかどうかにある。還元セールを行った多くの店で,品切れが続出し,お客様がそのまま帰るといった事態となった。

スーパーの多店舗展開を支えている,いわいるチェーンオペレーションの重要な原則に,店頭のレジで捉えられる単品別POSデータを元に各店舗の商品を本部で一括発注し,規模のメリットを追求する方法がある。

右肩上がりの売上が続いた高度成長期には威力を発揮したこの方法に限界が生まれている。売上が低迷するだけでなく,消費者ニーズが複雑に変化するなかで,本部でなく前線の各店舗が顧客ニーズを細かく予測し,発注する方法が取られ始めている。

ヨーカ堂は,POSデータ等を活用して,仮説→行動→検証のサイクルを各店舗で回すことで,発注精度の向上を図っている。鈴木社長は,口を酸っぱくして,適正な発注が小売業の原点であることを強調している。

このサイクルがうまく回るためには,POSなど情報システムの充実は勿論だが,各従業員が学習する集団として,データに基づき判断する能力を持つことが大変重要だ。今回の還元セールによるヨーカ堂の勝利は,この学習する集団の有効性を証明したようだ。

筆者は食品スーパーの経営指導を手がけているが,POSを入れたものの殆ど活用されていないケースが中小企業には多い。先ず,システムありきでは成功しない。スーパーに限らず,データに基づき学習する集団を作ることが先決である。

 

 

「外部環境への1視点」(25)JAPAN SHOP SCMCRM

第28回店舗総合見本市JAPAN SHOPに出かけた。私のような商業系の中小企業診断士とっては,欠かせない展示会で毎年訪れる。見本市と連動して,SA(セールスオートメーション),IC CARD,セキュリティ,建築・建材等の展示も行われる。

3月5日の最終日に訪れたが長蛇の列で,受け付けまでに30分近くかかった。後ろから韓国語が聞こえるなど幅広い参加者を集めており,このような展示会に皆が積極的に参加する限り,我が国の先行きも捨てたものではないといったことなど考えながら並んだ。

今回はSAのコーナーを中心に見た。展示のテーマを括ってみると,今年は2つのキーワード,即ち,SCM(Supply Chain Management)CRM(Customer Relationship Management)で代表できそうである。。

SCMは流通部門で考えれば,POSデータを起点として,そのデータを製造業者,物流,卸しなどで共有化して,流通チャネル全体の最適化を図る動きである。需要予測と補充計画による在庫最適化,顧客ニーズの変化への素早い対応などを目指す。

CRMは顧客カードを起点にして,優良顧客の識別と囲い込みによる売上・利益の確保を狙う。マスマーケティングからリレーションシップマーケティングへ,つまり,市場シェア拡大から顧客シェア拡大への流れである。

また,理念系として,消費者を起点としたサプライチェーン全体での情報共有化といったSCMCRMを統合する考え方も提示されている。ただ,多くの小売業者は,SCMCRM以前に社内の統合をどうするかといったことに追われているのが実状といえる。

従来,POSを初めとした流通業のシステムは,それぞれメーカーによって仕様がバラバラでしかも高価なものであった。これが今,PC-POSに代表されるようなパソコンベースの安く,高性能で,しかも相互に繋がりやすいものに急速に変わりつつある。

特に,マイクロソフトは,WindowsをベースとしたPC-POSの普及に力を入れており,着実にシェアを伸ばしている。「オープンなプラットフォームによる標準化」を標榜して「Industry Marketing Solutions」という産業別技術協議会を組織化している。

小売業界向けにはActive Store研究会を組織しており,今までのバラバラなシステムを,Windowsをベースに統合する活動を推進している。このような動きが進めば,今までは大企業のものであったSCMCRMが,中小企業にも手が届くことになりそうである。

実は,会場で筆者がコンサルティングに伺っている食品スーパーの専務にバッタリあった。ポイントカードによるCRMの実践を進めるなど意欲的な経営者である。筆者のカスタマーとの不思議なリレーションシップを感じた一日であった。

 

 

「外部環境への1視点」(26)退職者SOHO ―三鷹sohocity

私が世話役を勤める中小企業診断協会の研究会に,三鷹市の中心市街地活性化プロジェクトの責任者をお招きしてお話を伺った。21回の本コラムで紹介した通り,SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)を核とした個性的な計画である。

三鷹駅南口の中心地に,三鷹市SOHOパイロットオフィスが既に立ち上がっており,そのユニークさから視察客が絶えない。その成功を受けて,中心市街地活性化法に基づく10億円の資金を,国より導入し,本格的なSOHOオフィスが最近着工された。

約2年にわたる入念な調査に基づき,パイロットオフィスの構想がまとめられた。広さはは250uで,受付け,コーディネーターコーナー,会議室,サロン等共用部分と業務ユニットとして9つのブースに別れている。

入居者の募集について最初は不安があったが,ふたを開けてみると,大きな反響があったそうで,問合わせが250社,応募が57社,書類審査の上面接したのが20社で,ブースの数に合わせ,最終的な入居企業を9社に絞り込んだ。

責任者のお話によると,意外だったのは応募者のなかに多数の中高年,とくに60歳前後の人々が含まれていたことで,パソコンとネットワークを駆使するのは若手といった,SOHOの先入観は見事裏切られたとのことであった。

これらの応募者の特徴は,キャリアに基づきやりたいことがはっきりしていること,人脈があること,ビジネスプランがしっかりしていること等経営者として優秀な方々が多く,実際,選抜を乗り越えて入居されて企業もあるそうである。

私自身も,現在58歳で在宅勤務の典型的HO(ホームオフィス)である。在宅勤務の問題点は,四六時中家にいることで,家内にうっとうしがられることである。そこで現在SO(スモールオフィス)が持てないか色々検討している。

選択肢の一つに,事務所に使えるワンルームマンションの購入がある。地価の大幅下落から,吉祥寺あたりでは中心商業地の中古ワンルームが1千万円以下になってきており,退職後,書斎兼事務所として購入する向きもあるようである。

三鷹のSOHO CITY構想と連動して,退職者向けの共同オフィスを考えられないだろうか。地価がおおむね底値圏にあると判断すれば,オフィスとして活用しながら,不動産投資としても可能性がある。

これから地価は二極化に向かうと思う。もし,三鷹がこのプロジェクトをきっかけに,SOHOのメッカになっていけば,その付加価値で三鷹の地価が上がる。米国並に知恵が地価を左右する時代になる。リスクはあるが面白いプロジェクトになりそうである。