新しい会計基準の導入が大きな話題となっている。今回の基準でキャッシュフロー計算書が義務づけられることになったため,キャッシュフロー解説本の出版がめじろ押しである。大きな本屋では10冊近い本が並んでおり,平台に積まれているものまである。
私が初めてキャッシュフローの概念に触れたのは,第一次オイルショック後に,石油開発会社の企画課長として,アブダビ海上油田のビジネスプラン作りと資金調達を担当した時であった。損益計算になれた身には,キャッシュフローについては最初結構戸惑った。
油田の開発では,先ず,埋蔵量の推定をもとに,いくつかの開発計画を立て,それに基づき時系列の原油生産量(生産プロファイル)を予測する。次に,開発に必要な投資額と,生産プロファイルに基づき算出されるキャッシュフローを対比し,採算性を判断する。
生み出されるキャッシュフローを,一定の割引率で現在の価値に換算したうえ,投資額と差引計算して比較する現在価値法(DCF法)や投資額とバランスする割引率を,試行錯誤法で割り出す内部収益率法(RORまたはROI法)等により投資判断を行う。
投資計画のパターンに,原油価格の見通しや税率等を組み合わせると数十ケースとなり,コンピュータのお世話になるしかない。アメリカの業者のコンピュータに夕方データを送ると,翌朝結果が戻ってくる,いわゆるリモートコンピューテイングサービスを使った。
最近,しばらくご無沙汰していた,キャッシュフローの計算をする機会が,また出来た。代理店向けのダイレクトマーケティングである。上で述べた油田の開発と対比して,顧客の開拓を考えると理解しやすいのでご紹介したい。
代理店のダイレクトマーケティングは,先ずセグメントされた顧客の保険需要(埋蔵量)を推定,マーケティングプログラム(油田開発計画)を立てて,それに基づき契約獲得件数や継続率等(生産プロファイル)を予測する。
その後の計算は,油田の場合と本質的に同じである。つまるところ,この計算は油田の生涯価値と顧客の生涯価値を算出しているに他ならない。マーケティングのキーワードに,最近LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が取り上げられるがこのことを意味する。
ポイントは,マーケティングをコストとしてではなく,投資として見るところにある。保毎で出版されている「Winning(米国エージェントの実践ノウハウ)」が大変参考となる。数年後,代理店にとってLTVがキーワードになることは間違いない。一読をお勧めする。
それにしても,油田開発では高いお金を払って計算を頼んだのが,今回は手元の携帯パソコンで,表計算ソフトを使って簡単に計算できる。どちらかと言えば,アンチマイクロソフト派の私も,この時ばかりはビル・ゲイツに感謝する。
「外部環境への1視点」(33)XMLでインターネットが変わる
インターネット上にある保険見積サイトで,契約者の年齢として58と記入したと考えて下さい。インターネットの仕組みでは,58が契約者の年齢だとは,このままでは認識できない。XMLはタグという印をつけることで,それをコンピュータに認識させる。
XMLは
eXtensible Markup Languageの略で,タグを定義することで拡張可能(extensible)なインターネット言語である。基本的にはこれだけのことであるが,企業間取引,顧客サービス,データベース管理,ナレッジマネジメント等多様な応用が考えられる。遺伝子により様々な資質が親から子に伝えられるように,XMLによりデータの意味をコンピュータ間で伝えられる。その将来性に着目して,マイクロソフト,IBMを初め,有力ベンダーが競ってXML対応を進めており,今年から実用化が始まる。
具体的な応用例を見ながら,その可能性を考えてみたい。先ず,4月に富士通が開発した道案内用のXMLをご紹介したい。ここで定義したXMLデータを,カーナビ,パソコン,携帯端末,携帯電話などに配信して,様々な道案内サービスが可能となる。
この場合,定義するタグの例としては,場所名,その場所のカテゴリー,緯度,経度,住所,行動類型,移動手段,所用時間,距離,料金等々ある。これらの定義を仲間で共有することで,インターネット上で自由にデータをやり取りして道案内をする。
パソコンで確認,カーナビで案内されて車で移動といった出張や保守への利用,配送センターで配送経路を設定それに基づき複数の配送車に指示といった配送や運搬への利用,旅行会社でのおすすめコースや出版社の旅行記事作成といった利用等様々な可能性がある。
次に「御酒の箪笥」をご紹介する。NTTと日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会が共同開発中のもので,全国の蔵元のHPから日本酒・焼酎情報を自動で収集し,これを検索・一覧表示ができる。これが出来れば日本酒愛好家にとって非常に便利である。
定義するタグとしては,製法,サイズ,価格,アルコール度,杜氏名等がある。各蔵元のWEBサーバーから,このXMLタグをたよりに,日次でこれらデータを「御酒の箪笥」のサーバーに自動収集し,サーバーにあるカタログデータベースを更新する。
利用者側は「御酒の箪笥」のサイトに行き,検索条件を入力して好みの日本酒を得る。XMLのタグをデータベースのフィールドと紐つけることで,電子カタログを自動生成できるため,蔵元によるデータ変更が日次で反映され,利用者にとって使い勝手が良い。
「御酒の箪笥」の例にあるように,XMLは,中小企業にとっても,安いコストで様々な協同化が可能となるインターネットツールといえる。中小企業の情報化支援を進めている筆者としても,これから注目して行きたい。
Joint Vision 2010コソボをめぐる紛争に端を発した,米軍主導のNATOによる空爆は,NATOの圧倒的勝利に終った。終ってみると被害が明らかになってくるが,空爆中は悲惨な戦争をやっているというリヤリティが殆どない,いわばゲームを見ているような感覚である。
戦場から遠く離れたオフィスで空爆目標を選び,それをシステム的に処理して行く。今回,空爆中NATO側の人的被害は殆どゼロであった。これに関連して,アメリカのテレビでの討論番組をみたが,米軍が無傷であった点を高く評価する意見が大勢であった。
ただ,軍の元高官が軍人にリスクは付き物で,そのリスクをただ減らせば良いというのは問題だとの考えを述べていたのが印象に残った。圧倒的優位の中で,自分を安全な場において相手を攻撃することには,いわば武士道に反するという心理的抵抗感があるようだ。
ただ,これだけ見事に作戦が成功すると,逆に,米軍に人的被害が発生した場合の政治的リスクが著しく高まってしまう。今後ともアメリカによる軍事行動は,このパターンが定着しそうである。これに関連してJoint Vision 2010をご紹介したい。
これは私の友人が存在を教えてくれたもので,米国の統合参謀本部が作成した2010年に向けての戦略ビジョンである。早速,インターネットで検索したところ見つかった。米国政府のインターネット上の情報公開にはいつも感心させられる。
一流企業のアニュアルレポートに見まがうばかりの写真,チャート,イラストが豊富に入った,34ページのPDFファイルがすぐ手に入った。インターネットの威力を感じる一瞬である。( http://www.dtic.mil/doctrine/jv2010/ )
勿論キーワードはjointで,過去はimportant,現在はessential,将来はimperative(避け難い)とその重要性を述べ,情報優位を武器に,優越的作戦行動,正確な交戦,フォーカスされたロジスティックス,陸・海・空全ての完全な防御というコンセプトを揚げる。
大手コンサルタントファームの戦略コンサルタントが書いたようなレーポートであり,空爆作戦の行き着く先が見える。そこでかかれるチャートやイラストを見ると,まさに息子達がいつもしているゲームソフトの画面を彷彿とさせる。
唯一の軍事超大国となった米国が描く未来像として興味深い。米国は今未曾有の好況が続いている。我が国でもバブルのピークには,都市開発や地域開発について様々な意欲的なヴィジョンが書かれた。Joint Vision 2010を見ていて,ひょっとそれを思い出した。
米陸軍がハリウッドと提携して,模擬軍事訓練プログラムの開発に乗り出すことが報じられている。映画やコンピュータ・ゲームの最新技術を活用した,兵員訓練プログラムの開発である。仮想現実(バーチャル・リアリティー)がここにも登場する。
リタイアメント プラン第一勧業銀行と富士銀行、日本興業銀行の3行が共通の金融持ち株会社を設立、2002年春をめどに全面的に事業統合することを正式決定した。合わせて3行の行員約6千人を減らして,2万9千人体制とするリストラ策も発表された。
すぐにこのリストラ策は甘いとの批判が出たが,それでも従業員が2割近く減る。最近の国勢調査によれば金融・保険業の就業者数は約200万人であり,2割とおいて単純に計算すると金融・保険だけで40万人近くがリストラの対象になる勘定である。
実際,筆者の周辺でも幸いにして子会社の役員になれたが,行った先のリストラで早期退職を余儀なくされたといった例には事欠かない。筆者は50台後半であるが,リストラの波はいよいよ50台前半の団塊の世代を直撃し始めている。
ある程度の退職金を得て当面生活に困ることは無いものの,突然の退職で心の準備もなく,やることが無くなるという困った状態に陥る。筆者は数年前早期退職した関係で,先輩?としてアドバイスを求められるケースも最近多くなっている。
特に困るのは退職により夫婦間関係のリストラが必要になるものの,亭主の方が上手く対応出来ないことである。かみさんの方は様々な人間関係が出来ていて,それが亭主の退職で乱されることに不満が出てくるケースである。亭主は丈夫で留守が良いのである。
欧米ではアーリーリタイアメントが,サラリーマンの理想のようだ。在籍した石油開発会社の操業会社に英国BP派遣の社長がいたが,50歳での退職を指折り数えていたところ,現地の首相に嘆願され1年任期を伸ばさざるを得なくなった時の落胆ぶりを思い出す。
50歳でのリタイアーを目指して,世界各地に別荘を持ち奥さんとの水入らずの生活を楽しみに仕事をするといったパターンである。ただ,欧米でも日本と同じように,退職後もビジネスの世界に関わりたいとの希望をもったビジネスマンもかなりいるようである。
アメリカでは退職ビジネスマン専門の人材派遣会社がかなりある。なかには,ビジネスマンOBは無償で経営指導等の役務を提供し,それを人材派遣会社は有償で派遣するといったちゃっかりしたスキームのものまであるようだ。
優秀なビジネスマンが,単に年をとったという理由だけで備えもなく辞めざるを得ないというのは困ったことだ。仕事一筋の人生は急には変えられない。働く場所が確保され,かみさんと付かず離れず関係が維持できればハッピーなのが我々の世代ではないか。
我が国ではボランティアだけで生きがいを得るというのはなかなか難しいように思う。純粋な無償奉仕でなく,何がしかの報酬を払いながら,退職ビジネスマンの能力を活用するセミ リタイアメント プランといった取組みが急務である。
9月の初め,我が家にインターネットの常時接続が実現した。CATV会社(ジェイコム東京)によるインターネットサービスで,24時間使えて,今まで使っていたNTTのISDNに比べ,体感速度でみると数倍早く,しかも月額6500円である。
我が家は杉並区にあるが,ジェイコム東京の宣伝パンフレットには,「杉並生活は,世界標準を超えた!ケーブルを使ったトリプルサービス開始!テレビの常識が変わる。電話の常識が変わる。インターネットの常識がかわる」とある。
ここにあるように,実はインターネット常時接続だけでなく,電話も合わせてサービスされている。電話は加入料なし,基本料,通話料がNTTより安いというので,我が家では電話にも加入して,NTTのISDNを近々キャンセルするつもりでいる。
インターネットは常時接続が前提のシステムで,必要なたびに電話をかけて使うダイヤルアップでは,本当の良さは分からないよと良く友人より言われていた。この数週間使って見て,友人の言っていた意味がやっと実感できた。
読者の内で,大企業にお勤めで常時接続のインターネット環境を使える皆さんには,何をいまさらとのご感想をお持ちかも知れない。しかしながら大企業においても,通信料金の高さから今のところダイヤルアップが多数派のようだ。
マルチメディア総合研究所が年商100億円以上の企業を対象とした調査によると,インターネット使用企業は,3%('95年)→12%('96年)→38%('97年)→69%('98年)→89%('99年)と急速に拡大しているものの,依然,現状約55%がダイヤルアップである。
ソフトバンク、東京電力,マイクロソフトの3社は、低価格で常時接続が可能な高速インターネットサービス事業を行う「スピードネット株式会社」を設立,光ファイバー、メタル、無線の技術を組み合わせた,高度なサービスを来夏から提供するとしている。
NTTはこれに先立ち,ISDNの常時接続サービスを月額1万円で始めると発表したが,ソニー出井社長が「NTTはインターネットの通信料金を月額1万円にすると言っているが、とんでもなく高い」と批判するなど極めて評判が悪い。
筆者の個人的見解であるが,NTTはインターネットに関するビジネスモデルへの基本的理解が不足しているように見える。コストプラス適正利潤という電電公社時代の亡霊が,依然徘徊しているといったら言い過ぎであろうか?
郵政省の懇談会では最近「2005年へ向けた次世代ネットワーク構想」と題された報告書まとめたが、2005年には現在の100倍、2010年には1,000倍のデータ量をネットワークで扱うようになると予測している。われわれはこのような時代にいる。