「外部環境への1視点」(42)定期借家権

明治村に,明治20年頃に文京区千駄木町に医学博士中島じょう吉の新居として建てられ、明治23年森鴎外が借家して一年余りを過し,その後明治36年から39年まで、夏目漱石が借りて住んでいたという由緒ある建物が残されている。 この家で鴎外は「文づかひ」などの小説を発表、また,漱石は「吾輩は猫である」を書いたといわれている。戦前には良質な借家が多く,鴎外・漱石といった文化人だけでなく,サラリーマンの多くも一戸建ての借家住いが一般的であったようだ。

このような借家があまり見られなくなったキッカケは,大正デモクラシーを背景に借地人・借家人保護のために作られた「借地法」が、戦時中の住宅難を反映して昭和16年に改正され、地主や家主が更新を拒むには「正当事由」を必要とされることに始まった。

この「正当事由」条項のために,通常の場合,立ち退いてもらうことは極めて困難となっており,仮に老朽化に伴う立ち退きにおいても,多額の立ち退き料が必要となる。特に,一戸建貸家の場合の高さは驚くほどである。

社団法人住宅生産団体連合会の調べでは,立退き料が30年居住の一戸建貸家の場合,平均で510万円、賃料の約9年分相当という。地主や家主にとって「金は貸しても不動産は貸すな」ということになり,特にファミリータイプの良質な貸家の供給が極端に少ない。

この問題もやっと解決の第一歩を踏み出すこととなった。「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」により借地借家法の一部改正が行われ,この3月1日より,貸した家が必ず返ってくる定期借家権が創設される。

定期借家権による契約では、契約で定めた期間の満了により、更新されることなく確定的に借家契約が終了することになる。勿論,既存の借家人保護のために,この適用は新たに供給される貸家から適用される。

現在、老人夫妻で子供が独立して広い持ち家を,現行借家法では貸すに貸せずに,持てあまし気味にやむなく住んでいる向きも多い。この方々が小さな家やマンションに移り、家賃を受け取りながら,安心して暮らせるようになる。

このように,森鴎外が借りたような,良質な一戸建てが賃貸住宅に回りだす。また,一時的なら貸してよいといった空ビルや空店舗,駅の空スペース,空独身寮といったところの活用も面白い。ベンチャーの創業支援オフィスに使うといった検討も始まっている。 1993年自民党体制の崩壊を受け「政治面の55年体制は終焉したが、経済面の40年体制は残っている」と野口悠紀雄氏が指摘したが,今回,また一つ,「40年体制」が消える。一方,政治面の55年体制は結構しぶとい。

「外部環境への1視点」(43)e-groups

前々回の本コラムで、Webブラウザ(インターネット閲覧ソフト)だけで、様々なビジネス用のソフトウエア(アプリケーション)を、インターネット上で利用できるASPApplication Service Provider)が脚光を浴びているとのお話をした。

今回は、筆者が最近使い始めたインターネット上のグループウエア e-groups(http://www.egroups.co.jp)をご紹介したい。広告収入をベースに、無料で提供されているASPサービスで、これからの情報化のキーワード、「ASP」を理解するには最適である。

グループウエアとは、情報共有やコミュニケーションの効率化を図り、グループによる協調作業を支援するソフトウェアである。主な機能としては、電子メール、メーリングリスト(ML)、電子掲示板、スケジューラ、文書共有、アンケート機能などがある。

e-groupsはASPということで、Webブラウザから上のような機能が活用可能となっており、利用にあたって、特別なソフトウエアは必要がない。このようなソフトを無料で利用できるとは、良い時代になったとつくづく思う。

今まで、グループウエアを利用するには、専門のソフトウエア、例えばLotus notesといったソフトを導入する必要があり、かなりのコストと技術を要し、中小企業が手軽に利用するわけには行かず、主として大企業のものといった感があった。

この e-groupsは、必ずしもLotus notesといった専門のソフトを完全に代替するものではなく、また、供給の安定性にやや不安があるものの、これだけのサービスが無料ということを考えると、情報共有の入門編として利用価値は高い。

特に、活用効果の高いサービスがMLである。これは、設定された専用のメールアドレス宛に参加メンバーがメールを送信すれば、参加メンバー全員にメールが届けられる仕組みである。いわば擬似的会議がインターネット上で行える。

e-groupsのホームページには、「1分でつくれる無料メーリングリスト」と書かれている。最近、情報化調査のお手伝いをしたある保険代理店の協同組合で、最終報告会の席上、全員参加でインターネットに接続してMLを立ち上げた。

組合員全員がメールアドレスを保有する先進的組合ということもあったが、実際に、各自がアドレスを打ち込み、その場でメーリングリストが完成した。早速、MLによる意見交換や情報提供、また、アンケート機能を利用した調査等活発な利用が始まっている。

筆者は、関係プロジェクトの進行管理、幹事役を仰せつかっている異業種交流会のML、手ぶらでクライアントにお邪魔し先方のパソコンをお借りして事前に登録しておいたe-groupsのファイルにアクセスしてプレゼンと、色々使わせて貰っている。

「外部環境への1視点」(44)首都機能移転

最近、首都機能移転について、取りまとめに当られた国土庁の担当官よりお話を伺う機会があった。国会等移転審議会が昨年末、移転先候補地として、北東地域の「栃木・福島地域」及び東海地域の「岐阜・愛知地域」を選定するに至る経緯等をお聞きした。

審議会は、平成2年の国会決議、平成4年の「国会等の移転に関する法律」の制定を受け、平成8年設置され、内閣総理大臣からの諮問により、約3年間、首都機能の移転先候補地選定等、31回に及ぶ精力的な審議をしたとのことである。

首都機能移転には石原都知事が猛反対、「東京集中のどこが悪いか。コンピューター時代の文明は集中・集積ってものが本質。東京ほど機能的な首都は世界中のどこにもない。それをわざわざバラバラにするのは愚の骨頂」(毎日新聞)と厳しく批判している。

東京都のホームページには、石原知事の写真入で「首都移転にNO!」と大きくUPされている。法律の第22条には、「審議会の答申が行われたときは、東京都との比較考量を通じて、移転について検討されるものとする」とあり、これから攻防戦が本格化する。

今や地方分権の旗頭といった風情の石原知事が断固反対というのも面白い。永田町・霞ヶ関・丸の内それに赤坂?は、政・官・財の鉄のトライアングルを支えるには、確かに機能的に見えるが、東京もそれそろ政治離れした方が良いのかも知れない。

わが国は、時代区分に地名が使われるように、都を移すことで時代の閉塞状況を打破してきた歴史がある。生活の滓が染み付いてどうしようも無くなった場合、それを打開するために引越しをする人がいるが、国も同じではないか?

答申には「現在、地方分権、規制緩和、中央省庁等改革などの国政全般にわたる歴史的な諸改革が進められているが、この流れを本格的な軌道に乗せ、新たな時代を築くためには(中略)東京の在り方を改めて根本的に問い直すことが求められている」としている。

国は国でなければ出来ないことだけに専念する、つまり、徹底的地方分権のもとに、国民に選ばれた少数の議員が、優秀なスタッフ(行政マン)に支えられ、国の行く末を見通して戦略を考えるといったイメージだろうか?

低層の建物群が見えます。周囲には山々が連なり、水田が広がり、小さな森が点在しています。このゆたかな自然に抱かれた都市こそが、国の立法・行政・司法という三権の中枢機能が集まる国会都市なのです。国土庁のホームページにある説明である。

表紙に東京ドームのような国会議事堂が描かれたホームページ(http://www.nla.go.jp/daishu/index.html)は頂けないが、自然の中に溶け込んだ街という方向は良さそうだ。意見も募集しているので、御興味のある向きはアクセスして見てください。