「パラサイト・シングルの時代」山田昌弘
(ちくま新書)を読んだ。NHK衛星放送のブックレヴュー番組で紹介されていて興味を持った。「パラサイト(寄生)・シングル」とは著者の造語で、「成人し学校を出ても、独立せず親と同居している未婚者」をいう。この本によると、親元に寄生しつつ優雅な生活を送る男女が、なんと
1000万人に達しているそうである。親の経済力が高まり、それに依存し出るに出られない、ずるずると同居し、不況の一因となるなど様々な社会的影響を与えているとの説である。山田氏は「パラサイト・シングル」を減らすために親と同居することによって浮く分を「贈与」とみなして課税するという「親同居税」といった提案をしている。真面目にこのような非現実的な税の提案が出るところを見ると、どうも手の打ちようがないようだ。
我が家にも息子が2人、猫が3匹、それに小生がSOHOで家にいる機会も多く半パラサイト状態であり、宿主(家内)に6個体が寄生することになっていて、家内が何とかならないかと悲鳴を上げている。
息子には早く結婚して家を出ていってくれたら思うが、息子の状態を考えると、パラサイト・シングルの時代といった大上段に振りかぶった大げさなことではなく、単に女性がなかなか結婚しなくなったに過ぎないのではと勘ぐってしまう。
このような雑談をある保険会社の代理店支援セクションの方と話していたら、保険代理店の保険会社へのベッタリとした依存状態は、正にパラサイト・エージェントと称したら、ピッタリでないかといった話題に及んだ。
確かに、保険会社を事務所代わりに使い、何から何まで会社に物理的に依存する代理店は論外にしても、立派に独立したプロ代理店の皆様の中にも、頭の中では理解しつつも、無意識のうちにまだそれが出る方がかなりおられる。
例えば、「三井海上、三井物産などの三井グループが損保新会社を発足、
ネット損保に参入−−代理店省き外資に対抗−−」(日経)といった動きに、今までの関係は何だったのだろう裏切られたと嘆く三井の代理店もおられるが、時代は変わったと考えざるを得ない。長年、親子のような関係を続けてきて急に変われといわれても無理ということは理解できるが、宿主(保険会社)の側にももう余裕が無い。今後は、結局、対等な取引関係と割り切って付き合うことが双方にとって良いことと思う。
確かに、対等といっても、保険会社と保険代理店の間に締結されている委託契約の多くは、代理店にとってかなり不利なものがあることも事実である。契約社会では、最後は結局契約がものを言う。今後この辺が両者の攻めぎ合いになろう。
Click&Mortal大手スーパー西友は、新しいインターネットビジネスとして、既存店舗を利用した「西友ネットスーパー」を、5月1日より杉並区内で実験的に開始すると発表した。
2000年度中には、東京都23区内から周辺主要都市まで拡大する予定としている。「西友ネットスーパー」は、日用品を即日宅配しているネットスーパーココデスのノウハウを基に、軽作業員派遣のグッドウィル・グループ、西濃運輸の
3社が運営する代行サービスにアウトソーシングして、杉並区内への即日配送サービスを提供する。筆者は杉並に住んでおり西友にはお世話になっている。区内には中央線の各駅、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪、井の頭線の浜田山、富士見が丘、西武線の下井草と、西友の店舗が面的に展開されており、このような実験を進めるには最適ではないかと思う。
杉並区は商業環境から見ると、大型店の立地余地が少ないこともあり競合も緩やかで、お店を運営する立場から見ると無風地帯の感があったが、最近、高井戸の東急ストアが撤退するなど、動きが見えてきた矢先の出来事で注目される。
最近のスーパーは、品揃えが十分出来ない中小規模の店舗の苦戦が目立つ。杉並区内の西友は、店舗の規模が押しなべて小さく売上が停滞している。今回の試みにより、規模の不利益をインターネットでカバー出来れば、西友にとって大きい意味を持つ。
「お届け商品は営業している既存店舗から商品をお届けいたしますので、ネットスーパー用倉庫の新たな設置は不要となります。日本国内で本格的
Click&Mortal(クリック&モルタル:リアルな店舗を持つe-retail)となります」と西友のプレスリリースにある。実は、ホームページで注文をとって、実際の店舗でピッキングをしてデリバリーを行うというビジネスモデルは、アメリカでは確立されており、パイオニアのピーポッドが事業再構築を迫られる等、第2世代の競争が既に始まっている。
ホームページで注文をとって、コンビニで商品のデリバリーと代金決済を行う
Click&Mortalが、わが国独自のビジネスモデルとして注目されているが、今回のネットスーパーがわが国でどのような展開をするか楽しみである。さて、このユーザーは果たして誰かが問題となる。杉並区には、筆者が
generation P(プラチナ世代)と名づけて注目している、従来のシルバー層と一線を画した、高所得・高学歴・高感度の熟年世代の膨大な集積があり、この層を旨く捉えることがカギとなろう。ただ、宅配に500円を支払うということを聞いて、典型的チェリーピッカー(バーゲン品のみを狙い撃ちして買うスーパーの天敵)の家内が、絶対利用したくないと言っている。ネットスーパー客と店頭客はかなり質が違いそうで、その点の工夫も大切であろう。
地図業界の風雲児、ゼンリンの方からお話を伺う機会があった。ゼンリンは、江戸時代の藩主の絵地図をもとに別府の温泉街の案内図を作成したことが始まりで、創業は昭和23年、現在資本金59億円、従業員約2千人の大企業に発展している。
筆者は、数年前に北九州の本社にお邪魔したが、北九州の風土に合った、大変堅実で着実な会社とお見受けしたが、地図のデジタル化をベースに、地図情報提供を主軸とする情報発信企業への転換を目指しておられるとのことである。
測量と地図を合わせて地理産業と言うようだが、この業界が情報化とセットとなって、数年後はビッグバンを迎えることになりそうである。ビッグバンのキーワードはGIS、GPS,リモートセンシング3つだとの印象を受けた。
先ず、測量分野であるが、偵察衛星のノウハウを活用した、高解像度で超精密な写真をベースに、図化を行うことが可能となり、このリモートセンシング技術が、既存の測量業界を大変厳しい事態に追いこみそうである。
この分野のパイオニア、日本
Space Imaging社のWEBには「高解像度1m、IKONOS観測衛星のデビュー・・・全地球を細部に捉えます」とあり、有珠山噴火の模様が鮮明に捉えられている。 http://www.spaceimaging.co.jp/index.html次のGISであるが、
Geographic Information Systemの略で地理情報システムと訳される。デジタル地図情報をいわば索引にして、様々な情報を張付けて、それらを統一的にコンピュータとネットワークで管理して利用する情報システムである。保険業界の先駆的利用としては、東京海上の代理店紹介がある。この東京海上のWEBを経由して、地図をたよりに来店、人身傷害付自動車保険をご契約頂いたといった代理店も出てきている。
http://www3.tokiomarine.co.jp/DairiMapJSP01.html3つ目のキーワード、GPSは、
Grobal Positioning Systemの略で、人工衛星を利用して、位置を測定する。リモートセンシングと同様、元々は軍用であるが、精度を落とした形で民間にも開放されており、御存知、カーナビなどに活用されている。米国
Vicinity社は “リーバイスのジーンズ、501のレッドテープが2本欲しい”などの要求に地図と店舗在庫データを連動、ドライブ中に電話で最寄店舗を確認、といったサービスを提供している。 http://vicinity.com/GPSは、今後携帯電話を初めとしたモバイル端末やGISと連動して、想像を超える利用が始まる。今後、このリーバイスの例にあるように、前回ご紹介した
Click&Mortal(クリック&モルタル:リアルとバーチャルの結合)で威力を発揮することになろう。連休中のメールは、新種のコンピューターウィルス「ラブ・ウィルス」の話題で賑わった。発生とほぼ同時に、筆者が参加しているいくつかのメーリングリストに警告文が流れて、感染事例が次々と報告され始めた。
筆者も今回の連休は外出せず家に居たので、朝、昼、晩と3回メールをチェックして推移を見守りながら、半ば期待しつつ、「ラブ・ウィルス」の到着を待っていたが、結局、実物に遭遇できず、残念?という結果になった。
ソニーは連休中にサーバーに蓄積されていたメールをチェックし、題名が「I LOVE YOU」のほか「Mothers Day Order Confirmation」など類似ウィルスを含め、ソニー本体で約6万通、グループ会社全体では約7万通も削除したという。
筆者は1日平均40通程度のメールを受け取っているが、お付き合いしているメール仲間のレベルの高さが感染を防いだと考えたいが、ソニーの例から考えると、1通も受け取らなかったことは、筆者の国際性の無さを表しているのかもしれない。
このウイルスが厄介なのは、発病した場合、つまり、メールに添付されてきたファイルを不用意に開けると発病することになるが、自分がメールソフトに登録している仲間のアドレス全部に、複製した同文のメールを送りつける点にある。
同様なウイルス『メリッサ(Melissa)』が1年ほど前に騒ぎを起こしたが、今回は、一般紙が連日1面で報じるだけでなく、テレビも度々伝えるほどの大騒ぎになったのは、メールが社会にとって不可欠なインフラになってきたためであろう。
ロイズは、このコンピュータウイルスの被害に関連して、21世紀には電子商取引が最大の保険対象になるとし、全世界で被害は100億ポンド(153億ドル)に達しているが、そのほとんどは保険に入ってないと指摘している。(時事通信社)5月10日
この被害金額の大きさには、やや、疑問を感じざるを得ないが、連休明けには、ウィルス対策ソフト大手、店頭上場のトレンドマイクロがストップ高を演ずるなど、保険だけでなく、関連業界にビジネスチャンスが広がりそうである。
最後に、個人的対策であるが、残念ながら、ビジネスでメールを使う以上、ウィルス対策ソフトは不可欠となりつつある。筆者の場合も、受け取るメールの中で、年に数件は、ウィルス対策ソフトで感染ファイルが検出される。
自分が不都合を蒙るだけならば、まだ我慢できるが、今回のウイルスのように、仲間や大切なお客様に迷惑がかかるとなると、十分な対策が必要となる。感染が広がらないように、もし、感染ファイルを受け取ったら発信者に知らせるのが親切であろう。
中心市街地活性化の調査で、久しぶりに金沢を訪ねた。その足で、福井を経由して京都に回った。3市に共通した街づくりの話題にLRTがある。Light Rail Transitの略で、人にも、環境にもやさしい、新しいタイプの路面電車として脚光を浴びている。
LRTは20年ほど前より、特にヨーロッパで復活し、中心市街地活性化に一役買っている。床が超低床式で車椅子でも直接入ることが出来る、高速でありながら超低騒音、デザインも素敵で、従来の路面電車のイメージを一新、街の風物詩となっている。
最近では、地球温暖化対策としても有効だとして、注目されている。地元の熱心な取組みに加え、建設省(道路の一部ということで管轄が運輸でなく建設)の積極的支援もあり、わが国でも、熊本、広島で導入が始まった。
金沢は、駅が中心市街地の香林坊地区や武蔵地区と相当離れているため、LRTの導入が検討されている。市長が、ヨーロッパ視察でLRTを見て、惚れて帰って来られたようで、今後が楽しみである。
路面電車は現在、札幌、函館、東京、豊橋鉄道、名古屋鉄道、 富山地方鉄道、加越能鉄道、福井鉄道、京阪電気鉄道、 京福電気鉄道、 阪堺電気鉄道、 岡山電気軌道、 広島電鉄、 伊予鉄道、土佐電気鉄道、西日本鉄道、長崎電気鉄道、熊本、鹿児島に残っている。
今回訪れた、福井も京都も路面電車が現存する貴重な街であり、乗って街を眺めるのが、鉄道ファンの筆者にとっては、旅の大きな楽しみになっている。福井も京都もLRT導入の検討が進められていると聞いている。
筆者の京都定番コースに、銀閣寺から哲学の道を散策、南禅寺、蹴上げを通り、都ホテル1階の珈琲ショップで休むというのがある。大津に抜ける京阪電車を見ながら、珈琲を飲むといった楽しみも、数年前、路面から地下になってしまい、今はない。
LRTの導入については、人にも、環境にもやさしいことで、総論としては申し分ないのだが、各論となると、特に、地方では抵抗が強い。自動車でドアーツードアーの移動に慣れてしまい、100m歩いてもらうのも、工夫がいるようになっている。
そのため、地方では、無理してでも、中心部に駐車場をとの要請が強くなる。LRTなど公共交通機関は、ある程度、街を歩いてもらうことが前提となるので、かえって京都のような、歩くことに抵抗の少ない大都市に分があるかもしれない。
関東人から見ると、関西人は良く歩く。鉄道の競争が熾烈で、わざと乗り換えを不便にされているせいではないか?と思う。京都は、昭和30年代には市電王国として名を馳せていたので、市民の間でノスタルジーも強く、LRTが意外と早く実現するかもーー
本コラムも50回、最終回を迎えた。この2年間ご愛読有難うございました。この間、筆者はこのコラムを通じたご縁もあって、コンサルティング、調査、研修会等様々な場面で、代理店の皆様にお付き合いいただく機会に恵まれた。
最終回なので、今後数年の代理店経営を、3つのキーワード、グランドデザイン(G)、ネットワーキング(N)、プロセスイノベーション(P)でお話したい。代理店は義理、人情、プレゼント(GNP)といわれていたが、それを超えて経営を、との思いである。
今後数年の代理店経営を、本コラムのテーマ、外部環境から見ると、最大のインパクトはインターネットだと考えている。特に、情報化という点では、代理店は、殆ど白紙の状況にあるだけに、逆説的ではあるが、ネットワーク化が一挙に進みそうである。
お客様がインターネットを通じて様々な保険情報を入手可能となりつつあり、単なる書類の運搬や現金輸送では満足できなくなる。インターネットは単なる中間業者を排除するといわれるが、代理店も専門的なアドバイスという付加価値が重要となる。
このためには、自分の強みを理解して、どのようなお客様に、どのようなサービスを、どのような手立てでご提供するか、つまり自社のグランドデザインを、先ず確立する必要がある。ひとりで保険のことなら何なりとでは、先行き通用しそうに無い。
今後インターネットは、代理店と保険会社の二極化を促進する。代理店は、情報武装した一匹狼とチームで営業が可能となる企業に、また、保険会社は、フルラインの巨大会社と専門分化した会社に分かれる。この中で様々な結びつき(ネットワーキング)生まれる。
最近、代理店同士の、メーリングリスト等を活用したインターネットによるネットワーキングが、様々な形で生まれつつある。今後、二極化が進行する中で、本格的なネットワーキングに発展する可能性があり、今から積極的に参加することが必要だ。
携帯パソコン、デビット端末を持ち込み直接計上する仕組みに日産火災がビジネスモデル特許、自社ホームページを使った代理店介在型通販を東京海上が実施など、お客様、代理店、保険会社のプロセスをインターネットでシームレスに結ぶ動きが本格化している。
現在、代理店の全労働時間に占めるお客様との面談時間は、様々な内務事務に妨げられて、平均的には15%前後であろう。インターネットによるプロセスイノベーションは、代理店の生産性を劇的に向上させる。当面、この取組みが最優先の課題となる。
デズニーランドでは、感動を呼ぶハイタッチなサービスを、ロボットから心理学にいたるハイテク技術が支えているように、これからの代理店は、インターネットを駆使して、お客様に感動を呼ぶサービスを提供すること、これが超GNP経営である。