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山頭火

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笠にぽっとり椿だった


日も徐々に長くなり暖かい日差しもちらほら、といった時期になれば「春遠からじ」といったところ。

山頭火の旅はともすれば自暴自棄になりがちな危なっかしいバランスの上にたっているものでした。
 着たきり雀の彼の日々は、無償の支援をする俳友の心付け、旅先の名もなき人々のお布施、別れた妻や捨てた息子からの仕送りなどに支えられたものであり、それらがなければどこかでとっくに野垂れ死にしていたことでありましょう。

彼にとって冬は寒く重く冷たく体や心の芯から凍えさせるものであり、年を重ねるごとに死の恐怖に嘖まれるものであったでしょう。
 それだからこそ春の訪れの喜びはひとしおのものでありました。

この句は、彼がそんな待ち焦がれた春がいつのまにか訪れていたことも気づかず足早に歩いていた時、椿の花がふと笠をたたいて落ちていった時のものでしょう。
 くさくさして暗く俯き気味で歩いていた彼も、ハッと瞬間的に季節の流れを感触で知り、ちっぽけな考えに囚われていた自分が、冬から春へとの大きな自然の営みの中で解き放たれていくのを感じるです。
 あらためて椿の木を見上げ、空を仰ぎちょっと一息ついてから微苦笑しつつ次の地へと歩を進めるのです。

椿は花ごと潔く落ちてゆくものとして知られます。彼が後半生で心より願って止まなかった「ころり往生」になんと似合う花であることよ。
 そんなことまで連想させる色鮮やかで美しくも哀しい句調です。


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