鉄道模型の中でも面白い分野が、「線路を敷く」という事でしょう。 特に、シーナリー (鉄道回りの風景) 付きのものだとより一層楽しめるのですが、そうでなくても線路を敷くというだけで十分楽しめるようにも思えます。 まあ、実際の所線路を敷かないと車輌が走らせられないという意味では、鉄道模型は線路無しでは完成しないともいえますから。
で、ある程度線路回りに興味を持ち出すとついつい市販の線路では満足できなくなり、自分で線路から作ろうという気になったりします。 まあ、はっきり言って、こうなると「病状」も相当悪化したと言えますが... つまり、英語で言う所の "hand laying" という世界へと入ってしまうわけです。
今私の入っているクラブ (HOJC) はインターネットを多用して日頃のやり取りをしている関係で、メンバーの住んでいる場所もさまざまで、みんなが集まって車輌を走らせる「運転会」も東京と大阪で開かれています。 で、その運転会用にヤードを作ったりしていて徐々に改良されてきた製作法でヤードではなく完全な一周の (駅付き) エンドレスを作ってみているのが、ここで紹介する「軽量化運転盤」です。
この運転盤の特徴をいくつか上げると
前に説明したように、今回の運転盤では線路自身も自作です。 もっともレイルはさすがに市販品 (シノハラの #70 レイル) を使っていますが...
まず最初に作りたい、線路の配置に合わせてレイルを置く場所および枕木を置く場所を正確に書いたテンプレートを作ります。 私の場合は CAD (AutoSketch) で このようなものを作図しています。 この写真を見て判るように、レイルは単なる一本の線ではなく底辺の幅を持った二本の線で書いています。 また、ポイントの所は closure rail は必要としてもそれ以上の細かなものは必要ないと思います。
上の写真で、おわかりのようにすでに重要な部分に枕木が置いて有ります。 これらの枕木は秋葉原で「紙エポの両面基板」を買ってきて、これを必要な幅に (丸鋸にダイヤモンド鋸刃を付けたもので) 切ったものを大量に作っておき、これをニッパーで必要な長さに切ったものです。 それと、これは単に置いてあるのではなく、スパイクで仮り止めして有ります。 この仮り止めのために、CAD で出力した紙の下にベニア板を置いてあります。
それと、ポイント部分は良く見ると枕木の間隔が不均一であることがわかるでしょう。 実物のポイントでは荷重のかかる所とそうでないところで、間隔を変えてあります。 又、フログ部分の枕木だけは他のものに比べて太いものになっていますがこれも同じ理由です。
枕木の仮り止めが終わったら、片方にレイルを半田付けして行きます。 この際、私が使用しているはんだこては 30W 程度の小さいもので、後で取れないようにしっかりと止めておきます。 逆側のレイルは、ゲージ等を使用してきちんとトラックゲージ (私の場合なら直線部分で 12mm) になるようにして、半田付けしていきます。 こうして、ポイント回りの基礎が半田付けできたのが この状態です。
もちろん、ポイントの可動部分の接する部分は内側のレイルの底部を削り、接触しないようにしてから半田付けします。 どの場所を削るかなどを確認するときもこのテンプレートの上に当てて、印を付けてからヤスリで削ります。
普通の直線もしくは曲線ならば、ここまでで半田付けの工程は終わりなのですが、ポイントの場合はむしろここからが面倒な所です。 先に非ポイント部の説明をすると、この後の工程としてはプリント基板の真ん中をモータツールを使って削り、絶縁します。 こうしないと、N 側と S 側のレイルが導通したままになってしまいますから。 で、こうしてできた線路を路盤にゴム系の接着剤で接着し、途中の PCB tie で埋まっていない部分に木製の枕木を木工用ボンドで接着します。 PCB tie の厚さが 1.6mm ですから、木製の枕木も (丸鋸を使って) 1.6mm 厚のものを特別につくっています。
ではポイント部分の製作に戻りましょう。 まず、左の写真にあるようにフログを作っていきます。 ここからは、ゲージのちょっとした狂いで出来上がりの寸法などが狂ってくることもありますから、今半田付けしているレイルだけで修正しきれないときにはその周辺のレイルの半田付けも修正する必要があることもあります。 指だけでは押さえる場所が足りない場合は、この写真にあるようにレイルをスパイクで仮り止めしてから半田付けをしています。 はじめは「スパイクレス線路」って名前にしようと思ったんだけど、これだけスパイクを仮り止めに使ってては、看板に偽りありなのでやめにしたんです。
そういえば、PCB tie への半田付けですが、基本的には線路の半田付けする所のすぐ横 (2cm くらい離れたところ) を指で押さえてやっています。 幸いにして、ニッケルシルバーのレイルは熱伝導率が (ついでに電気的な伝導率も) 低いので、こんなすぐ横を押さえてもすぐに指が熱くなることはありません。 やったことはないですが、真鍮製のレイルだととてもこんなことはできないような気がします。 この結果、スパイクで仕上げるのに比べて微調整が楽で曲線部分とかがより奇麗に出来ることが多いのです。
先端レイルを削るときには、まず削る側と逆側のレイルの頭部を 2cm くらい削り、胴部と同じ幅にします。 そして、この削った部分を逆に外側に曲げてから、削る方を頭部、胴部、底部全部削ります。 こうしないと、本当に先端の部分で先に胴部が削れてしまって頭部だけがブラブラしてしまい、非常に弱くなります。 うーむ、ここは絵を入れて説明すべきかもしれません...
この写真で、右奥の方にあるのは絶縁部分です。 この工法でやるときは極力ジョイナーを入れない (例えば複数のポイントが入るときは通して作ってしまう) のですが、背向するポイントの場合は絶縁しておかないといけません。 こうした場合は、あまり複雑に考えずにシノハラの絶縁ジョイナーを先にはめてしまい、回りの線路を作っていきます。
今度は可動部分の製作です。 ポイントの可動部分は、普通ジョイナーで動かすことが多いかと思いますが、私は少し変わった方法を取っています。 まず、タイバーには他の枕木と同じプリント基板を使用し、先端に近い所で半田付けします。 そして、逆の部分にはジョイナーではなく 0.5mm の洋白線を半田付けし、これでレイルを挟むようにします。 ジョイナーとは違って、レイルの底をくるむ部分がない (これは実物とほぼ一緒) ので、接続部の下の枕木を削る必要がありません。 説明の都合で後になりましたが、可動部を線路に入れる前に、必要な部分を絶縁するようにします。 この部分は、絶縁部が可動部にもなるので、他の絶縁部と違って平面が出ていることが大事です。
可動部をタイバーに半田付けしてしまっていますから、この部分が左右に動くときに長手方向にも動きます。 ですから、極力抵抗が少なく前後に動ける方法が必要となり、こうしたことからジョイナーによらずに接続する方法を考え出したわけです。
左の写真で、二つ連続して置かれている枕木の上が先端レイルの接合部になります。 現在作っているポイントは、もともと明治 30 年代に設計されたもので先端レイルの長さが 12 フィートとなっていますから、HO スケールでは 42mm となります。 この基本設計は相当長く使われたもので昭和期になっても、鉄道省のポイントはほぼこれに従っていました。 先端レイルは、この 12 フィートのもののほかに 15 フィートのものと 10 フィートのものがあります。
それと、この製作法では先端レイルとその隣のレイルとの間が市販のものに比べて非常に狭いことがお判りいただけると思います。 実物のポイントを見るとわかるのですが、この部分は最低限必要なフランジウェイの幅しか取ってありません。 もっとも、ここで作っているようなポイントでは選択式にする関係上、ショートの危険性を避けるために実物のものより 0.3mm ほど広げてあります。 それでも、HOJ のフランジ幅が小さいことに助けられて、16 番などで使われるポイントに比べるとほぼ実物通りの寸法に作ることができます。
可動部分だけをはずしたものが、この写真です。 奥のレイルはまだタイバーに半田付けされていませんが、タイバーの絶縁部分の削り方が良く判ると思います。 右側の角のような部分がジョイナーとなるわけです。
こうして、PCB tie 部分が完成したものを非ポイント部と同じように、路盤にゴム系の接着剤で接着します。 そして、これを運転盤に接着するわけですが、今回は運転盤にスチレンボードを使うので、これの接着には水性アクリル接着剤というちょっと珍しい (とは言っても、東急ハンズで入手した) を使用しています。
今回の運転盤では、5mm のスチレンボードの上に 2.3mm のラワンベニアの路盤を使用していますが、意外とこのベニアというのが重いので、次期作では 3mm のスチレンボードにしようかと考えていたりします。 実は、路盤というのを使わないといけない理由が縁取りに使ったアルミのチャンネルの厚さを逃げるためですから、逆に考えて縁取り部だけ枕木の厚さを後 1mm (チャンネルの厚さ) だけ逃げるか、逆に縁取りから枕木にあたる所だけを逃げてぶつからないようにするかという方法もあり、次期作でどうするかが楽しみです。
それと、この写真で上下方向に三本ほど真鍮線が通っているのが判るでしょうか? これらの真鍮線はテンプレートの上に線路をまだ置いてある状態で、レイルに何個所か仮に半田付けされたものです。 テンプレート上には、運転盤の形も書いてあって、これでスチレンボードにつけるときの場所を正確に出しています。
接合部もこの軽量化運転盤の当初から (いや、正確にいえばそれ以前から) いろいろ試してみたものの一つです。
最初は、普通の丁番を使えないかとやってみたりその内、家具などに使う特殊な丁番で似合いのものをいくつか試してみたりしました。 折りたたみを目標にした場合に難しいのはピボットの部分がパネルの面と一緒ではいけない (そうでないと折りたたんだ時に空間ができないから間に線路などが入れられない) ことと、左右のずれにたいしてそれなりに精度が必要になることです。
結局、市販の部品でぴったり来るものがないので、今は左の写真のように ABS 板を主体にしてそれをアルミのリベットで止めた自作の丁番を使っています。 これも、最初は ABS 板を t1 のものでやってみたところあまりに弱くて、一旦はアルミ板で試作してみたのですが、その後 t2 の ABS 板ならそれなりの強度であることがわかったので、現在はそれを使っています。
手前に来ている ABS の後ろには、同じ t2 の ABS で作ったスペーサを接着してあるので、二枚のパネルはぴったり揃うようになっています。 これも、最初は左右勝手違いに作れば良いやとか思っていたのですが、それだと線路を合わせるのが難しくなるので、今はこうしています。
まだ紙のモックアップしかないのですが、もう一つ試してみたいのが、第二次世界大戦の時のアメリカ、グラマン社の F6F などの主翼折りたたみ機構の真似ですね。 これだとストラクチャなどを置いてもそれに干渉しないように曲げることができるように思います。 ただ、折りたたみ部分を作るのが手間がかかるのでどうするか...
まだ、折り畳み式のが完成していないのですが、同じような考えで IMON のシステム線路と接続可能なヤードを作りました。 これは、この前の第 12 回 HOJC 運転会に持っていったものですが、長さが 1000mm 幅が 330mm になっています。
5mm のスチレンボードをアルミのチャンネルで補強して、その上にハンドレイの線路を両面テープで止めてあります。 本当は、短手方向もチャネルの補強をするべきなのですが、時間切れでそっちは省略しています。 これでも、お座敷運転なら一応大丈夫でした。
「路盤への接着」の所で書いた、ベニアの路盤はやめて 1mm 浮かすために枕木の裏に 1mm のバルサの帯板を貼ってあります。 最終的な強度はバラストで出すつもりなので、これくらいで十分ではないかと思っていますが、まだ実験が必要でしょうね。
1000 mm 長のパネルを何度か運転会などに持っていった結果改良されて以下の状態になりました。
最後に更新したのは 2007/3/9 12:20 (JST) です。