日本語では「分岐器類」というのが一番正しいんだそうですが、簡単にポイントってことにしておきましょう。
明治 44 年以降ポイントも鉄道院、のちに鉄道省により制式化され、折りにふれ図面集が発行されるようになりました。 残念ながら、交通博物館には第三刷しかありませんが、もっと新しいものが国会図書館にあります。 2008 年 9 月に、(この手の復刻を出すとしたらここしかない) 鉄道史資料保存会から「転轍器轍叉明細図」というタイトルで、抜粋ではありますが出版されました。
これを元にして、模型のポイントを作っているのですが、その際に書いた図面の中から他の人にも役に立ちそうなものを順次公開していくことにします。
日本のポイントは、まとめてシリーズで設計するので、車両で言う「...系」みたいな感じで、「年式」とかを使うことがあります。大正 14 年式の場合、もともとは大正 12 年の夏頃までに全て設計が終っていたのですが、関東大震災のせいでほとんど図面をなくしてしまい、泣く泣く書き直したので大正 14 年から使用されるようになりました。 そして、日本のポイントには形式みたいなのがあって、図面番号と呼ばれます。 大正 14 年式の場合、例えば「分岐 7」というのがそれにあたります。
大正 14 年式をまとめた図面集で私の知っている限り最後のものは、昭和 34 年に発行された、「分岐器類図集 (昭和34年版)」(日本保線協会発行) というものがあります。 これによると、図面番号では分岐 275までが記載されていますが、途中廃止されたものが多数あるので、合計では 220 種の分岐が掲載されています。 この前の図面集としては、昭和 24 年発行の分岐器図集 (信号保安協会発行) というのがあります。 こちらでは、図面番号では分岐 147 までが記載されていて、途中廃止されたものを除くと合計で 72 種の分岐が掲載されています。
ポイントは、基本的には 8, 10, 12, 16 番で、片開き、両開き、そして遷移、の 3 タイプ、レールが 30kg, 37kg そして 50kg ですから 36 種くらいになりそうなものです。 昭和 24 年版でそれがほぼ倍の 72 種になっているのは、途中で大きく設計変更をしたことが理由です。(たとえば 37kg 8 番片開きは、分岐10 と分岐83 になる) 昭和 34 年版で、もっと多くなっているのは、戦後の混乱期を越えて新設計のポイントが導入され、かつ旧設計のも残っているという時代の反映でしょう。
大正 14 年式が出来た直後はシリーズに名前がなく、当時の解説書などを見ると「舊式(いちいち旧字を使うのは面倒なので、今後は旧式と書きます)」と「新式」で区別していました。だれかがこれではそのうち破綻すると見ぬいて、大正 14 年式という名前ができました。 このシリーズの特徴は、トングレールが直線になったことと 50PS レールのポイントが含まれたことなどです。
大正 14 年式の次の大きな変更は、途中戦争が入ったこともあり 1959 年になります。こちらは 59 型と呼ばれますが、その数年後にレール自身が大きく変わった (いわゆる N 式レール) ので、比較的短い期間しか使われていません。 上にあげた昭和 34 年版の図集は、59 型の直前なので国鉄のポイントは大正 14 年式だけですが、近鉄のポイントも収録されておりこちらは 59 型の特徴を持ったものが収録されています。 それと、昭和 34 年版の図集では (上では説明を簡単にするために省略しましたが) 図面番号の体系が変更される時期と重なりました。 たとえば、「分岐 275」というのは昭和 34 年版では「旧図面番号」と言われる呼び方で、新しい図面番号では「T50外12曲11」となります。(正確には 50 と 12 は下付きの数字)
自分で作っている車輌に戦前型が多い事と、西尾写真集などで戦前の鉄道施設を見慣れている事から、この後の記載は大正 14 年式を中心としたものになっていますが、必要に応じてそれより新しい N 式に関する話も書いていきます。 あっ、そうそう忘れちゃいけない、外国型の話もちょっとは混じっていたりします。
模型のポイントについてはいろいろと書くことがあるのですが (もともと、ここから始まって深みにはまったので...)、 まずはデザインに関するところからはじめます。
鉄道模型では、実物に比べて非常に小さなカーブを多用することは良く知られています。極端な例でいえば、山陽新幹線は最小半径が例えば 4000m ですがこれを例えば HO スケールにすると半径 45m が最小ということになってしまいます。いくら、新幹線で大カーブにしたいと言っても、おそらく半径 2m 以上とかにすることは普通考えられないのではないでしょうか?
このことから、ポイントもそれに合わせて短縮するという考え方が出てきます。実物での、八番ポイントは多数派であると同時に鉄道省/国鉄においては最小のポイントでした。 これは、ちょっと作図をすると判るのですが 1067mm 離れたところで 7.15 度 (これが八番ポイントの角度) 傾いた方向に分岐するためには、ほぼ半径が 100m の円弧で繋がなくてはならず、これより角度を急にすると最小半径の規定に違反するというのが大きな理由です。 という説明が良く書かれていますが、実際のところは逆で八番を最小にするから最小半径が 100m になったという方が実態に近いのかもしれません。 細かなことではありますが、実は八番ポイントに使われる曲線は普通の半径 100m の円弧よりも条件が悪いので...
実物でも、蒸機を使うことを前提にしていない場合はこれよりもきつい半径が最小のところも多く、例えば 1067mm 軌間で六番とか、路面電車に近いところでは四番というのも存在しますが、一応「本線級」ということを前提にすると最小八番 (に見えるポイント) というのは譲れない線でしょう。
話はずれますが、上の番数と最小半径の関係は軌間によって異なります。1435mm では、七番でも半径を 200m 以上だったと思います。ちょっとうろ覚えなので、その内一覧表でも作りたいと思いますが...
さて、話を模型の「八番に見える」ポイントに戻しましょう。今までいろいろと八番ポイントを作ってきましたが、もう少し小さいポイントが欲しいなあと思い (でも実物っぽく見えないとイヤ) 六番を作図してみました。
左が最初に作図したもので、実物の設計規則にだいたいあわせて、かつ HOJC 暫定規格にバックゲージやチェックゲージを合わせてあるものです。
ざっと作図してみて、まず思った事は「ぎゃっ、これは六番ポイントだ!」ということでした。 勿論、六番で設計したから六番ポイントに見えるのは何も不思議じゃないのですが、ここで言う六番ってのは例えば「江ノ電」あたりにありそうな、いかにも蒸機が通りそうにないポイントなんですね。 いろいろいじってみたけど、あまり変わりばえしないので半年くらい放っておきました。 そして、ある時昔の阪神電鉄のポイントの歴史を調べていたところちょっと面白いワザを見つけたので、それを盗用してみることにしました。
こうしてできたのがこちらのポイントです。 見るからにのびのびとした本線向きのポイントになったと (少なくとも私は) 思います。 図を見ればどこに差があるかは一目瞭然ですが、大きな差はトングレールの長さだけなのです。 実は上に出てくる「実物の設計規則」というものの中には最小曲線半径とトングレールの長さの相関というものもあり、それに従うと上のポイントのようになったという次第なのです。
このことから考えると、同じように十番や十二番分岐に長めのトングレールを使うと、見かけ上ちょっと大きめのものに見えるのではないかと思いますが、この辺は実際に作ってみてから又書くことにしましょう。
レールはイギリスやアメリカではヤードポンド法のポンドを使って呼ばれます。日本では kg で (当時は SI が徹底していなかったせいか、キログラムの k を大文字で書いて Kg となっているものの方が多いですが) 呼ばれます。この換算は意外と楽で、例えば 100 ポンドレールとあれば、半分にして 50kg レールになります。もちろん概算ですが...
日本では 50kg レールを、良く 50PS レールと言いますが、これは当時米国で一般的だった AREA (American Railroad Engineer's Association) の 100 ポンドレールではなく、Pennsylvania 鉄道の標準 (それで PS) に基づいたレールをもとにしたからです。 ここで言う 50PS レールというのは、戦後に作られた 50N レールとは違います。 あちらも、長さあたりの重さはほぼ一緒なのですが、断面などは全く異なり、特にポイントにした場合には使用部品なども全面みなおしになったことから全く違った容貌のポイントになっています。
HO スケールに模型化した場合、50PS レールは 100 ポンドレールともほぼ一緒になりますが、ドイツ鉄道規格 (Reichsbahn-Bauform) の 49kg レールともほぼ一緒です。というのも、こっちも PS レールを参考にして作られたからで、戦前のデンマークからドイツ、オランダあたりで幹線級に最も良く使われたレールになります。 おそらく、スウェーデンやノルウェイでも状況が一緒だと思うのですが残念ながらまだ調べられていません。
レールの長さというのも、国によってさまざまですが、日本では例えば 50PS レールに関して言えば、昭和 9 年 (後で正確な日時を調べます) までは 12m でした。 ですから、長くても 12m ごとにはジョイナーが入ることになります。 つまり、戦前から戦後しばらくを対象に模型化する場合 25m レールを使うのは非常におかしい (音のリズムが全く違う) ということになるでしょう。 例えば、西尾さんのライカ写真集などを見ると明らかに、20m 車より短いレールが使われているのが判ります。
これに対してアメリカではごく最近まで 33 フィートのレールを使うのが標準でしたから、走行音が独特 (25m レールに慣れた日本人にとっては) でした。
ポイントに使う枕木も、国によって差が見られます。 日本の大正 14 年式および 59 型では、230mm x 2200mm (高さは 140mm) を最小に、150mm のステップで大きくなっていきます。 ポイントでないところの枕木が 220mm x 2100mm (長さはほぼ 7') なのに比べて、ひとまわり大きくなります。 これに対して、アメリカでは枕木の幅は 10" (254mm) となり、長さは 8'6" から 6 インチ単位で大きくなります。
枕木の間隔も国によって大きく違いますが、これは図面を見て貰うのが一番判り易いでしょう。 ポイントでは枕木の間隔が一定になっていませんが、これは枕木敷設の原則からジョイナが入る部分の前後だけピッチが変わることと、ジョイナが多いことが理由です。 (もう少し詳しい説明が必要...)
枕木の方向も、必ずしもレールに直角とは限っていません。 たとえば、日本の大正 14 年式では、タイロッドのところの長い枕木は片開きのポイントの場合、回りの枕木と微妙に違う方向を向いています。 この理由は大正 14 年式では基本は両開きのポイントであり、そのトングレールの部分をそのまま片開きに転用したことによります。 また、スイス (まだ、図面を掲載していませんが) などではフログ部分の枕木の方向が片開きでも両開きと同じようになっています。 枕木のサイズおよび方向の両方に関係することですが、イギリスの LNER ではポイント用の長い枕木を用意することを嫌って、普通サイズの枕木をポイントでも使用します。
ポイントの上にあるレールに行くと、まず先端 (ポイントでは分かれていく方を後ろといいます) 近くにある、(普通) 二つの方向に分ける特殊なレールが目に付きます。 この部分のことを (アメリカ英語では) ポイント部といい、そこに付く左右に動くレールをトングレールといいます。 ちなみに、イギリス英語ではこのレールのことをスイッチレールといいますが、何しろポイントの用語は見事に全部アメリカ英語とイギリス英語で違うので、どこかで対比表を作ることにします。
実は、ポイントを模型化するにあたって一番難しいのがこのトングレールの部分です。 というか、これは実物でも同じことで時代によって、いろいろな手が打たれています。
まず最初に、トングレールが直線か曲線かなのですが、日本では旧式の場合は曲線でした、それが一旦大正 14 年式で直線になり、最近はまた曲線に戻っています。 以下の原理に関しては、主にトングレールが直線の場合を考えていきますが、曲線の場合に特殊なことはそれぞれ、説明を加えるようにします。
では、トングレールの前端に関する話からはじめまることにしましょう。
車輪がポイントの外から進入して、トングレールの前端に近づいて来た時に、車輪のフランジがどういう動きをするのかという事に関しては、あまりわかりやすい説明を見たことがありません。 そこで、レールの上に車輪を置き、その車輪は半分をレールの上面 (実物では上面も円弧を描いていますが、ここでは平面とします) で切断した図をもとに、解説してみることにします。
左の図で使ったレールの断面は実物の 50PS レールを 1/87 にしたものです。 そして、車輪の方はフランジの形をほぼ NMRA の RP-25 (の #79) に合わせてありますが、踏面の勾配は付けていません。
上からの重力以外の力がかかっていないという前提では、図で示した対レールの位置関係で、車輪が一番外へ (図では手前側へ) 寄っています。 つまり、これ以上車輪に対して外側 (図では手前側) へ押す力がかかると、徐々に車輪がレールに乗り上げた状態になるということです。 この際に、一挙にレールの側面に車輪のフランジが当たるのではなく、徐々に車輪がレールに乗り上げた状態になるというのは、車輪についた凹の丸め (機械工学で言うフィレット) とレールの角についた凸の丸め (機械工学で言うチャンファー) とで、前者の半径の方が大きく作られていることが理由です。 ちなみに、この図でも、レールの側面には車輪のフランジは接触していません。 そしてこれは、実物に限った話ではなく、正しく設計され製造された模型でもあてはまる話です。
上の図と同じ状態を別の角度から見てみました。 レールに接する面で切ってみると、たかだか 0.5mm の高さしかないフランジが意外と長くなることがわかるでしょう。 このクサビ状の形状のおかげで、レールのつなぎ目で左右に食い違いがある時に、自然と車輪が誘導されるようになっています。 この左右の食い違いが原因となって脱線することを、「食い違い脱線」というようです。(要再調査) 車輪のフランジが低いというのは、レールのつなぎ目の上下の食い違いに対して不利なだけでなく、左右の食い違いに対する誘導に対しても不利になります。 (より短い距離で、大きく左右に動かなければいけなくなるから)
食い違い脱線になるケースでは、実物でも模型でもほぼ同じ原理が働きますが、ここでとりあげているトングレールへの進入では、実物と (一般に流通している) 模型では原理が異なってきます。
トングレールを正確に描いても良いのですが、ここでは原理の説明ができれば良いということで、簡略化 (手抜き) しました。 左の図は、模型で一般的な「トングレールの前端部で上面がストックレールの上面と同じ高さになっている」ものを模式化したもので、厚さが 0.1mm の板を上面をストックレールと揃えて置いてみたものです。 そこへ、向こうから車輪が進入してきて、まさしく今トングレールに乗り移ろうとしているところです。 この角度から見ると、ストックレールと接しているはずのトングレールなのに、その間に溝があることが見えます。 この溝は、レールの角の丸め (先ほどカタカナでチャンファーと言ったもの) によってできたもので、たとえトングレールの前端の厚みを完全に 0 にしたとしてもできてしまうものです。
そういう意味ではトングレールに乗り移ると言っても、さきほどから出てきたレールの左右の食い違いと同様のことがここで起きているといえます。 これを嫌って、ストックレールの側面にトングレールの入るくぼみを作るという方式を取るやりかた (模型だけの話ではなく、実物でもたとえばイギリスのグレートウェスタン鉄道などは一時こういう方式を取っていた) もありますが、この場合は逆の方向からストックレールに乗って車輪が来た場合にやはり左右の食い違いが起きるということになります。
このトングレールによっておきる左右方向の段差にフランジが接触すると、左の図にあるような力が働きます。 この力がかかる場所は、車輪がレールと接している場所と異なりますから、後者を中心として車輪を水平面内で回転させようとするモーメントが発生することになります。
そして、2 軸のボギー台車や 2 軸車では、このモーメントによって後ろ側の輪軸が、この図の矢印と反対側に (つまり図で言えば、手前に) 押し出される力が働くことになります。 どの程度の力でその輪軸が押されるかは、車輪がレールと接している場所の荷重などいろいろな条件によって変わってきますが、最悪の場合はこれが原因となって、後ろの輪軸が手前に脱線する事になるわけです。
ほとんどの模型のポイントでは、ここに書いたような現象が生じていますが、実物ではそうなっていません。 水平面内でモーメントが生じないように、トングレールの形が工夫してあるわけです。 これに関しては、また次回ということにしましょう。
トングレールの後端では、車輪のフランジが通れるだけの間隔を開けて、二本のレールが隣合っています。 この広がりのことを heal spread と言い、heal spread とトングレールの長さから計算できる、トングレールがなす角を heal angle (入射角と同じ?) といいます。 heal angle が小さいほど、緩い曲線と同じことになるわけですが、heal spread は小さくできないので、高速用のポイントほどトングレールを長くする必要があります。 ただし、レールが細いと長いトングレールは正確に形状を保持できないのでいろいろと小細工が必要になります。
これらのことから、トングレールの長さは決まるのですが、ポイントごとにいろいろな長さのものを用意するのは大変なので、ほぼどこの国でも標準化されています。 例えば、日本では 4m から 0.5m 単位に用意するのが N 型ポイントでのやりかたです。
模型化した場合に難しいこととして、heal spread を実物よりも大きくとらなければいけないことから同じトングレールの長さでは、heal angle が大きくなってしまうことが上げられます。 私は今のところ、見た感じの方を重視して heal angle を大きくしてしのいでいますが、一般的には模型のポイントではトングレールが実物よりも長めにしているようです。 ここは、意外と目立つところなので、ここを変えるだけでも相当実物に似た感じになると思います。
書き始めた時と構成を変えたので、説明が前後していますが「トングレールを実物の長さに合わせる」ということは、たしかに「実物に似た感じ」になりますが、それって必ずしも実感的になるということではない、という話を「模型のポイント」のところに書きました。
トングレールの後端は扇の要のように左右に動くようになっているわけですが、ここは実物ではもっとも苦労するところだったようです。 最初は、緩めのジョイナで繋いだりしていたのですが、その内ピンを打って下の枕木まで通したり、滑べりながら回るようにしたりしています。 もっとも、最近はどこの国でも「弾性ポイント」という、レールを少し細くしてむりやり左右に曲げる方法が良く使われます。
さて、トングレールを模型化する時のことを書きましょう。 前回の更新から、約 1 年半経っていることからも判るようにこのトングレールの部分は(少なくとも私に取って) 模型化するにあたって、いろいろ頭の痛いものです。(まだ、「でした」とは書けない...)
トングレールの削り方にもちょっとしたコツみたいなものがありますが、設計製作に当たっての問題は、ほぼトングレールとリードレールの接続部にあると言って良いと思います。 設計上の問題は、ここでショートが起こりにくくする (もちろんそのためには適切に製作されていることも必要になってきます) という規格と関連する話もありますが、一番大変なのはトングレールをリードレールとどう接続するか、ということにあると思います。
トングレールとリードレールの接続方法というのは上にも書いたように、実物でも苦労していることですが、模型ではレールの剛性が低いことや質量が小さいことによる問題も生じてきます。 模型にした場合にもっとも製作が楽なのは (実物でも最近良く使われる) 弾性ポイントにすることでしょう。 この場合、実物と同じようにレールの底部を削り落とすことで剛性に差をつけて容易に曲がるようにすることが望ましいと思いますが、模型の場合はそれをしなくても大丈夫なことも多いようです。 私の場合は、試作など (手間をかけたくない時) には弾性ポイントを使う事もありますが、基本的にはこの方法を使わなくなりました。 というのも、弾性ポイントでは左右に移動するために必要な力が大きいため、ポイントマシンを選ぶという問題があるからです。 とはいえ、模型のポイントマシンは過大なトルク (トルクという言葉が妥当かはまた別の問題です) を持つのが普通ですから、この事が問題になることは少ないのかもしれませんが、私は今あまりトルクの大きくない (が静かな) ポイントマシンをテストしているので、この必要トルクの問題は重要になります。
模型の市販ポイントで使われている方法として、ジョイナのようなものを使う (現行の篠原製品など) や、トングレールのリードレール寄りに両方のトングレールを繋ぐ板を付け、その中心に支点をつける方法 (昔の篠原製品など) などがありますが、前者はヒールを大きく開けないといけないこと、後者はあまりに模型的ということから私は使っていません。
これがプリント基盤 (PCB と略したりします) を使ったポイントを作りはじめたころに使ったトングレールの固定法です。 二本のトングレールが PCB に半田付けされていますから、相互の関係は固定されています。 このままリードレールに付けるのは無理があるので、リードレールとの接続部にはφ0.5の洋銀線がそれぞれのトングレールに各二本半田付けされています。 つまりリードレールに対して前後 (この写真での左右) に自由に動けます。 前後方向を規制しているのは、トングレールを接続している PCB の周りの枕木だけだったり、なんらかのバネだったりですが、問題はありませんでした。 別にこの方法も私が考えたという訳ではなく、大昔の MR に出ていて「へぇー、こんな方法でうまく行くかねぇ」と思っていて試してみたというわけです。 | |
上の方法で問題ないのですが、「なんとなく」でもうちょっと堅い接続法をと思い、昔 TMS に乗っていた (池末さんの書かれた「スパイクなしで線路を作る」の記事) やりかたに従って、リードレールに細工をする方法をやってみました。 この最初のステップでは、リードレールの頭部から底部までφ0.5の穴を開け (もちろん場所が真中に来るように治具を作って、使っています) ウェブ (頭部と底部の間の細いところ) を糸鋸で切り取ります。 | |
上の写真に見える穴に、φ0.5の洋銀線を半田付けするとこのようになります。 カメラが良いので、超接写ですがレールの高さが 1.68mm しかないことにご注意。 | |
左側が、上の写真にあったリードレールです。右の方がトングレールなのですが、これに U 字型になるように 0.2x0.7 の黄銅の帯板 (写真の下にあります) を半田付けしてあります。 この方法は、「きちんと」U 字型の帯板が半田付けできていれば問題なく動作します。 しかし、U 字型の幅がウェブより少しでも広がっていると、リードレールの方の洋銀線との間のガタのせいでトングレールがあらぬ方向に向くことがあります。 つまり、半田付けするまえに例えば t0.5 の板か何かに入れてきちんと形を出しておけば良いのですが、ついつい面倒になったりすると後でやり直しになるということです。 この方法は去年 (2004 年) までのヤードで全面的に使っていましたし、今年 (2005 年) の関東合運に持って行くものにも一部使われますが、工作しながら「もうちょっと改良しよう (心を入れ替えて、きちんと工作しようと思わず、工作法を変えようと思うのはいつもの話)」などと思っていました。 | |
写真では見えにくいですが U 字型の帯板の代わりに t0.5 の黄銅板を挟みそれにφ0.5の穴を開け、リードレール側の線を通してあります。 これなら左右のガタは生じません。 しかし、手間がかかる... | |
これが今の所一番新しいやりかた。 リードレールもトングレールもφ0.5 の穴を開け、相欠きを作り (やすりで削る) L 字型に曲げたφ0.5 の洋銀線を下からとおし、トングレールのところだけ半田付けしてあります。 リードレールの端ぎりぎりの枕木にレールを半田付けする関係です。 すぐ上の方法より、圧倒的に早いし U 字型の工法より確実にできます。 レールに穴開けしなければいけない数は倍になりますが (ポイントは数を作るので、手間惜しみは価値がある) 治具があるからそんなに手間じゃあありません。 じつはこの工法で量産してる最中にまた違う方法を思いついたのですが、一応この量産体制が終わってから実験してみることにします。 なんせ、あと 24 個ほどポイントを作らないといけないので... |
そういえば、上の説明を書いていて「やすりで削る」というのが出てきて、トングレールの先端の削り方に関しても説明をした方が良いことを思いだしました。 そこで、模型の話が続きますが、私の最近のトングレールの削り方を写真を使って説明することにします。
万力に挟んでいるのがレールですが、このレールは端から 18mm のところでごく軽く曲げられています。 この写真では奥になるほうがその曲げられたところで、曲がったところまでが同じ高さになるように万力の口からはみ出しています。 この写真の状態ではもうすでにレールを削り出していますが、頭部の側面だけが均等に削られています。 同じように底部の側面も削って、ウェブと段がなくなるようにします。 つまり、今削っている面がストックレールに接する面なのです。 | |
こうやって削った面に小さな黄銅板を仮に半田付けして (万力に咥えるにも小さすぎる) トングレールの先端を削ります。 この写真で言うと、見えない奥の側が削られる面になるわけです。 この時に、極力ウェブを削らないように注意します。 つまりトングの先端から見ると頭部は幅がほぼなくなり下に行くに従い広くなるように削るということです。 この時に、前のステップで軽く曲げておいたのが効いてきて、削った後はトングレールの一番上が直線になるようにします。 (実はこのことから、使用するレール、トングレールの長さ、ヒール角が決まると曲げる角度も決まってきますが、角度を数字で示すよりテンプレートに当てて決めた方が早いでしょう) 逆のトングレールは利き手の関係で黄銅板を付ける場所が変わったりしますが削る部分は一緒です。 | |
どうして、表も裏もウェブを極力残すようにしたかというのが、この写真から判るかもしれません。 従来は、やっていなかったのですが、今回からトングレールのストックレールに接する面と底部が作る角をメン取りすることにしたのです。 これをするには、少しでも多くウェブを残しておかないと底部と頭部が泣き別れになってしまいます。 このメン取りをすることで、ついにストックレールの底部の欠き取りなしでもトングレールの頭部がストックレールの頭部に接するようにすることができるようになりました。 ご存知の方も多いと思いますが、(少なくとも日本の) 実物ではストックレールの底部は削られていないのです。 |
このまま後ろの方へ行って、フログの部分に付いているガードレールが次の話題でしょう。 模型ではほぼ間違いなく、レールを曲げてガードレールを作っていますが、実物ではこういう形態のガードレールは最近では少数派になってきています。 日本では、このようなガードレールを A 型というのですが、N 式の場合は内側の部分の必要な所を削った C 型というガードレールを使用します。
模型化する時に、ガードレールの位置をどうしても、すぐ外側のストックレールとの関係で考えてしまいますが、ポイントの動きからするとこれは非常におかしなことになります。 ここはチェックゲージという寸法によって規定される、フログからの距離で位置を考えるべきなのです。
フログを構成するものとして、ノーズレールおよびウィングレールがあります。 実物では昔はそれぞれ、本当にレールで構成されることが多かったのですが最近ではマンガンが多めに入った鋼を使って、一体で鋳造するようになりました。 これもあまり模型化されることのない部分ですが日本の線路で言えば N 型以降で本線用であれば、鋳造式のものにするといかにも本線という感じが出るでしょう。
これは写真を見るのが、一番わかりやすいのでまず日本の例として 37 レール (50PS レールでも構造は一緒) の例と、50N, 60 レールでの鋳造フログを見ていただきましょう。
37レール使用組み立てフログ | 50Nレール一体鋳造フログ | 60レール一体鋳造フログ |
国によって線路の表情が違うのは当然なのですが、特にフログは国によって違うので、次にアメリカ、スウェーデンの例をお目にかけます。
アメリカ 元 Southern Pacific の鋳造フログ | スウェーデンの組み立てフログ |
アメリカの鋳造フログはノーズレール相当の部分が横に膨らんでいるのが良くわかると思います。アメリカにはこの他にスプリングフログという非常に変わった可動フログが多用されていることでも有名なのですが、私はまだ見たことがありません。
スウェーデンやドイツでは鋳造フログというのはまだ一般的ではないようで、この写真のような組み立てフログが多く見られます。 スウェーデンなんて、鉄で有名なのだからもっといろいろあるだろうと思っていただけに意外でした。
折角写真を出したので付け加えると、
実物でも模型でも、フログの部分で注意すべきこととして軌間欠損の取り扱いがあります。 構造的に言って、この部分はレールのないところを車輪が乗り越えて行くことになるので、車輪の幅とレールのない幅との間に相当厳しく寸法を追い込んでいく必要があるのです。 たとえば、HOJC 暫定規格では車輪の最小幅を 2mm としていますが、これからウィングレールのところのフランジウェイの最大値が車輪最小幅の半分以下であるという制限になるのです。 そこで、現在の規格ではこれを 0.95mm 以下ということにしています。
実物の場合はむしろ、車輪が当たる衝撃でレールの頭面にワダチのようなものが出来ることの方が問題になるのですが、これは模型ではあまり起きないようです。 鉄道模型の線路関係の規格を考える場合 (これに付随して、輪軸の規格も決まってきますが) ウィングレールが作るこの欠損部が計算の中心となります。
模型の場合の話になりますが、二本あるレールは電気的に絶縁されている必要があります。 ところが、ポイントではその二つが交わったり接触したりしますから、うまく絶縁の方法を考えないと車両が走れなくなってしまいます。 これは最近の DCC でも同じ事になりますが、メルクリンに代表される三線式の模型や、架線集電でレールは絶縁しないという方式 (米国では多い) ではこうした問題を考える必要はありません。
二線式の場合の手法は大きく分けて、フログを絶縁してしまって常にそれぞれのレールには同じ電位で電気が流れる方法と、フログは絶縁せずポイントレールの接触によって必要な電位を必要なレールに持たせる方法 (選択式) があります。 DCC などの場合は前者の方が便利らしいのですが、実物に近いフログ角の小さなポイントではそうした構造にポイントを作ることが難しいこともあり、私は今のところすべて選択式で作っています。
Proto-87 というのは、模型の線路や車輪が実物に比べてゴツイ (英語で coarse) のをどうにかしようという動きのうちの一つで、アメリカの模型愛好者の団体である NMRA の下部組織として研究がはじまりました。似た規格は、イギリスの Proto-87 (全く同じ名前だけど、実際の規格は違う) や、ヨーロッパの H0T, H0pur があります。 H0pur に準拠したポイント (ドイツ鉄道規格の #7.5 のもの) は Firma Teichmann-Specialmodelle (Karl-Marx-Strasse 2 in 99610 Soemmerda, http: //www. lokbau-stadelmann. de /Teichmann_Special-Modelle. html) が販売しているようです。