ケアマネジャー 2000年冬号:グループ内ネットワーク ケアマネジャー 2000年冬号(VOL.1,No.3)

特集:コンピュータとどう付き合うか Part-2 ネットワークをつくる

ケアマネジメント過程に生きた情報を組み込む

患者・利用者を中心に据えた
同一グループ内ネットワーク

石川県七尾市恵寿総合病院グループ


ケアマネジャー Vol.3

コンピュータを駆使した合理化と
患者中心ネットワークの構築

  石川県七尾市を中心に医療・高齢者福祉・身体障害者福祉施設を展開する恵寿総合病院グループは、介護保険を睨みグループ内の施設やサービスを「けいじゅヘルスケアシステム」として統合した。グループ内の介護支援専門員は現在54名。同システムは、痴呆性高齢者グループホームを除くすべての介護保険給付対象サービスが網羅され、オンラインネットワークが組まれている。そして、現在開発を急いでいる介護保険対応統合ソフトがこのネットワークに乗る。

  グループ内の中核施設である恵寿総合病院(特別医療法人董仙会・神野正博理事長)は、リハビリテーション総合施設の承認、開放型病床設置、日本医療機能評価機構による認定、クリティカルパスの導入、保険・医療・福祉統合施設への参加(鳥屋町)、特別医療法人認可(全国4番目・最大規模)、ナースキャップの廃止など、進取ともいえる経営姿勢を貫いてきた。

  コンピュータ化・ネットワーク化もその姿勢の現れであり、同病院の“医療経営における方針の見直し”(表)の枠組みのなかで進められた。

表:医療経営における方針の見直し(恵寿総合病院)
  1. 組織の再構築をしたか
  2. 業務の改善をしたか
  3. 合理化が可能か
  4. 予算・計画に一貫性があるか
  5. 効果の監視と評価は行われているか
  6. 職員の人事管理がなされているか
  7. ネットワークができ、情報管理がなされているか

  恵寿総合病院のコンピュータ化・ネットワーク化は、すべて業者との共同開発で行われる。
  「Other People's Money−開発費は業者さん持ち。その代わり、うちは著作権を放棄しますので業者さんにも旨みがあるはずです」(神野理事長)

  コンピュータによる合理化は、平成6年の診療材料の小包装化で始まった。これは、診療材料を個々に包装しバーコードを添付、使用する際に包装を破いた時点でバーコード入力すれば、自動的に売上カウントと発注が行われるシステムである。これにより、診療材料の院内在庫レス化と発注業務の省力化が実現、手応えを感じた同病院は、翌7年に臨床検査LAN・薬剤在庫管理システム、9年には統合オーダリングシステム(KISS)を次々にスタートさせていった。

  KISSとは、Keiju Information Spherical System。患者を核に据え、情報が球状に取り囲むという気持ちが込められ、新患の受付はいうに及ばず、医師やコ・メディカル(医師以外の医療従事者)の患者情報取得、外来・病棟・薬局・検査室・医事課等のオーダー連携、栄養士による食事選択メニューの携帯端末入力など、一人ひとりの患者を巡る院内業務をオンラインで結んだシステムである。
  「KISSは業務改善の当然の帰結でしたが、それに加え、患者さん中心に院内の業務を組み立てなおすという意味でも大きな効果がありました」(神野理事長)
  KISS始動と同じ平成9年、同病院はイントラネット(インターネット技術を利用した企業内ネットワーク)を稼動させた。このネットには院内文書・会議や委員会議事録・伝票フォーマットのほか、中毒対処法などの専門知識も掲載されている。全職員の閲覧が可能で、院内メールによる職員間の情報交換にも利用され、また、医療事故防止のために「ひやり・はっと」事例を集め、データベース化していくという試みも行われている。

  翌10年には、恵寿総合病院グループにオンラインネットワークを拡大、グループ内施設で患者情報の共有が行われるようになった。
  なお、ネットワークの運用に関しては、パスワード管理とファイアーウォール(防火壁)専用サーバーの設置で情報漏洩事故防止を図っている。

独自の介護保険対応統合ソフトで
サービス品質向上をめざす

  病院経営の合理化を目的としたシステムは、患者中心のネットワークシステムへと進化してきた。「一人の患者さんを中心に考えると医療・福祉の垣根は不必要です。“統合”には、その垣根を取り払うという意味が込められています」(神野理事長)

  介護保険対応統合ソフトは、そうした理念のもとに“Other People's Money”で開発される。「ソフトの開発にあたっては、市販のケアマネジメント支援ソフトの導入も検討しましたが、私たちが使いたいものはありませんでした」
  恵寿総合病院医療福祉相談室主任の堀田美晴さんは、自主開発に踏み切った経緯を説明する。
  「どのソフトもケアプランの作成にこだわり過ぎています。ケアプランの作成は、ケアマネジメント過程のほんの一部なのに……」
  恵寿総合病院で情報共有化によるサービス水準のレベルアップを目撃してきた堀田さんは、サービス開始後のケアの質の管理や情報の共有化とそれに基づく目標管理や評価こそ、コンピュータ・ネットワークの真価があると考えている。

  一つの目標に向かって、本人・家族・ケアマネジャー・サービス提供者が連携を取りながら前進する。ケアマネジャーはモニタリングや評価といった観点でその情報管理にあたる。介護保険対応統合ソフトは、介護保険事務の合理化とともにそうした連携・モニタリング・評価に重点をおいたソフトウェアであり、サーにス提供者とのネットワーク化なしには有用性は半減する。

  しかし、ネットワーク化ゆえの課題もある。
  「まず、ネットワークに個人情報を載せていいかどうかの承諾をいただく必要があります」
  堀田さんは、現在弁護士と相談しながら承諾手続きと本人と家族への分かりやすい説明の方法を検討している。
  「ケアマネジャーとして知り得た情報をどこまでネットワークで開示するかも課題です。サービスの実施やモニタリング・評価に有用な情報をプライバシーと天秤にかけながら、ケアマネジャー自身が厳格に峻別していく必要があります」
  また、たとえばケアマネジャーレベル・サービス事業者の管理者レベル・担当者レベルなどで引き出せる情報の種類に階層をつけるという仕組み作りも行う予定である。

  恵寿総合病院グループにおけるネットワークの設計は、各施設の役割を確認し、組織を再構築するところから始まった。介護保険対応統合ソフトの開発もまた書くサービスの役割の確認とともに進められている。


提言

コンピュータシステム導入は業務処理の必然性から検討すべき

森本佳樹・立教大学助教授

  コンピュータを活用したネットワークとケアマネジャーの業務について考えるとき、常に念頭において置かなければならないのは、コンピュータの技術上「できる」ことと、業務上「やれる」ことの峻別である。理論上、また技術的には、現在のコンピュータはかなりのレベルまで達している。しかし、その技術を活用してどこまでの業務処理をすることが適切なのか。
  全国各地の自治体や施設におけるコンピュータの活用の事例を見ても、「まずコンピュータありき」といった姿勢から導入しているところは、ほとんど例外なくうまく稼動していない。むしろ、従来の業務の流れを情報処理という観点からもう一度見直し、コンピュータを導入することでどのような流れにすればスムーズな処理が可能か考えて方法を組みなおす。さらには、組織の構成も再構築して、個々の職員が新しい業務処理におけるそれぞれの役割を認識する。そうした環境を整えた上でコンピュータを活用すれば、実効性は高くなるだろう。
  レポートにある恵寿総合病院グループの場合にも、言葉本来の意味としてのリストラや業務改善、そして合理化といった目的を持った上でのコンピュータの導入である。介護保険対応統合ソフトの開発に向けた課題はあるものの、確固とした目的をもった導入ゆえに、現時点でもここまでの構想が立てられているのであろう。
  コンピュータの活用には、OA化と情報化の2つの側面がある。事務処理の削減のためにOAかは非常な効果をもたらすが、一方で情報化は、コンピュータ利用の訓練やデータ入力などの手間が生じ、合理化にならない面もある。しかし、処遇の高度化のために情報化が果たす役割もまた大きい。
  ケアマネジャーとしては、常にこのことを念頭におきながら、業務の流れを整理していくなかで、処遇の高度化に資する情報システムを構築していくための改善を重ねていくことが大切と考える。

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