CLINIC magazine.1999.4月号 月刊CLINIC magazine.1999.4月号

列島縦断:医療NOW 20

積極的なシステム改革で患者・経営情報の全部署共有化を実現

石川県七尾市・特定医療法人董仙会恵寿総合病院


クリニックマガジン4月号

(記事)

    石川県・能登半島の中ほど、七尾湾に面す恵寿総合病院。公立病院が多いこの地域において、救急はむろん、在宅ケアから高度先進医療までを担う民間病院の代表格だ。同院の医療県の人口は約10万人、そのうち20%近くは高齢者。都会での急性期医療とはひと味違う、高齢者をも視野に入れた急性期医療からそのアフターケアまでを一貫して受け持っている。つまり、迫りくる超高齢社会・21世紀を先取りした形の医療の展開がここにある。それらを支えているのは以下に述べるような、民間病院として生き残りをかけた、制度、市場、顧客、技術への柔軟な適応と、明日の医療への果敢なチャレンジ精神である。(編集部)


オリジナリティーあふれるシステム改革を断行

    恵寿総合病院は、神野正博現理事長の祖父・神野正隣氏が1934年に神野病院として創設したことに始まる。’64年に医療法人として恵寿病院と改称、’69年には特定医療法人に認定されている。以後、能登半島全域からの患者の受け入れを目指し「金沢へ行かなくとも自宅に近い能登で医療を受けられる」を目的に着々と整備・拡大してきた。

    同院は’98年に日本医療機能評価機構の認定病院として認可されており、また、現在14の学会から教育関連施設の認定も受けている。

    神野正博現理事長が院長に就任したのは’93年。同院の特徴は数多くあるが、その中で特筆すべきは現理事長が取り組んでいる病院経営合理化のための様々な試みだろう。

    下の表に示したのが同院の最近の歩みだが、実にオリジナリティーにあふれている。「診療材料の院外SPD化」「臨床検査LAN稼動、外注会社一社化」「薬剤在庫管理システム、納入卸一社化」「事業所内PHSシステム」「クレジットカード払い導入」などは医療機関としてはどれも日本で最初に取り入れたのではないか。

恵寿総合病院における最近の取り組み

  • 平成 6年12月 診療材料院外SPD化
  • 平成 7年 5月 臨床検査LAN稼動、外注会社一社化
  • 平成 7年10月 薬剤在庫管理システム、納入卸一社化
  • 平成 8年 3月 インターネットホームページ開設
  • 平成 8年 7月 大型医療機器共同利用開始
  • 平成 8年10月 事業所内PHSシステム
  • 平成 8年10月 放射線デジタル画像処理システム
  • 平成 9年 1月 統合オーダリングシステム
  • 平成 9年 4月 クレジットカード払い導入
  • 平成 9年 4月 病院デイケアセンターオープン
  • 平成 9年 6月 自家発電、コジェネシステム
  • 平成 9年10月 イントラネットサーバー稼動
  • 平成10年 3月 医療機能評価認定
  • 平成10年 9月 開放病床オープン
  • 平成10年10月 病院−直営診療所間の診療情報オンライン化
  • 平成10年10月 オーダリングシステムと連動したクリティカルパス導入

    これらひとつひとつをみれば、既に導入した医療機関も増えてきてはいる。しかし、同院の特徴はこれら一連のシステム改革の全てが有機的に結びついている点にある。

    診療材料・薬剤管理や放射線デジタル画像処理システムなど、診療・経営に関するすべての情報が全部署で共有されている。昨年9月には直営診療所とのオンライン化も実現したため、患者情報の共有化だけではなく、医事業務の本院管理もでき、診療所におけるレセプト作成の手間が省けた。当然、診療後の投薬や会計の待ち時間はぐっと短縮された。

    むろん、これらのデータの管理・蓄積は、来るべきDRG/PPSへの対応も十分可能で、各疾患はICD(国際疾病分類)に沿ってコード化されており、昨年導入された同院のクリティカルパスもDRG/PPS対応だ。

病院経営も営利企業と何ら変わることなし

    これら改革の主なものは神野理事長のアイデアだ。「病院経営といっても技術とサービスを提供し、それにより収入を得る。人的・物的原価としての支出があり、利益により資本を形成すると単純化すれば、医療も営利企業と何ら変わらない」と同理事長は言い切る。積極的な改革を実現しているのは、こうしたスタンスと無関係ではない。民間病院の生き残りをかけて、制度、市場、顧客、技術に順応していくことが不可欠ととらえている。

    医薬品卸を一社化し、小分け薬品にバーコードをつけ、薬剤在庫ゼロを目指すなどの発想は、コンビニのシステムにヒントを得たという。このあたりも、常に一般サービス業の動向に目を凝らしているからこそのアイデアといえる。

    さらに感心すべきは「当院がいくら合理的なシステムを作っても、他業種にとって当然のことばかり」として、現状に満足することなく、さらに先を見ていることだろう。

    同院では現在、特別医療法人かを申請中だが、これが実現すれば関連産業への進出も可能で、神野理事長は、同院の経営システムのノウハウを販売できないか、とも考えている。これ以外にも給食宅配、事務管理、物流管理、コンサルテーション、患者搬送、浴場業への進出など、アイデアは尽きることがない。

    特別医療法人化については「MS法人化という手もあるが、それでは自分の財産が増えるだけ。それより病院の財産を増やして医療の充実や継続性を高めたい」と語る。この言葉からも、単に経営の合理化だけを目指しているのではなく、職員の生き甲斐に立脚した患者中心の医療を目指していることが窺える。ただ、残念ながら今回はその説明にスペースを割く余裕がない。

介護保険施行後への対応に余念がない

    このような視点を持つ神野理事長だから、介護保険への対応にも余念がない。

    同グループでは第1回ケアマネージャー私見で既に35人の合格者を出している。介護保険を大きなビジネスチャンスとしてとらえている証だ。すでに老人医療は同院の大きな柱の一つになっているが、来年には奥能登・穴水町に143床の療養型病床群を建設するなど着々と準備中だ。

    また、介護保険施行後、施設への入所を拒まれる人々への対応も、ビジネスチャンスととらえている。ケアハウスもすでに設置、また、町のケアマネージャーに同院の施設やスタッフの利用を呼びかけるなどして、積極的にアプローチしていくことも考えている。ともかく既存の施設を120%生かすことを目指している。

ユニークな医療機器の共同利用システム

    同院では医療機器の共同利用についても積極的だ。CTスキャン、MRI、ガンマカメラなどを地域に開放しているが、そのシステムもなかなかユニーク。外来紹介ではなく、患者は直接放射線部に出向き、レントゲン写真と読影所見を受け取りかかりつけ医師のもとへ持参する。従って、同院での医師の診察・治療は発生せずレントゲン写真の保管もしない。「紹介」ではないため、初診料を取ることもなく、レセプト請求はかかりつけ医が行う。同院では各医療機関から撮影料を受け取るだけなので、かかりつけ医師の施設内の機器利用と同様の扱いができる。現在、月に20〜30件の利用があるという。

    「うちは初診料をいただかないので、医療費削減の意味からもよい方法と思う」と神野理事長。

    同院には開放型の病床5床もある。利用率もなかなか良いようだ。

医療法改正に伴う本院のリニューアルは難題

    これからの同院の課題について神野理事長は「急ピッチで拡大してきたため、各部署の責任体制のあり方など組織管理に弱い点がある」と語る。現在諸施設を含め従業員は850人だが、今後の新施設分を入れると1,000人を超えることになるだけに、この悩みも分かる。

    もう1つの悩みは、老健や療養型病床群などの設備投資に力が入り、本院のリニューアルが遅れている点。今後医療法の改正により急性期病棟の病床面積は5u以上となる。現在、本院の平均在院日数は約22日、看護基準は2.5:1(A)で十分急性期医療の基準に対応できるが、病床面積の改善には資金がかかるし、頭が痛いようだ。

    近隣の公立病院が現在リニューアル中で、大いに気になるところだが、これだけのアイデアマン、民間病院の意地を見せ、見事に乗り切ることと思う。


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