月刊JAMIC JOURNAL 1996年10月号


クローズアップ・ホスピタル特定医療法人董仙会恵寿総合病院(石川県)

経営のさらなる効率化を目指し“質とやる気を落とさない”
全国初のリエンジニアリングを追求する


度重なる医療法の改正、厚生省の方針の改革---病院経営はまさに揺れ動く情勢に翻弄されているのが現状だろう。病院経営者はその存続をかけて、全国各地で独自の取り組みを始めている。
今回紹介するのは、全国でも初めてのリエンジニアリングに踏み切り、見事にコストダウンに成功した石川県・恵寿総合病院である。ある意味で病院を一企業に置き換えた経営の発想が、どのような形で生かされているかをぜひ、参考にしていただきたい。


(前略:病院の経営理念、沿革、施設、インターネットの紹介記事)

経費削減・業務削減は経営側の努力
病院の志気を持続させた全国初の試み

始めるのも早いが、だめだとわかったら引くのも早い、と神野氏。454床という病床数を抱える病院とは考えられないほど小回りが利くことに驚く。
まず手始めに、物品・材料の管理と在庫削減に取り組む。最初は用度課による定数在庫に取り組んだが、さらにマンパワーが必要となることがわかり、半年で中止。次に納入業者を入れて業者在庫を始める。しかし価格調整がうまくいかず、これもまた約半年で中止した。そして平成6年の12月にたどり着いたのが現在も行っている院外SPDシステムである。
これは、三菱商事が開発したもので、Just In Time & Stockless (JITS) システムと呼ばれている。これは各部署での医材の在庫量を定数化しておき、使用した分だけ同社のサプライセンターから供給する全国で初の試みである。医材の選択や価格交渉は病院が行い、三菱商事が発注・支払い、および院内各部署への医材の配布を行う。一つ一つの医材は定数ごとに梱包、バーコードカードが入れられる。各部署では梱包を一つ開けるごとにカードを取りだし、決められた場所に入れる。それが発注単位となり次第、 三菱商事からメーカーに発注がなされる、というわけだ。神野氏いわく、“富山の置き薬方式”である。
本来はメーカーと病院の直接交渉の場に三菱商事という企業が入っている。そこに経営的なメリットはあるのだろうか。「院内の在庫はすべて三菱商事の在庫として位置づけられているため、棚卸しは限りなく0に近く、病院としての死蔵在庫はほとんどありません。また、医療の高度化とともに医材も高額化していることで材料費は増加の一途をたどっているにもかかわらず、在庫に伴うコストが削減され発注伝票でのやり取りがすべてカードによってできるようになり、業務削減効果も生まれました。医師や看護婦らにも好評で、病院としては委託料を払っても黒字が残ります。思い切った経費削減に取り組みましたが、職員がせち辛くならずに従来通り医材を使用して、あるいはどんどん新しい医材を取り入れながら、志気や質を落とすことなく医療に従事できていることが最大の効果です」
と神野氏はいう。
また、平成6年10月に外注の臨床検査の業者を一社化し、平成7年5月には業者と病院内の各コンピューターとをオンラインで結んだ。コストダウンはいうまでもなく、これにより、検査結果そのものの早期判明はもとより、結果の集計も院内外の検査を問わず簡単になった。さらに、16人いる検査技師のほとんどが血液検査にかかりっきりだったのが、超音波や心電図などの検査に振り向けられたため、予約なしでの検査も可能になったのだ。
加えて、薬品の卸業者を一社化したのが平成7年の10月である。これも医材と同じように、院内の薬品庫で大量の薬剤を少量ずつに分けてパッキングし、バーコード管理をしている。たとえば、1000錠入りなら100錠ずつに分け、各部署に搬送されるごとに機械にバーコードを読み取らせる。そして、100、200・・・と自動的にカウントされ、901錠目になって初めて自動的に発注が行われるというしくみだ。
「JITSシステムが非常にうまくいったので、そのノウハウを生かせないかと、業者と共同開発をいたしました。これも在庫削減効果が非常にありまして、在庫は従来の半分になりました」(神野氏)
平成3年まで金沢大学に勤務していたこともあって、「縁」に縛られず効率第一主義で経営に携わってきたという神野氏。その効果はかなり大きい。病院経営上の問題は、医療者側に制約を与えることなく、あくまでも管理する側が考えるものであり、職員に不自由なく医療に従事してほしいと望む姿勢がうかがえる。

さらなる効率化を目指して

来年4月には、KISS (Keiju Information Spherical System) と命名されたトータルオーダリングシステムを立ち上げる予定である。院内に200台ぐらいのコンピューターを設置、院内LANを確立させるため現在準備中だ。あわせてイントラネットサーバを配置し、院内ホームページなるものを活用する準備を進めている。
「今までは、検査内容を記した患者様向けのパンフレットも、大量に印刷したものを各外来に積んでおいて、上から1枚取ってお渡ししていたものが、カラーや写真、イラストの入ったものをその場で1枚印刷してすぐに差し上げることができます。ですから紙の無駄も省けますし、何よりも情報を順次更新することができますから、ホットなニュースをタイムリーに患者様にお伝えできます」
Sphericalとは「丸い」「球状の」という意味で、先に触れた斑目氏の命名であるが、「ピラミッド型情報伝達から、患者様を中心とした球状の伝達へ」という神野氏の思いが込められている。
コンピューターネットワーク化し、情報の共有化をはかり、患者の待ち時間をできる限り短縮する…神野氏の目指すものは、ずばり“ホテルのチェックアウトのスピード”だ。神野氏自身、コンピューター化されている病院をみてきたが、会計ではまだたくさんの人が待っていた。それではコンピューターを導入した意味がないといい切る。医材、薬品、臨床検査などの院内LANは、職員にコンピューターに慣れてもらう段階的導入であり、これを足がかりに一気にフル装備でネットワークを構築したい考えだ。

(後略)

出版:日本医療情報センター(JAMIC)


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