ジャミックジャーナル1998年3月号 月刊「ジャミックジャーナル」1998年3月号

特集:医療の情報化戦略
イントラネットの活用

CASE 1:病院でのイントラネット利用

特定医療法人董仙会恵寿総合病院


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記事

イントラネットの利用で情報管理の効率化を図る

1994年12月のバーコードを活用した診療材料院外SPD化に始まる情報システムの取り組みを数多くのマスコミで紹介されてきた石川県七尾市の特定医療法人董仙会恵寿総合病院(454床)では、昨年10月より院内の情報管理にイントラネットを利用している。院内のすべての業務、つまりオーダリングから看護支援、経理や人事管理にいたるまでを約210台のパソコン端末とサーバーで統合し、総勢600人に及ぶ全スタッフが“必要な情報を必要なときにいつでも簡単に”引き出せるようにしているのだ。

システム構築にあたっては先に開設していたインターネット・ホームページのノウハウを応用していて、電子メール機能からイントラネット用ホームページまで完備している。その具体的な利用法は、電子メールによる情報伝達、院内定型文書や各種資料等のファイル化、会議室や手術室の利用状況の掲示など。個人メールのみならず、各部署からのお知らせ、各員会からの案内、あるいはグループ化の指定による、たとえば幹部宛等の特定メールなど、一定ルールに基づいてメールの配信を行っている。ただし、緊急連絡はこれまでとおり総務課の指示により広報室が配布している。メニューづくりでは、各部署用ごとに細かく分けて書類・資料がファイル化されていて(共通で利用する印刷物等は共通のホルダーにおさめられている)、各スタッフは必要なものだけをプリントアウトすればよいようになっている。ただし、会議室の利用申請や決済等はこれまでどおり書類の提出で行っていて、イントラネット上での決済行為は一切行っていない。

イントラネット導入のねらいについて、理事長・院長の神野正博氏は、1)院内における情報の共有化とデジタル化、2)伝達のスピードアップ、3)院内定型文書の電子ファイリングによる用紙の削減、4)患者向け文書のきめ細やかな更新の4点を挙げるが、実際のところ導入効果はどうなのだろうか。神野氏はこう答える。

「数字的に成果を示すのはちょっと難しいですが、たとえば今まで約1,100種類・月間6万枚もあった病院の印刷物が、書類管理上の負担、印刷コストの両面で軽減されたのは事実です。必要な書類はイントラネットにあるわけで、各個人が必要なものを必要な部署だけプリントアウトして使用するのですから。しかし、回覧物や資料等はやはりプリントアウトしてそれぞれ持つことが多いですから、決して紙の量がすくなくなったとういうことはいい難いですね。つまり、必要なときに必要な人が取り出すという意味で、余分・無駄な紙はなくなったということです」

さらに、文書管理の効率化だけでなく、各部署への情報伝達がスピードアップされると共に、情報の共有化による業務・生産性の向上が見られる。たとえば、手術室の利用状況の掲示などは現場のスタッフがこういうのがあれば便利だとつくったものであり、現場レベルでの業務の効率化・効果性への意識づくりが促進されているといえよう。イントラネットは確実に院内の組織機能を向上させているようだ。

リエンジニアリングとしての情報化推進

こうしたイントラネットの利用も同院が進めてきた情報化の一つの流れにしかすぎず、その方向性は患者を中心とする球状の情報共有化と院内業務のリエンジニアリングにある。特に、情報化による業務改善について、神野氏は次のように話す。

「こと医療情報の問題においては、患者側のメリットや医療の質の向上ばかり強調される傾向がありますが、それと同時に病院を経営する一つの企業として、当然に医療機関における業務の見直し、つまり効率化やコスト管理という観点から情報化に取り組むというスタンスも重要です。今までの医療機関の業務プロセスをそのまま踏襲しただけの電子情報化の失敗は目に見えており、すでにある医療の慣習や形式化した業務を原点から見直して考える必要があると考えます。医療における情報化は、患者側はもちろん、運営側の両方に横たわるすべての業務の見直しから始め、その結果としてなされるべきものであり、けっして情報化のみが一人歩きするものではない、いわばビジネス・プロセス・リエンジニアリングの一環として進めていくべきと私は考えます」

この視点から取り組まれたのが、昨年1月に導入した統合オーダリングシステムである(Keiju information spherical system:KISS)。同院のイントラネットもこれ抜きでは考えられない。

これまで多くの病院にある医療情報システムは、たとえば看護なら看護、医事なら医事と各部署・業務ごとにシステムが単体で稼動していた。つまり、コンピューター導入の威力が十分に発揮されていなかったのだ。その点からして、情報の統合こそがリエンジニアリングの大きな一歩といえよう。そこで同院は、診療や検査のオーダー、患者情報の参照といったオーダリングシステムを基幹システムに、在庫管理や発注業務、人事・総務・経理、そしてイントラネットまで全システムを統合して、非常に発展性のあるシステムを構築している。そして、サーバーに集積された医療情報を多目的に活用している。たとえば、当日の売り上げ報告(各科別集計)を見ることもできれば、各病棟の入院情報から空きベッドがわかるとともに入院患者の情報へ入っていくこともでき、そこで看護記録の情報まで見られるようになっている。 すなわち、同システムは、一人の患者に関わるすべての情報・業務を集積・分析することができ、それによって診断から治療・治癒の過程をコスト管理を含めて一元管理することができるようになっているわけだ。その結果、標準化した最も効率的な診療の流れを策定することや経営分析等を実施できている。非常に効率性の高いシステムだといえよう。

具体的な内容を見てみると、先に導入していた診療材料等のシステム化で使ったバーコード管理を応用して、診察券の発行からカルテ管理、また医事・看護・給食・検査・薬剤等の全業務、さらには放射線デジタル画像システムや職員管理までバーコードによるシステムの一元化を実現している。このバーコードの利用が同システムの利便性の要でもある。

たとえば、外来だと患者はまず受付を済ませるが、そこで患者の基本情報はデータベース化して保存される。そのときに、一人の患者にIDとして一つのバーコードが与えられ、それ以後は診察時や検査時もバーコードを読ませるだけで必要な情報が画面に表示されるようになる。また、診察や処方、検査の内容は各患者情報として記録され、同時に検査等のオーダーはオーダー用のバーコードがつけられる。そのため、検査部ではそのバーコードを読ませるだけで検査のオーダー内容等を読むことができる。一方、診察・処方した内容等はシールでプリントアウトされるので、それをカルテ等にはるだけですむという具合だ。入力の手間は極力少なく、診療のスピード化が実現されている。それに必要な伝票類は同時に印刷されるので業務の簡素化も図られているというわけだ。

他方、各スタッフにもID用にバーコードが与えられているので、表示・入力できる情報に制限を加えるなどセキュリティー管理を行っている。医師等が診察するときには自分のバーコードをシステムに読ませることから始まる。また、業務のすべてを機械化しているわけではなく、当然、人の手による部分も残している。その辺の兼ね合いのよさが同システムの長所といえるだろう。

このほか、コンピュータの導入により、従来の各科分散型1患者1カルテから、各科分散型1科1カルテへ移行している。つまり、患者情報を共有するため、カルテを1患者1カルテにする傾向がある中で、その逆を進んでいるのだ。こらは、大きな病院では1患者1カルテだとむしろカルテ管理の手間が増えるという反省から(患者が複数の科を受診したとき、そのたびにカルテを各科に回す必要がある)、システム上で患者情報が統合されているわけでカルテそのものは各科にあった方が利便性はいいという考え方による。こうした点にもリエンジニアリングとしての情報化の考えが感じ取れる。

最後に今後の展開について、まずは同法人が経営する2つの診療所とネットワークをつなげて病院と同じシステムでオーダリングができ、また患者情報を共有していく。当然、イントラネットもつなげて同じように情報管理を一元化させていく。ただし、オーダリングについては、病院と診療所のレセプト部分・売り上げを分けていく必要があるので、その点がシステム的な問題となるだろうという。そして、2つの診療所でシステムが稼動していけば、それをもって地元開業医とのネットワーク化を図りたいと考えていると神野氏は話す。そうなれば、情報の共有化によって連携・交流も大いに促進されよう。そして、情報化戦略としては電子カルテの開発までたどり着くことを目指しているとのこと。効率性と発展性の両面を持つ同院の情報システムの動きに目が離せない。


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