Japan Medicine 2003年10月1日号

特別医療法人董仙会(石川県七尾市)

3年前に退職給与引当金を計上

企業会計方式導入し将来に備える


 病院会計準則は、早ければ来年1月にも20年ぶりに大改正されるが、これに先駆け、すでに2000年度から企業会計方式を採用している医療法人がある。恵寿総合病院(石川県七尾市、454床)などを展開する特別医療法人董仙会(神野正博理事長)だ。

9億円の引当金を計上

 将来の資金調達の多様化を視野に、体力のあるうちに将来に対する憂いを取り除こうと、9億円を超える退職給与引当金を00年度に一括計上した。神野理事長は、「現時点でこれが正解だったか不正解だったか悩ましいところ」といい、その評価にはもう少し時間がかかるとの認識だ。

 企業会計の採用は、00年度に監査法人による監査を受けたのがきっかけだった。監査では、退職給与引当金を計上するよう指摘された。医療法人が監査法人の監査を受けること自体珍しいが、神野理事長は「今後、企業との協力関係を築いていくために必要と考えた」と説明する。

 厚生労働省研究班が先ごろ公表した「病院会計準則の見直し案」で、中でも経営への影響が大きいとして病院関係者が懸念し、慎重姿勢を示すのが病院の“隠れ赤字”といわれる退職給与会計の導入だ。

 事実、董仙会が企業会計を導入した際に、経営に与える影響が最も大きかったのは退職給与引当金だった。一括償却か、分割償却かを検討したが、「体力のあるうちに財務内容をきれいにしておこう」と一括償却を決断。00年度終糸に特別損失として9億2000万円を計上したところ、収支は前年度の5億8200万の黒字から一転、5億5700万の赤字になった。

 会計方式の違いによって、同病院では1年間で実に10億円近い収支差が生じたことになる。この変化を銀行などは同判断したのだろうか。

 00年度は、ちょうど大手上場企業が不良債権処理に乗り出していた時期で、地元銀行も同様の対応をとっていた。董仙会の神野理事長は、「時流に乗ったといえる」とし、周囲にも一定の理解が得られたと見る。

税効果会計、
キャッシュフローも採用

 当時、採用したのは退職給与会計と税効果会計だったが、病院用に配慮された今回の見直し案に基づく会計処理を行えば、00年度決算よりよい成績になった可能性があるという。とはいえ、新たな会計方式の採用により、「黒字病院が赤字病院に転落する可能性は十二分にある」と指摘。花村進一・事務局次長も、とくに小規模医療法人は自己資本比率が低いことが多く、退職給与引当金の計上が大きな影響を及ぼす可能性があると予測する。

 董仙会が企業会計を採用した理由としては、もちろん将来の資金調達の多様化をにらんだ戦略的な意味合いがある。神野理事長は、その後の医療をめぐる環境の厳しさから、「赤字基調になっている。今は次の爆発に備えての守りの時期」と現状を分析するが、今後の事業展開では不良債権がないという強みを存分に発揮したい考えだ。

 次の大事業と見られる同病院の建て替えは、収入増が見込めないうえ、病床のダウンサイジングも視野に検討せざるを得ないと予測される。董仙会に対しては、従来からコールセンターの運営や、病院内コンビニエンスストア出店などで協力関係にある三菱商事のほか、大手銀行数社から協力の意向が示されている。今後、病院債の発行など、新たな資金調達手法が展開される可能性もある。

 董仙会では、キャッシュフロー計算書もすでに作成しているため、見直し案に沿った会計方式に合わせる場合、新たにリース会計を導入するくらいですむ。「医療法人会計基準」が示されても、とくに慌てることもない。

 神野理事長は、この時期に病院会計準則が見直される背景について、診療報酬で運営されている病院に対し、上場企業ではないものの、広く経営内容の公開が求められているのではないかとの観測も示す。同理事長によると、会計方式に対する問い合わせは「厚労省からはあったが、病院からは皆無」。新会計方式を採用するかどうかは病院側の判断に委ねられているためか、病院側はまだ静観しているようだ。


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