Japan Medicine 2001年11月26日 No.338

医療経営新時代 戦略と分析

医療法人初の直営店

医療福祉ショップの売上好調

物品情報と患者情報をリンク


(記事)

 石川県七尾市の特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院(神野正博理事長・院長)が、収益業務の一環として運営する医療福祉ショップの売上が順調に伸びている。ショップの開設から約1年半を経て月商は約300万円になり、収益業務全体の半分を占めるまでになった。収益業務の収入自体は法人全収入の1%にも満たないが、9月からのインターネット通販や同病院内にあるコンビニエンスストアのローソンとのタイアップによる宅配サービスの検討など、新たな展開も進めている。医療法人直営ショップは全国初のケースと見られ、特別医療法人制度が“物販と患者情報をリンクさせる”ことで、CRM(Customer Relationship Management=顧客主義)の追求に生かそうとする新たな取り組みといえそうだ。

コンビニと連携し宅配も検討

 董仙会は1969年3月に特定医療法人の承認を受け、特別医療法人としては全国3番目の99年9月に認可された。特別医療法人の認可を受けようと考えたのは、関連社会福祉法人が特養とケアハウス(定員100名)を新設する計画を立て、それらの配食サービスを隣接地で董仙会が運営する老健施設(150床)で受託しようとしたため。新たな施設には給食設備が不要になり、土地の有効利用と共に、建築および運営コストを圧縮することができる。

 特別医療法人制度ができて間もなく申請し、特養とケアハウスの開設ぎりぎりの約1年半後に認可を受けた。認可に伴い、義肢やコルセットなどを販売していた会社は解散した。

 さらに、昨年6月の同病院増改築を機に、院内に医療福祉ショップ「めぐみ」を発足させた。おむつ、歩行つえ、コンタクトレンズ、健康食品などを販売しており、取り扱い品数はカタログ販売を含め2000。売れ筋ナンバーワンは人工肛門用品。商品は医薬品と同じくSPD(院内物流管理)システムで管理している。

 物販事業について間の理事長は、「法人直営の最大メリットは、物販情報と患者情報をリンクできることだ」と、MS法人(医療関連企業)を含めた一般企業との違いを強調する。董仙会は、関連法人と合わせて医療機関、福祉施設など1127床を運営しているが、全施設がネットワークで結ばれ、医療、介護、物販などの各種データベースが構築されている。このため、顧客一人ひとりの購買履歴や受診履歴、介護サービスの利用状況などがリアルタイムに参照でき、個々のニーズや好みなどを分析することも可能だ。

総合受付にコールセンター

 加えて、董仙会は、全国の医療機関に先駆けてコールセンターを開設しているのも強みだ。コールセンターは、電話で商品の受注、診療予約、患者の医療・介護についての相談や苦情などを一手に引き受ける総合窓口。商品受注の際に、購買履歴をもとに商品の使い勝手をたずねたり、おむつや消耗品を追加受注する必要性を聞いたりしている。在庫確認も瞬時に可能だ。こうした顧客情報の有効活用によるCRMの徹底が売上向上にも寄与しているようだ。

 商品は、同法人の診察券を提示すれば3%の割引価格で購入でき、購入実績が多い「お得意さま」だけの特典もある。また、この店舗で販売された製品の保証書は、同病院の発行であることもユーザーの安心感につながると期待する。インターネット通販は「広告が行き届いていないためか、まだまだ」(神野理事長)で、場所と時間を問わないインターネットの特徴を踏まえ、長期的に構えている。また、ローソンとの協力で、病棟への商品配達を検討し、将来は地域への宅配にも拡大する可能性もあるという。

 神野理事長は、特別医療法人の新生児は、まだ特定医療法人から特別医療法人になった場合の法人税率が明確になっておらず、収益業務は一般法人と同じ扱いになると覚悟していた。しかし、収益業務を含めて特定医療法人と同じ税率22%になり、税率30%のMS法人よりも有利な展開となった。

 現在、収益業務は、配食と物販がそれぞれ約300万円づつ。配食では、給食原価180万円とパート職員数人の人件費を差し引いた分が利益になる。物販は、在庫を含めた原価率が77%、利益率23%。パート職員1人と正職員(兼務)の人件費を除くと利益は微々たるものだという。

医療コンサルタント事業も

 神野理事長は、法人グループの施設に3000食を配食する給食センターの建設を考えたこともある。採算は取れると見込むが、かなりの初期投資が必要なうえ、HACCPのノウハウが不十分なため、実現していない。ノウハウを持つ企業と合弁会社を作ろうとしても、医療法人は出資できないという現行制度の課題も指摘する。

 また、要件はほとんど変わらないのに、特別医療法人の認可を得た特定医療法人が少ない点も指摘する。特定医療法人は299(昨年度末、厚生労働省)あるが、今年7月時点の本誌調査で双方の認可を受けているのは7法人にすぎない。MS法人を設立していれば特別医療法人化するメリットがないという法人が多い。

 神野理事長が、収益事業を行うためにMS法人設立という方法を選ばなかった理由は、MS法人の収益は必ずしも医療法人に還元されるわけではないという構造が要因。「やりたいことがまだまだあり、資金調達が必要。収益事業を行って利益が出た場合は、すべて病院事業に充てたい」と話す。今後コンサルタント事業の実施も視野に入れている。


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