月刊「朝日メディカル」2002年7月号

特集:変わる病院 −競争激化の中の組織改革と意識改革


特集目次

医療の質を高めるツール」として電子カルテの運用開始 特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院

時代と地域のニーズに対応しながらサービスを多角化 医療法人つくばセントラル病院

少子高齢化時代に対応して高齢者医療と産婦人改良を充実 医療法人回生会ふれあい横浜ホスピタル

慢性期特化型として“病院らしさ”を脱ぎ捨てる試み 医療法人社団輝生会初台リハビリテーション病院

今、すべての病院に変革が求められている 京都大学経済学部の西村周三教授(医療経済学)に聞く

 

(記事)

医療の質を高めるツール」として電子カルテの運用開始 特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院

 恵寿総合病院では2002年6月1日から電子カルテシステムが稼動を始めた。従来あったオーダリングシステムは「医療の効率化」に貢献することが確認されたが、新システムは「医療の質」を向上させるツールとして期待されている。

競争相手は「民ではなく官」

 「民間病院で患者さんのための新しい医療技術を取り入れたりするためには、経営的に安定しなければならない。そのために当初は経営効率向上、仕事の効率化を目的としてシステムを作りました」。恵寿総合病院の神野正博理事長・院長は、同病院で進められてきたコンピュータ化についてこう話す。

 能登半島の付け根に位置する七尾市は人口約4万8,000人ながら、2つの大きな国公立病院を抱える。また、同病院への外来患者は、ほとんどそれより北の「奥のと医療圏」に属する各市町村から訪れるが、ここにも「人口の割りに多すぎるのでは」と言われるほど公立病院が立地している。「競争相手は民ではなく官」と言う意識のもとに、医療サービスの差別化が図られてきた。

 この病院では1997年1月にオーダリングシステムがつくられている。患者一人ずつに全施設共通のIDが与えられ、カルテをはじめ診察や処方、検査、給食などの情報の管理や維持が行われるようになった。さらに翌98年10月からは「電子クリティカルパス」(図1)が導入された。画面上に示されるパスをワンクリックするだけで、その患者にその時点での必要な処置や検査、処方、給食などを指示する伝票が取り出せるようになっている。

 「オーダリングシステムの段階で、薬や材料の管理、原価管理、業務のながれなど効率化が実現し、『確かに経営的にはこれは有効』と確認できました。次に今度の電子カルテシステムでは医療の質を意識し、情報の透明性、共有化、情報開示、検索性、ネットワークによる連携などを目的としました。現在ほど医療の質が問われている時代はありませんから」(神野理事長)

 診察室で医師は患者と一緒に、液晶プロジェクター上に表示された電子カルテを見て説明し、所見や検査結果をその場で入力していく。要望する患者には、カルテをそのまま印字して手渡すのである。このシステムは、同病院の関連システムを含めて530台のコンピュータとつながっている。病院の職員はいつでもIDとパスワードを入力することにより、どのマシンを使っても情報にアクセスすることができる。もちろん院内の電子メールシステムとしても機能している。

 「情報が蓄積されてくれば、自動的に診療内容についても監査もできるようになるわけです。検査はちゃんとしたか、どの時点でしたか、といったことを追跡することができ、さらにそうした情報を共有できるので、医療の質の面で貢献するでしょう」(神野理事長)

 電子カルテ(図2)は、各医師ごとに定型文を用意していて、食欲、腹痛、めまい、動悸といったチェック項目をチェックしていくだけで仕上がるようになっている。医師にとっては省力化できる上、診療項目の漏れも予防できるわけだ。患者も一緒に見るのだから英語や記号は使えず、わかりやすい日本語で書かなければならない。カルテの透明性はきわめて向上した。

医療と介護・福祉を通じた情報の一元化

 電子カルテシステムには、これまで医師や看護師がつけてきた診療録、看護記録などのデータも転載された。すなわち、このシステムは患者データベースにとなっている。神野理事長は「私たちが重要視しているのは、ナレッジ・マネジメントということ。すなわち、みんなが持っている暗黙の知識を形式の知識にしていこうということです。われわれは以下に一人の患者さんについての情報をきちんと管理するか、あるいは職員間でそれを共有するかということを大事にしています」という。

 さらに、院内に設けられている十数個に及ぶ専門委員会の情報も、このシステムの中に示される。たとえば「事故防止委員会」では、ヒヤリハットの例、議事録、事故防止マニュアルなどの情報を盛り込んでいる。

 一方、こうした情報は、特別医療法人財団董仙会が運営する診療所、訪問看護ステーション、老人保健施設、そして董仙会と協力関係にある社会福祉法人徳充会の運営する特別養護老人ホームやケアハウスなどの施設ともイントラネット(WAN)で結び、共有されている。そして、それらの施設に集められるデータは、三菱商事の子会社が運営する「恵寿サービスセンター(通称コールセンター)」が管理している。

 神野理事長は「老健施設や特養ホームを運営している医療法人は日本にたくさんありますが、多くの場合はばらばらに機能しています。ところが患者さんのなかには、病院で治療を受ける一方、自宅や施設で介護も受けるというふうに複合している方も少なくないのですから、大切なのはこれらの施設の連携です。そのために情報を一元化して管理できるようにしました」という。

 コールセンターではオペレーターを置き、訪問看護の派遣予約を受け付けたり、担当者を手配したり、顧客に派遣の告知をするなどの作業を行っている。同時にこれら情報はすべてシステムに入力し、また利用者からの注文やクレームなどもすべてコンピュータに記録する。さらに訪問担当者からの訪問先についての報告も口頭で聞いて、データ入力しておく。従来これらの訪問記録は担当者がすべて行っていたが、その負担がなくなり、担当者は本来の仕事により集中できる一方、精神的なゆとりもできた。

(恵寿総合病院分のみの記事です。その他の病院の記事ならびに西村教授のコメントは、是非本誌をご覧ください)

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