MEDICAL EYES.1995年9月号
MEDICAL EYES.1996.9月号(VOL.4)
新医療経営見聞録
医療機関の広報活動はなぜ必要か?
恵寿総合病院(石川県)の広報戦略を探る
(前略:このページがインターネット上で公開しておりますので、インターネットホームページ紹介に関する記述を割愛いたします。)
(インターネットでのホームページ公開は、)将来的には、オーダリングシステムを含めた院内ネットワーク(イントラネット)を構築し、患者の待ち時間短縮、患者への情報提供のぺーパレス化を図ろうという構想があり、そのための布石でもあるといいます。
このように最先端の媒体、インターネットを使って広報活動を進めている同院の広報に対する考え方をレポートします。
- 広告は必要か否か
アクセス件数が3ヵ月で約2300件と、まずまずの滑り出しを見せる同院のホームページ。しかし開設当初は、医療法の広告規制に触れないかとの不安があったと言います。
中心になってホームページの開設を進めてきた神野理事長は、「現在の医療法では、広告に関する規制はかなり厳しい。認められている以外のことをインターネットという媒体で掲載することは果たしてよいのかどうか、悩んだ」と言います。今年の3月に「大丈夫だろう」と見切り発車的に開設しましたが、そのすぐあとに厚生省から「患者がこれらのホームページを閲覧するには、ここのアドレスにアクセスしなければならず、従来のように電話で個別に医療機関に問い合わせる場合と同じとみなす」との見解が示され、晴れて公認されることになりました。
インターネットでの広報活動については、このような形で決着が付いたものの、広告規制の問題は、病院の広報活動の根幹に大きな影響を与えるものとなっていることは事実です。“広告規制”という言葉に過剰に反応して、ほとんど広報活動を行わない医療機関も多くあります。神野理事長は「熾烈な広告合戦になってしまっては困るが、広報は必要だろう」と話します。
- 自院の医療を知ってもらうために
ではなぜ広報活動が必要なのか--神野理事長は、自院の広報に対する考え方と共にこう語ってくれました。
まず、「当院の第一の広報活動は、診断して治療する、それを行うスタッフがいて、それをバックアップする医療機器がある、そして来院した患者様に“きてよかった”と思っていただける医療を提供することだと考えます。いくらいい文章を書いても、インターネットにホームページを開いても、そこの部分がなければ意味をなしません」と、はじめに医療ありきを強調されています。しかし、ただそれだけでは、ここでどのような医療が展開されているのかが患者には伝わりません。そこで、「どんな医療を行っているかを伝えるために広報が必要になってくるのです」。
同院は、能登半島に住む人々が、金沢まで行かなければ受けられなかった医療を、何とかこの地で受けられるようにしようと、診療科目を増やしてきた経緯があります。金沢まで行かなくても、ここで同じ治療が受けられるということを皆さんに知っていただき、ここで治療を受けていただく--そのための広報活動は、医療と同様に欠かせない仕事と言えるでしょう。
また、昭和61年からは、広報活動がスムーズに行えるよう広報室を構え、内外に向けて数々の情報を発信してきました。具体的には、季刊の院外報「ほっとたいむ」、院内報、入院時の案内、地元新聞へのPR活動、待合室に流れるビデオの編集などで、そのための努力は惜しみません。そこに新しい媒体、インターネットによる広報活動が加わったわけですが、気になる効果については、「これによって患者が増えるわけではない」と経営面に対するメリットはあまりないと言います。しかし、「病院案内をすべての人に配るわけにはいきません。でもインターネットなら当院に興味のある方はいつでも見ることができるわけですから、広く知ってもらえる良い媒体といえるでしょう。例えば、首都圏などからリゾートをかねて人間ドッグを利用してもらうといった場合などには、非常に有効な媒体に成り得ます」と語ります。
- 患者の目を医療サービス向上につなげる
神野理事長は、「本当の意味で、この病院がどういう病院であるか知ってもらうには、例えば、第三者評価機構のように、公的な機関が評価した情報を開示することも必要になってくるでしょう」と患者への情報提供の必要性を訴え、「良いことも、悪いことも知らせていくべき」と、広報活動におけるポリシーを話します。
そのポリシーは、院外報「ほっとたいむ」にも現れています。13号では、院内に設置した投書箱に寄せられたアンケートの集計を掲載していますが、良い評価ばかりでなく悪い評価も載せられています。苦情についても真摯に受け止め公表しているところに、同院の情報提供に対する姿勢を垣間見ることができます。単に批判を聞くだけではなく、公表することによって、職員の意識を高め、改善につなげようとしているわけです。
医療機関や公的な機関によって、情報が開示され、患者が様々な情報を得ることになれば、患者は医療機関に対してますます厳しい目を持つことになるでしょう。しかし、厳しい目を向けられることは医療やサービスの質を高めることになります。医療の内容をより知ってもらい厳しい目を向けてもらうことによって、自院の質を高める--広報活動の本当の狙いはそこにあるようです。
「MEDICAL EYES」:キッセイ薬品工業株式会社発行、ユート・ブレイン編集