月刊「ミクス」2004年2月号

病院トップマネジメント
恵寿総合病院 神野正博 理事長・院長

かんの まさひろ
 1956年生まれ。80年日本医科大学医学部卒業、金沢大学第2外科教室入局。86年同第大学院卒業、医学博士取得、浅ノ川総合病院外科医長就任。金沢大学第2外科助手を経て、92年恵寿総合病院外科科長・医療法人董仙会服理事長。93年同院院長、95年から現職。
 専門は消化器外科。石川県・七尾市医師会の要職を務める傍ら、厚労省医療施設安定化推進事業研究班委員、経産省医療問題研究会委員等も歴任。妻と一男一女。趣味は?との問いに「趣味らしい趣味はないんですよ……ホームページ(HP)作りも仕事みたいなものだし」。その「医療経営のホームページKanno’s Opinions http://www2.biglobe.ne.jp/~kanno/は、董仙会グループの取り組みや、自著の紹介の他に、制度の動き等医療経営に役立つ情報が満載で、医療関係者必読。

金太郎飴では生き残れない
強み生かした差別化を


(記事)

 恵寿総合病院(石川県七尾市・454床)の神野正博理事長・院長は、医療の効率化を図りつつ、患者の利便性を追求する顧客主義を実現してきた。院内コンビニ設置、医療費のクレジットカード支払い導入、健康介護ショップ開設などを果たすとともにIT化も推進。医療法人董仙会と社会福祉法人徳充会を合わせた「けいじゅヘルスケアシステム」(2病院、2診療所、2老健を含む5施設群1127床16事業所)を、コールセンター「恵寿サービスセンター」で一元管理し、トータルな医療・介護・福祉サービスを提供している。

○「顧客主義」は差別化の1つ

――医療の特徴と経営のスタンスは
 まず、病院が地域で必要とされ、生き残っていくためには、金太郎飴じゃだめ、よそと同じことをしていたのではだめです。顧客主義も差別化の1つです。私どもは「けいじゅヘルスケアシステム」として、急性・救急期から長期療養、在宅までのサービスをトータルに提供していますが、私どものグループにかかれば、どこに行っても安心、ということを具体的に示すのが顧客主義だと思います。患者(顧客)情報を一元管理し、顧客が欲しいサービスや情報をタイムリーに提供する。そのためのバックボーンとして、IT化を進めてきました。
 声によってデジタル情報とアナログ情報の相互変換を行う「恵寿サービスセンター」(00年6月運用開始)も一元管理の1つの手段ですが、その根幹はITです。最大40数キロはなれたグループ内の全施設をネットワークで結び、情報を共有化しています。当院は電子カルテを導入していますが、その他の施設はオーダリングシステムや介護系のシステムを入れていて、恵寿サービスセンターを通して、相互に参照することが可能です。
 診療面での特徴としては、20科あるうち、脳卒中が強みです。急性期の脳外科・神経内科だけでなく、回復期リハ(48床)からその先まで見据えたリハビリ、後遺症が残った場合の在宅や施設までを一貫して診ていく。私の専門でもある消化器系統も専門医を揃えています。繰り返しますが、金太郎飴じゃダメなんです。差別化しなければなりません。

○患者視点に立った創意工夫を

――院内コンビニの設置や医療費のカードによる支払い導入、99年の特別医療法人化も顧客主義の一例だと
 私は3代目ですが、父の代までは時代の流れに応じて増床し、老健を作り、患者・地域のニーズに応えて診療科を増やせばよかった。しかし、今は患者の視点に立ったより積極的な差別化を考えなければなりません。
 コンビニ設置は、患者アンケートの「売店の営業時間を延ばして欲しい」という要望に応えたものですし、カード支払いは医療機関以外では当たり前です。「大家」としてのコンビニ設置のほかに、健康介護ショップ「めぐみ」の直営も行っています。特別医療法人の収益業務の1つで、病院が自信を持ってお客様にお勧めできる品揃えをしています。
 特別医療法人化した一番の理由は、社福の徳充会が特養をつくったとき、老健の隣がベストだったのですが、敷地が少し足りなかった。そこで特養に厨房をつくらず、老健の厨房からデリバーしようと考えたのですが、そのためには老健の給食を外部委託するか、特別医療法人化しかなかったためです。でも、結果として配食サービス事業(「けいじゅデリカサプライセンター」)が可能になり、在宅への宅配サービスというニーズに応えています。

○徹底的な見直しでコストを削減

――顧客主義の一方で「コスト削減と増収策」も実践していますね
 企業と同様、病院も自助努力が必要です。と言っても、打ち出の小槌があるわけではない。徹底的な見直し。見直しを行えば必ずコストは下がります。これまでに実施した仕組みはSPD(薬品在庫管理システム・95年導入)や納入卸の一元化 ですが、単に業者さんに泣いてもらうのではなく、恵寿総合病院での事例をビジネスモデルとして示すことで、互いにwin-winな関係を構築してきました。
 薬剤や材料はむやみに削れません。エビデンスに基づいた診療側の納得が必要です。例えば同種同効の薬の採用はできるだけ1つにしてもらいますが、エビデンスが示されれば他の薬を採用してもいいのです。医療スタッフには必要なものを必要なだけ使ってもらう。それをいかに安く仕入れるかは経営側の仕事であり、それは、終わりなき見直しをしていくことなんですね。
――増収策は
 過剰診療はダメというのは大原則ですが、必要な診療をきちんとやりましょう、ということです。高血圧で長期間投薬しているのに、検査を定期的に実施していないのは、やるべきことをやっていない。それを防ぐための仕組みづくり、例えば電子カルテ上で検査スケジュールを登録しておけば、半年ごとにアラームが鳴るようなことも導入しています。
 もう1つは専門特化です。専門性を高めることは増収につながります。総合病院には、「デパート」的な総合力が要求され、地域のニーズに応えるためには小児科や皮膚科など収益性の低い診療科も必要ですが、同時に、専門医を揃えた脳卒中や消化器科など「強み」の分野を持つことが増収策になると考えています。
――後発品採用状況は
 処方点数のインセンティブがついて以後、胃薬など複数科で処方されるいわゆる“よく混ざる”薬から採用しています。オーダリングシステムで先発品名を入力しても、後発品名が出ますから、問題はない。97〜98%が院外処方ということもあり、後発品採用は患者さんの負担は低くなりますが、病院にとってそれほどメリットはないんです。
 まず、すべての注射薬を患者負担がどれぐらい減少するか、 病院にとっての差益は、と見直しました。患者さんと病院の双方にメリットがある後発品も探せばあるんです。次に内服薬を見直しましたが、双方にメリットがある薬は多くなく、外来でしか使わない薬から後発品に変えていこうというのが今の方針です。

○職員に「自己改革」を浸透させる

――経費削減にはリストラがつきものですが、「医療の質と職員のやる気を落とさないリエンジニアリング」を実行されているとか
 なかなか難しいことですが、例えば、本業をきちんとやっていただき、周辺の業務を外注化する。SPDはその1つでもありました。
 昨年、長期処方化が可能になったことで、一日外来患者数は一昨年の1100人から900人に減りました。電子カルテも導入しているし、事務職員の仕事は減っているわけです。職員には「自己改革を!」と言っています。それができなければ経営判断的にはアウトソーシングもありうる。患者数が右肩上がりの時は、職員の増員を考えればいいのですが、下がったときにはどうすればいいか、ということですね。
 医療スタッフに経営意識を持ってもらうために、診療科別収支のディスクロージャーも行っていますが、関心を持って聞いてくれるのは、2割ぐらいでしょうか。QC活動(TQM)の一環として、年度目標と連動させるとか、研修時に呼びかけるとか、機会をとらえて、経営に関心を持ってもらう努力を続けています。
 医師以外のスタッフの大半は、地元出身で長男長女です。平均年齢が高めなこともあり、都会の病院に比べて帰属意識が高い。どちらかといえば保守的ですが、方向性さえ定めれば、動いてくれる。あとは成功体験を持たせること。小さなことでもいいから「全国初」の取り組みを数多く行ってきたのは、職員のモチベーション向上という意味もあるんです。「なぜ改革が必要なのか」を日頃から言い続けるということが大切ですね。

○MRもIT活用等で他と差別化した情報提供を

――今年予定されている取り組みとMRへのアドバイスを
 今年は、強みの部分をさらに強化しようと思っています。4月に脳卒中、消化器領域をセンター化し、内科と外科をシームレスに連携させる。IT関連では、ASPを導入して連携医療機関と電子カルテで診療情報をやり取りします。また、患者・家族の意見をより積極的に取り入れた医療を実現するために、アドボカシー室も設置する予定です。
 当院では、時間と場所(医局だけ)で訪問規制をしていますが、MRさんの訪問は 回数も人数も多すぎるように思います。新薬発売時や副作用が出たときは来ていただかなければなりませんが、普段の挨拶だけなら、金沢の営業所から時間と交通費をかけてくる意味がどれぐらいあるのか。医師のメールアドレスを聞き出してメールを送ったり、ホームページ(HP)を見てもらうほうがいいんじゃないでしょうか。
 医師は学会にも行っていますし、衛星を使って学会に出席しなくても即座に最新の情報が得られる時代ですから、メールやHPも医師が見て何か得をするものじゃなければなりません。今後、IT化が進めば、さらにMRさんの訪問は必要なくなる。廊下に並んでいれば医師が会ってくれるだろうというのではなく、医師にどういうメリットがある情報を持って訪問するか。要するに、ここでも他とどう差別化し、メリハリを付けた情報提供をするかということではないでしょうか。


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