Medical Management 1997年2月号

質とやる気を落とさないリエンジニアリングの試み−その1


昨年の12月3日に政府の行革委員会規制緩和小委員会は13分野51項目の規制緩和に関する報告書をまとめた。これによると、医療法で規定されていた病院の経営者の要件から「医師であること」がなくなり、医療の提供者として営利企業の参入が認められるようだ。医療は「冬の時代」といわれて久しく、実際本年4月からの薬価4.4%引き下げにみるように、薬価差益の圧縮の割には技術料の評価が低く、また、現在の保険収入からこれからの病院のアメニティーの向上に向けたキャピタルコストを捻出することは不可能に近い現況にある。そのような中で、病院経営に企業が資本を投下していくのだろうか。これには二つの見方が可能だと思う。一つは「病院経営はうまみがないので、企業は進出しない」というものであり、もう一つは「病院経営を医者がやっているから、採算性が悪いのであって、企業経営者が乗り出せばうまみがある」というものである。両方ともに、それぞれ真理があると思うが、もし後者が優位ならば、地域医療計画の下の病床規制が存在する以上、病院のM&Aの嵐が吹き荒れることになるであろう。さらに、将来的には巨大な外国資本の参入も考慮に入れる必要がありそうだ。

私たちは、常日頃医療という世界の特殊性を強調する傾向にあるし、また医療の世界の外の人々も同様にその特殊性、すなわち規制に守られた安定した特殊な業種であるといった認識にある。しかし、私は医療の世界は特徴こそあれ決して特殊な業界ではないと思う。経済の低迷下で必死に経営努力をしている一般企業を範として、今こそ医療業界も業務の見直し・改善(リエンジニアリング)に真剣に取り組む時期であると思う。

ごく一部の病院は、収入アップのため、医師を徹底して管理することにより、患者一人当たりの単価を増やそうとしている。セット検査の定期化や、セット薬品の使用により、「先生、かぜには抗生物質を5日間だして下さい。」「この患者さんの定期検査の漏れがあります。」等、きめこまかな指導(!?)で、単価を増やそうという考えである。しかし、厚生省の医療費改訂のたびに、検査料、薬剤費を減額させる制度の下で、これがどこまで通用するか疑問である。さらに、現場の医師、看護婦の士気にどのような影響を及ぼすかも疑問である。

私は、このような小手先の解決ではなく、「質とやる気を落とさないリエンジニアリング」が必要であると思う。収入は増やすにこしたことはないが、それ以上に、支出を減らすやりくり(=Management)が必要なのではないだろうか。これにより、収益が発生する。さらに、支出を考えてみると、医療はヒトによるサービス業である。人件費は医療法・保険請求上の定数規定も存在する。また、外注化できる分野は限られている。したがって、まず第一に進めるべき方策としては、それ以外の分野でのやりくり、業務の見直しが求められるという結論に達すると思う。

下に、私のこの試みを時間軸に並べてみた。各々の取り組みは独立したものではなく、一つの改善点から次の改善点が見えてくるといった「必然的な流れ」と情報のデジタル化・共用化を意識したつもりである。

平成6年12月診療材料院外SPD化
平成7年 5月臨床検査LAN稼動、外注会社一社化
平成7年10月薬品在庫管理システム、納入卸一社化
平成8年 3月インターネットにホームページ開設
平成8年 4月新規大型医療機器導入
平成8年10月事業所内PHSシステム稼動
平成8年10月放射線デジタル画像処理システム導入
平成8年12月統合オーダリングシステム部分稼動
平成9年 4月オーダリングシステム全面稼働、イントラネットシステム稼動(予定)
平成x年 x月電子カルテ?

1.診療材料について

日々、進歩していく医療についていくためには、多くの診療材料が必要になってくる。当院においては、ある年の棚卸し時の在庫金額は7000万円を超える量となっていた。勿論、私の指示のもと、用度課は精いっぱいの努力をした上の結果なのである。

コンビニエンスストアーやトヨタの看板方式のようにJust In Timeの物品搬入は、必ず在庫削減につながる!という信念の基、当院の在庫管理への取り組みが始まった。まず、D社に委託しての定数管理システムの導入に踏み切った。コンピューターを使用し、過去数ヶ月の物品請求伝票を基に定数を設定し、さらに期限切れを把握するシステムである。しかしこれは、管理の現場にいる看護サイドの多大な労力と、データを入力、配送する職員の労力の多さに頓挫してしまった。

つぎに手術材料や、心臓カテーテルなどの高額商品に限って、地元卸業者に、委託在庫させて、物品を管理し、使用した物のみの代金を支払うといったシステムを考え、業者に依頼した。在庫量は減少し、うまく行くかのようにみえたが、数ヶ月後には、新規材料の値引き率が他院に比べ、きわめて悪化してきた。業者が、病院の在庫経費を上乗せしたためのものと判明した。

最後に当院は、全納入物品を一社(M商事)で窓口とし、委託料を払った上で、物流を委託することにした。物流センターで商品を小単位に梱包し、1単位ごとにバーコードカードを添付。各部署に定数として、納品する。院内各部署は、品物を使用時にバーコードカードをはずし、所定の箱に入れる。このバーコードカードを離した時点をもって購入とし、また、このカードが物品請求伝票となった。この各々のカードには材料名、入り数、定数設置部署、定価、保険請求種別などがバーコードデータとして記載されている。ちなみに品目数7000種で、設置部署数は70数箇所にわたり、院内とセンター間で流通するカード枚数は約40万枚に達する。バーコードデータをコンピューターにより物流センターに電送することで同じ物が翌日には納品されるというシステムとなった。いわば、「富山の置き薬」方式である。もちろん、品物の選択、価格交渉権は病院にある。これにより在庫は限りなく0となり、また人件費削減効果として用度課職員の削減(移動)、看護婦の請求業務からの開放と大きな効果を生み、さらに院内各部署の在庫は業者在庫であるために期限切れの問題も解消された。

この院外SPD(Supply Processing Distribution)によるJust In Time & Stockless (JITS)システムは期せずして、450床規模病院での本邦初の試みとなった。

(つづく)


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