Medical Management 1997年3月号

質とやる気を落とさないリエンジニアリングの試み−その2


前回診療材料のバーコード管理、Just in Time & Stockless (JITS)を中心に私の病院におけるリエンジニアリングの試みについて書かせていただきました。新しい試みに取り組む時には、それなりにストレスがかかり、また既得権を持つ業者や従来の業務に慣れ親しんだ職員からの抵抗というものは必ずあると思います。病院の収支がそこそこ安定しいる限り、何も苦労をして新しい事に取り組む必要がないのではないかと心の中で叫ぶ自分もいます。しかし、とある総研のコンサルタントの方が、「元気のある会社というのは、5年前と同じ仕事をしていない会社である」といわれたのが印象に残っております。ますます厳しくなっていく医療環境を乗り切るためには、われわれ医療界も経済界に習い、5年といわず1年前と同じ業務をやっていたのでは取り残されてしまうと思うこの頃であります。われわれは、制度、市場、顧客、そして技術の流れに適合して、前を見続けなければいけないと思います。

1.診療材料について:前号

2.臨床検査について

いわゆる検体検査(血液や尿検査など)は自動化が進み、また医療費削減の影響をもろに受けている分野である。検体検査に多くの人的労力を割く余裕はなくなってきた。

そこで、外注業者は一社にする。院内業務は1時間以内に結果が出る項目の検査のみとし、その他は外注する。院内で検査する検査項目と、外注検査項目の結果データは同じサーバーに入れ、両者の区別をなくする。という方針を採り、平成5年12月から各業者と交渉に入った。最終的にこの方針の基で検査室内のすべての検査機器をオンライン化するシステムと外注会社からの電送情報システムを統合し、さらにこれと各診療科・病棟の端末をネットしたLAN(Local Area Network)を構築することがでた。

平成7年5月から運用したこのシステムで電話による問い合わせや人による伝票運び業務が削減されるとともに、検体検査業務の軽減によって検査技師4名を心臓、腹部、脳超音波検査や心カテ介助等専任に振り向け、生理機能検査の増加と検査待ち時間の短縮を見ることができた。さらに、業務量により流動的に検体検査、生理機能検査に人員をシフトできる体制を取ることができた。一社と提携することによるコスト削減効果、さらにはシステム導入費用の低減化にも大きな効果があった。そして、このシステムの導入が次のオーダリングシステムにおける職員のコンピューターアレルギーを軽減させるものとなったことも大きな副産物といえよう。

3.薬品について

平成6年度の当院の支出に占める薬剤費は18.1%で、人件費を除けば最大のものであった。診療材料システムと臨床検査システムの成功を基に、薬品についても一社化によるコスト削減効果、受発注の効率化、さらに薬品の在庫削減システムという材料と検査における試みの「いいとこどり」システムを考えた。これには全く先例がなく、メーカーと問屋間の系列もあり、しかも薬事法という法律による規制もあり困難かに見えた。しかし、絶対できるはずという信念の基、複数の薬品卸と交渉を重ねていった。

その結果、平成7年10月、ある一薬品卸とともに薬品庫内の在庫管理システムを構築した。材料同様に小単位に薬品を分け、バーコードカードを添付し、薬品庫出荷時にチェックするというもので、バーコードカードをカウントし、ある発注点に達したところで電話回線による自動発注とした。発注先が一社であること、大包装薬剤や、高額注射剤を箱単位から小分けにしたことにより、著明な発注点の低下をみ、薬品庫内の在庫量は導入前の1/2に削減可能となった。もちろん、一社化に伴った納入薬品の変更は一切行わなかったし、全品目は従来通り安定供給された。さらに、薬品価格のスケールメリット効果も言うまでに及ばないものであった。

4.事業所内PHSシステムについて

院内の特に医師への確認、呼び出し業務は院内放送やポケットベルを使用している医療機関が多く見らる。緊急時に速やかに対応すること、電話の相手や患者様を待たせることのストレスは非常に大きい。そこで、平成8年10月、デジタル交換機更新に伴い院内では内線電話として、院外では公衆PHSとして使用できるデジタル電話システムを導入した。

5.放射線デジタル画像処理システム導入について

月に5000件あまりに上る各種画像検査のフィルム管理業務と、必要な過去の情報を必要なときに見たいという要望、さらに将来の電子カルテへの対応として、画像を電子化することとした。イメージングプレートを使ったCRシステムと従来の画像を統合するため、放射線部内に光ファイバーケーブルを設置し、すべての情報を統合して管理・保存するデジタルマネイジメントシステム(DMS)を平成8年10月に稼動させた。

6.オーダーリングシステムについて

材料、検査、薬品については現場の医師や看護婦はほとんど意識しないで仕事ができる分野であった。しかし、これまで行ってきたリエンジニアリングの仕組みを統合し、より業務の改善を図るため、統合オーダリングシステムの導入は必然の流れとなった。

オーダリングシステムは、在庫削減、人員削減、経費削減とは直接結びつかず、さらには導入費用まで考えると民間病院の経営上導入に踏み切る決断は容易いものではないと考えられる。しかし、病院のリエンジニアリングを旗印にした以上は避けて通れるものではない。情報の共有化、転記作業の軽減、物品管理業務の軽減ばかりでなく、スピードアップ、職員の余裕や医療内容の標準化など患者サービス面でのメリットを挙げればきりがない。

これまでの診療材料・検査・薬品におけるバーコード管理の流れをそのまま継承し、平成9年1月より、診察券からカルテ情報、医事・看護・給食・検査・薬剤業務、放射線デジタル画像システム、さらには職員の管理までの病院のすべての業務をバーコードに対応したシステムを構築した。院内にバーコードリーダー付きの約230台のパソコン端末の設置が必要となった。

さらに新しい考え方として、インターネットを範として、イントラネットというべき、院内文書の電子メール化、パンフレットなどの診療報酬と直接関係のない分野での院内ホームページと呼ばれる電子ファイリングを実現した。ピラミッド型の情報の伝達から、患者様を中心とした球状の情報の共有化に向けて、新しいシステムを “Keiju Information Spherical System (KISS)” と命名した。今後は、このオーダリングシステムを第1期と位置づけ、デジタル化した情報を統合した電子カルテへの取り組みを次へのステップとしていく。


Medical Management目次に戻る