森 康一 様 E-mail:kmori@ird.jri.co.jp −(株)日本総合研究所 研究事業本部− からのご意見
この内容には、全く同感です。病院経営について、いくつかの病院の理事長、事務長の方々とお話をした中でも、同じような意見を聞きました。
ある医療法人の理事長は、「全国一律の診療報酬制度が、病院経営のビジネスとしての幅を狭めている」「例えば歯科のように、保険と自己負担とを組み合わせた医療を行うことができれば、ビジネスにも幅が出てくるのだが」と話していました。
慢性期医療施設として全国的に有名な青梅慶友病院の大塚理事長にお話をうかがう機会もありました。印象的だったのは、「行政による規制が医療には多いが、それに過敏になる必要はない。患者が求めるサービスを提供すれば、必ず患者・社会・市場に受け入れられる」という話でした。そういえば、宅急便の認可をめぐって郵政省と喧嘩をし、最終的には市場の圧倒的な支持を得た(そして郵政省も渋々認めた)ヤマト運輸も、同じ発想を持っています。
事実、同病院は入院患者に保険外負担を求めています。それでも入院待機患者が2年相当(!)も存在するそうですから、それだけサービスが評価されているということでしょう。一方で同病院は、病棟を療養型病床群に切り替えて、より高い保険収入を得ようとしています。
(こうした「したたかさ」が、病院経営には必要なのでしょうね)よく言われることですが、日本の社会は「結果としての平等」を求めるが、アメリカの社会は「機会の平等」を求める、という話があります。日本では、初期条件や努力内容が異なろうとどうであろうと、結果として平等になることを社会として保証しているとように思えます。一方、アメリカでは、初期条件の差をなくすべく、誰でも同じスタートラインに立てることを社会として保証するものの、その先は運や努力次第であり、結果を保証しない、というものですね。ここでは、成果に応じた結果が用意されるわけです。
日本的な平等主義は、この大競争時代には馴染みにくいものだと思います。徐々にアメリカ的な平等主義を取り入れていかざるを得ないでしょう。規制産業である医療の世界では、それは行政主導で行われるものかもしれませんが、それとは無関係に、医療機関として努力できる部分が少なくないことを、慶友病院の事例は教えてくれます。たぶん、神野様の医療法人グループも、慶友病院とは異なるやり方ではあるものの、誇るべき成功事例なのだと思います。
病院はホテルに似た存在であるという自覚は、非常に有効な発想だと思います。対人サービス、対面サービス、そして装置産業であるという点。ホテルマンを迎え入れた病院もあるようです。サービスの向上と、固定費回収のための稼働率の向上。こういう視点で病院経営をとらえるのが、経営意識を高める近道のような気がします。
今後とも、神野様のご提言に期待しています。