ただ、この政策の根底には医療機関や施設に入院・入所するのに比べて在宅はコストが軽微であるという(毎回このコーナーで話題としている)国の医療費削減政策が大きく関与しているに違いない。このような医療保険論議は、お金を払う政府・保険者と医療サービスを提供し代価を得る医療提供者間で議論されている問題であって、実際の利用者の声や立場をどれだけ反映しているのか疑問である。
ここではまず介護の実態を知る目的で、厚生省が昨年発表した「平成7年度人口動態社会経済面調査の概況(高齢者死亡)」より、その一部を抜粋し、まとめてみることとする。
次に主な介護者のうち、「世帯員」・「世帯員以外の親族」について、死亡者との続柄をみると、「妻」が31.6%、「長男の妻」27.6%、「長女」15.5%となっている。
これを、死亡者の配偶者の有無および性別にみると、「配偶者あり」では男女とも両者の配偶者がもっとも多くなっているが、「配偶者なし」では男女とも「長男の妻」がもっとも多くなっている。
また、主な介護者のうち「世帯員」・「世帯員以外の親族」の平均年齢をみると、男63.1歳、女60.0歳となっている。なかでも「妻」は71.4歳となっている。(表)
性・続柄 | 平均年齢(歳) | ||
総数 | 60.4 | ||
男 | 63.1 | ||
女 | 60.0 | ||
妻 | 71.4 | ||
長男の妻 | 54.2 | ||
長女 | 54.3 |
次に「仕事をしていた」者の割合を男女別に見ると、男では64.3%、女では53.1%であり、男が女より多くなっている。
また、「仕事をしていた」者のうち、「介護しながら仕事をしていた」が63.0%でもっとも多く、以下「介護のために仕事をやめた」20.6%、「介護のために休職・休暇にした」11.7%となっている。「介護のために仕事をやめた」者の割合をみると、男では14.4%、女では21.5%であり、女が男より多くなっている。
次に、介護費用等の負担者をみると、「本人またはその配偶者」が44.6%、「同居の子」32.7%、「別居の子」3.3%となっている。これを世帯構成別にみると、「一人暮らし」では「本人またはその配偶者」が38.2%、「別居の子」22.9%、「夫婦のみ」では「本人またはその配偶者」が74.4%、「子や孫と同居」では「同居の子」が45.8%、「本人またはその配偶者」37.1%となっている。
* * *
現時点では、年老いた配偶者が介護の中心であり、そして次に、同居する嫁の手を借りる。嫁は介護のために仕事をやめざるをえない。という図式が見えてくる。日本の人口の高齢化に伴い、労働人口は今後減少してくると予想されている。したがって、女性の社会進出に対する需要はますます大きくなっていくだろうと思われる。そこで、子供は託児所へ、老人は施設から在宅へというシステムの存在は実際にその場に遭遇した家族の立場からすれば大きなジレンマを抱えることとなる。
さらに介護保険受給の対象者は、要介護認定の後、当初は施設入所者と訪問ヘルパー・看護事業とのことである。訪問介護で24時間の世話ができるか!?配偶者や嫁の労苦に対する手当ては考えられていない。
このような状況下で、国の方針通り在宅サービスの需要が増えていくのであろうか。力と声が弱い者が貧乏くじを引かされるようでは万人に平等な制度とはいえない。医療提供者側の立場からすれば、病院・老人保健施設における入院・入所期間による診療報酬上の入院費逓減性が存在する以上、在宅サービスへ持っていかざるを得ない。
しかし、それは医療提供者側の論理であって、受診者側からすればホテルの連泊割引と同じで長期入院に連れ費用負担が軽減される。そこに説得力はないのである。国側から在宅サービスを受けるに当たっての受診者側へのメリットの説明は存在しないし、また説得力がある説明はなし得ないように思う。
したがって、われわれ医療提供者には今後さらに福祉施設とのネットワーク化を図り、あらゆるメニューを提示できる体制づくりが必要とされよう。われわれは受診者側の真の満足、要求がどこのあるのか見据え続けねばならない。