Medical Management 1997年9月号

ミッション・コアの時代


大ヒットした映画「ミッション・インポッシブル」ではないが、今回はわれわれ医療者に与えられた「ミッション」について考えてみたい。

産業界を眺めると、自社のミッション、すなわち使命を明確にし、そしてその使命を達成するために必要な部門(コア、本業)のみに徹底して精力を傾け、その他の部門を外注化(アウトソーシング)する元気な会社が話題となっている。

経済誌などの記述によれば、パソコンメーカーとして急成長しているアキア社は、時間=コストという考え方で、スピードをコアとして最新スペックのコンピューターを誰よりも早く、低コストで提供している。ここでは設計のみを担当し、生産はNICSをを含めた外部業者に委託している。また、アメリカのナイキ社はデータを重視し、生活やスポーツ選手に会った靴のデザイン・開発をコアとして、生産はやはり外注している。その他、ソフトバンク社や光社など、このようなコアを徹底し、成長著しい会社の例は枚挙にいとまない。

ここでP.F.ドラッカーが1993年に著した『ポスト資本主義』の中で述べた言葉を引用する。「ある会社で、社長、副社長、重役になれない職種は外注になるだろう」。これを病院という組織に当てはめていくと、「病院で、院長、副院長、事務長になれない職種は外注になるだろう」ということになる。これは病院のミッションを考え、病院がコアとして何をなすべきか、何を外部委託するか考える上で、極めて明快な定義を与えるものとなると考えられる。すなわち、病院の中で取り込んでいる各種の職能を一つ一つ考えていく必要があるだろう。また、同時に各職能のミッションも明確にしていくことが必要とされよう。

まず、病院のミッションを改めて提示するならば、「病気を予防し治すこと」に尽きる。この周辺にこれをサポートするために様々な業務が派生してくる。施設面では、清掃、営繕、空調、給湯など、サービス面では給食、滅菌、介護など、経営管理面では物品管理、コンピューター化、職員の人事・福利厚生などということになろう。これらの業務の外部委託化を考える上で、必ず「信頼性」と「セキュリティー」というキーワードが邪魔をする。しかし、コアから離れた分野の完全なノウハウは病院に求められないし、また十分な人材の確保も難しい。それならば、信頼の置けるその分野のプロというべきパートナーとの間で、十分に業務内容を煮詰めた上で提携するのも一つの手となるのではないだろうか。そこでは、病院側職員の職能を明確にして、外部委託管理者を設置する必要があると考えられる。

私の病院での例と今後の展望を提示してみたい。
清掃:清掃作業員の委託とは別にD社との間で、管理契約を結んでいる。病院側は中間管理職から選ばれた環境美化推進委員、患者サービスを管理するサービス課、そして院長、事務長、看護部長とD社の間でMJR(Monthly Joint Review)を開催し、清掃の進捗状況から、患者様からの意見を基にした病院側からの要望、さらに環境細菌測定や、感染症対策、またD社によるアメリカの医療事情報告まで多彩な会議内容となっている。
物品管理:M商事の物流ノウハウを基にしたSPDシステムは本誌2月号で紹介した。物流のコンピューター化の実際は病院のノウハウだけでは、そのシステム化に限界があり、まさに流通の専門家との提携は大きな導入効果を生んだ。さらに、毎月の診療材料委員会ではM商事側の代表も交えて、新規材料の採用、導入済材料の見直し作業を進めている。
臨床検査業務:検査部を窓口にして、原則として1時間以内で測定可能な検査のみ自院で行い、その他は全て外注するという時間を軸において検査内容を整理した。全検査機器のオンライン化にM化学のシステムを導入した。
薬剤管理:本誌3月号で報告したように、I社一社を納入卸としたことで、同社のシステム開発室との間で、薬剤の小包装・物流管理を一元的に扱うシステムを構築した。
コンピューターシステム:現在当院にはパソコンによるクライアント−サーバーシステムとしてオーダリング端末230台が稼働中である。病院側には、システムエンジニアを一切置かず、担当窓口者を医事課に置き、本来のプロフェッショナルであるソフトウェア会社との連絡のみに当たらせることとした。パソコンの時代で、生半可な知識を持つ「パソコンマニア」は私を含めて多数存在するが、基幹システムを絶えずバージョンアップする知識を病院職員に求めるべきではないし、そういった優秀なエンジニアを病院で採用する難しいと考える。

今後、P.F.ドラッカーの定義からすれば、まだまだ多くの業務の外注化が図られていくと思われる。さらに、政府は規制緩和政策として、病院そのものの経営を含めて、様々な医療関連サービスへの企業の参入を認めていく方向にある。そこでわれわれ医療側はすべての権益を投げ出す必要はないと考える。しかし、ある分野で明らかに外部の有能な専門家集団が存在するするならば、大いに利用し、またお互いのノウハウを提供しながらの委託業務(いわばCo-Soucing)の可能性が十分ありえると思われる。それにより、コアに全経営資源を投入することができると思う。

さらに、逆に病院が持っているノウハウを外部に放出し、委託を取るといった方式もあり得ると思われる。例えば、行政から、ヘルパー事業やデイサービス、さらには福祉施設の運営委託を獲得するといった道である。

いまわれわれは内部では外からの委託業者の取り込みを、外部に対しては委託業務の獲得の可能性を図るべきなのかもしれない。まさに内にも外にも病院の使命遂行のための可能性の見直しを考え直す時期なのかもしれない。「ミッション・ポッシブル」を遂行する時期なのかもしれない。


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