夏休みが終わった季節とはいえ、数年前に一度訪れた返還前の英国領香港における観光客の雑踏とは程遠いものがあった。タクシーの窓から見える建物は数年前とほとんど変わらない。しかし、一番大きな違いは
日本人がいない!
である。ホテルの中もさることながら、街のあのフェラガモやルイヴィトンショップにさえでもである。実際に現地の知人に聞いても、観光客の落ち込みは激しく、特に日本人観光客は70%近く減少しているとのことである。その上、円安の影響もあろうが、同行した女房氏いわく「ブランド品が高い!」とのひとことである。
その原因として、第1に英語を話せる香港人が返還前に国外へ脱出したことがあげられる。しかし、それ以上に返還景気を当て込んだホテルなどの観光業者による料金の釣り上げが、大きく影響しているとのことである。その結果、観光客からそっぽを向かれた。その上に観光客減による売り上げの落ち込みを回復せんと高級品、ブランド品が値上げされているようである。
一時の需要予測からきた料金の釣り上げ、いわばヒトの足元をみた暴利にたいして愛想をつかれた状況のようである。この状況は商売を営んでいる企業ばかりではなく、われわれサービス業としての医療者にたいしても反面教師として警鐘を鳴らしているように思えてならない。
病んだ患者にたいして、病院側の都合で差額ベッドへの入院を強要していないか。不当なお世話料、応援医師にたいする謝礼や、はたまた包帯費などといった材料費を請求していないか。いくらインフォームド・コンセントを重視するといっても、医療者と患者の関係は、多かれ少なかれ命にからむ問題での専門家と素人の関係である。この関係が介在する以上、強者と弱者であるといってよい。その立場を利用して不当な請求をしてはいないだろうか。 今後、規制緩和の進展とともに一般企業からの医療福祉分野への参入が予想されている。それに伴って、価格やサービスの大競争の時代に突入してくるに違いない。そこでは、今日の香港の状況が明日の病院の状況にならないとも限らない。われわれは、襟を正して、漫然とした病院の業務の中で、ヒトの足元をみた行為がないか絶えず見直し、注意をはらっていく必要があると強く思う。
この会の参加者は、アジア各国、アメリカ、オーストラリアが中心の政府の医療行政担当者、経済学者、医療関連産業経営者、病院経営者、病院団体などであった。
ここでは医療経済、医療の質についてのパネルディスカッションが行われたが、多くのディスカッションはご多分にもれず医療におけるコストと効果についてのものであった。 東南アジア各国では、アメリカや日本に比べて政府が関与する医療コストは低いものではあるが、将来にたいする危機感は大変大きなものがあり、積極的に医療コストの削減に向かって、政府の医療、保険福祉担当者が模索していることが印象深かった。
すなわち、医療費は人口の爆発、伝染病の変化、新しい病気の出現、ハイテク医療、管理経費の増大、薬剤費の高騰などを背景として増大し、この傾向がこの地域での技術、経済、環境の変化のまれにみるスピードにリンクしていると認識されていた。
そのなかで、医療経営における質と効果を検討する上で、インドネシアの厚生省のあげた「Challenge」という名のもとの考え方はわれわれにとっても、改めて一から検証するに値すると思われ、ここに紹介する。
それは、医療経営における方針(Management Re-orientation)と題されたもので、次の7項目からの検証の指針であった。
このような、経営、効果の見直しの最終評価にベンチマーク(Benchmark)というものが存在する。今回、このセッションには日本から、かの千葉県のK総合病院の、電子カルテの事例も報告された。数千万ドルという、その経費の大きさにいささか会場からのため息が漏れたが、同じセッションのマレーシアの研究者からの「ベンチマークは己を知るためであり、敵を知るためではない」という発言と、アメリカとサウジアラビアの研究者の「よりよい医療を低コストで行うために」といった発言に今後の医療の世界的な方針を垣間見たような気がして印象深かった。
すでに医療制度に閉塞感のある日本と、これから自分たちの新しい仕組みをつくり出そうとするアジアの国々。その「元気さ」を知らされた2日間のようであった。
9月19日、香港発全日空176便は、約30名の日本人乗客と約30名のわくわくした気持ちに胸躍らせた香港人観光客を乗せて、関西国際空港に向かって飛び立った。