Medical Management 1997年12月号
9月から実施されたばかりの悪名高き薬剤数による薬剤自己負担料は早くも消滅し定率化となり、また薬価基準も2年連続の引き下げが待っているようである。
このような背景のもと、われわれ医療機関も、生き残りをかけ根本から業務を見直しし、制度への速やかな適合を図らなければならないことは既にこの連載で、繰り返し述べてきたとおりである。しかし、最近でも医療機関の改革努力として、新たな加算の取得や、ケアミックスも含めてのハードの改善などが、医療経営雑誌などで強調されている。これらは、“制度に対する当たり前の適合”であって、決して“改革”ではないように思う。
そしてまた、改革は古典的、標準的なものは存在せず、日々変化していく医療環境と医療機関を利用する患者側のニーズにすばやく応えていく努力が必要とされていくように思う。変化は“成長のもと”であるという認識が重要であろう。
今回は、真の改革を考えていく上で、極めて先進的に改革に取り組み、しかも他を抜きんでているあの「花王」の事例を入手したので、私の意見・解釈を加えて紹介したい。最初のプログラムが発表されたのは12−3年前ということも驚きとともに附記したい。
全社、特に非生産部門、本社に焦点を当てたコスト削減。無駄な仕事の洗い直し。いわゆるリストラ努力により、1,000人の人員削減と200〜300億のコスト削減。
コスト削減努力の限界。コストのもとになっているのは仕組みであるという認識に立った見直し。部課長制の見直しや生産・販売システムの統合など、組織の改革。
仕掛けを変えても、心がついていかないと進まない。社員一人一人が仕事をしやすいように人事システムの手直し。
コストセーブはどうしても縮小均衡にいきがちになるという考え方のもと、先にビジョンがあってそれを実現するために資源を投入するべきであるという発想。
クイックルワイパーやアイロンスムザーなどのヒット商品は消費者の声から生まれ、消費者の満足を得るものであった。これから、ネット社会のなかで、ネットワークを利用して消費者にメリットを与えることが大事。
この5つのフェーズをみて先進企業の先見性とその企業哲学に感心させられた。コスト管理、組織改革、職員のマインド、経営ビジョン、利用者のニーズそしてネットワークと6つのキーワードを読み取ることができる。この考え方は、そのままわれわれ医療機関においてもあてはめていくことが可能であると思われる。
ここでこれらキーワードについての医療機関としての検証を試みたい。
冒頭で述べたように、今後の国の医療費抑制政策は、ますます厳しくなってくることが予想される。それは、病院の収入の原資となる保険からの収入が減少することになる。すなわち、薬価の値下げによる差益減少、入院費逓減制の増強、レセプト審査の強化による減点増加など病院への締め付けである。さらに、患者の自己負担の増額も、患者の病院受診動態に大きな影響を与えること思われる。このような背景のもとでは、病院経営も患者増を図る“マーケティング発想”から、“コスト管理”中心へと発想の転換が必要になってくる。現状であぐらをかくことなく、ヒトに関するコスト、モノに関するコスト、カネ(ファイナンス)に関するコストの見直しが必要になってくる。
組織も生き物である。現医療法上、病院管理者は医師である必要がある。しかし、それ以下については規定されていない。多くの病院で、トップの医師の下に医師である副院長が存在し、医局が存在し、事務、看護などのコメディカルスタッフがピラミッドのように配列する。この組織でこれからの時代を乗り切ることができるだろうか。経営の専門家をどの場所に配するかが今後の組織改革の重要な課題となってくるだろう。
職員教育に関しても、病院という業態で最も遅れた部門であると思われる。これには、病院職員の多くが資格を持った、いわば職人の集団であるということに起因する。需要と供給の関係から、三顧の礼をもって集めた職員も少なからずいるはずである。しかし、ひとたび病院の職員となり、給与を払う以上は病院側の経営マインドの沿った教育と研修が必要になってくる。そして、そのためには動機づけと次に挙げるビジョンが必要になってくると思われる。
ビジョンがなければ、目先の利益にばかり気になり、改革も進まない。ビジョンが改革を引っ張る必要があるのではないだろうか。
利用者のニーズの中に病院ビジョンの原点があることは自明である。しかし、利用者のニーズに応えれば、そのリターンは大きくなるというのも当然の帰結である。こと医療においてのCS ( Customer Satisfaction)や「癒しの環境」論理は、リターンを期待していない議論も多い。公的資金を期待できない民間医療機関では、ハイリターンとしての自己負担を払ってでも納得できる環境の提供が必要となろう。
最後に、ネットワークである。ネットワークにより、いかに早く利用者の声を聞き、それに対して、いかに早く対応できるかという体制作りが重要である。そこでの中心は「情報の共有化」であると思う。医師と患者間、病院内、医療機関間、地域社会、あるいは企業、金融機関などと積極的に協力し合って共存共有関係をもったネットワークを創っていくことが不可欠であると思う。
次号では、情報の共有化についての、当院の戦略と考え方をご紹介したい。