Medical Management 1998年4月号

“めりはり”の医療

われわれの収入原資である診療報酬が変わった。診療報酬自体1.5%アップというものの、薬価の大幅な引き下げによって、医療費全体としては初めてのマイナスシーリングとなった。そもそも、今回の医療費改訂は、はじめに国の財政再建法というマイナスシーリングを受けての改訂であり、国民の医療を真っ向から財政論で処理した歴史的改訂であったと思われる。

もちろん、一つ一つの項目につき一喜一憂しても始まらない。自らに決定、承認権がない以上、医療経営側はいかに新制度に病院を適合させていくか、プラス改訂分野における機能を高め、マイナス改訂分野の影響を最低限にするかがポイントとなることはいうまでもない。

また、介護保険制度の導入をにらんで今回の診療報酬改訂や医療法改正論議を、さらに医福審の薬価制度改訂の流れを先読みし、病院の構造や仕組みを整備する努力に一刻も早く取り組む時期であることも認識する必要がある。

今回の診療報酬改訂の流れをもとに、今後の展開について考えてみたい。

今回の改訂は一言でいうと、“めりはり”の医療の始まりであるように思われる。一つには在院日数という軸であり、次に施設の類型化という軸であり、そして医療費の支払方法という軸である。当然、これらはお互いにリンクし合うものではあるが、あえて別々に考えてみることにする。

1.在院日数について

“めりはり”は急性期と慢性期の区分である。看護職員数と在院日数をリンクさせてきた。入院時医学管理料においても急傾斜配分とされた。急性期においては最大限の資源を投入し、話題の「日帰り手術」も含めて短期決戦とし、さらに後方病院や診療所との連携を図る。慢性期においては、6ヶ月以上の老人長期入院医療管理料としての定額性に見るように「まるめ」とされる。ここでは検査や投薬はできるだけ少なくすることが経営面でのメリットとなる。

慢性期においては、確かに社会的入院を少なくする効果があるかもしれない。しかし、「社会的」というバックグラウンドも考慮しなくてはならない。「社会的」が病院側の都合によるもの、すなわち「病院が退院させてくれない」のならば、効果がある。「社会的」が患者側や家族側の都合、いわば「わがまま」である場合、長く病院に居座ればホテルの連泊割引以上に医療費は安くなってしまう。ここでのペナルティーは病院側だけである。ここに、あえて自己負担の逆傾斜負担も提言したい。つまり、本当に困っている急性期には負担を軽くし、慢性期においては、在宅や通院・通所のメリットを強調して負担を重くする仕組みである。

2.施設の類型化について

診療所、療養型病床群、一般病院、特定機能病院という類型に新たに地域医療支援病院が加わった。より医療機関に“めりはり”をつけようというわけである。今回の60%あるいは80%という紹介率にどれだけの病院が地域医療支援病院に名乗りを挙げるか大変興味深いところである。

この“めりはり”の考え方そのものは十分理解できる。しかし、それを施設別にするか、あるいはケアミックス的に一施設内で適応できないか制度の柔軟性があってもいいのではないだろうか。ここで“めりはり”の未来像を提示してみたい。外来は大型ショッピングセンターである。そこには病院直営の診療室(所)と共に、店子として開業した診療所も存在する。機器は共同利用し、情報システムも共通化し、財務は病院側が委託される。外来部門の片隅には調剤薬局も同居する。入院施設は独立し、すべて開放病床として、これら診療所からの紹介患者を受け入れる。救急部門はプラバシーを犠牲にしたオープンベッド(ナイチンゲール病棟)であり、一般急性期病棟はとことんまでプライバシーに考慮した療養環境とする。不幸にして、慢性化した患者は療養病床に入院する。ドクターフィーとホスピタルフィーの区分という問題と共に、特に医療法上、病院の人員配置で解決しなければならない問題などが山積するものの、究極の“めりはり”としていかがなものであろうか。

3.医療費について

先に、6ヶ月以上の入院医学管理料についての包括化について触れた。また、200床未満の病・医院での外総診、在総診という包括化の考え方も強化される。さらに今後、DRG、PPSの導入論議は加速するものと思われる。

ここでの“めりはり”は必要な医療か、患者の希望による医療かである。現状において、必要性に乏しいものの患者の希望する検査や治療も、必要性のある医療と並行してなされているように思われる。この希望の部分が医療費を押し上げる一因であることもいがめない。現在あまり議論されていない分野ではあるが、希望する医療をどう扱うかによってDRG、PPSの成否がかかってくるように思う。

経済界では「One to One」といって、顧客の多様性(わがまま)にいかに応えるかが、これからの成功の鍵であるといった論調が多い。これを公的保険を原資とするDRG、PPSの流れと混同することなく取り扱う必要があると思われる。

昨今、DRG、PPSをにらんだクリティカルパス(=クリニカルパス)導入の流れがある。いかに、自院の標準医療計画を策定したところで、バリアンスとして患者側のわがままで在院日数や治療内容が変わってきたのでは意味を成すものではない。

わがままをどう認定し、そこにかかる医療費を誰が支払うかといった“めりはり”を真剣に議論すべきであると思う。

また、大病院における自己負担5割化案が厚生省より提示されている。もし、このような事態に陥るならば、民間保険の参入の可能性が生じ、それと共にHMOへの移行が一気に進行するかもしれない。


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